第85話 非日常~乱戦~
~前回までのゼユウ~
魔王城へ突入した俺達三人は、罠にかかり、それぞれ別の空間?へ。
そこで俺は、魔王と二人で話をする。魔王は俺に興味を持ったそうだ。
話の途中で時間切れ。最後に共闘を依頼され、謎の空間は砕け散る。
◇登場人物◇
ゼユウ :主人公
ホーメナ :賢者
クーノ :天使
エンビッケ:魔王
??? :???
目を開けると、見知らぬ建物の中。そして轟く爆音。
「そんな事、あるわけないでしょう!」
「でもこれが、確実だよ。」
ホーメナと、クーノだ。言い争いが聞こえる。
物陰に隠れながら、様子を確認。
(…どうして、こうなった?)
言い争いどころではなかった。完全に対立している。
お互い、魔法を撃ちあっている。
近くに、縛られて転がされている魔王も見つけた。
(!?)
ホーメナが拘束された。風魔法、風縄。
俺は飛び出した。
ホーメナが危ない。それは、一番、楽しくない事。
「おい!何してる!」
「あなたも、拘束するよ。」
起伏の乏しい声は同じ。違うのは、敵意が込められている所。
輝く光輪。広げた白い翼。天上近くから見下ろす様は、何とも威圧的だ。
襲い来る風刃を翼を展開して躱す。
広い空間だ。何本もの柱に支えられた大ホール。
用途は知らないが、お陰で飛び回れる。
そしてこちらも風刃を放つ。
狙いはホーメナのロープだ。
狙いはよかったが、風刃は風縄に弾かれる。
(風剣で斬れるとも思えない。輝刃なんて出せるとも思えない。
かと言って、賢者を拘束できる実力者を、俺一人でどうにか出来ると思えない。)
『僕とゼユウさんと賢者で、天使を倒そう。』
魔王の言葉が浮かんだ。
奴を拘束している縄は、魔封じの縄。あれで縛られると魔法が使えない。
しかし、縄事態に、防御力なんてない。
(天使が、こうなったのは、魔王が唆した可能性がある。今の俺のように。
だから、全部魔王の思惑通りの可能性がある。)
躱しきれなかった風刃が肩に突き刺さった。
(それでも、まずはこの場を切り抜けないと。)
俺の放った風刃が、魔王を拘束している縄を切り裂いた。
「ゼユウさんに言った言葉は、全部、本気さ。」
バランスを崩し、墜落しながらその言葉を聞いた。
「当然、一緒に天使を倒そうと言った事もね。」
魔王が落ちていた帽子を被る。彼を中心に、突風が巻き起こる。
気竜。改めて見ると、とんでもない魔力量だ。
ほんとに俺は、あれを斬ったのか?
どころか、よくあれに挑もうと思ったな。
相当、頭に血が上っていたらしい。
と、いうより。何か、別の景色が見えていたような…?
魔王の双頭から放たれた風刃が、ホーメナの拘束を斬る。
「…!」
「魔王は、今は味方だ。」
音制御でホーメナに伝える。
彼女は困惑の表情だが、とりあえず、魔王に攻撃はしないでくれる。
「二重竜巻。」
「光雨。」
荒れ狂う風に、飛び散る光弾。
魔王は流石だが、天使も負けていない。
力は拮抗していると思う。
「ホーメナ!まず天使を落ち着けないと、話も出来ない!」
叫ぶ。音制御も使ったが、この乱風の中、届いたかは分からない。
今は、魔王に加勢する為、天使に手を向ける。
「竜巻!」
渾身の魔法だ。少しでも足しになればいい。
「石雨!」
石弾が、光弾を撃ち落としていく。ホーメナの魔法だ。
これで三対一。拮抗状態が、一気に傾く。
「う、うわああぁ!!」
天使が突風に飲まれた。
風の刃が、その身を斬る。白い翼がズタズタになり消滅した。
勝負はついた。俺とホーメナは魔法を止める。
あの高さから落下して地面に激突したら、致命傷だ。
だから俺は、天使を支える為、翼を発動するのだが。
魔王が攻撃を止めない。
「ちょっと!あんた!」
「やめろ!これ以上は、天使が死ぬ!」
天使は風壁を展開しているようだが、魔王の風は、お構いなしに天使の身体を斬り刻む。鮮血が、舞っている。
俺は魔王に斬りかかる。その攻撃を止める為に。
魔王と目が合う。笑っている。「倒すって言ったじゃないか。」そんな顔だ。
「こっちは、命を奪うつもりはない!」
竜頭を叩き斬るつもりで、風剣を振るう。
が、逆に剣が竜の口に挟まれた。
「もうちょっとだから、待っててよ。」
投げ飛ばされる。その俺を、ホーメナが受け止めてくれる。
柔らかい、土の壁で。
「すまない、助かった。」
