第80話 返し
魔王クリガナンは、勇者とその仲間達により討伐された。
「…ん。」
イスに座りながら寝ていたようで、身体が痛い。
でもそれだけじゃなく。
魔力も天力も残りが少ない。
よろよろと立ち上がり、飲み物をとりに歩き出す。
だんだんと記憶がはっきりしてくる。
私は全力で戦って。
ロストン達に負けて転生した訳だ。
(よく、転生できたわね…。)
しっかり吟味した後、二人分の転生を行い、二日くらいでまた転生。
今、死んだら、今度こそ転生できない。
(天力が足りた事が、奇跡で、だから、世界を選ぶ暇なんてなかった。)
「十四歳か…。」
水を飲んだ後、魔王の間へ。そこのイスに座る。
状況は把握した。もうジタバタしない。
私が今いるこのお城。
お城というには小さすぎるが、そこは置いておいて。
ともかく、これは私が、土魔法と魔道具で作ったものだ。
一時は、魔法の練習をかねて、転生直後につくるのがブームだった。
でもそのブームはとっくに終わって、しばらく作った記憶がない。
だって作っても壊されるから。
あの忌々しい女勇者のリハネに。
遠くで爆発音が聞こえた。
分かってる。この城にいて、十四歳という事は、私は今、攻められている。
魔力がここまで少ないという事は、交戦して、逃げ帰ってきたのだろう。
敵は、私が作った壁やら魔道具の罠とかを破壊しながら近づいてきている。
爆発音に混じって、怒号が聞こえる。
…覚えのあるパターンだ。
また、この旅で仲間を失ったのだろう。
この状態のリハネは、地の果てまで私を追いかけて殺す。逃げ切れないのだ。
「どうせなら、最期は前の世界がよかった。」
罰なのだろう。
今まで蔑ろにしてきたもの達への。
ある世界で勇者パーティーを全滅させた事への。
皆の夢よりも、自分の想いを優先させた事への。
「…。」
詰みスタートを嘆いてはいけない。
こうなる覚悟は、あの時に済ませている。
「最期は、やっぱり魔王らしくしないとね。」
言葉とは裏腹に、ロストンの顔が浮かんだ。
彼はあの後、幸せになれただろうか。
きっとなれたはずだ。
なれてないと困る。
今ではそれだけが、私の生きた成果だ。
この部屋の扉が爆散した。
息が荒く、目を血走らせて、涙を流しながら、リハネがくる。
「ようこそ勇者様。私が初代ゾトの魔王、クリガナンよ。」
「もう魔王とか、勇者とかどうでもいい。でも、お前はここで殺す。」
私は立ち上がり、リハネは剣先を私に向ける。
分かるよ。仲間が死んだら、悲しいものね。
せめてその死を意味あるものに。
いや、もうどうでもいいらしいから、ただの八つ当たりか。
(後悔して、苦しくて。そして、止まれないのね。)
ドラゴンフォームは無駄だし、そもそも使える魔力がない。
石を複数、全力で放つ。
リハネは、被弾しながらも突っ込んでくる。
水を、振り絞る。
直撃を受けながら、それでも彼女は炎剣を振り下ろし、
その剣が、空中で停止した。
「!?」
私も驚いたが、彼女も驚いている。
(一体、何が?)
薄っすらと。
何かがある。
気づく。
それは、魔力。いや、魔法だ。
(風魔法?)
するとこれは風壁か?
しかし、これほど薄く固いものを、誰が?
「!?」
リハネが後ろへ大きく飛んだ。
「これは!?」
魔力だ。それも視認出来るほどの。
私とリハネの間に、魔力の渦のようなものが現れている。
しかもそれは、時間と共に濃さを増す。
(天…力…?)
圧倒的な魔力の中に、それを感じる。
(何が起きているの?)
