第89話 容疑者達~クエスチョン~
~前回までのゼユウ~
退院前日。今日もビッケの話を聞いていた。
あいつも、色々あったみたいだ。少しは、理解できたかもしれない。
ひと段落ついた時、前にビッケが貸してくれた本の話題になった。
◇登場人物◇
●ゼユウ:主人公●ホーメナ:賢者●クーノ:天使●ビッケ:魔王●サダキ:天使
〇ハナ先輩:職場の先輩
勇者トリドの英雄譚。
ストーリーはシンプルだ。
世界を滅ぼそうとする魔竜を討伐する話。
主人公のトリドは、かつて王国を守った勇者の末裔。
その責任から、友達のポーンと旅に出る事に。
出発直前のごたごたで、旅人のアニアも仲間に加えて、三人旅。
道中、トリドとアニアは親密な関係になっていく。
終盤、アニアが魔竜を崇める一族の末裔である事が発覚し、トリドを裏切る。
トリドは泣く泣くアニアを殺し、ポーンも魔竜に殺されてしまう。
その怒りで、トリドが謎の力に覚醒。
魔竜を倒し、王国も、世界も平和になった。
トリドは故郷に凱旋し、人々の笑顔とともに、物語は終わる。
「後味の悪い話だと思った。
アニアを殺した件。
これが最善、これしかなかった。その思いの押し付けが酷かった。
トリド自身、最後まで引きずっていたようだし。
悲しいというより、怒りを感じる。
理不尽な、世界に対して。
だからこの本は、好きじゃない。」
思ったよりも、感情が出た。
「なるほどねぇ。」
ビッケは、それだけ言った。
てっきり自分の感想を捲し立て、議論をスタートさせるのかと思ったから、拍子抜けする。
そんな俺には構わず、ビッケは棚から本を取り出した。
ぺらぺらとページをめくりだす。そして口を開く。
「勇者トリドの英雄譚は、実話がベースなんだ。」
「…。」
「この話をすると、魔竜がいた事なんてないじゃないかって、言ってくる奴が多い。
でもゼユウさんは知っているよね。
この世界は、天上の国の存在を隠している。
かの国がやってきたのも、魔竜が暴れ回っていたのも、千年前。
ここら辺の歴史は、改ざんまみれなんだよ。」
「魔王は、天上の国の存在を隠していない。だから、正しい歴史を知っていると?」
「そゆこと。」
なら同じ理由で、ホーメナの言っていた古い王族とかも知っている訳か。
「まあ、この本もあくまでベースにしているだけ。
歴史書としたら脚色過多。魔竜に、世界を滅ぼす力はなかったはずさ。
でもね、真実と思われる箇所はある。」
「見分けがつくのか?」
「ファンって言ったろ?研究しているんだよ。
魔竜と呼ばれる奴は存在していたし、それを討伐した青年も間違いなく、いた。
そして、その青年が使う魔法も。」
ビッケがページを開いた状態で、本を見せてくる。
「ここ、敵を吹き飛ばしているだろ?こっちは、明らかに空を飛んでいる。つまり、トリドは風魔法使いだ。」
「ああ、それは思った。ここで使っているのは、翼だ。
でも、千年前なんだろ?
なら、今、失魔法と呼ばれる物が使えても、おかしくない。」
「その通り、おかしくない。
この本で確認できるトリドが使った魔法は、五種類。
翼、風刃、風剣、竜巻、音制御。
どこかで見た事のあるラインナップだと思わないかい?」
「もしかして、俺と同じだとか言ってる?
翼を除けば、普通の初級、中級魔法だろ。使用者はたくさんいる。」
「重要なのは翼、そして。」
ページをめくる。終盤だ。
「覚醒した、トリドの魔法さ。」
「…あの、無数の剣で魔竜を斬り刻んだやつ?
あれ、魔法なのか?
魔竜も、こんな魔法は存在しない!とか言ってたし、魔法とは別の何か凄い力みたいな、謎パワーじゃないのか?」
「輝刃だよ、あれ。」
「…。」
「じゃーん。これ、初版本。めちゃくちゃレアなやつ。」
自分のカバンから、古い本を取り出した。
「この本の最新は第七版。
新バージョンが出る度にどこかしら変更がある。
言い分としては、時代にあわせて子供に読みやすくする為。
でも、関係無さそうな所にも手が入っている。
当時の動きは流石に分からないけど、誰かに不都合な箇所が変えられているんだろうね。
君に渡したのは、この町で買った最新版さ。」
陰謀論みたいだと、思う。
魔王が言っているのだから、事実かもしれない。
でも、事実だったとして、それが何なんだ?
「初版は面白いよ。
ほら、トリドの覚醒技の描写が違う。
無数の剣は突然現れたんだ。何もない所から、しかも明るく輝く刃だ。
魔竜も、この魔法はまさか!とか言ってる。
まあ、実在した魔竜は喋らなかったと思うけど。」
「トリドが輝刃を使ったからって、何になるんだよ?」
少し、大きな声が出た。
不安になっている。ビッケが、結論を引っ張るから。
「関係者。もっと言えば、血縁だと思っている。」
ビッケは、俺の目を見て言った。
「俺が、トリドの?」
「そうさ。
どっかで言ったと思うけど、魔王は継承されてきたものなんだ。
名前とか、財産とか、研究成果とか。
継承される魔法もある。
ドラゴンフォーム。魔竜を研究して、編み出された魔法。
僕の、気竜、先端が、竜の頭っぽかったろ?
