第81話 非日常~日常~
第一章、第二章から引き続き見てくれる方は、ごめんなさい。
別キャラの、しかも別の国の話になります。
(第二章終了時の一年後くらいで、同じ世界の話。)
作品の方向性として。
最後(五章、六章)に、各章の登場人物が集まって、デカい事をして終わり。みたいな感じを考えているので、同一作品とさせてもらっています。
前章のキャラ達の動向に、ちょっと触れる場面がありますが、新鮮な気持ちで見てもらえると幸いです。
◇登場人物◇
ゼユウ :主人公
ホーメナ:ヒロイン?
ハナ先輩:サブキャラ
*ゼユウ視点*
勇者が飛んだ。空高く。
それを見た子供達は、歓声を上げた。
嬉しくて、ついサービスだ。前より余計にぐるぐる回る。
大丈夫、わきまえている。調子に乗り過ぎて墜落なんてしたら台無しだから。
最後に華麗な宙返りをして、掌の上に着地させ、一礼させる。
勇者人形は、空の旅から無事に帰還した。
ワイバン大陸の最北西、フレン王国領土内、レブル森林、通称『賢者の森』。
その入口付近で、第七回ふれあい魔法教室が開かれている。
『魔法とは理解である。』そんなキャッチフレーズで、魔法の覚えたての子や、まだ使う事の出来ない子達を集めて、教育を…。
いや、ただ遊んでもらっている。子供は笑っているのが一番だろう。
一応、今の俺は、風魔法の先生の一人だ。
人形を使ったパフォーマンスは中々に盛況。今も、見ていた少年達から拍手をもらう。始める前はどうなる事かと思っていたが、一安心だ。
少年達を魔法体験コーナーへ案内したら、定位置に戻る。
彼らの反応を思い出して、にやにやしてしまう。
(これは、楽しい。やばいな。)
次に向けて、勇者人形の手入れに取り掛かる。汚れを拭いたり、ほつれを直したり。
二体しかないから、大事にしないと。
「子供騙しね。」
声の主は、五歳くらいの女の子。
彼女も、空飛ぶ人形を見ていた一人だったはず。
「これは手厳しい。お嬢さんは、もっと凄い魔法を御存じなのかな?」
この場にいる、という事は魔法に興味はあるはず。
なら、満足してもらいたい。そう思って聞いてみる。
「ん。」
彼女は持っていた絵本を突き出すように見せてきた。
「では、失礼して。」
受け取って、ページをめくる。
(なるほど、これは。)
魔法使いのお婆さんが、呪文と共に杖を振る。
すると、カボチャが馬車になり、ネズミが馬になった。
(…どうしよ…。)
こんなの、出来るわけがない。
確かに、同じ魔法という名前だけれども。
俺の知ってる魔法と違う。
(いや、諦めるな。変わったように見せられればいい。
つまり、手品だ。魔王人形を超高速でぶっ飛ばし、勇者人形を…!)
石が飛んできた。しかも少女に向かって。
すんでの所でキャッチ。少女は無事、なんだけど。
「ひぃ…。」
手のひら大の石が、自分めがけて迫って来る。
それだけで、十分な恐怖。
少女は泣き出してしまう。
「ご、ごめんなさい!お怪我はないですか!?」
少年の手を引きながら、一人の男性が駆け寄ってくる。
彼らは、魔法体験コーナーからやってきた。
そのコーナーでは、地面に転がる多数の石と、石を持って呆然と立ち尽くす少年達。
(なるほど、そういう事か。)
あの石は、土魔法の体験で使われている物だ。
土の基礎魔法は石だから、実際に的に投げたりもしてもらっている。
もちろん土魔法の先生が、安全対策はしてある。
確か、魔法で変な方向へ飛ばないようにしてあったはずだ。
具体的には暴投すると、急停止した後ふわりと落ちる。
推測ではあるが、その不規則な動きをする石が、少年達には面白かったのだろう。
少年達は、こぞって暴投。投げまくった。
だから対処が間に合わず、その中の一つが、少女の方まで飛んできてしまったという訳か。
「大丈夫。怪我はありません。」
少女の背中をさすりながら、男性に答える。
それから土魔法の先生にも、こっちは大丈夫だと魔法で伝えた。
泣きそうになりながら、こちらに駆け寄ろうとしているのが見えたから。
