表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
継承英雄譚、担々  作者: シロクロゲンヤク
第三章 王女レフィアラと王国滅亡の預言

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/168

第82話 非日常~お尋ね者~

~前回までのゼユウ~


多少のトラブルはありつつも、日々は楽しく、なにより平和に過ぎていく。


◇登場人物◇

ゼユウ :主人公

ホーメナ:職場の上司

ハナ先輩:職場の先輩

ハンネ :ゼユウがお世話になった人。

 俺は所謂、記憶喪失というやつだ。

 言葉は分かるけど、体験や思い出を忘れているタイプの。


 二年前。


 何も分からず賢者の森を彷徨っていた俺は、ハンネと言う女性に助けられた。らしい。


 正体不明の怪しい男の面倒を見るなんて、褒められた事ではないのだが、それのおかげで助かった身としては、何も言えない。


 ハンネは賢者だった。だから森の管理者として、森の中に住んでいた。

 俺を見つける八年前から、孤児だったホーメナと一緒に。


 本当に、仲のいい二人だった。

 殴り合い、唾を飛ばし合い、笑いあう、そんな感じの。


 そして優しい。

 二人共、俺を受け入れてくれた。


 ゼユウと言う名前をくれたのは、ハンネだ。


『白い髪に、白い肌に、白い服!【ゼ】ッタイ、【ユウ】レイだと思った!』

 由来は、ともかくとして。


 彼女にもらった赤いマフラーと、黒色のロングコート。

 今でも着ているお気に入りだ。


『一人くらい増えたって、変わらんからね。』


 最初は三人で暮らしていた。

 今は、王都の外れの借家で一人暮らしだけど。


『ホーメナが14だろ?だから、ゼユウも14歳だな!身長的に。』


 いい加減な所もあった。

 だからこそ、ホーメナは几帳面になったのかもしれない。


『やるじゃないかゼユウ。次期賢者はホーメナじゃなくて、お前に、っておい!

 やめろホーメナ!そういう所だぞ!』


 ハンネは凄まじい魔法の実力者で、ホーメナの師匠だった。

 それも、たまたま拾った孤児の子を、賢者まで育て上げるほどの腕前。




『へ~。つまりゼユウは、ホーメナが羨ましいんだな。』


 あれは確か、ホーメナが遅くまで魔法の訓練をしていて、それを、遠くから見守っていた時だ。


『あいつは賢者っていう目標があって、それに向かって努力の出来るやつだからな。

 …比べて、自分は何をしたらいいのか分からない。そうだろ?』


 あるいは、忘れてしまった。


『楽しい、を探すといい。』


 楽しい?


『楽しそうだとか、興味を持てたものだとか。やった事のないものに挑戦するのもいいな。ポイントとしては、嫌々ながら始めない事。』


 話の見えない俺は、静かに聞く。


『自分は何が楽しいのか、何に興味があるのか。それを突き詰めていくと、目標が出来る。それの達成を目指すのが、また楽しい。

 楽しく生きる、それが私の目標だ。』


 確かに、今のハンネは楽しそうだ。


『もちろん、これは私の考えだから、そうしろとは言わない。

 人には義務ってのも、使命なんてものもある。やりたくても出来ないなんて、ざらにある。』


 ハンネは俺の胸を軽く叩く。


『お前は、今、ここにいる。ここにいて、いいんだ。

 ゆっくり見つければいいさ。自分の事を。』




 ハンネとホーメナと俺。

 三人で過ごした一年半は、刺激と優しさと楽しさがあった。


 記憶の有無なんて、気にならないくらい。


 でもそんな生活も、唐突に終わる。


 王都でテロがあった。

 巻き込まれてハンネが死んだ。


 犯人を取り押さえたが、自爆に巻き込まれたらしい。


 ハンネは王宮から賢者の称号を貰った人物だ。

 だから王宮から依頼があれば、テロリストとも戦う。


 しかしあの時は、とにかく急で。

 行ってきますと言って家を出て、帰ってきたら訃報を聞いた。


『ハンネのおかげで、王都は救われた。』


 葬式で、形見の剣を受け取る際、ホーメナは、そう言われた。

 その時の、色んな感情が混ざった表情は忘れられない。


 真面目で、感情をストレートに出す子だ。


 だから、あの時、初めて。

 彼女が何を考えているのか、分からなかった。




 フレン王国は、ワイバン大陸の最北西。

 その王都は、港町としても賑わっている。東西と北は海だから。


 王都の南門から真っすぐ南下。

 『賢者の森・北出入口』と書かれた看板の建物。昨日のイベントでは休憩所として機能していた場所。


 ここが、俺の職場。

 仕事は主に、森の管理。


 賢者の森は、天然資源として優秀だ。

 限度はあるが、山菜詰みは基本無料。許可証があれば狩りも可能。


 有料の予約制の場所もあり、キノコ狩りイベントだって開催される。

 

