第87話 容疑者達~可能性の話~
~前回までのゼユウ~
天使の預言を聞いた。フレン王国は滅ぶらしい。
預言は信憑性があって、逃げるのは難しいそうだ。
何とか、生き残る方法を考えないと。
◇登場人物◇
●ゼユウ:主人公●ホーメナ:賢者●クーノ:天使●ビッケ:魔王●サダキ:天使?
〇チゴマ:王宮の偉い人
コーヒーを飲んで、一息いれて。
「そこまで悲観的にならなくていいわ。
預言には、ちゃんとヒントがあるの。」
ホーメナが魔法を使う。石板が現れて、文字も彫られる。
文字に色がついて見やすい。
『一年以内に、フレン王国は滅ぶ。
領土内全てが、光に包まれて消える。
建物も、血脈も、人もなくなって、それで滅亡。』
「王国が滅んで得をする人物や、恨みをもつ人物は?
諸外国と比べて、魅力的な資材がある訳でも、現在戦争をしている訳でもない。
国を消し去りたいと思うほどの何かは想像できない。
私にとってはどうでもよくても相手からしたら、なんて話になったら、それこそよ。
大小問わなければ、王国に不満がない人こそ、いないわ。
過去の遺恨とか言い出したら、きりがない。
王国には千年の歴史があるもの。
200年前に滅ぼしたコア王国、その残党が半年前にテロを起こしたりね。
極めつけに、事件はこれから起こる訳よ。
つまり、今後、動機になりえる事が発生する可能性があるって事。
容疑者は、多すぎる。」
確かに、これは未来の話なのだから、動機で探すのは難しいか?
「地震、津波、地盤沈下、隕石の衝突。断海より溢れる魔力の影響。
国が消えるなら、怨恨や利害関係より自然現象の方が納得しやすいけど、光に包まれて消えるらしいからね。
実行犯は、いるはずなの。」
「…それこそ、天上の国の侵攻が始まるなんて事は?聞いた限りだと、能力的にありえそうじゃないか?」
「天罰。天上の国からの攻撃という可能性は、クーノが完全否定しているわ。
預言だけ信じて、それを信じないのも変でしょう。」
それ以外で光に包まれる、王国を光で包む。そうなると?
「特別強力な魔法とか、特大強力な爆弾とか、そういう秘密兵器があるとかね。
これは、すぐにどうにかなる話じゃない。
既にある程度の力がなければ、不可能。
だから、限られてくる。」
なるほど、実行可能な力をもつ人物、とかで絞り込んでいくのか。
王都を滅茶苦茶にするのだって、それなりの力と準備が必要。
ましてや、領土内全てを光で包むなんて、「逆に出来る奴いるのか?」ってレベルだ。
領土内って事は、王都もそうだし、賢者の森や、二つの町、レベラ平原も半分くらい含まれるだろ。
それこそ、世界最高戦力とかになるんじゃないか?
