第84話 非日常~問いかけ~
~前回までのゼユウ~
なりゆきで魔王と戦った俺は、奴に一矢報いる事に成功。
しかしそこが限界で、無様に空を眺める事に。すると、二人組に助けられた。
賢者ホーメナ、天使クーノ。助けてくれた二人と一緒に、俺は魔王を追う。
◇登場人物◇
ゼユウ :主人公
ホーメナ :賢者
クーノ :天使
エンビッケ:魔王
負傷した魔王は何処へ行く?
「当然、拠点へ戻るでしょうね。魔王城よ。」
賢者の森の北西、崖端。遠くに、魔王の城が見える。
「間違いなく、いる。魔力の質がいつもと全然違う。」
流石は賢者。俺はそこまでは分からない。
精々、眺めていると気分が悪くなるくらいだ。
ホーメナが魔法を発動。
土属性、石。
魔力で石を作り出したり、飛ばしたりする基礎魔法。
極めれば、大きさも、硬度も自由自在。
つまり実力者なら、ちょっとした足場くらい余裕で作れるし、自身が乗れるほどの岩だって作れる。
現れたのは、ユニークな形の岩。
掴まる箇所と座るイスなんかもある。
「いや、突っ込むのは違うんじゃないか!?」
発射した魔法をコントロールするなんて、熟練者でも難しい事。
しかもこの大きさだ。左右の細かな移動なんて無理だろうし、勢いを殺せず、上手く着陸できないだろう。ホーメナであってもだ。
つまり彼女の想定は、乗り捨て。
これで近づき、途中で脱出。岩はそのまま魔王城にぶつける気だ。
魔物退治の時、たまに見る戦法。
だから、技量的には出来るだろうが、そうではなく。
「こっそり行って、奇襲したほうが…。」
言っていて、気づく。
拠点にいる魔王に、隠密行動なんて出来るイメージはない。
なら、建物ごと壊すような奇襲が有効的なのか?
「ごめん、確認なんだけど、目的は『魔王の討伐』でよい?」
魔王と戦う。その覚悟は決めてきたが、肝心の目的を聞いてなかった。
討伐か捕縛かでは、全然違う。
「魔王はあるものを盗んだの。」
「あるもの?」
「…。」
ホーメナは答えない。
これはあれだ。彼女自身も、何が盗まれたのかを聞かされていない可能性がある。
「第一目標は、魔王の捕縛。そして隠し場所を吐かせる。
第二目標は、魔王の討伐。その後、頑張って探す。」
それは、捕縛一択ではないだろうか。
「なら、建物を壊すのはよくないだろ。盗品が魔王城内にあってもおかしくない。」
「私は、ぶつけていいと思うよ。」
天使、クーノだ。
「まず、あの魔法壁を壊さないと、中に入れない。」
…城の周りには、壁があるのか。まあ、そうか。
「じゃあ、行くわ。二人共、ついてきてね。」
物凄いスピードで、ホーメナは飛んで行った。
見るのは初めてではない。でも、圧倒されてしまう。
(あんまり、危ない事はしてほしくないんだが…。)
無理な話だろう。だから俺が支えないといけない。
『ホーメナを守る。』それが俺のやりたい事。ハンネとの約束でもある事。
「おいてくよ?」
クーノに声を掛けられる。
彼女は、光輪と白い翼を出している。
「大丈夫だ、行ける。」
翼を発動し、ホーメナを追いかけた。
「無傷か。」
魔王城の正門前。
ここまで近づけば、俺にも感じ取れる。
猛スピードの岩の直撃でびくともしない魔法壁の存在を。
「でも、中には入れるみたいだよ。」
魔法壁が唯一張られていない場所。それが正門。
俺とクーノは、魔法を解いて着地。ホーメナと合流した。
「完全に罠だけど、乗るしかないわ。」
ホーメナは躊躇わず、門を開ける。
反射的に止めたくなるが、別案はない。
警戒しつつ、彼女の後に続いて門をくぐる。
「!?」
前を歩くホーメナが消えた。隣のクーノもいない。
どころか、外だ。大草原。いい風が吹いている。
(移動させられた?もしくは幻覚?これが、魔王城の罠…!)