 それだけではなく、通路としての一面もある。

 陸路で王都の出入りをするには、この森を必ず通る必要があるのだ。


 だから遭難者を出さない為に、ここで出入りのチェックをする。

 案内もするし護衛もする、巡回だってする。魔物退治もだ。


 賢者の森は、アッブドーメン大森林に次ぐ、世界二位の広さの森。

 ルフロンと、ブテンポラ。この二つの大きな町も、森の中にある。


 複数の休憩小屋だって建っていて。

 その管理も、仕事の内。


 イベントのない平時でも、人が来なくても、やる事は多い訳だ。




「これも、そうか。」


 現在、森の中を巡回中。

 昨日、鳥の魔物の襲来があったから念入りに。


 一応、軍の人達が見回って、いないという事にはなった。

 侵入経路もラゼン山脈だと分かっていて、そっちの警戒も強化してくれている。


 それでも、用心に越したことはないだろう。

 そう思って、足を伸ばしているのだが。


 覚えのない、魔法塔が建っている。

 魔法塔とは魔法の起点とする事の出来る建造物だ。


 基本、魔法は自分を中心に発動する。

 例えば音制御ノイズコントロール

 範囲が10メートルだとすると、自分を中心に10メートルまでの音を拾う。


 魔法塔を使った場合、魔法塔から10メートルまでの音を拾える。

 自分と魔法塔が50メートル離れていれば、自分から10メートルまでの音を拾えなくなるけど、40~60メートル先の音を拾えるという訳だ。


 (まあ俺は、魔法塔の使い方なんて知らないんだけど。)


 魔法塔を使う為の魔法があるとか、そういう話も聞いた事がある。


 ともあれ、だ。

 別に魔法塔がある事は、そこまで問題じゃない。


 ホーメナは魔法塔が使えるから、彼女が建てるよう依頼したのだろう。

 そして、俺は使う事がないから教えてもらっていないのだろう。


 しかし、だ。

 (いつの間に、こんなに建った?)


 知らない魔法塔は、これで四つ目。数か月前には、無かった。


 そもそも魔法塔を使わずとも、魔法の起点は、ずらせる。


 魔力制御範囲と呼ばれるものだ。

 この魔力制御範囲のレベルが高いほど、起点を自分から遠くに移動できる。


 例えば俺の、竜巻トルネード。通常は、掌から出す事が多い。

 でも制御範囲内なら、どこでも竜巻を起こせる訳だ。

 昨日の鳥の魔物を、まとめて倒した時のように。


 そしてホーメナは、この魔力制御範囲が物凄く広い。

 魔法塔が、こんなに必要とは思えない。


 (嫌な、感じだ。)


 昨日の、ホーメナがいなくなった事に気づけなかった事を思い出す。


 (俺の知らない所で、何か、動いている?)


 楽しくない。


 魔物の脅威が無い事を確認して、安心するつもりだったのに。

 流れた冷たい汗を、そっと拭う。


 (何かがありそうだ、そう思えた。今はそれで、よしとしよう。)


 時間が押してきている。一先ずは、戻らないと。




 言いようのない不安により、俺の警戒レベルは上がっていた。

 その警戒レベルがMAXになったのは、建物の外で、隠れるように身を屈めるハナ先輩を見つけたからだ。


「どうしたんですか?」


 ハナ先輩が、静かにのジェスチャーをしたから、音制御ノイズコントロールを発動し、音を遮断する。内緒話モードだ。


「何事ですか、ハナ先輩?」


「見える?あの人。」


 ハナ先輩は俺達の職場を指さした。

 建物内、窓際席。


「…誰か、いますね。」


 ハナ先輩は、無言で何か渡してくる。紙だ。


 (手配書?)


