第88話 容疑者達~ゼユウと会う前のビッケ~
~前回までのゼユウ~
俺は、コーホと言う名の部隊へ入る事に。
コーホの目的は、王国滅亡を防ぐ事。
王国滅亡の容疑者候補同士で、監視し合う事。
◇登場人物◇
●ゼユウ:主人公●ホーメナ:賢者●クーノ:天使●ビッケ:魔王●サダキ:天使?
〇ハナ先輩:職場の先輩
俺が入院して、六日経った。
昨日は、ホーメナがお見舞いに来てくれた。
魔法聖域は問題なく作動し、強度もバッチリだったらしい。
ビッケの攻撃にも、クーノの攻撃にも、ホーメナの隕石にも耐えたそうだ。
とりあえずは一安心。彼女の、ほっとした顔が見れてよかった。
今後、さらなるパワーアップを計画中らしい。
『退院したら、ゼユウにも手伝ってもらうから。』
去り際の彼女に、笑顔で応えた。
一昨日は、ハナ先輩が会いに来てくれた。
同じ病院で入院していたらしい。無事、退院できてなによりだ。
ハナ先輩、そして多くの王国民は、預言を知らない。
余計な混乱を避ける為、周知はしないそうだ。
コーホのルールの中にも、情報を流布してはいけないとある。
(全員が離れられる訳ではない。残るしかなかった人が自棄を起こして暴れ回るような事態を避けたいのは分かる。でも知らせれば、確実に助かる命はあるはずなのに。)
現に、一部の人は知っているらしいし。
(国民の為というより、国を維持する為に国民を流出させない為なんだろうな。)
だとしても。だからこそ。
(預言通り、王国を滅亡させる訳にはいかない。)
ハナ先輩は、俺とホーメナが、しばらく王都で働く事を知っていた。
『また一緒に働ける事を、楽しみにしてますね。』
そう言ってもらえたのは、嬉しかった。
三日前に来たのは、クーノとサダキ。
サダキは、随分と印象が変わった。
金髪なのは同じだが、スッキリした髪型だ。整っている。
黒っぽいTシャツに、同色の長ズボン。
しっかりとした生地の動きやすそうな格好。
前は、何か、野生児みたいだったのに、落ち着いたものだ。
『壁にぶつけて、ごめんなさい。』
サダキに頭を下げられて、俺は面食らった。
治ったとは言え、彼を袈裟斬りにしたんだ。
恨まれると思った。彼にも、クーノにも。
クーノは説明してくれた。
あの時のサダキは、所謂、暴走状態。
身体への負荷が尋常じゃなかったらしい。
続ければ、命を落とすほどの。
『だから、止めてくれて、ありがとうだよ。』
そう言われたが、こっちは複雑だよ。
そして、この、エンビッケという名の魔王は毎日きている。
『天使をどうやって速攻で説き伏せたかって?預言あるだろ、賢者犯人説をひたすら喋って、とりあえず拘束しとけば?って助言してあげたんだよ。』
『王宮の難問を解決した天使なら、王国の滅亡ぐらい防げるんじゃないか?
そう思うよね?でも何か、カテゴリーが違うんだって。
戦闘能力は、僕や賢者と似たような感じだったし、万能だとか、神の力は持っていない。きっと彼女は、天使の中だと下っ端さ。』
『コーホは、実は僕の案でね。牢屋で賢者と話したんだよ。
いやあ、相互監視って言葉が、思いのほか聞いたね。』
『そう言えば、半年は協力するけど、一年はちょっと、みたいな話もしたね。安心していい。一年に延長さ。
コーホに入ったし、半年後に天使を殺すような事はないよ。…犯人でなければね。』
『この町のカレー屋って行った事ある?辛いってさ、痛いんだね。経験しないと分からない事って、やっぱあるよ。』
『天使は24歳だよ。あれは単純にガキっぽく見えるだけ。僕のは、アンチエイジングさ。本当の年齢?はは、秘密だよ。ゼユウさんも、年齢不詳じゃん。』
聞いてもいない事を、一方的に喋って帰っていく。そんな感じ。
(なんでだよ。)
余程、暇なんだろう。今も俺の横で、何か食べながら、何か読んでいる。
「ビッケって、クーノの事、嫌いなのか?」
なんか、慣れてしまった。雑に話を振るくらいに。
「ん~。」
ビッケが本を閉じて、こっちを見る。
「何か、当たりが強いっていうか。最初の時も、止めを刺そうとしただろ。」
「魔王やってる奴で、『天上の国の住民』が好きなのなんていないさ。」
人のベッドに、寝そべるように頬杖をついて、続ける。
「賢者が言っていただろ?あいつらは千年前の侵略者。
魔王は受け継がれてきたものだからね。
遡れば、奴らに辛酸を嘗めさせられた記録に辿り着く。
先祖の恨みって事さ。」
クーノ本人に何かある訳じゃないらしい。
となるとただの八つ当たりか?