「国家なら、ヨダーシル、クーラン、ウーイング、バクー。
企業なら、センレイ会、フフゴケ商会。
魔王を討伐した勇者一行も、国の一つくらい余裕で滅ぼせる戦力があっておかしくない。天法も使えるらしいし。」
「流石に、クーランやウーイングは、遠すぎるんじゃないか?」
「滅ぶのが、フレン王国一つとは限らないのよ。
世界征服を考えていて、複数の不要な国を、消すのかもしれない。
特殊爆弾とかで。」
…まじ?いや、可能性の話だ。
「フレン王国が、本格的に預言の対策を始めたのは半年前からだけど、動き出したのはもっと前から。
さっき名前を上げた国や企業の動向は、チェックしているし、他にもチェックしている場所はある。
今の所、そういった素振りはない。
一番、派手な動きをしているのは、勇者一行ね。
レーグの魔王を倒した勇者の仲間達と、ゾトの魔王を倒した勇者達が合流したらしいわ。
今はクーランの魔王を討伐する準備中だとか。」
クーランは、ライダ大陸。フレン王国のあるワイバン大陸の北の大陸。
離れてはいるが一年もあれば、ここまで来れる。船だってあるんだ。
「国外については、引き続き調査をする。少なくとも、一年間は。」
ハナ先輩との話を思い出した。
ひょっとして、俺のバクー王国行きは、その調査の為だった可能性がある。
…それを口実に、俺を逃がすつもりだった可能性も。
「国内の方は、ある装置を造ったわ。
名前は、魔法聖域。
魔法で、王国領土全てを覆うデカい壁を作る。
魔法陣を描いた魔法塔は36基。
来週からは、常に兵隊さんが待機して、10秒足らずで発動可能。
今週中に、試運転。強度のチェックなんかを行うわ。」
(あの、知らぬ間に増えた魔法塔は、その為のものか。)
大昔、魔法を使うには、魔法陣と詠唱が必須だったらしい。
でも、今はそんなの無くても、魔法は使える。
しかし、『魔法とは理解である。』がハンネの口癖。
使われていたのには意味がある。
深く知る事で、効率、威力、精度の向上は見込めるのだ。
夜遅くまで、魔法陣の勉強を二人でしていたのを覚えている。
(あの頃から、預言に抗う為に動いていたのかもしれない。)
「ここで、一つの問題が起こるのよ。
国外の調査の為に、かなりの人員を使っている。
魔法聖域の維持にも人が必要。
王宮の警備みたいな、今までの職務だってある。
つまり、王国兵の数が足りないの。」
現状の問題点の話になった?
「王都の治安は悪くない。王国兵の皆も実力者。
だから、何とかしてくれるかもしれない。
でも、半年前のテロと同規模の攻撃を受けたら、守るのは、無理だと思う。
そしてここからは、いつ攻撃されても不思議ではない。
敵は、王国内にいるかもしれないから。」
ようやく話が見えてきた。
ホーメナが現状報告してくれるのは分かる。
でも、何でこんな人が集まっているのか?個々に説明する手間を省く為、だけではなかったのだ。
「有事に動ける、少数精鋭の部隊を作る。
ゼユウには、そこに入ってもらう。」
『入ってもらいたい』、じゃなくて、『入ってもらう』。
確定事項なのか。
「メンバーは?」
「私と、クーノと、…ビッケと、サダキ。
サダキはゼユウも戦った、あの金髪の少年。
共に、王国を守ると言ってくれたわ。」
彼も、無事だったか。斬った本人ではあるが、よかったと思う。
「わかった。よろしく頼む。」
拒否権もないし、問題もない。
豪華すぎるメンバーの中に入れられたが、だからこそ俺が出来る事もあるだろう。
常識人枠は貴重だ。
(国を守る為に、利害を超えて実力者達が協力する。不安もあるけど、楽しそうじゃないか。)
ビッケは損得で動いているかもしれない。
俺の過去に興味があるみたいだし、だから協力してくれるのかもしれない。
でも、些細な問題だろう。
(なるほど。チゴマさんは、この部隊と王宮との連絡員か。)
俺が一人で納得していると、
「大事な事を言ってないじゃないか。まさか、秘密のまま、なんて事はないよね?」
ビッケが口を挟んできた。
「…もちろんよ、これから話すわ。」
雰囲気からして、いい話ではないんだろうな。
「私達、五人のチーム名は『コーホ』。
選考基準は戦闘力。それこそ、国を滅ぼせるぐらいの。」
「…。」
賢者の魔法、隕石は凄まじい威力だった。
あんなのが、いくつも落ちてきたら、きっと国だって滅ぶ。
魔王は、国を滅ぼせる力を持つ存在。
というのが、共通認識としてあると思う。
その魔王と、天使は互角の戦いを見せた。
金髪の少年は、魔王を圧倒した。
そして俺は、その金髪の少年を戦闘不能にした。
(コーホ、こうほ…候補?)
