第90話 恋のキューピッド大作戦~新しい日常~
~前回までのゼユウ~
千年前の勇者トリドは実在していて、俺はその子孫の可能性があるとビッケは言った。
トリドの故郷を、フレン王国は滅ぼしている。
記憶を失う前の俺は、その報復を考えていたのだろうか?
◇登場人物◇
●ゼユウ:主人公●ホーメナ:賢者●クーノ:天使●ビッケ:魔王●サダキ:天使
〇ハナ先輩:職場の先輩〇チゴマ:王宮の偉い人
250年前。
コア王国はワイバン大陸の中央を支配していた。
自分達こそが、大陸の中心であると主張をし、大陸の統一を宣言。
西側に、攻め込んだ。
200年前。
コア王国は、ネクーツと、ヨルタムアー(当時)を属国としていた。
ヨルタムアーを取り込んだ事により、魔王をも手中に収める事に成功。
前線ではエフスィ(当時)と激戦を繰り広げていた。
一方、戦線が広がった事により、戦いから遠ざかっていた王都は、荒れていた。
汚職と腐敗が進み、私物化される政治。そんな中現れた独裁者。失敗する革命。
当初掲げた理想など、もはやなく。戦火と混乱は、無駄に広がるだけだった。
その現状を憂い、ヨルタムアーはコア王国を裏切る。
エフスィ軍と共にネクーツ軍、コア王国軍本体を押さえ、その隙に、エフスィの同盟国のフレン王国軍が、ラゼン山脈を越え、コア王国の王都を強襲。
疲弊していた王都は、あっけなく攻め滅ぼされて、コア王国の歴史は終わった。
俺が読んでいるのは、フレン王国の本。つまり、滅ぼした側の物。
悪い国の見本。優秀な反面教師。散々な書かれようだ。
王都を焼き払った事に関しても、完全に正しかったらしい。
疫病が蔓延していて、死体でいっぱいで。放置したコア王国が全て悪くて。
本を、閉じた。
正しい事なんて、分からない。
ただ、あのトリドの本の。最後に、幸せな笑顔で溢れていたあの町が。
既にどこにもなくて、どこにもないのに嫌われている。
そこが、悲しい。楽しくない。
ズキリと、頭痛がした。
何を他人事のように考えているのだと、叱られたみたいに。
因果応報。コア王国の堕落の罪は、焼き払われる事で償った。
ならば。多くの人々を焼き払い、それを正当化し続けるこの国は、その罪は、領土ごと消されて、償われるべきではないか。
それをするのが、生き残った者の役目ではないか?
例え、何百年かかっても。
そんな言葉を、どこかで聞いた。気がした。
(…そろそろ時間か。)
俺は立ち上がり、図書館を後にする。
コーホ結成から、一週間。フレン王国は、未だ健在。
『瞬きしたら、死んでいた。』そんな可能性のある日々が続く。
でも、そんな事にならない為に、俺達はいるのだ。
国防の会議があれば参加するし、魔法聖域の耐久テストがあれば参加する。
基本的に、王宮からのお達しに従う感じだ。
それらが無い時は?
特にやる事は無かった。
いや、やらなければならない事が無いというだけで、やる事はある。
図書館で調べものをしたり、とか。自分の過去の手がかりを探したりとか。
昨日は、賢者の森の管理を手伝いに行った。
ハナ先輩は喜んでくれたが、不思議そうな顔も浮かべていた。
(王宮からしたら、何もせず、大人しくしていてほしいんだろうな。)
俺達は、候補なのだから。
とはいえ、だ。
コーホには、重要な役割がちゃんとある。
有事の際の、対処だ。
つまり俺達は、有事に備え、強くなる必要がある。
「ビッケ、犯人はお前か?」
「何が?」
俺とビッケは、王宮庭園前にいる。
王宮庭園とは、王宮の敷地の前にある一般公開された公園の事。
本日の修行場所だ。
今は、最後の参加者を待っている。
「サダキのことだよ。あいつ、自分の事、サダキって言うだろ?
初めて会った時は、僕って言っていた。」
「なるほど。
それについては、確かに黒幕は僕だ。」
「まだある。初めて会った時、ゼユウさんと呼ばれた。
でも、今では呼び捨てだ。
別に不快じゃないし、親しくなれたと思えば嬉しくもある。
だが、タイミングが不自然だ。」
「それも、僕だね。
でも、仕方のない事さ。」
「理由を、聞こうじゃないか。」
「コーホのメンバーは、五人。
五人しかいないのに、キャラ被りなんてありえないだろ?」
僕キャラ被りって事?そして、さん付けキャラ被りって事?
それが嫌で、サダキに変えてもらったってマジ?
