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継承英雄譚、担々  作者: シロクロゲンヤク
第一章 勇者レーラスの魔王討伐記
9/80

第8話 仲間~旅立ち~

~前回までのガットル~


ドラゴンと再戦。

振り落とされまいと、必死にしがみついていた。

気付いたら、なんか勝ててた。たぶん、仲間のおかげ。


ここで一旦、一区切り。

 古のドラゴン、勇者により討伐される。


 王国は祝勝会を開いた。

 国民も参加する、ちょっとした祭り規模らしい。


 王宮前の広場では、女王様の演説もあったそうで。

 ドラゴンの強大さ。勇者の偉大さ。そして港町の計画など。


 国民にとっては、サプライズ。


 あの勇者なら、本当に魔王を倒せるのでは。

 そう思ってくれる人も少なくないはずだ。




 俺達がドラゴンを倒したのが、真夜中。


 明け方には街について、商会が動く。打合せ通りに。


 昼前には凱旋パレードみたいな事を行い、祝勝会が始まる。


 そして、夜。俺は目覚めた。


 (…。)


 ここまでの事は、枕元の手紙を読んで把握した。


 (…。)


 起こそうとしても、起きなかったそうだ、俺は。

 ゆっくり休んでね、と手紙は締められている。

 朝には強い方なのに。だから薬の副作用だろ、これは。


 (…。)


 遠くで人の騒ぎ声が聞こえた。

 別に祝ってもらう為に戦った訳ではない。

 祝勝会に興味は、無い。


 しかし、

 (腹減ったな…。)


 そしてここは何処だろう?


 汚くはないが、年季以外は特にない一軒家。

 ベッドと、イスと、机、だけた。生活感がない。


 (ディオルの家、か?)


 排除法でそう結論づける。

 隠れ家の一つとかだな。そうじゃないと、ちょっと怖い。


 机の上を見ると、『ガットルの取り分』と書かれた袋。中身は金だ。


 次に畳まれた厚手の上着。俺のではない。

 しかし、『外は寒いから着てね』と書かれた紙がある。


 そして鍵、下に紙。紙に、『鍵は鉢植えの下へ』と書かれていた。


 袋と上着を持って外へ。鍵をかけ、鉢植えの下へ。

 言い表せない恐怖と共に、手早く家を後にする。




 見覚えのある道だ。中心街からやや外れた住宅地か。


 アサルトフローとか、剣とか、その他の防具は見当たらなかった。

 おそらく商会で預かってくれている、はず。


 厚手の上着の下は、紫の強化服。昨日着ていた物だろう。


 臭くは無かった。消臭剤でも撒かれたかもしれない。

 流石に着替えたい、が、家まで戻り、またここまで来るのは面倒すぎる。


 適当になんか買って帰るか。商会に行くのは明日でよかろう。


「おはようガットル。これからご飯かい?」

「んあ?」


 声がかかると思わず、間抜けな返事をしてしまう。


 勇者だ。

 小綺麗な貴族が着るような格好だ。もちろん男性用。


 こんな所に、このタイミングで?ひょっとして俺は監視されている?


「祭りの会場は向こうだよ。まだまだ夜は長いのだから。」


 勇者は気さくに、肩に手を置いてきた。

 慌てて引きはがす。


「いや、ちょっと、今、自分、匂うんで。」


 勇者は、バンバンと俺の背中を叩く。


「男同士で何を言っているのだい。今夜は無礼講だよー。」


 一応街中だ。他の人の目があるかもしれない。


 (男同士だって、匂いぐらい気にするよ!)

 っと、心の中で叫びつつ…。


 俺は大人しく、勇者に引きずられて行くのだった。




「買い込んだな。」

「おいしいからね。」


 お祭り気分は続いていて、街はまだまだ賑わっている。

 この時間なら閉まっているはずの店も開いていた。


 それらを一通り見て回り、飲食物を買い込んだ。


 両手に抱えた大きな袋は二つ分。はしゃぐ勇者についていく。


 (元気だなぁ。)