 所謂、お尋ね者。顔写真と懸賞額が載っている。


「え、あの人が?」


 この距離では顔まで分からない。

 でも、このタイミングで渡すという事は、そういう事なのか?


「どうしよう!?ゼユウさん!!」


 ハナ先輩は、泣きそうだ。


 ホーメナは用事があるらしく王都に行った。

 他の先輩達も出払っていて、彼女一人。


 きっと怖かったんだろう。どうしたらいいか分からなくて。


 王都の治安は悪くない。こんな事は初めてのはずだから。


 (どうしようって…。)


 まずは、俺も確認したほうがいいだろう。

 ハナ先輩一人の責任にして、通報するのも可哀想だ。


 するとタイミングよく、ハナ先輩のポケットからブザーが鳴った。

 お客さんからの呼び出し。きっと、例の人だ。


「俺が行きます。先輩は、待っていて下さい。」


 なるべく安心してもらえるように、笑顔で言う。

 消え入る声で「気を付けて…。」と言うハナ先輩に、手を振りながら裏口へダッシュ。


「少々お待ちくださーい。」

 と叫んで、急いで制服に着替える。流石に汚れたままで人前には出れないから。


「お待たせしました。」


「ナポリタン、一つ。」


 ここは休憩所であり、軽食の提供も行っている。だから、何も間違っていない。


「ナポリタン一つですね。承りました。」


 一礼して、戻る。

 そして自然な動作で、緊急用のボタンを押した。


 (あれは、間違いない。)


 ずっとニュースペーパーを眺めている彼は、手配書と同一人物だ。


 俺と同年代、16歳くらいだと思う。

 明るめな茶髪に、深緑色の深めの帽子。同色の厚手のローブを着込んでいる。


 春先にしては、暑そうな格好だ。


 しかし俺だって、制服じゃない時は、ロングコートにマフラー姿。

 風魔法使いは、体温調整が上手いから。


 エプロンを着ける。あくまで平静に、ナポリタンを作る。怪しまれないように。


 (軍に連絡は行った。ハナ先輩にも、伝えたいけど…。)


 近づいた時、寒気がした。

 信じがたい、魔力量を感じた。


 (あの若さで、手配書デビューだからな。相当だろう、実力も。)


 この距離で音制御ノイズコントロールを使ったら、バレる気がする。

 先輩には悪いが、もう少し隠れていてもらおう。


 他に人がいないのは、幸運だ。

 俺一人なら、最悪、逃げる事ぐらいなら出来るはず。


 (…心音が聞こえる。)


 緊張の為、だとは思う。


 しかし正直な所、それだけでは無い。

 少し、ワクワクしているのだ。初めての経験だから。


 (折角だから、めちゃくちゃ美味いナポリタンを作ろう。)


 手間暇をかけるんだ。

 当然、目的は時間稼ぎ。軍の人がくるまでの。


 とはいえ、別に料理に詳しい訳ではない。

 アレンジなんて出来ないし、具材は切ってあるし。


 ここは料理店ではないのだ。炒めるだけなのだ。

 炒め過ぎて焦がす訳にもいかない。


 つまりナポリタンが出来上がる前に、軍が到着する事はなかった。


「ご注文の、ナポリタンです。」


 一瞬、転んでぶちまけて、もう一度作る事も考えたが、不自然だろう。

 じゃあ帰りますと言って、出ていく可能性だってある。


 なら、食べていてくれた方が、時間稼ぎになるはずだ。


「お兄さん。」


 踵を返して戻る途中。

 後ろから、声をかけられた。


「どうか、されましたか?」


 変に意識しないように。自然に。


「最初にいたお姉さんは?」


「ああ、私と入れ替わりで別の休憩小屋に行きました。

 そういうシフトなんですよ。」


 疑われている?まあ、ずっとニュースペーパーを見ているし、警戒心は強いんだろうな。自分がやった事の自覚はあるようだ。しかし、手配書が出ているとは思っていないはず。


 もしそうなら、こんな所で呑気に食事なんてしないだろ?


「じゃあサボりだね。あそこにいるし。」


 (ハナ先輩…!?)