「自分が変わる、という選択肢は?」
「僕はね。僕が一番、生きやすいキャラを考えた結果、これに落ち着いたんだよ。
ポッと出の新キャラに譲る気は、無いね。」
「サダキからしたら、ポッと出の新キャラはお前だろ?」
「本当はさ、髪色も嫌なんだよ。茶髪と金髪て。
僕のは明るめだから、ぱっと見、これも被りさ。
でも、髪を染めようとしたら、クーノさんに噛みつかれてね。
僕はどちらかと言うと、帽子キャラだから。渋々、妥協した訳。」
そんな雑談をしていると、サダキがやって来た。
「すいません!遅れました!」
「おせーぞ新人!たるんでんじゃねーの!?」
ビッケが変顔して、凄む。
「キャラを守れ。」
「浅いよ、ゼユウさん。気分屋っていうキャラを守ってるでしょうが。」
(ただ、迷惑なだけじゃん。生きにくいだろ、それ。)
何にせよ、メンバーは揃った。
「王宮庭園全力かくれんぼ ザ・グレイテスト。」
ビッケは、手をこう、バサッと広げて、ポケットに突っ込む。背中を向けながらだ。
サダキはそれを見て、ごくんと生唾を飲む。
事の経緯は、昨日。
ビッケは暇をつぶしたかった。
彼にはサダキが暇そうに見えた。
だから一緒に遊ぶ事にしたのだが、折角なので、サダキとだから出来る事がしたかった。
少年、遊び。
鬼ごっこ、縄跳び、ドッジボール、だるまさんがころんだ。
真剣に全力でやれば面白いはず。
しかし、サダキが全力を出せば周囲に被害が出かねない。
ビッケは怒られたくなかった。
選ばれたのは、かくれんぼ。
面白かったそうだ。
だから今日、俺も誘われた。
正直、楽しみではある。
(いや、ちゃんと訓練だよ。この二人と全力でやるんだぞ。)
誰に対してか分からない言い訳をしつつ、ビッケのルール説明を聞く。
「改めて、ルールの確認さ。
1、人に迷惑をかけない。
2、建物や自然物を壊したり、地面を掘り起こしたりしてはならない。
3、ドアのある建物、お墓の中に入ってはいけない。
4、一般的に町の中で使ってはいけないとされる魔法は使ってはならない。
OK?」
魔王の発言だと思うと、笑える。
魔王とは、怖い存在だから。
少なくとも、俺の読んできた本の中では。
「OK!」
サダキは、いい返事と共に手を振り上げた。俺も、手だけは上げる。
そして、真剣勝負が始まった。
俺は全力を尽くした。
木の上に登った。屋根の上にも登った。
変装した。池に架かる橋の下に張り付いた。
制限時間まで、距離に気を付けながら鬼を尾行する作戦だって実行した。
正直、楽しかった。
陽も落ちてきて、ファイナルラウンド。
現在、俺が鬼。
ビッケは見つけた。後はサダキ。
決着はシンプル。
見つければ俺が優勝。
隠れきればサダキが優勝。
ビッケは俺の後ろで、ぶーぶー言ってる。
墓の見える場所にきた。
霊園だと思う。
一応、範囲内だ。ルールにも、お墓の中に入ってはいけないとある。
が、心情的に、ここで遊んでいい訳がない。
ビッケならともかく、サダキはここにはいないだろう。
いくら全力だと言ってもだ。
引き返そうとして、でも、足が止まった。
ハンネの墓はここではない。ここに眠る知り合いはいない。
はずなのに。
「…。」
他とは違う雰囲気。
墓地なのだから、そうなのだが。
そういう意味ではない、違和感。
(他の霊園とも、違う感じがする?)
足を進める。
この疑問を解消したくて。
やがて、一つのお墓の前まできた。
その墓石には、名前がなかった。
「王女レフィアラ様のお墓さ。」
後ろから、ビッケが言った。
「王女様って、亡くなっていたのか?」
そんな話は聞いた事がなかった。
「隠しているのさ。王宮が。」
「何の為に?」
風が吹いた。ビッケが目をつぶる。
その表情は、何となく寂しそうに見えた。
「さてね。
でも、とんでもない陰謀の香りがするだろ?