「そもそも、差がありすぎてそうなったんだろ?
クーノを殺してしまったら、それこそ、報復とか怖くないのか?」
「報復なんてされないよ。眼中にないんだ。
そもそも、天使を完全に殺す事なんて出来ない。」
「…何か、秘密が?」
「仮初の身体とでもいうのかな?あいつらはそういう存在なんだ。
肉体を壊しても、魂というか、精神体というか、そんなのが天上の国にある本体に戻るだけ。
その場合は戻って来れないっていうルールが、一応、あるらしい。
二度と会えないという意味では、こっちからしたら死んだも同じかもしれない。
でも向こうからしたら、本国の暮らしが再開するだけなんだよ。
しかも望めば、別世界や並行世界で、また、のうのうと暮らせるのさ。
そんなの、舐めてるだろ。」
今、ここにいるクーノは、仮初の生命。そういう事か?
「なんでビッケは、そんな事知ってるんだ?」
「ルートレスの魔王は、魔法を極めて世界の真実に辿り着くのが目的でね。
だから、世界中を旅している。新しい発見を求めているんだ。
当然、レーグの魔王達とも交流がある。
彼らは天上の国に対抗する為に集まった人達だったから、いい情報をたくさん持っていた。
落ちぶれた上に、滅んだなんて残念だよ。」
何というか、気分屋で、場当たり的な奴だと思っていたけど。
意外と考えているというか、過去の人達の頑張りとか気にするタイプだったんだな。
「世界中を旅していて、たまたま戻ってきら、巻き込まれた感じか?」
「たまたまじゃないさ。
四大魔王は、勇者一行に半分倒された。
しかもクーランの爺さんまで狙っている。
なら、勇者達同様、魔王も合流しようと考えるのは普通だろ?
ヨダーシルから大急ぎで、向かったんだよ。
ただ、あの爺さん、僕の事、嫌いでさ。
確か、128歳くらいだと思ったけど、元気なジジイなんだよ。
僕はクーランから追い出された。
するとどうなると思う? 」
「戻るんじゃないか?ヨダーシルに。」
何でヨダーシルにいたのかは、知らないが。
「僕もそのつもりだったんだ。でも、簡単じゃなかった。
ライダ大陸は、クーランと、ゾトと、マーアと、ジドルの四国。
マーアを中心に、北がクーラン、東がゾト、西がジドルだ。
そして今回、マーアとゾトが組んで、クーランを攻めてきた。
元々マーアには勇者がいる、そこに追加で、二組の勇者パーティーがやってきたんだ。
第二次クーラン大戦の始まりだよ。
魔王の僕は四面楚歌さ!
へろへろになりながら、ジドルの船に乗り込んで、なんとかネクーツまで逃げたのさ。」
意外だ。
こいつなら、四面楚歌な状況でも、にやつきながら全員返り討ちにするくらいしそうなのに。
マーアに集った勇者達は、そんなに強いのか。
そもそも、こいつが大人しく追い出されるイメージだって無い。
100年前、10人の勇者を葬ったクーランの魔王は、健在のようだ。
(第二次クーラン大戦か…。)
明日以降、世界一危険な場所は、フレン王国だと思っていたが、そうでもないかもしれない。
「僕の苦難は、まだ続く。
ネクーツで衝撃的な事を聞いたんだ。なんと、ヨダーシルはマーアの支援を決めたらしい。目まぐるしく変わる情勢に、辟易したね。
追い詰められた僕は、フレン王国に行く為に、ラゼン山脈を越えた。
ルートレスの魔王の居城は、世界中に点在する。この辺りにもあるのを思い出したんだ。」
ラゼン山脈。昔から、異質な魔力が漂う魔物の巣窟。
どの国の領土でもない、無法地帯。
一人で登るのは自殺行為だが、まあ、ビッケだしな。
「口ぶりからすると今まで来たことはなくて、今回初めて来たって所か?」
「その通り。城での生活は、中々快適だったよ。…誰かさんに壊されたけど。」
「それはお前が、…て、そうだよ。盗品はちゃんと返したのか?」
今、思い出した。そもそも何を盗んだんだ?
ビッケは、落ち着けとジェスチャーをして、続きを話す。
「城に蓄えは無かったからね。持ち込んだ物資は底をつき、僕は買い出しの為に、王都へ行った。
そして天使の情報を掴んだ。
『まあ、倒しとくか。』ってなるだろ?
