第92話 恋のキューピッド大作戦~暴漢撃退大作戦~
~前回までのゼユウ~
魔法塔の増築の為、資金が必要。
クーノ達は、パーティー会場でドットテカ男爵と知り合った。
彼が意中の相手へ告白するのを手伝うと、支援してもらえる話になり…。
◇登場人物◇
●ゼユウ:主人公●ホーメナ:賢者●クーノ:天使●ビッケ:魔王●サダキ:天使
〇チゴマ:王宮の偉い人〇ドットテカ男爵:ルフロンの町周辺の領主
〇カナミア:アイーホルの勇者。ドットテカ男爵が一目惚れした。
コーホの住居は、二階建ての一軒家だ。
そこまで古くなく、中々の物件だと思う。
しかし五人で暮らすには、やや狭い。
何なら、森の中のホーメナの家の方がデカい。
当然、一人一部屋なんて無い。
俺とビッケとサダキ、ホーメナとクーノが相部屋だ。
サダキをどっちの部屋にするかで、最初に揉めたりもしたな。
話が逸れた。
要するに、何を伝えたいかというと。
(よく男爵を招いたな。)
理由は聞いたが、それでも思わずにはいられない。
社交パーティーの翌日。
コーホの自宅の居間にいるのは、六人。
俺、ビッケ、サダキ、クーノ、チゴマさん、そしてドットテカ男爵。
男爵は変装している。
黒帽子、カツラ、サングラス、付け髭、黒マント。
立派な不審者。正体を隠すという意味で完璧だ。
「今回、作戦リーダーになったクーノだよ。よろしく。」
いつになく張り切ってらっしゃる。
「具体的な作戦を話す前に、状況の確認をするよ。」
ホーメナは、防衛の打ち合わせで、ここにいない。
だから、クーノが仕切る。
いや、いたとしても、今回はクーノが仕切ったかもしれない。
熱量の差で。
「男爵は、どうしてカナミアの事が好きなの?」
「一目惚れだよ。めっちゃ可愛いじゃん、あの子。」
いっそ清々しい。
最近、思い悩む事が多いから、わかりやすくて助かる。
「でも、周囲は快く思っていない。そうだよね?」
男爵が、うちにきた理由は二つ。
一つ目がこれだ。
男爵の所有する場所では、必ず誰かの目がある。快く思っていない人の耳に入る。
『告白をする前に、妨害などされたくない。』それが、彼の主張。
二つ目は敬語問題。
男爵自身、気を遣わない意見を求めている。世辞など不要らしい。
だから、話し合いはタメ口で行われる。
それを誰かに聞かれる訳にはいかない。
「そうなんだ。カナミアさんは勇者とはいえ、平民の出だからな。
もうそういう時代じゃないんだけど、気にする人がいるのも事実。
しかも、一目惚れをバカにする輩もいる。
きっかけとしては、十分だろうに。」
「そうなんだよ。
仲良くなりたいと思った。仲良くする為に、お話がしたい。
何も間違っていないよ!」
一瞬、クーノに後光が差す。演出で天法はやめろ、光輪を出すな。
一応、天使である事は隠しているはずだが、え?バラしたいの?
「はーい。」
ビッケが挙手した。
「ビッケ、どうぞ。」
「勇者は今、王都にいまーす。なんでも、ラゼン山脈から強力な魔物が森に侵入する事態が増えていて、その調査らしいでーす。」
(いや、それ原因、お前だろ?魔王の魔力に釣られてきてるとかじゃ、ないのか?)
「私の方でも把握していて、私兵と共に山へも行った。
だからこそ、カナミアさんを見かけて、心を奪われたという訳だ。」
男爵は、その時の光景を思い出して、にやにやしている。
(ビッケがキューピッドだった?その翼の色、黒いですよ。)
「勇者がよく行く酒場、僕、知ってまーす。」
「どこだ!?」
男爵が勢いよく食いついた。
「クロスパスって名前の所でーす。」
クーノが、静かに用紙を配る。
ビッケの言った酒場の情報が書かれている。
え、ビッケってクーノの仕込みなのか?
「ほぼ毎日、決まった時間に訪れているよ。
だから今日の夜にでも会える。」
「凄いな、賢者の森の広報部。大した情報収集能力だ。
何か、いいプレゼントはあるかな?」
男爵は、ウキウキしている。ポジティブというか、純粋な人なんだな。
「実はシンプルに、宝石とか好きだよ。だから、相性はいい方。」
そんな事まで調べたのか、国の力で。
「やった!」
「焦らないでほしい。
古来より、女勇者に酒を片手に近づく自信家なチャラ男は、無下にされるに決まっているよ。
第一印象でコケるのは避けないといけない。
衝撃的な、ファーストコンタクトでなければならないよ。」
いや、既に面識がある訳だが?
「策が、あるんだね。」
男爵が、鋭い眼光を見せる。
こんな内容でなければ、…いや、本人は真剣なんだ。
「カナミアは、六年も勇者をしている強者。
そこは男爵もご存じのはず。
男爵がカナミアよりも、優れている点。それは?」
「財力だ。」
男爵は即答。
もう、普通にカッコいいな。
「それを活かしたいと考えているよ。
世の中には、武力だけでは解決できない事がある。」
クーノが説明をし終えると、男爵は、彼女と熱い握手を交わした。
作戦は、今夜、決行予定。
「ビッケは、何でこの作戦をやってくれるんだ?」
俺と一緒に作戦準備中のビッケに聞く。単純な興味からだ。
「何か、意外かい?」
「天使の事、好きじゃないって言ってたから、クーノの考えた作戦に乗るとは思えなかった。」
「そりゃあ、天使は好きじゃないさ。
でも、クーノさんとは一週間も同じ屋根の下で生活して、同じ釜の飯を食ってきたんだ。彼女本人への理解は深まってきた。もう別に嫌ってないよ。」
正直、もっと薄情な奴だと思っていた。
自分が大好きで、それ以外は道具、みたいな。
「それにあれだね。天使に頭を下げられてお願いされるというのは、気分がいいね。
子供の頃、いじめっ子だった奴が、今は部下で、自分にへこへこしているみたいでさ。」
なるほど。俺がビッケを理解するまでは、まだ掛かりそうだ。
「ゼユウさんこそ、どうなんだい?」
「ん?どう…どれの事?」
作戦に対して、どう思っているかって事?