瞬間的に移動する魔法なんて、本の中でしか知らない。
(レーグの魔王を倒した勇者の仲間は、幻惑魔法を使えるらしいから、そっちの方が可能性はあるか?)
「やあお兄さん、また会ったね。」
聞き覚えのある声がして、振り返る。
ルートレスの魔王がそこにいた。地面から突き出した岩に腰掛けている。
俺のつけた傷がない。治ったのか、幻影だからか…。
「…姿を見るなり、襲い掛かってくると思ったんだけど、こないの?」
こんな訳が分からない状態で、そんな事しないだろ。
「…冷静になって、キャラを取り戻したんだ。お前の言う、クール系だ。」
「よかった。話が出来そうだ。」
正直、殴りかかりたい気持ちはある。
けど、まずは情報がほしい。だから、頷く。
「お兄さん、何者?」
質問の意図を考える。しかし、下手に情報を渡すのはよくない気がする。
無難に名前を言って…。
「ちなみに、名前を聞いている訳じゃない。知ってるしね。
ゼユウさんでしょう?賢者の森の管理の仕事をしている。」
「…。」
「不思議そうな顔しないでよ。あなたも風属性、音制御を使っていたじゃないか。
音制御で遮断された音を、音制御で拾いにいくとどうなると思う?
当然、精度の高い方が勝つ。
『どうしよう!?ゼユウさん!!』って、言ってたじゃないか。ハナ先輩が。」
…こいつにハナ先輩の名前を言われると、イラっとくるな。
「なら、どういう意味で聞いたんだ?俺の情報は、それぐらいだ。」
魔王に、睨みつけられる。そして、盛大に溜息をつかれる。
やれやれといったジェスチャーをして、魔王は口を開けた。
「戦闘中にも言ったけど、翼を使えるなんて只者じゃない。
ましてや、君は気竜を斬り裂いた。
実は伝説の勇者ぐらい言ってもらわないと、納得できない。」
穏やかな雰囲気の中に、苛立ちがある。気がする。
仮に俺が「実は、伝説の勇者で…。」なんて言ったら、「例えだよ!舐めんなっつってんだろ!」と逆切れされるんだろうな。
しかし、駆け引きなんて出来そうもない。正直に言うか。
「二年より前の記憶がないんだ。
だから俺が何者かは、自分でも分からない。
少なくとも今の俺は、勇者でも賢者でもない。そういう肩書は、一つもない。
翼は使えたんだ。便利だから使っている。
気竜を斬れたのは、…色々試した結果だ。
もう一回斬れと言われても、無理かもしれない。」
言ってから、不味いと思った。
正直に言い過ぎた、最後のは余計だ。次戦ったら勝てないかもと自白してどうする。
しかし魔王は俺の言葉に反応せず、何か、考え込む。
何故か、頬っぺたをさすっている?
「輝刃…。」
魔王が呟いた。
「まずは魔力を集めるんだ。触れれば焼き切れるほど、濃くね。
その集めた魔力を圧縮し、爆発させる。
威力が分散しないように、制御する。
お兄さんが使ったのは、きっとそれ。」
…夢中だったから、覚えていない。
「集めたり、圧縮するのは、魔力を剣状にする工程と似ているね。
風剣とか、火剣とか。
だから、原理的には、どの属性でも使用可能なんだ。
でも、そもそも焼き切れるほど集められないし、爆発するまで圧縮も出来ない。
完全な、失魔法さ。」
確かにそんなのが使えたら、何者だと聞きたくもなる。
ハンネはいい魔法の先生だった。でも、教え方どうこうじゃあないだろう。
勿論、無我夢中でやって偶然できるとも思えない。
「でも、本当に分からない。」
魔王の勘違いじゃないか?