私もリハネも、困惑しつつ眺める事しか出来ない。
こんな事は初めて。
初めてなのに。
怖くはなかった。
寧ろ、ワクワクしている。
そう、まるで、新しい世界が始まるみたいに。
渦が、形を変えていく。
人の形になっていく。
見覚えのある髪型に髪色。
バンダナも、胸当ても、小手も、脛あても、マントも、眼帯も。
その姿は。
見間違えるはずもなく。
「…ロストン…?」
人影に声をかけてみた。
その人は。
「ああ、よかった。リガーナだ。」
私を見て、ほほ笑んだ。
瞬間、リハネが、ロストンへ斬りかかる。
正体は不明だが、いや、だからこその判断だろう。
今のやりとりで、私の知り合いという事は分かったのだから。
「え?」
素っ頓狂な声を出したのは私だ。
リハネが倒れ転がった。
彼女は石の鎖で捕縛されている。
石鎖で間違いないが、いつ発動した?
私が分からないほどの、魔法精度。
「ほ、本当に、ロストンなの?」
「本当にロストンだよ。」
言いながら、私はロストンに持ち上げられた。
所謂お姫様抱っこという奴ではないか。
「今は、ここを離れよう。」
言うやいなや、ロストンは飛んだ。
風歩。トワ並みの精度だ。
こうなると、風壁も彼だろう。
(風魔法なんて、いつ覚えたの?相反属性よ?)
窓から城を出た瞬間、城が半分吹き飛ぶ。
リハネだ。拘束は自力で解いたのだろう。
怒りの瞳が私達を射抜く。
「逃がさない。ここで、殺す。」
彼女は炎剣を前に突き出す。
刀身の炎が燃え上がる。
「リハネ!お前の気持ちは痛いほどわかる!
だからこそ、俺はリガーナを失いたくない!」
ロストンはその場に留まった。
迎え撃つつもりだ。
「ブレイブフェニックス。
その威力は、ディルガンツの、ブラックグレートフレイムスラッシュを上回る。」
なぜリハネを知っているのか、とか。
そんなものを本当に防げるのか、とか。
そもそも、何でこんな所にいるのか、とか。
聞きたい事は多いけど。
「しかし、それでも、魔法の真髄には及ばない。」
今はとりあえず、不敵に笑う彼に任せよう。
リハネの剣の炎は、燃え盛る鳥の形で飛び立った。
真っすぐこちらへ飛んでくる。
全てを焼き尽くさんとする勢いで。
「コズミックカオスブラスター!」
上と下、天と地、空と地上。白と黒の、星が踊る。
炎の鳥は、混沌の鳥かごに捕らわれる。
その後は?
眩い閃光で何も見えない。
「無事、合流できたよ。」
何か、聞こえる。
「そんな事ない、流石トワだ。大丈夫、分かってる。」
私は、ゆっくりと、目を開ける。
「ああ、また後で。」
上は空で、下は海。
目覚めた私は青の中にいた。
相変わらず、お姫様抱っこのままで、移動している。
「…。」
しばらくロストンを眺める。
自称本物のロストンは、本当に本物なのか疑わしい。
「大丈夫。距離は稼げたから、リハネに追いつかれる心配はない。
つまり、余裕が出来た。今なら質問に答えられる。」
「あなたは誰?」
「…。」
「ロストンが、ここにいるはずがない。」
どころか、人間だと思えない。
魔力の塊。意思のある魔力。まるで、魔力精神体だ。
「俺は魔族になったんだ。」
「…え?」
魔族って、知識のない人間が、恐怖で生み出した概念で。
実際はいない存在のはずでは?
「そう。俺は世界初の魔族だ。魔法生命体。魔王公認の新種族。よろしく。」
「どうして、そんな事に?」
「あの戦いの後、皆に相談したんだ。リガーナに会いたいけど、どうしたらいいかって。」
「…。」
「皆に協力してもらったんだ。
ディルガンツはもちろん、さっきのリハネも、途中で仲間になってくれた。
リガーナの実家にもいったし、天力の研究資料も見た。
転生も転移も勉強したさ。
魔族の身体は、転移の成功率を上げる為のもの。
魔力精神体を研究して、辿り着いた。」
パパの仲間達と研究した時は、そんな結論は出せなかった。
いや、でも途中で殺されず、研究が続けられたら辿りつけたかも。
ということは、ロストン達は、それくらい長く生きて研究したの?