もしかして?
「俺達は、王国を滅亡させる容疑者候補って事か?
でも、王国領土内、全てを光に包むだなんて…。」
出来る事の証明は簡単だ。やって見せればいい。
でも出来ない事の証明は?
(出来なかったとしても、手を抜いたかもしれない、実力を隠しているのかもしれないし、…本人も気づいていないケースもある。)
やらない。出来ない。
それが本当か、分からない。まだ何も起きていないから。未来の話なのだから。
そう、可能性の話なんだ。
「コーホの目的は、王国内の有事の対処。
そして、メンバーの相互監視。
ルールがあるわ。」
紙を渡された。ホーメナが読み上げていく。
「1、期間は一年間とする。
2、支給する指輪を外さない事。害する物ではない、位置特定の物である。
3、フレン王国領土内から出ない事。
4、有事の際、制圧に向かう事。」
(衣食住の提供もあるし、現金支給もある。国内の移動に制限もない。
常に監視対象という事に目をつぶれば、森の管理より、よっぽど好待遇だ。)
「基本的にやるなと書かれている事はやらないように。
どうしてもの時は、まず相談して。
無断で、国外なんて行ったら、命の保証はしないわ。」
………まあ、仕方ない、のか。
「天使を薬で眠らせて、外国への輸送船に放置して、船が出向したら、天使は消されるのかい?」
「え…?」
ビッケの軽口に、クーノが深刻そうな表情になる。
「その場合は、全力で戻って来て。そしたら弁明を聞くわ。
その後、実行犯には覚悟してもらう。」
「おー怖い、怖い。」
ホーメナに睨まれて、ビッケは両手を上げた。
…うん。上手くやっていけるな。…多分。
「正式なコーホの発足は一週間後。
質問は随時受け付けるけど、現時点で何かあるかしら?」
一週間。
それで俺は退院し、コーホに入り、預言された期間に突入する。
「無いみたいね。なら、今日はこれで解散。」
ホーメナ個人と話したい事はある。
でも、こんな人のいる中で話したい事じゃない。
ホーメナが、クーノが、チゴマさんが退出する。
「…何でお前は、残っているんだ?」
「つれないね。僕はお見舞いに来たんだよ?」
いつから俺達は、そんなに仲良くなったんだ?
「まあ、ゼユウさんも本調子じゃあないだろうから、今日はお見舞いの品だけ渡したら帰るよ。」
魔王が何かを渡してきた。これは、本だ。
「あ、これ…。」
見覚えがある。勇者トリドの英雄譚。
ふれあい教室の時、誰かが忘れていった本。
まあ、あの本は、保管していた建物があんな感じだから、ダメになってしまったかもしれない。
「知っているのかい?いや~僕はこの本のファンでね。
熱く語ろうじゃないか。
大丈夫、僕はアンチとだって一晩語り合える。
是非、忌憚のない意見を聞かせてほしい。」
渡したら帰るんじゃなかったのか。
「…いや、見た事があるってだけで、内容は知らない。」
「なら、持ってきてよかった。一週間は長いからね。
ページがめくれるようになったら、読んでみてくれ。」
そうして、魔王は去っていった。
一人に、そして静かになると考えてしまう。
(…楽しそうだと、思ったんだけどな。)
半年ぶりの共同生活。しかもハンネとは違った凄さを持つ人達との。
現実感のない、とんでもない話になっているが、ホーメナが頑張っているんだ。
それに天使や魔王や、国の力も加わるんだから、何とかなる気もしていたんだ。
なのに。
(…疑われるのは、楽しくない。)
疑われようが、やる気が出なかろうが、やる事は変わらない。
ホーメナもやっている。彼女の力にならなくてどうする。
(…分かっているのに。)
それでも、この胸のもやもやは、消えてはくれなかった。
フレン王国の現状の説明は、これでお終い。
でも、ゼユウの入院生活は続くので。
聞かされる話は説明っぽいかも…。