「本当に、こいつは!ほら、お前も謝れ!」
「ご、ご、めんな、さい…。」
連れてこられた少年は泣いていた。
おそらく、彼が投げたのだろう。よく見ると、先程、俺に拍手をしてくれた子じゃないか。
(ちょっと前まで、楽しい時間だったのに。)
これは楽しくない。
少女と少年は泣いている。男性は怒っている。
(これは魔法が嫌いになるな。なんとかしたいけど、…どうしよ。)
少女に向かって変顔をしてみるが、相手にされない。
愛想笑いをしつつ、悩んでいると。
「こちらの管理が不十分で、申し訳ありませんでした。」
空のような青色のポニーテール。
髪色よりも濃い青の長いローブ。
男性よりも、頭二つ分小さい小柄な女性。
そんな人物がいつの間にかいて、少女と少年と男性に頭を下げた。
見慣れた、そして頼もしい顔だ。
彼女の名は、ホーメナ。16歳。
このイベントの主催であり、森の管理者。そして、
「け、賢者様!?」
王宮に認められ、賢者の称号を持つ大魔法使いだ。
「そ、そんな…賢者様に謝ってもらう事なんてないです。悪いのはこいつなんで…。」
少年の顔が歪む。また怒られると思ったのかもしれない。
そんな子の頭を、ホーメナは優しく撫でた。
そして、目線をあわせるように屈んで、話し出す。
「魔法は万能じゃない。使う人間だってそう。
何が出来て、何が出来ないか。これから、しっかり学んでいって。」
ホーメナは少年の右手を広げ、そこに、ある物を置く。
石だ。丁度、彼が投げたのと同じくらいの大きさの。
少年の顔が引きつる。左手で払いのけようとする。
その左手をホーメナは掴んで、石の上に乗せた。
「え!?」
少年の驚きの声。
一瞬にして石が大きくなった。サッカーボールぐらいあるかもしれない。
それだけではなく、柔らかい。
掴んだ少年の指が沈む。弾力をもって、それを弾く。
左右に引っ張ると、ぐにょ~んと伸びた。
「!!」
もう少年は、目の前の謎の物体に夢中だ。
粘土のように、こねくり回す。
いつの間にか、泣くことを忘れている。
「そうすると、色んな事が出来るようになる。そうなると、楽しいわ。」
少年に優しくそう告げると、ホーメナは立ち上がり、俺の隣までやってくる。
「次は、あなたよ。」
小声で言われる。
もちろん、意味は分かる。
俺の目の前には、未だに涙が止まらない少女がいるのだ。
(賢者様ほど、上手く出来る訳がないが…。)
もちろんホーメナも分かっているだろう。
その上で、俺に任せたのだ。
(なら、全力でやるしかないな。)
フォローはしてくれるだろう。
一旦、この場をホーメナに任せて、俺は駆け出した。
目指すは倉庫。その中には、作り過ぎた花飾り。
籠一杯のそれを担ぎ、戻る。
「くれぐれも、気を付けてね。」
ホーメナに肩を叩かれる。
「任せてくれ。」
でも、もしもの時は頼む。
少女の前に立つ。
大丈夫、彼女は長ズボンだ。
「お手を借りますね、お嬢さん。」
両手を掴む。
魔法を使う。
ゆっくりと風が吹く。
それは、だんだん強くなる。
「わっ!」
俺と少女は、宙に浮く。
あの、勇者人形のように。
(あんまり高いと怖いよな。でも低すぎると、他の人を巻き込んでしまうし。)
周辺確認しながら上昇。ホーメナも、少年も父親も大丈夫。巻き込んだりはしていない。
少女の手に力が入る。すまない、そろそろ怖いな。
始めよう。
持ってきた籠を景気よく打ち上げて、中身を俺達に向かってぶちまける。
「!!」
風の流れをコントロールして、俺達を包むような球状へ。
流れにそって、花弁が舞う。
彼女が大事に持っていた本。その表紙は、一面の花畑だった。
だからきっと、気に入ってくれる。はず。
「わぁ…。」
ほら、お嬢さん。右も左も、上も下も。どこを見ても花だらけだ。
ゆっくりと手を離す。もちろん落下なんてさせない。
彼女はおずおずと手を伸ばし、花の流れに触れる。
大丈夫、調整している。手が切れたりしない。
触っても、取っても、匂いを嗅いでもOKだ。
俺の渾身のフラワーボール。楽しんでもらえたら、嬉しい。