「今から、隕石の準備に入る。集中するから、後、よろしく。」
隕石は、上空に巨大な岩を作りだし、対象目掛けて猛スピードで落とす魔法だ。ホーメナの最大火力。落下後の余波も凄まじく、こんな至近距離で使う魔法じゃない。
でも、そうでもなければ魔王を止められない。
俺は頷く。
後は任されたのだ。発動まで魔王の妨害を防ぎ、余波からホーメナと、クーノを守る。
俺は、覚悟を決める。
その時。
「クーノを、虐めるな。」
今まで聞いた事のない、声。
音制御を使っている訳でもないのに、この乱風の中、妙にしっかりと聞こえた。
そこにいたのは、金色のボサボサ髪の少年。
小さい。10歳くらいじゃないだろうか。
汚れた薄着一枚。本人も、煤まみれだ。
何よりも異質なのは、彼から魔力を感じない。
そんな存在は初めてだ。
多い少ないはある。だけど、人も動物も植物も魔物も、道具も建物も空気にも、魔力は存在しているのに。
それなのに。
(この、圧迫感はなんだ?)
魔王や魔王の居城に感じるのは分かる。魔力の圧倒的な量と、異質さがあるからだ。
その魔力が、ない。
未知。理解の出来ないもの。
まさに、別次元の存在。
その少年が、跳んだ。超高速の魔法弾のように。
少年は裸足だ。だから、少年のいた場所に、その石床を潰し、足跡がくっきりと残る。
「!こいつ!」
一直線に突っ込んだ少年の蹴りで、気竜が割れた。
更に、着地と同時に繰り出した裏拳で、魔王が吹っ飛ぶ。
(圧倒、だと…!?)
気竜を蹴ったというのに、少年にダメージは見られない。
俺はあれを殴って、右手が、ずたずたになったのに。
動揺しつつも、翼を発動する。
魔王の猛攻は止んだのだ。だから、落下を開始する天使を救わないといけない。
勿論、少年の動向に注意して…、
「!?」
目の前に少年が現れた。まるで瞬間移動でもしたんじゃないかと思うほど速い。
既に、ここは空中。なんという跳躍力。
(そんな気はした!最初のセリフからして、こいつは天使の仲間!
そして、きっと全員、敵に見えている!)
心構えはあった。だから、少年の右ストレートを躱す。
「!?」
当たっていない。なのに。
(衝撃だけで!?)
吹き飛ばされた俺は、壁に激突。一瞬、意識が飛ぶ。
「クーノ!クーノ!」
少年は、天使を抱え、着地していた。
そして、何度も名前を呼ぶ。
ここからでは、天使の状態が分からない。生きているのか、死んでいるのか。
少なくとも、床に血だまりが広がっているのは、見える。
「…許さない…。」
少年が天使を壁際に寄せる。これからの戦いに巻き込まない為だ。
振り向いた少年は、憎しみに満ちた瞳で俺達を睨む。
(ここにきて、最大のピンチか…。)
立たないといけない。動かないといけない。だってここには、ホーメナがいる。
少年が、跳ぶ。狙いは俺だ。俺が一番、戦意があるから。
「お返しだ。」
横から気竜を纏い直した魔王が飛んできた。
帽子は落とした、ローブもボロボロ。顔から血を流し、ギラついた笑顔。
そして竜頭で殴りかかるが、少年の左手に防がれた。
併せるように俺も突っ込む。風剣を振り下ろす。少年の右手に捕まれる。
「ナイス連携!」
もう一本の魔王の竜頭が、少年のボディに突き刺さる。両手を使っていた彼は、防御できずに吹っ飛んで、壁に激突した。
「お前の所為でこうなった気がするが、どうだろうか!?」
「だから~、こうやって責任を取って、戦っているじゃないか。」
少年が立ち上がる。全然効いてなさそうだ。
「ゼユウ!」
少年が突っ込んでくるのと、ホーメナの声が聞こえたのは、ほぼ同時。
「魔王!」
俺は後ろに飛びながら、魔法を発動する。
「よしきた!」
魔王を狙う、少年の振り下ろされた拳は、そのまま石床を破壊する。
魔王も後ろに飛んで避けたのだ。
俺の魔法は、風壁。
一枚ではない。少年を囲むように出現させる。
更に壁が、重なるように現れる。魔王だ。
打ち合わせなど全くしていないのに、察しがいい。
いや、魔の王だから、ホーメナがやろうとしている事が分かったのかもしれない。
この壁は、外への衝撃を防ぐためのものだ。
音がする。
瞬く間に、大きくなる。
そこで俺は思い出した。
魔王の城の周りには、魔法の防御壁があったはずだ。ホーメナの石が勢いよく激突しても、ビクともしなかったやつ。
ひょっとして、阻まれてしまうのではないか?