「転移自体は出来そうだったんだけど、問題はリガーナのいる世界に行けるか、だった。
俺にはその仕組み、最後まで分からなかったんだけど、トワとディオルのおかげで、なんとかなった。
そう、ディオル。俺と分離できたんだ。
その事で、ディルガンツとひと悶着あって。でも、最後には丸く収まった。」
何を言っているのかが、分からない。
私より、よっぽど詳しいわ。
「そうだ、この眼帯。」
言われてロストンの眼帯を見る。
デザインが少し違うようだ。
「アウトサイド9。トワの義手と同じシリーズの最新版。
俺達の研究成果、魔力の分解、転送、再構築とも相性が抜群。
お陰で、持ってこれた。
これのおかげで俺は、水魔法と風魔法が使える。
六属性コンプリート。
コズミックカオスブラスターは六属性混合なんだぜ?」
「…解釈違いだわ。ロストンが、そんなに凄いなんて。」
「周りに天才が多くて、必死だったんだ。
ぶっちゃけ、俺のカオスブラスターは、ディオルのヘルブラスターや、トワのヘブンブラスターよりも…。
ともかく、箔をつけたかった。
何せこれからは、ゾトの魔王の側近の魔族で、やらせてもらうんだからな。」
ロストンをまじまじ見てしまう。
ちょっと意味が分からなかった。
「リガーナ。」
「は、はい!」
「俺は、あの世界で、精一杯生きたんだ。
だから今度は、いや、今度こそ。リガーナの為に生きる。」
顔が赤くなる。
これでは、愛の告白ではないか。
「あ。」
私が返事をする前に。
「すまない。魔力切れだ。」
空の上且つ、海のど真ん中で、何て怖い事を言うのだろう。
「ロストン頑張って!ほら、向こうに、陸地が見える!」
豆粒みたいに小さいけれど。
「ま、まかせ…ろ…。」
とても任せられない。
ふらふらだし、何より、
「消えかけてる!」
冗談ではない。
ここまで喜ばせておいて、このままお別れは酷過ぎる。
「ロストン落ち着いて!一度海に降りよう。大丈夫、泳げるから!」
「いや、でも、俺、カナヅチだし…。」
その頼りない言葉を最後に、私達は落下する。
この高さから海面に激突するのは不味い気がする。
手を広げ、水を使おうとするが、
(ダメ!まだ回復してない!)
もはや私に出来る事は、目をつぶる事だけ。
激しい衝撃が、きた。
「…?」
痛かったが、無事だ。
それにまだ、空の上。
(…運ばれて、いる?)
進行方向に船が見える。
そこそこの大きさの船で、その上に私達は着陸した。
「お疲れガットル。飛距離も安定感も、いい感じだね。」
「目標は空中戦でディオルに勝つ事だからな。まだまだこれからだ。」
懐かしい声を聞きながら、ゆっくり下ろされ甲板に座る私とロストン。
ガットルとサニアが、そこにいた。
「怪我はないか?お二人さん。」
ディオルだ。横にいてビックリする。気づかなかった。
「ええ、助かったわ。ありがとう。」
正直反応に困る。知る人物とは言え初対面。
(初対面でいいのよね?ロストンがレアケースなのよね?)
横のロストンを見る。
消えかけた足はちゃんとある。
しかし反応する余裕はなさそう。ぜーはーしてる。
「皆さんは、どうしてこんな所に?」
三人が海賊ではない事は、よく知っている。
だからこその疑問。
「俺達は向こうにある、テイブって言う港町に滞在中なんだ。
で、仲間が、妙な魔力を感じるって言いだして。
この船を借りて、海に出たんだ。
二人を見つけた所で、急に落下するから、焦った。
間に合ってよかったよ。」
ガットルが説明してくれる。
勇者時代にはもっていない、私の知らない魔装具を撫でながら。
「私達は、このままテイブに戻る予定なのだけど、二人はそれで、いいかしら?」
ずっと白基調のサニアを見ていたけど、今の黒基調のサニアもいい。
最初にあったサニアも黒基調だった気がするし、安定のミニスカートに安心する。
「ええ、お願いしたいわ。」
船の操縦の為だろう、ガットルとサニアは船内へ入っていく。
この場には、私とロストンとディオルが残される。
「…。」
気になる。
ディオルにロストンはどう見えるのだろう。
妙な魔力は間違いなくロストンの事だし。
なにより、ロストンは、私と旅をした時と同じ姿。