しばらくして。
少女は地面に戻ってきた。
人が集まってきてしまったので、少し離れた所にだ。
おそらく拍手で迎えられる事は、好きではないだろうから。
「いかがでしたか?お嬢さん。」
「…悪くなかったわ。」
ぷいっと、そっぽを向くその頭に、花飾りをつける。
「お土産です。」
「…。」
顔は赤いが、拒絶はされない。もうその目に、涙はない。
「気が向いたら体験コーナーへ、いらしてください。
きっと楽しいですよ。」
「…気が向いたらね。」
去っていく少女を見送って。
「さて、戻るか。」
午前中の仕事は、まだ終わっていない。
フライング勇者、そして予定に無かったフラワーボールも大好評。
おかげで、俺の魔力はすっからかん。
だから早めにお昼休憩がもらえた。
「あ~~…。」
誰もいない事をいい事に、休憩室のイスの上で、だらける。
大目に見てほしい。魔力が少ないと、頭が回らないんだ。
「ゼユウさん!」
休憩室の扉が開く。
大目に見てもらえなかった。人がいるなら、しっかりしないと。
「どうしました?ハナ先輩。」
ハナ先輩。ホーメナの一つ上の17歳。
俺より一週間早く、賢者の森で働いている。
俺は、一応16歳だから、人生の先輩でもある訳だ。
「先程は、申し訳ありませんでした!」
腰を直角に曲げて謝ってきた。
はて、何の事だろうと頭を動かす。
あれだ。ハナ先輩は、土魔法の先生。
あの、石を投げた少年の件だろう。
「大丈夫です。賢者様が上手い具合にやってくれました。
誰も怪我しませんでしたし、最後は皆、笑顔です。」
「…。」
ハナ先輩は顔を上げない。
「賢者様も仕方ないって言ってましたよ。俺もそう思います。あんな事、去年はありませんでしたし。」
「え、去年って?私の方が一週間先輩のはずじゃあ?」
ようやく顔を上げてくれた。
「スタッフとしてじゃないですよ。参加していた訳でもないですね。
ただ、眺めていただけです。」
事実だが、言った後に後悔。
まるで、不審者みたいじゃないか。
幸いな事に、ハナ先輩は、距離を離す事なく会話を続けてくれる。
「そっか、ゼユウさんって、賢者様の関係者ですもんね。」
一人納得したように、うんうん唸る。
関係者。その通りではある。
「となると、あの噂って本当ですか?」
ずいっとハナ先輩が近づいてくる。
「あの噂って?」
「ゼユウさんが、キッドニに出向するって。」
ワイバン大陸の東、バクー王国の首都、キッドニ。
魔法大国として、有名な場所だ。
「古の魔導超兵器の研究の為、優秀な魔法使いを求めていて、賢者様の所に話がきて、賢者様の推薦で、ゼユウさんが選ばれたって!」
その通りだ。噂になっていたのか。でも。
「断りました。」
「え!?」
凄い驚かれた。行ってほしかったのかな。
「いえ、違います!行かずに残ってくれるのは、凄く嬉しいのですが。
その、名誉な事だったので…。」
名誉な事だったのか。俺にはピンとこなかったが、ひょっとしたらホーメナなりの気遣いだったのかもしれない。
まあ、何度いわれても断るんだが。
「俺にもやりたい事がありまして。その為には、ここにいたいんですよ。」
これも事実だが、少し恥ずかしい。
照れ隠しに立ち上がり、積まれた弁当箱を取る。
「ほら先輩、お弁当ありますよ。これを食べて、午後も頑張りましょう。」
第七回ふれあい魔法教室は、お昼休憩を挟み、映画鑑賞会が始まっている。
魔力伝導式装備、通称、魔装具と、魔力で動く道具、通称、魔道具。
その体験の一環としてだ。
映画を壁いっぱいに映しているのも、映画を撮ったのも、魔道具だから。
映画が終われば、再び俺は風魔法の先生だ。
つまり、今は違う。だが、サボってていい訳ではない。
この時間は魔道具の商品販売。対象は、保護者達。
ふれあい教室の、スポンサーになってくれた商会の品だ。
「ええ、知っているわ。
自分の見ている景色を、切り取れるんでしょう?
まるで一枚の、絵画みたいに。」
目の前に、写真機を手にするマダム。
「でも一枚撮るのに、二分くらいかかるんでしょう?