一瞬、思った。けど、その杞憂は、一瞬で崩壊する。
魔王城の天井と一緒に。
ホーメナの発動した隕石は、魔法壁を突き破り、天井を破壊し、真っすぐ少年に落下した。とんでもない轟音と共に。
(やりすぎじゃないか!?)
以前見た時よりも威力が上がっている。人に使っていい魔法ではない。
衝撃により風壁が消し飛んで、俺達も吹き飛ばされて。
そんな中、俺は見た。
少年が、隕石を受け止めているのを。
目を開ける。酷い惨状だ。
魔王城は半壊した。倒れた柱、転がる瓦礫、舞い続ける土煙。
降り注ぐ太陽光が眩しい。
そう、まだ一日も経っていないのだ。
魔王と戦って。
魔王と協力して天使と戦って。
天使を救う為、魔王と戦って。
また魔王と協力して、謎の少年と戦って。
俺の二年間で、こんなに激しい一日は初めてだ。
でも、まだだ。まだ、終わっていない。
土煙の中から、目を血走らせた少年が現れる。
体中に、内側から裂けたような傷。外傷としては、両手が酷い。
しかし、彼はしっかりと立っていて。
獲物を探して、目を動かしている。
しっかりと、敵の息の根を止める為に。
ふと、彼の動きが止まる。
視線の先に、ホーメナがいた。
彼女は、倒れている。気を失っているのか、動かない。
少年が、跳んだ。
ひどく、ゆっくりと。
まるで時間の流れが遅くなったような気すらした。
(やめろ。)
ホーメナの元に少年が辿りつけば、その腕を振り下ろせば、彼女の頭は、トマトみたいに潰れてしまうだろう。
(それだけは、許さない。)
目の前の景色が変わる。
何もない荒野。覚えのない、場所だ。
遠くに、誰かいるような。屈んでいるような。
誰だかは分からない。ただ一つ分かるのは。
この胸を満たし焦がす、怒りだけだ。
身体が勝手に動いた。ような気がする。
燃えるように熱くなった身体は、無意識に、右手を伸ばし。
何もない、空間を薙ぐ。
それで。
跳躍中の少年は、袈裟斬りにされ、地面を転がった。
ぜえ、はあ、と。
呼吸を求めて、荒い呼吸を繰り返す。
立っていられず、四つん這い。
汗が止まらず、地面を濡らす。
足音が聞こえる。何とか顔だけ上げて、確認する。
天使を担いだ魔王だ。少年に近づくと、屈んで手をかざす。
(…あの光は、回復魔法…。)
ヒールリング。ホーメナが持っているのと同じやつ。
なるほど、あれで俺のつけた傷も治したのか。
少年の横に天使を降ろすと、魔王がこっちにやってくる。
(俺じゃない、ホーメナに回復魔法を…。)
声は出せない。呼吸するのに、精一杯なのだ。
「全く、ほんとに何者だい?ゼユウさん。」
「…わからないって、言っただろ…。」
かすれる声で、それだけ絞り出し、俺は意識を手放した。
今回登場した五人の人物が、メインキャラ。
バトルメインだから、とりあえず戦ってもらって。
次回からは、状況説明が始まる…。