興味がある。暴いてみたくなる。
ゼユウさんの過去と同じさ。どう?一緒に。」
国を守ろうとしているのに、国と敵対するような真似は止めとけ。
そんなふうに、断ろうと思ったのだが。
何が原因で、王国が滅ぶ事になるか分からないのだ。
つまり王女の死を隠している事が、滅亡の原因に繋がる可能性もあって。
その原因を取り除く事で、国を守れる場合だってあるかもしれない。
それに、ひょっとしたら。
俺の過去に繋がっている可能性も、ゼロじゃない。
時間は、ある。
かくれんぼを、しているくらいだ。
(…。)
それでも迷うのは、藪をつついて蛇を出したくないから。
預言とも俺の過去とも全く関係がなくて、別のトラブルだけが増える。
そんな事態は避けたい。
「どうしてビッケは、王女様が亡くなっている事を知っているんだ?」
協力する、しないの返答は保留にして、それだけ聞いた。
ビッケは、そんな俺の心情はお見通しだと、言うように笑う。
「後で、いいのを見せてあげるよ。」
彼は、見慣れたにやけ面で、俺の肩を叩く。
その時。
ジリリリリ、と携帯端末が音を立てる。
タイムアップ。
そして気づく。
あの違和感が、いつの間にか無い。
不思議に思いつつも霊園を出る。
すると、サダキが走って来た。
「優勝おめでとう。」
ビッケと二人で拍手する。
「ありがとうございます。」
嬉しそうな、満面の笑みだ。
「降参だよ、どこにいたんだ?」
「ゼユウみたいに、尾行していました。」
「まじか。俺は音を拾う魔法があるから出来たけど、普通に凄いな。
気づかなかったよ。」
「前に、訓練に付き合ってもらったおかげです。ありがとうございます。」
などと、和気あいあいとしていたら。
「ちょっと?」
ホーメナがいた。何か、怒ってる。
「どうして、誰もメッセージを返さないの?」
急いで端末を見ると、確かに届いている。
ヨダーシル製の最新機には、メッセージのやり取りが出来る機能まである。
まだ慣れていないし、かくれんぼに夢中で気づかなかった。
「ごめんよ、お母さん。」
「あ?」
ビッケがホーメナに睨まれる。
なるほど。三人も音信不通だから探しにきたのか。
「ごめんなさい。」
俺は頭を下げる。しかし彼女は険しい顔のままだ。
「ごめんなさい。」
サダキが、本当に申し訳なさそうに謝罪する。
これは、許したくなるな。
「…次からは、気を付けて。」
サダキありがとう。
サダキの真摯な態度のお陰もあるが、ホーメナが問い詰めてこなかった理由は時間が無いから。
今日この後に行われる貴族のパーティーに、コーホが招待されたらしい。
メッセージの内容は、それだった。
俺達は服屋に連行される。チゴマさんが、スタンバっていた。
用意してもらった服に袖を通す。
チゴマさんが普段着ているような、ピシッとしたスーツ。
白っぽい色の、華やかな印象だ。
「どうですか?ゼユウ。」
「様になってるな。カッコイイぞ。」
サダキは満足そうだ。
ビッケは、早速着崩して、ホーメナに怒られている。
その横にはクーノ。コーホは全員集合している。
(女性陣はワンピースか。)
意匠に統一性が感じられる。
色とか。
(悪くないな。)
素直な感想だ。
コーホという集団で生活しだして一週間。
ハッキリ言って、何の集まりか分からないだろう。
『きょうだい』と言うには、似てなさすぎるし。
しかし、お揃いの服を着る事で、関係者、『同じチーム』に見える。
同じチームの仲間だと、改めて認識できる。
「ほら、準備できた人から、馬車に乗って!」
ホーメナの言う通り、店の外に馬車がある。
御者席にチゴマさん。
(まさか、王宮で使っているやつじゃないよな?)
どことなく気品漂う馬車に乗り込む。
「いい馬車なんだけどさ。この人数だと狭いね。」
ビッケは、白の帽子を被っている。買ったのか?
クーノが自分の膝の上を叩く。サダキに乗れという意味だろう。
ビッケが狭いって言ったから。
ちなみにクーノは大きくないし、サダキもそこまで小さくない。
サダキは首を振る。そりゃあ、そうだよ。
そのサダキの手を引いて、俺とビッケの間に座らせる。
「ぐえっ」っと聞こえたが無視だ。密着はするが、座れない事はない。
「ありがとうございます。」小声のサダキに、「いい、いい。」小声で返す。
「ねえビッケ。会場に着いたら、ちゃんと帽子取ってね。」
「えぇ…。僕のアイデンティティを奪うのかい?」
「マナーよ。大丈夫、あんたのキャラは帽子が無くても強烈よ。」
「嬉しい事を言ってくれるじゃないか。任せてくれよ、僕のトークでパーティーを盛り上げてみせる。」
「いらないわ。大人しくしててね。」
「…えぇ…?」
パーティー会場を目指して、馬車は進む。
思ったよりコーホは暇で、結構毎日遊んでる。
静かに迫る、滅亡の影を感じながら。
そんな感じの、新しい日常。