昔よりだいぶ早くなったって聞いたけど、私、この、ボーっと待つには長すぎて、何かをするには短い時間って大嫌いなのよ。
友達はストレッチしてるって言ってたけど、私は別にしたくないし…。」
「詳しいですね。
そうなんですよ、写真そのものは人気なんですが、もっと早く撮れればという声が多くて。
でもだからこそ、凄い速さで改良されていっています。
メーカー、大きさ、値段、型番。写真機の性能は物によってめちゃくちゃ変わりますよ。一枚、よろしいですか?」
ご機嫌にピースサインをするマダムを撮る。
カシャっというシャッター音がして、すぐに写真が出てくる。
「あらやだ。随分と早いのね。」
「ええ。フフゴケ商会っていう所の、写真機なんですよ。」
「あら、聞いた事のない所ね。センレイ会やヨダーシルじゃないなんて珍しい。」
「今、伸びてきている商会ですね。なんでも、魔王を倒すのに尽力したらしいです。」
「ああ!聞いた事あるわ。盛り上がったわよね~。新しい時代がきた~って。
でも生活は全然、変わらなくて~。」
「一年くらい経って、ようやく波がここまできた感じですね。」
「あら、遂に?遅いわよ~。今の話題はあれじゃない?ヨダーシルが造ってる、列車!」
それから数十分マダムは喋り続け、結局買わずに去っていった。
そしてまた別のマダム。
「いいじゃない!これなら持ち歩けそうね!」
写真機をパシャパシャさせている。
「魔王も倒されたらしいし、廃城巡りでもしようかしら。
この辺に一つあったわよね?」
「賢者の森の北西から海に浮かぶ魔王の居城を見る事ができますね。
ただ、残念ながら、あそこは廃城じゃないんですよ。」
「え、そうなの?」
「ルートレスの魔王と呼ばれる奴の、居城の一つなんです。
世界を放浪しているらしく、滅多に帰ってこないんですが、存命です。
つまり、魔物が出て危ないんですよ。
ちなみに、倒された魔王はレーグの魔王。
大陸の最東で、最北西のこことは、真逆なんですよ。」
「あらやだ。なんか、難しいのね…。」
それから数十分話をして、結局買わずに去っていった。
(問題ないさ。お喋り好きな方々だ、きっと宣伝効果はあるだろう。)
などと考えていると、手持ちの通信機が鳴った。ヨダーシル製のやつ。
「ゼユウさん、ちょっと本部まで来てもらっていいですか?」
「了解。」
さて、今度はどんなトラブルだ?
店番仲間に声をかけて、本部へ向かう。
本部なんて仰々しい呼び方だが、入口前の仮説テントの事だ。
だから大声なんて出したら、周囲に丸聞こえ。
「ホーメナが!?」
それでも叫んでしまうのは、緊急事態だからだ。
魔物の討伐に向かった賢者様が音信不通?信じられない。
「すみません、詳しくお願いします。」
声量を落とす。
こんな時こそ冷静にならないといけない。
まずは、情報収集をしないと。
「森の探知機に反応があったんです。
一体の高い魔力量の魔物でした。山から来たのかもしれません。
軍に連絡しようとしたんですが、賢者様が、これぐらいなら大丈夫だと言って、一人で向かわれたんです。
そしたら同じような魔力量の魔物の反応が、複数体、立て続けに!
急いで賢者様に報告しようとしたんですが、連絡がつかなくて…。」
「軍には連絡済みなんだけど、それなりの準備が必要らしくて、時間が…。」
「どの辺ですか?」
「!?」
一瞬、変な間があった。
だが、先輩方は地図を広げて、だいたいの位置を教えてくれた。
「ありがとうございます。」
お礼を言って駆け出す。
テントを吹き飛ばさない位置まで離れたら、地面を強く踏み込んで魔法を使う。
風魔法、翼。魔力で作られる、不可視の翼。
羽ばたきと同時に、空へ。
風魔法、音制御。
方角を絞る。可能な限り広範囲の音を拾う。
ホーメナと連絡が取れない状態という事は、戦闘中のはずだ。
一番騒がしい所が、目標地点のはず。
(そうか…。)
ふと、先程のやりとりを思い出す。先輩達の顔は引きつっていた。
(俺は、怒っている…。)
多分、態度に出てしまっていたのだろう。戻ったら、謝らないといけない。
彼らに怒った訳ではない。
彼らの対応は間違っていないし、声をかけてくれたのは感謝しかない。
軍の対応も、もっともだ。強力な魔物が複数体、侵入。
負ける訳にはいかないから、準備は必要。
魔物は、そういう存在だし、今更、腹を立てても仕方ない。
ホーメナは。
ふれあい教室を邪魔されたくなかったんだよな。
先代から引き継いで、初めて自分が主催したんだから。
つまり俺が許せないのは、この事態を知らず、のうのうとしていた自分自身。
ホーメナがこの場を離れた事に、気づくべきだった。
(なんてこった。これじゃあ、全然、楽しくない。)
その時、目の端に何か、いた。
(!?見つけた!)