 自分の袋を持ち直す。


 いつしか喧騒が遠のいて、人家の数も減っていき、もはやゼロ。


 到着したのは、寂れた公園。光源は星明りのみ。


「到着。ここ、お勧めの穴場スポット。」


 そりゃ誰も来ない。暗すぎる。


 いい感じの木の枝を地面に突き刺し火を着ける。

 火力を調整し、簡単なロウソク変わりにした。


「ありがとう、オシャレだね。さぁ食べよう。」


 ベンチに座り、物色し始める勇者。


「室内の方が、いいんじゃないか?」


 ディオルの家(仮)とか。


 滅多に誰も来ないといっても、今日に限って!はあるかもしれない。

 寒いし。


「ここがいい。

 動く人や物があれば解るし、防音も優秀。」


 風が変わった。魔法だ。

 ついでに風が当たらなくなり、寒さも無くなった。


 (ここまでするという事は…。)


 おそらく重要な話がある。しかし、

「いただきます。」


 両手を合わせて会釈して、勇者はパンを齧った。


 まずは、腹ごしらえか。俺も袋を漁る。


 勇者は、一心不乱というか、一生懸命というか。

 黙々と食べ続けている。


 余程腹が空いていたのか、食べる時はこうなのか、もしくは機嫌が悪いのか。


 俺も倣って、黙って食べた。


 やがて。


 腹が膨れたので袋を閉じる。残りは明日だ。二、三日は持つだろう。


 さて向こうはどうなったかな、と勇者の方を見る。

 何かの肉の塊にかぶりついていた。


「ガットル、このお肉は。」


 俺の視線に気づいたのか、話しかけてくる。


「こうやって、食べるのが、作法だから。豪快に、いかないと、失礼、だから。」


 言いながらも食べ続け、あっという間に完食した。


「大変美味でした。」


 口元を布で拭いて、感想を言う。


 勇者様、口元まだ残ってますよ、タレみたいのが。


 膝の上の袋を横におき、そして、勇者がこちらに向き直る。


 そのまま数秒経過する。


 何かを伝えたい?いや、待っている?

 俺は立ち上がった。勇者の前に行き、膝をつく。


 勇者は、じっと俺を見続けている。


「俺を、あなたの仲間に加えてください。」


 頭を下げる。誠意を伝えたかったが、出来の悪いプロポーズみたいになってしまったか?


 勇者は。


「僕も、君を仲間にしたい。一緒に行こう。これからよろしく。」


 いつもの優しい声色で言ってくれた。


 やった!と、心の中でガッツポーズ。


 勇者はもう一度口元を拭く。今度は全部取れて綺麗になった。


「うれしい。本当に、うれしい。」


 勇者の瞳が潤む。そして両手を広げ、て?

 (抱き着いてきただと!?)


「僕、実は、初めて会ったあの時から…。」


 勇者の顔が近い!思う間もなく、

「!?!?!?」


 キスをしてきた!?口と口で!?


 情けない事に、俺の頭は真っ白だ。


 尻もちをついたまま動くことが出来ず、何の反応も返せない。


「どうしたの?」


 いつの間に戻ったのか、勇者はベンチに座っていた。


「何があったのか教えてよ。」

 (何がっておまえ…。)


 俺が言いよどんでいると、勇者はおもむろに、自分の頬を指さした。


 そこにはタレみたいのが付いている。


「それ、拭かなかったか?さっき。」


 その時、俺に電流が走った。


「そ、れ、で?その後は?」


 勇者は楽しそうだ。


「幻惑…魔法…?」


 クスっと笑って勇者が立ち上がった。


「沢山練習して、自信もあったのに。君もディオルも、初見で破るとか。でも…。」


 手が差し出される。


 いつかの逆光の時みたく、やわらかく、微笑んで。


「僕の勝ちだね、今回は。」


 (このくそガキめ…。)


 可愛いなんて、ずるいだろ。


「いつかディオルにも、リベンジするよ。」

「めちゃくちゃ負けず嫌いじゃん…。」


 勇者は大変ご機嫌だった。




 それから、他愛のない話をした。


 俺が寝ていた家は、勇者の家。

 闇深な話かと思ったが、今はサニアの家にいるらしく、私物をほとんど移動させたから殺風景になったらしい。

 鍵の管理には突っ込んでおいた。

 

 勇者がサニアについて、ここが可愛い、ここがカッコいいと話すから、こちらはクレスタの逸話を話しておいた。悪口ではないから別にいいだろう。


 ドラゴンの戦いは概ね予定通りだったらしい。


 こちらの最大火力が、あの獄炎槍ヘルフレイムランス

 しかしそれでも致命傷を与えるのは難しいだろう。


 そもそもどうやって当てる?と協議し、その結果、自由を奪って高所から落とし、突き刺す。となった。


 1、みんなでダメージを与えて空に飛ばす。

 2、勇者が飛び乗る。

 3、ディオルが魔法で妨害し、飛ぶ方向を上に絞る。

 4、いい感じに上昇したら、勇者が超強力麻酔を打ち込んで落下させる。

 5、落下方向を勇者が風魔法で調整。

 6、勇者はパラシュートで脱出。

 7、ドラゴンは死ぬ。


 改めて聞くと冷や汗が溢れる。

 よくやろうと思ったな。で、よくうまく出来たな。

 



