第79話 リガーナ~冒険~
~前回までのリガーナ~
ゾトの魔王として、何度も転生を繰り返す。
ある時、偶然、ロストンと再会した。
彼と話をして、私は。ロストンと冒険する事にした。
ロストンには腹が立った。
彼を脅して、捨てるように放置した帰り道。
一人で夜道を歩きながら、そこらの石を蹴飛ばす。
だって一人で盛り上がっていた私がバカみたいじゃないか。
この三年、必死に準備したのに。
ディオルを王国に呼び寄せたり、ムンタを勇者にしたり、まさかスキンヘッドになるなんて思わなくて驚いたり。
他にも色々。
まあ、でも、結果オーライかもしれない。
第一目標は、トワとサニアを殺す事。
第二目標は、ロストンを活躍させる事。
ロストンに二人を殺してもらう予定だったけど、あの様子では難しそうだ。
だから二人を殺すのは私になるだろう。
今回の私は、悪役でよい。
トワをボコボコにした後、想像以上に疲れを感じた。
ボコボコにするのは予定通り。
トワのヘイトは間違いなく私に向いている。
共通の敵を得たロストンはトワと仲よくなるはず。
彼女の協力があれば、ロストンはもっと強くなる。
強くなれば、きっと活躍だって出来る。
計画通りなのだけど。
トワの怯えた顔を見て。
大昔の自分を思い出して。
ノリノリで首輪を用意している時には気付かなかった。
トワにやった事は、ママにされた事と同じだ。
こんな所は似なくていいのに。
死ぬほど嫌いだった行動を、無意識にしていたという事がショックで、逃げるように離れた私は、そのままふて寝。
警報が聞こえても二度寝。
それでも鳴りやまない警報がうるさくて。
結果的には起きてよかった。
病気で死んだドラゴンが、魔物化して攻めてきてたから。
確かあの子は、遠い昔、王国の王子と友達で。
だから王国に攻め入る事はしないのだけど。
魔物化して知性がなくなって。
王子を求めて、やってきたのかもしれない。
真相は知らないけれど、私は鬱憤を晴らせた。
ロストン達も助けられて万々歳。
流石に反省する。
魔力抑制装置のパフォーマンスは中々良い感じ。
皆の反応は、まさしく私の求めるものだった。
そう、今の私は悪の魔王。
このまま力を見せつけていこうじゃないか。
ねえ、トワ、サニア、ムンタ。
私は強くなったのよ。あの時と比べてね。
だからこれもパフォーマンスのつもりだったのに。
まさか毒にやられるとは思わなかった。
これで死んだら、私史上もっとも間抜けな死に様だ。
トワの腕を切断した時は、思わず謝りそうになる。
殺す予定なのに、どの面さげて言うのかと。
恥ずかしさで荒れる私はサニアに八つ当たり。
魔力量の調整にも失敗する始末。
めちゃくちゃだった。
頭を冷やす為、屋根の上で精神統一。
何かロストンが様子を見にきたらしいけど、適当に誤魔化しておいた。
謎の失踪を遂げたディオル。
それを心配したディルガンツが、バクー王国にいた。
アトレーナの町で、こちらをじっと見ているのを見つける。
彼に天力は無いから、私の探知には引っかからない。
だから接近を許してしまった。
逆に魔力探知に優れている彼は、ロストンに気づいている。
ロストンはともかく、トワがこの不審者に気づかないなんて。
きっと、大金で浮かれているのだ。
私がいたから、ディルガンツは近づいてこなかった。
でも放置なんて出来ないから、私のほうから接触した。
なんとか誤魔化そうとしたけど、間違いなく納得していない。
戦闘は避けられない。
私はこの後の事を考える。
ディルガンツは、この旅の目的。彼を倒せば、旅は終わり。
あの魔王がトワとサニアを殺し、最後ロストンが彼を倒す。
それが、私的に最高の終わり。
でも、そんなに上手くいくだろうか?