デカい鳥だ。
魔法発動。風魔法、風剣。
風属性の魔力を固めて剣状へ。
鳥型の魔物を、すれ違いざまに斬りつけ着地。
一刀で両断されたそれは、魔力の霧になって消えていく。
(速さも硬さも、それほどではない?
いや、奇襲が上手くいったんだ。しかも、複数体いるならば脅威か。)
合流を急ぐ。
より大きな音のする方へ。
再び翼を羽ばたかせ、木々の間を縫うように進む。
森を抜け、視界が開けた。
切り立った崖の下。
ようやく探し人を見つける。
(無事だ、動いている!)
しかし、巨鳥の魔物の群れに襲われていて、追い込まれているように見える。
猶予はない。
「吹き飛ばす、伏せて!」
音制御は、音を聞くだけでなく、送る事も出来る。
射程内なら、意思疎通は可能だ。
降り立ち、翼を消す。全魔力を集中させる。
敵はこちらに気づいていない。いや、彼女が引き付けてくれている。
「竜巻!」
眼下で突風が巻き起こる。
巻き込まれた魔物は、切り刻まれて消えて行く。
(14体か。)
これで全部かは分からないが、周辺のは片付いた。
警戒しながら、彼女の元へ。
俺が近づくと、しがみついていた巨岩の陰から顔を出す。
「ありがとう。おかげで生き残れたわ。」
顔も衣服も汚れているが、怪我は無さそうだ。
「相変わらず、強いのね。」
言葉通り受け取る。彼女は笑顔だし。
「注意を引いてもらえたからな。真向からだとこんなに上手くいかなかったよ。」
謙遜したつもりはない、事実だ。
でも彼女は、やれやれといった感じで服の汚れをはたいている。
「音信不通になったから、軍に連絡もいってる。きっと、もうすぐくると思う。」
「…面倒をかけたわね。ごめんなさい。」
ホーメナのテンションが低い。
別に黄色い声でお礼を連呼してほしいわけでもないし、いつも通りといえばそうなのだが。
何か、対応を間違えてしまったような気がして落ち着かない。
「軍には私から報告して、侵入経路や他にいないかの調査依頼も出しておくから、先に戻っていていいわ。そろそろ映画も終わる頃でしょう?」
まさか、軍がくるまでは一緒にいるよ。
そう言おうとしたが、音制御に反応があった。軍は近くまできている。
「そうだな。じゃあ、先に戻る。」
翼を展開して。
「ゼユウ。」
呼び止められる。
「ほんとに、ありがとね。」
彼女の微笑みに、頷いて、飛ぶ。
お礼はもうもらっていた。きっと俺の態度が、再度言わせてしまった。
ギクシャクしている訳ではない。
けれど、こうやってたまに、微妙な空気になってしまう。
かみ合わないというか、変な気を遣っているというか。
前まではもっと上手く、いや、一緒にいるのが楽しかったのに。
あの日から。ホーメナが賢者になってから。ハンネが死んでから。
何かが、ずれてしまった、そう思う。
(…切り替えよう。)
戻って先輩達に、報告して、謝って。風魔法の先生としての仕事が待ってる。
それからはトラブルもなく、ふれあい教室は無事終了。
見回り、片付けを終えて、帰る時。
「ゼユウさん、これ、見覚えありますか?」
ハナ先輩が一冊の本を見せてきた。
本のタイトルは、【勇者トリドの英雄譚】。
「ないですね。本を持っている子はいましたけど、これじゃあないです。」
あの子の本は、ちゃんと返した。リュックの中にしまうのも見た。
「そっかぁ、困ったなぁ。」
「まあ、忘れ物には違いないですし、保管しておきましょう。
後で取りに来ますよ。」
結論からいうと取りに来る子はいなかった訳だけど、この時の俺は知る訳もなく。
多少のトラブルはありつつも、日々は楽しく、なにより平和に過ぎていく。
そんな俺の、日常。
この日が、最後だとは思わなかった。
今回も、メインは五人の予定。
ゼユウとホーメナとあと三人。
ハナ先輩は、サブキャラ。出番は少なめだけど、まだあります。