つまり、ディオルと同じ顔なのだ。
髪色と髪型が違って、バンダナと眼帯をしているから、ぱっと見は気づかれないだろうけど。
「不思議な顔をしているな。」
きた。直球だ。
「え、え~と~…。」
どう答えようか悩む。敵対している訳でもないし、誤魔化す必要はないのだけれど、説明が難しいのだ。
「三年ぶりぐらいだが、俺の顔を忘れた訳ではないだろう?」
会話にずれ、を感じる。
(そうか、私の話か。)
この世界の私は、ディオルと面識があるらしい。
余裕のない転生だったし、ロストンも現れたし。
まだ記憶の整理が出来ていないのだ。
「もちろん忘れてないわ。ディオルでしょ?って、その腕どうしたの?」
ローブで隠れてはいるが、おそらく、右腕がない。
「勇者と戦って、負けたんだよ。」
その割には、いい顔ね。
「奇遇ね。私も勇者に負けて、逃げてきたのよ。」
ドヤ顔で言ってやる。ほんとは泣きそうよ。
「なるほどな。そうすると、どうするかな。」
二人そろって、空を見る。
向こうの事情に詳しくないが、どうしよう状態なのは、お揃いらしい。
「ディオルの知らない天法について、俺は詳しい。」
ロストンが口を開けたからビクッとなる。
「ほう?中々興味深い事を言ってくれるじゃないか。教えてくれるのか?」
「もちろん。きっとこの先、必要になる。」
「…ロストン、何か、知ってるの?」
頭を撫でられる。
「あるかもしれない未来の話さ。」
そう言うと、ロストンは寝てしまった。
魔力を回復する為だと思うから、起こせない。
結局うやむやで、スッキリしない。ディオルも何を考えているのか分からない。
船はゆっくり港に戻り。
その日はガットル達と同じ宿屋に泊まる事にした。
彼らは二日後に出航する大型船に乗る予定らしい。
行先は、ライダ大陸のゾト。
もっと言えば、彼らの目的は私に会う為だったらしい。
正確には、ゾトの魔王の研究資料だ。
だから私達はついていく。
おそらくリハネ達と戦う事になるだろう。
でもこれだけの戦力なら、きっと勝てる。
ロストンは和解を狙うそうで。
私が生きているから難しい気もするし、ロストンは凄いポカをするからどうなんだろうとは思うけど。
「…。」
その後は、どうなのだろう。
星空を眺めながら考える。
ガットル達と行動を共にする?
いずれはトワ達とも合流するだろうし。
研究を再開する?
リハネの脅威がなくなれば、可能かもしれない。
両親は、どうなっているのだろうか?
分からない。この世界でも隣国に捕まえさせたのか、もう死んでしまったのか。
ふと、誰かの気配がして。
覚えのある天力が近づいてくる。
主人の後ろに控える従者のように。
静かに、そこに佇んでいる。
「嫌よ。」
彼の手を引く。
隣に立たせる。
「きっとこれからも大変だと思うの。」
「はい。」
「具体的には決まってない。だけど、どんな道でも、ゾトの魔王の道だから。」
「はい。」
「何度も死にそうになると思うし、実際死ぬと思う。」
「はい。」
「それでもあなたは、ついてきてくれる?」
「勿論だ。どんな道でもついていく。その為の存在になったんだ。」
笑う彼の姿に、あの日の夕焼けを思い出す。
私も笑う。
だっておかしいもの。
「ねえ、ロストン。」
あなたは、私の約束の為に一生懸命生きて、更に私に会いにきて、私の為に生きるというほど大好きかもしれないけど。
私は、あなたを助ける為に、いくつもの世界を渡った上に、あなたの為に、先人達と私の使命全部を捨てる覚悟をしたほど、あなたの事が大好きな奴なのよ。
想いの重さは負けないわ。
「これからもよろしく。
二人で一緒に歩みましょう。」
これからの長い道を。
観客席で拍手をしていた女の子は、大好きな演者さんに手を引かれ、次の舞台へ一緒に上がる。
今度は私も全力で。
最高の舞台を作りましょう。
第二章、完結です。
第二章冒頭もパラレルワールドの一つ。
ここで、第一章と繋がったという感じです。
読んでくれた方、本当にありがとうございました。
きりがよいので、一旦、投稿はお休みします。
9月頃に、第三章を投稿すると思いますので、見かけて気が向いたら、よろしくお願いします。