俺はそんなの使ってなくて、魔王が油断しまくってて、たまたま気竜に薄い所があって、そこを偶然攻撃できた…。
「手を組まない?ゼユウさん。」
「いきなりどうした?」
「僕はあなたに興味がある。仲間にしたい。」
意味がわからない。
ひょっとして、俺にホーメナを裏切って、彼女を攻撃しろと言っている?
「まあ、聞いてよ。
賢者や天使を裏切れなんて言わない。
あなたの過去を、二年前より前の事を、一緒に調べようと言っているんだ。」
ホーメナとクーノの事は知っているんだな。
なら俺達の目的も知っているか?
「お前の仲間になれば、お前は俺に捕まってくれるのか?」
「はは、そうだね。考えてもいい。」
意外な反応だ。そんな訳あるかー、と戦闘に突入かと思ったのに。
「僕は捕まる。盗んだ物も返す。そしてあなたは、自分の過去を明らかにする。
僕が捕まっている間は協力できないから、一人でやってもらう事になる。期限はそうだね、半年以内。どう?」
「俺から話を振っておいてなんだが、魔王は捕まったら、その、処刑とかされないのか?」
「されないさ。僕の罪は盗みだけ。しかも、物は返すんだ。
海の上のこの城は、一応、独立国家でね。悲しい事に認められていないけど、王国の領土ではない事は確実。税金未払いとかにはならない。
まあ、それども難癖つけて、開放されないかもしれない。
その場合も、期限までは大人しくするから安心してよ。」
「期限が半年なのは、何故だ?」
「あなたの謎には、僕の半年を無駄に浪費する価値がある。
ただ、一年とか二年とかになるなら、そこまでじゃないかなって事。
期限がないと、人はサボるっていうしね。」
「…期限を過ぎても謎が解けなかったら、どうなるんだ?」
「天使を殺す。」
「…。」
魔王が吹きだした。何か、おかしい所はあったか?
「いや、ごめん。ゼユウさんは分かりやすいね。
もし、さっき僕が、賢者を殺すって言ったら、斬りかかってきたでしょう?」
確かに。
これは、あれか?情報を盗られている?
「僕がゼユウさんを仲間にしたいって言った時、凄く怖い顔をした。
『裏切りという行為に嫌悪感を抱いている』か、『絶対に裏切れない、裏切りたくない人を、裏切れと言われたと思って、怒った』かの二択。
僕が『天使を殺す』と言った時の反応でわかった。
ゼユウさんは、賢者を裏切りたくないんだ。」
…まあ、クーノとは会ったばっかりだし。
「ならさ、別の提案もあるんだけど。
僕とゼユウさんと賢者で、天使を倒さないかい?」
振り回されているな、こいつに。
あまり楽しい状況ではない。
「…。」
魔王の提案を断る為に、ホーメナは魔王の捕縛の命令を受けているから、みたいな反論をしようとした。
でもその事と、天使が繋がらない事に気づく。
いや、ホーメナと一緒にいたし、目的も一緒だった。
だから王国の関係者だとは思うけど。
「そもそも、天使って何者だ?」
「異世界人。天上の国の住民。」
…とりあえず、絵本に出てくる『神様の使いで、死者の魂を導く存在』ではないようだ。
「僕はね、驚いたんだ。天使を客人として扱っている事に。
その真意を確かめる為に、王宮へ忍び込んだんだ。」
「待ってれ、天使の事が分からない。
天上の国?の住民だと、客人として扱ってはダメなのか?」
ビシリと。異音が聞こえた。
見ると、空間に亀裂が入っている。
「残念だけど、時間切れだ。」
魔王が立ち上がった。
亀裂は大きくなる。その奥から、光が溢れる。
「ゼユウさん。もう一度、言うよ。
僕とゼユウさんと賢者で、天使を倒そう。」
光に包まれて、俺は目を閉じた。
現状を把握できないまま、戦闘突入!