あれ、覚えるの大変でさ。
難易度は失魔法クラスだよ。
めちゃくちゃ苦労したんだけど、歴代の魔王の中には、あっさり使えるようになった人もいるらしい。
ちなみに、天才という訳ではない。どんな人だと思う?」
分からない。けど、さっきの流れからすると。
「血縁者?」
「正解。先代魔王の子供とかにそういう人がいる。
まあ、絶対ではないけどね。
魔法の属性に、遺伝は関係ないなんてのは昔から言われている。
でも、こんな説もある。
習得難易度の高い魔法ほど、覚えるのに必死になる。
魂に刻み込む。
そういう魔法は、遺伝する可能性がある、なんて説がね。」
ふーっと息をはき、力を抜く。
飲み込むのに時間がいるぞ、これは。
事実と決まった訳ではないが、否定する材料も記憶もない。
救国の英雄の子孫の可能性か。
今、国を救おうとしている訳だから、ある意味で丁度いいのかもしれない。
そうだったとしても、違ったとしても、不都合はない。
だから、安心する。
「全部僕の仮説に過ぎないよ。だから、気負う必要はないんだけれど…。」
魔王の話は続くようだ。
また、にやけている。
「君がトリドの子孫だったとすると、一つ、困った事があるんだ。」
「そうなのか?」
困った風には見えない、寧ろ、ビッケが楽しそうなのだが?
「初版は本当に楽しい。
ほら、ここを見て。」
指さされた箇所は、国の名前だ。
トリドの出身国で、彼が思い人を殺してまで守った国。
変わっていた。
俺が読んだ本と、初版とで。
でも、知っている名前だった。
初版に書かれていた名前は、コア王国。
フレン王国が二百年前に滅ぼした国。
その憎しみは晴れず、半年前にテロを起こし、ハンネを殺した。
「古の英雄さんは、祖国を滅ぼされてどう思うかな?
悲しいと思うかな、それとも、怒りを覚えるかな?」
その子孫は、どうか思うのか。
「記憶が無いって、怖いね。」
可能性としては、あるのか?
記憶を失う前の俺は、あの森を彷徨っていた俺は。
コア王国残党の一味で、テロの準備をしていて。
もし、記憶が戻るような事があれば、俺が。
この国を滅ぼすなんて事が?
そんな、楽しくも無い可能性が?
「ゼユウ、忘れ物ない?」
「ああ。大丈夫だ。」
翌日の昼ごろ、俺は退院した。
コーホは同じ建物で生活する。
これからホーメナに、そこまで案内してもらう訳だ。
「…。」
王都に住んでいる身なのだが、俺の家は、反対方向。
こっち方向には、来たことがない。
だから道を覚えようと、特徴的な建物を探す為、視線が彷徨う。
(いい雰囲気だな。)
商店街には、活気があった。笑顔が、日常があった。
(後、数時間もすれば、光に包まれて消えるかもしれない…。)
とても信じられない。でも、起こり得る事実。
頭痛がした。
あの時の、サダキを斬る直前に見えた荒野が、また見えた気がする。
「私はさ。」
ホーメナの声がして、意識を戻す。
いつの間にか、人気の無い道にいる。
彼女は前を向いたまま、続けた。
「もし、私達の中に、王国の滅亡を望む人がいたとして。」
引きつってしまう。昨日、ビッケが話した説が、過る。
「私達との生活が楽しくて、滅ぼすのをやめる。」
彼女は振り向いて、俺を見た。
「そうなったら、素敵だなって思ったの。」
彼女に見つめられて、俺は反応できなかった。
「だから、楽しい生活にしようね。」
ホーメナは、再び歩き出す。
「…。」
不安はあるけど、楽しい共同生活にしよう。
そういう意味だ。他意なんてないだろ?
そう、頭では考えているのに。
俺は、なぜか、ハンネの葬式の時の、ホーメナを思い出した。
本当に、フレン王国は滅ぶのだろうか?
その場合、誰が滅ぼすのだろうか?
どんな理由で?どうやって?
(関係ない。誰だろうと、どんな理由だろうと、どんな方法だろうと、阻止してやる。)
ハナ先輩を、ふれあい教室にきた子供達を、商店街の人達を、この王国に住む人々を、守らないといけないのだ。
(だから、余計な事を考えている場合では、ないのに。)
分かっているのに、気になって仕方がない。不安で、たまらない。
サダキは、本当に古の魔導超兵器なのか?人体実験をされていたのか?何の為に?
クーノは、なぜ王国に協力する?天使なのに?天使は、何で千年前この世界に接触したんだ?
(…。)
ビッケは嘘ついてないよな?
ホーメナは、何を考えているんだ?
(俺は、一体、誰なんだ…?)
前を歩く賢者の後ろを、何も言わずについていく。
その先に、俺の新しい日常が待っている。
第三章、プロローグ終了。
次回から本編開始、みたいなノリです。
本作は推理モノではありません。メインはバトルです。
徐々に明らかにされていく事実と、一喜一憂する登場人物たちを、お楽しみ頂けたら幸いです。