その日の夜に、王宮に忍び込んだ。」
天使を嫌う理由は聞いた。でも、やっぱり八つ当たりだな。
勇者達に追い回されて、フラストレーションが溜まったから、それを発散したいだけだったんだろ。
「天使は直ぐに見つかったよ。
折角だから、お城に招待する事にした。ゆっくりお話しをしようと思ってね。
で、実際、話したんだけど、違和感があるんだよ。
僕は、ある可能性を閃いた。だから翌日、再び調査の為に王都へ行ったんだ。
調査結果に僕は満足さ。
目的を果たした帰り道、僕は気づいたんだ。
小腹が減っている事に。そして目の前に、食事が出来そうな場所がある事に。
それが、ゼユウさんの職場だよ。」
入院二日目に、未払いだったナポリタン代はもらった。
「それより、お前が壊した建物の修理代を払え。」と突っ込んだが、「なら、魔王城の修理代を払え。」と言われた。
言い争いの末、チャラになってよかった。どう考えても向こうの方が高い。
(いや、今はそれよりも気になる事がある。直ぐに見つけた天使って、クーノの事じゃないよな。)
「城に招待した天使ってのは、サダキの事か?」
「そう。僕が盗んだ品というのは、彼の事さ。」
「…それは、窃盗じゃなくて、誘拐じゃないのか?」
ビッケが笑った。意地が悪そうな顔だ。
「古の魔導超兵器。そう呼ばれているモノだよ彼は。」
キッドニで研究しているという、あれか?
「古の魔導超兵器と呼ばれる物の条件は二つ。
1、現在の技術では再現不能のオーバースペックである。
2、研究対象である。
生物かどうかは、問題じゃない。
ここに、人権が与えられると、天使と呼ばれるようになる。
六年前、四歳で召喚された彼は、王宮の地下の研究所を出た事がなかった。」
王宮の地下って研究所なのかよ。
しかも、いきなり地下を探したのか、ビッケは。
「サダキは、実験動物みたいな扱いなのか?」
そんな感じはしなかった。クーノと、仲がよさそうだった。
「僕の主観だと、それだね。まあ、本人達の認識は違うかもしれないけど。」
頭が痛くなった。普通にショックだった。
フレン王国が、人体実験をしているなんて。
「天使、天法の研究は、国の発展に大いに役立つ。
言っただろ?偽りの命なんだ。間違った判断だとは思わないね。」
「話した感じ、いい子だった。そんな子が辛い目にあっているとしたら、問題だろ。」
楽しくない。
「そうかい。」
魔王は興味を失ったように、欠伸をして、本を開いた。
「まあ、明日からはコーホだし?しばらくそういうの、無いんじゃないかな。
彼の認識は天使に変更さ。
まあ、天使である事も公にはしないだろうから、一般人かな?
僕も、魔王だと名乗らないしね。」
それで、会話は終わる。
(ビッケが自由の理由はこれだろ。王国側も騒ぎにしたくないんだ。
サダキはどう見ても人間。人体実験がバレたら、面倒だから。)
スッキリしない。疑問が解消されたというのに。
(こいつが大人しくコーホに入ったのは、ヨダーシルにも、ライダ大陸にも行けないから。)
俺の過去への興味なんて、仲間になった理由としては二の次だろう。
「そう言えばさ。」
少し休もうと、目をつぶった時だった。
「渡した本、読んだ?」
会話が再開する。
「…読んだよ。」
時間はあったから。
ビッケに渡された本は、一冊だけ。勇者トリドの英雄譚。
「どうだった?」
ファンだって言っていたな。
忌憚のない意見を聞かせろとも。
「不快だった。イライラした。」
「ふ~~~ん。どんな所が?」
楽しそうだな。アンチとも一晩語るんだっけ?
流石にそこまでは遠慮したい。が、何かを話したい気分ではある。
サダキの件で、モヤモヤしているから。
(えっと、確か…。)
感想を話す為、本のストーリーを思い出す。
~ビッケの話、補足~
第二章の後。
ガットル、サニア、ディオル、ロストン、リガーナは、リハネ達と戦闘、その後、和解。
当初はリガーナの家に厄介になるつもりだったディオルだったが、倒壊している為、叶わず。
もういっそ、クレスタとトワとの合流地点である、マーアまで行ってしまおうという話になり。
クーランの魔王に興味のあるリハネ達もついてきて。
マーアでの、ちょっとしたトラブルから、クーランの魔王と戦闘状態へ突入して。
特別出向偵察員のガットルが、クレスタに報告するべくウーイング王国へ向かった。
そんなストーリーが、裏で動いていたりします。