「ホーメナさん、この件に関しては乗り気じゃないみたいじゃないか。」
「…ああ。」
ホーメナに作戦内容と、今夜決行だとは伝えた。
『…ほどほどにね。』彼女の反応は、その一言だけ。
ホーメナとサダキはお留守番だ。
「ホーメナ的には、かなり勝算が低いからな。だから、失敗した後の次の手を探しているんだと思う。お金を稼ぐ、別の方法を。
とはいえ、俺達は他にやる事もないから、作戦を中止にしたりしない。」
「なるほどね。賢者様は、色恋話が苦手なんじゃなくて、全然期待されていないから、あの塩対応って訳か。
となると、ゼユウさんの感覚としても暇つぶしかい?」
「まさか。俺は男爵の願いを叶えて、たんまり資金援助をしてもらうつもりだよ。」
ホーメナにとっても、それがベストだろ。
ビッケは、にやにやしている。
「いや、サダキさんが困っていたよ?皆のスタンスが見えなくてね。
でも、これで教えてあげられる。熱量の差はあれど、作戦に反対な人はいないってね。」
「それは悪い事をしたな。でもサダキにやる気があっても、連れて行く事はできない。」
最後に、カツラを被り完成。ガラの悪い退治屋の出来上がりだ。
「とても見せられた姿じゃない。」
「これはこれで、ありじゃないかい?」
向こうもやるな。ビッケだと言われても、分からないぞ。
作戦名、【ドッキリ!暴漢撃退大作戦!!】。
1、カナミアはガラの悪い二人組に絡まれる。
(絡む側は、冷たくあしらわれても、めげずに頑張る事。)
2、イラついた彼女は、つい手が出てしまう。
(手を出されるくらい、うざい感じで。)
3、それで、絡んできた男は豪快に吹っ飛ぶのだ。
(カナミアの様子次第。軽く押された程度でも、可。)
4、そして、たまたま歩いていた店員にぶつかる。
(リアリティを出す為に本物の店員さん。間違っても怪我をさせるな。)
5、店員は高級な酒を運んでいた。それが割れる。
(こちらが用意したお酒。香りでバレないように、こだわったよ。)
6、お前が押すからだぞ!っと相方が騒ぐ。
(店中に響く声でお願い。雰囲気大事。)
7、酒に詳しい常連客が現れて、酒の解説をする。
(ドッキリ企画って言ったら協力してくれたよ。香りの監修も、彼。)
8、一般客がざわざわしだす。カナミアが弁償しないといけない空気になる。
(所謂、サクラ。今日のお店は貸し切り。)
9、頃合いを見て、男爵が、颯爽と登場。
(登場セリフは、男爵が考えている。場合によってはフォローしてね。)
10、さっと料金を払い、カナミアの手を取り、店を出る。
(茫然と見送る事。野次とか、いらない。)
11、喧騒を抜けたら、決め台詞。クールに去る。
(長ければ長いほど蛇足。例え引き止められても、逃げろ。)
12、次に会った時、『あ、あの時の!』となる。
(早ければ翌日。カナミアの様子を観察して、再会日を決める。)
※あまり時間をかけたくないから、最長でも一週間。
「二人同時でウザ絡みして、ダブルKOされたら、大間抜けさ。
僕一人が絡んで、ゼユウさんは少し離れて様子を見た方がいい。
実際、勇者カナミアは、絡んできた酔っ払いを投げ飛ばした事があると聞くね。
でも、その反省があるから、大人の対応をしてくるかもしれない。
僕への反応が薄いようなら、ゼユウさんに加勢に入ってもらう感じかな。」
夜。店の裏手で最後の打ち合わせ。
もうすぐ決行の時間。
(…。)
ここまできて。
不安になってきてしまう。冷静さが戻ってきたのだ。
(クーノも男爵も、ビッケまで、やる気だった。
演劇みたいで楽しそう~みたいな空気で、だから何か、皆で頑張ろうという雰囲気に流されてしまった。
よく考えれば、これはマッチポンプ。
しかも、俺がカナミアの立場なら嫌だ。血の気が引く思いなんてしたくない。
悪意がなかったとしても、関係者は全員殴り倒してやりたいと思う。)
つまり、楽しくない。
でももう店も貸し切りにしたし、エキストラも雇った。
後には引けない。
(これはもう、今日という日が笑い話になるように、男爵に頑張ってもらうしかないぞ!)
自棄気味に覚悟を決めると、丁度、通信端末に連絡が入る。
決行だ。
企画担当者のクーノは、面白い企画だと思った。
ビッケは、これはこれで、ある意味面白いんじゃないかと企画を止めない。
ゼユウは、場の雰囲気がよくて楽しそうだと思ってしまい企画を止めない。
サダキは、よく分からなくて、だから企画を止めない。
ホーメナは、どうせ失敗するだろうけど、他にする事もないからやるといい。経験にはなるだろうと企画をとめない。
結果は次回。