 確かに、窓からちょっと見える。


「あ、あれは、サボりですね、すみません。

 ちょっと、注意してきますね。」


 近づく口実が出来たと思うようにしよう。

 通報したのを伝えて、もっと離れてもらって…。


「ねえ、お兄さん。」


 再び呼び止められてしまう。


「はい、何でしょう?」


 大人しくナポリタンを食べていてほしい。あ、少し減ってる。


「僕が悪い人だって、知ってるよね?」


「…え?」


 魔物とは戦った事がある。何体も倒した。


 ハンネもホーメナも、凄腕の魔法使いだ。その二人に実力を褒めてもらった事もある。

 つまり、俺は弱くない。


 寧ろ、強い。ハナ先輩や、他の従業員の人達を守る立場なんだ。


 でも、王都の治安は悪くないから。

 人と戦った事なんて無かったから。


 男に一瞬で組み伏せられた俺の頭は、そんな言い訳ばかり浮かぶ。


 (…全く反応できなかった…!)


 甘かった。完全な見込み違い。

 全然、逃げられないじゃないか。


 (ホーメナと同じくらいの体格なのに、なんて力だ!)


「いやね?悪くなかったと思うんだよ。

 ちゃんと動揺を隠せていたし、ボタンを押すのも自然だった。

 ただ、さ?」


 男が力を込める。後ろに回された腕が痛い。


「なに呑気にナポリタン作ってんの?

 顔の確認にきたのは、褒められた行為じゃないけど、悪くなかった。

 お姉さん、だいぶ動揺していたからね。

 冤罪を防ごうとする姿勢は、好感がもてる。

 でもさぁ、確認とれたじゃん?通報もしたじゃん?

 なんで逃げないの?」


 格の違い、というのだろうか。

 魔法で攻撃して逃げる、という行為が成功する気がしない。


「だから理由を考えたんだよね。

 実はお兄さんは凄腕の料理人で、食で世界を救おうとしている人物で。

 どんな悪人も、その料理を食べれば自ら自首しにいく。

 その自信があるからこそ、逃げずに料理を作っているんじゃないかって。」


 この場には、俺とこいつしかいない。

 なら、こいつは俺に話している。


「なら、食べてみたいじゃないか!楽しみじゃないか!

 いや、分かるよ?僕が勝手に想像しただけだ。お兄さんが言った訳じゃあない。

 でもさ、僕は期待しちゃったんだよ。ハードルが上がっちゃったんだよ。

 それで、出されたのがこのナポリタン。何が言いたいか、分かるかい?」


 でもこいつは、会話をする気が無い。

 自分の意見を、愚痴を吐き出しているだけだ。


 だから俺が何か言う前に、話を続ける。


「まあ、悪くなかったよ。でもね?

 僕は服が弾けるイメージもしなかったし、宇宙を感じる事もなかった。

 ガッカリしちゃったんだよね。

 同時に、凄腕の料理人説も否定されてしまった…。」


 すでに奴は俺の上から退いている。

 しかし、俺は身動きが取れない。ロープのような物で縛られているから。

 おそらく風魔法の、風縄ウインドロープ


 奴は、テーブルの上の残りのナポリタンを食いながら喋り続けている。

 文句言うなら食べるな。


「となれば、あと思いつくのは一つだね。

 ねえお兄さん?」


 食べ終わったのだろう。ナフキンで口を拭いた奴が近づいてきた。

 俺の髪を掴む。


「お前、僕の事、舐めてただろ?」


 その通りだ。そして、実力差を思い知らされている。


「ほらお兄さん、立ってよ。」


 無駄な抵抗はしない。言われた通り立つ。

 これ以上、刺激しないように。


 反撃のチャンスを、待つ。


 (奴に言わせれば、これが舐めた態度なんだろうけど…。)


 むざむざやられる訳にはいかない。

 (賢者の関係者として、一矢報いてやる。)


「ほんとは平和的にいきたかったんだ。嘘じゃないよ?」


 男は俺を連れて、扉から外へ。


 ハナ先輩と目が合った。

 そのハナ先輩の隣には、王国軍兵士。


 俺達は、完全に包囲されている。


 しかし、男に動揺はない。


「さあ、兵隊さん達、道を開けてくれるかな?

 人質を返してほしければね。」

~この国における認識~


王宮:女王様、他、国の偉い人が住んでいる場所。及び、政府。

王都:王宮のある町。

王国:王都や他の町、森など、領土全部。

軍 :王国軍。そこに所属する兵士達。魔物の討伐から、道案内。喧嘩の仲裁に、手続きなんかもしてくれる。市役所と警察を足したような公務員。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