 夜は長いといいつつも、やはり疲れは残っている。


 解散を提案すると、すんなり受け入れられた。


 別れ際、最後に。


 聞いてみた、その理由を。


「どうして勇者様は歴史に名を残したいのです?」


 勇者は、

「いつか話すよ、ガットルには。」


 いつものように、柔らかく笑った。



 

 それから二日後。


 昨日磨いた防具を身につける。


 細かい傷が残っているが、それはまぁ、激戦の証という事で。


 肩を回したり、軽くジャンプしたり。


 (よし、いい調子。)


 出発する日だ。魔王討伐の旅に。


 ドアノブに手をかけ、振り返り、家の中を見る。

 もう、帰ってこれないかもしれない。


「行ってきます。」


 独り言を呟いて、ドアを開けた。


「おはよう!ガットル君。いい天気だね~。」


 家を出て、割とすぐにクレスタに会った。


「おはよう、クレスタ。元気そうでよかったよ。」

「うんうん。ガットル君の方はどう、調子いい?」


「これ以上ないほど好調だな。

 ドラゴンでダイブなんて、激レア体験をした俺は、無敵だ。」


「ガットル君。」

 クレスタの声色が変わる。


 足を止め、振り向く。


「今なら、全然戻れるよ。」


 クレスタのこんなに優しい顔は、初めて見たかもしれない。


「進みたいんだ。ついていかせてくれ。」


 クレスタが、少し寂しそうな顔になる。


 その真意はわからない。


 でも、そうだな。やっぱりクレスタとこの空気はしっくりこない。


「魔王討伐の謝礼金で、借金も返さないと。」


 おちゃらけて、後はいつも通り。


「そんなあなたに商品テストのアルバイト。この鉢巻きは…」




 そんなこんなで、集合場所へ。


 勇者とサニアとディオル。三人だけ、そこにいた。


「てっきり、盛大に送り出してくれるかと思ったけど?」


 クレスタが答えてくれる。

「当初はその予定だったけど、祝勝会になっちゃった。」


 (なるほど。お金の話か。)


「それじゃあ出発しまーす。離れないようについてきて下さーい。」

 気の抜けた感じでディオルが言う。


「レーラス!何か言って!」

 不機嫌そうなサニアの声。


「魔王を倒すぞー。」

 勇者が軽く片手を上げる。


「おー!」

 勢いよく拳を突き出す。サニアだけ。


「あー、もし離れてしまったら、旅の栞の後ろから二ページ目。

 緊急時のQ&Aに書いてあるから。各自読んでおくように。」

「遠足の話~?何処いくの~?」


 もう、ぐっだぐだ。

 でも。


 (楽しそうだな。)


 そんな四人の、後ろ姿を眺めていたら、昔の事を思い出した。


『伝承の勇者って強いよねー。』

『魔王を倒したんだろ!かっけーよな!』

『倒したのは魔王じゃなくて、ドラゴンでしょう?』

『魔王だよ!首が長くて、三つもある奴!』

『ドラゴンじゃん!』


 人づてに聞いた事なんてバラバラで。


 それでも勇者は格好よくて。


 なにより。みんなといるのが楽しかった。


 (…。)


 失ってしまったものだ。

 失うという事は、苦しくて、悲しくて、悔しくて。


 もう二度と、味わいたくないものだ。


 (…。)


 なんてことない。失う事が怖いだけ。

 認めてくれた、みんなの事を。


 だから今度は、今度こそ。しがみついてでも、守りたい。


 息を大きく吸い込んで。最初の一歩は力強く。


「栞なんて、貰ってねーぞ!」


 その輪の中に入ってく。

ガットルが勇者になりたかったのは、孤児院の仲間を守りたかったから。

守れるだけの力を持った存在、それが勇者だったから。

そこから、孤児院の仲間が無くなってしまって…。

勇者になりたい。でも何のために?という状態で剣を振り回していました。

結果的に守りたい仲間が出来たので、今度こそ仲間を守る為に、旅に同行するのでした。


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