一騎打ちで彼を倒すより、よっぽど難しい。
トワとサニアの二人だけで魔王を相手させ、終わった後にロストンとムンタと私で魔王を倒す。
いや、魔王は二人を放置し、ロストンを狙う為、こちらにくる。
だったら始めから皆で。
でも乱戦になれば、ロストンが死ぬかもしれない。
そう、私は。
ロストンに活躍してほしいけど、それ以上に死んでほしくない。
『…。』
もう、いいんじゃない?
これまでの旅で、ロストンは十分活躍した。
だって、前世まで一般人のロストンだよ?
それが、骸骨竜と激戦を繰り広げ、国を荒らす大集団の壊滅に貢献した。
だから。
私がディルガンツを殺し、ロストンの安全を確保して。
その後私が二人を殺せば、それでいい。
考えている途中、トワとロストンが何か言いに来たけど、頭に入らず、から返事になってしまう。
大丈夫。きっと後少しで全部終わるから。
想定と大分違ったけど。
私は目的を果たした。二つとも。
天力の、天法の探知を全力で行う。
首輪は間違いなく爆発した。トワは頭が吹き飛んで絶命した。
でも、魔力精神体になる事はなかった。
ちょっと前に死亡したサニアも同じだ。
二人は天上の国の人物ではない。
二人は、そうね。
どんな環境でも努力するし、才能もあるから力を持つ。
一生懸命生な所も、仲間思いな所も、純粋な所だって。
魔王打倒の理由になりやすい。
そんな二人は仲間にも好かれやすく、死んでほしいと思う奴はいない。
だから仲間は、二人を守る。結果、生き残る。
それだけの話なのだ。
そんな事を確認する為に。
可能性を潰す事は大事、とはいえ。
ムンタも、巻き込んで殺してしまった。
ロストンにも、辛い思いをさせた。
折角、いい感じに、一緒に魔王を倒したのに。
『あ。』
完全に気の抜けていた私は、あっけなくやられた。
即死ではない。魔力も残っている。
ディルガンツのしぶとさには驚かされたが、瀕死には違いない。
回復魔法で回復し、反撃すれば、勝てる。
でも。
もう目的は果たした。
だから、次の世界へ行ってもよい。
私がディオルの仇には違いないのだ。
ディルガンツに討たれるのはいいかもしれない。
そう考えて、目を閉じる。
しばらくしたら、近くで音がした。
その後少しして、身体に衝撃が。
目を開けたら、ロストンがいた。
どうやら刺されて、倒れたらしい。
全くロストンは詰めが甘い。
最後の力で、ロストンに回復魔法を。
(ほら、頑張って。こんな状態のディルガンツなら倒せるよ。)
それで、どうか、幸せに。
(相打ちかぁ。)
まあ、回復魔法の効果が薄かったから、私の所為でもある。
でも、まあ、これも。
綺麗な落ちだと言えるのではないか。
そう思ったのに。
また転生したいなんて。
しかも希望条件がやばい。
ロストンは知らないからしょうがないけど。
スタートをどんなに似せても、三年も経てば綻びは大きくなるもの。
再現なんて出来ない。
もし、やるとしたら。
現状に限りなく似ている世界を探して、そこから始めないと。
つまり、スタート地点を変えないといけない。
待って待って待って待って。
いや、流石によ。
ここで私の軸を三年もずらすなんて。
すでに私が死んだ世界だって多いはず。
自身への転生と違い、他人への乗っ取り転生は、リスクもデメリットも大きすぎる。
これからも長く続ける予定の、転生計画に甚大な影響が出るはず。
これが原因で、詰む事だってありえる。
そうしたら、今までの苦労は?
さっき、なんでトワとサニアとムンタは死んだの?
だから、これは無理。断るべき。
それなのに。
そんな顔をされたら、期待したくなるじゃない。
私に、新しい世界を見せてくれたのはロストンだから。
お願いね?
この選択を後悔する事がないような、素敵な物語を私に見せて。
ディオルもディルガンツも、魔王としての実力は申し分ない。
でも、やはり私の中で魔王と言ったら、クーランのお爺ちゃん。
地竜は、お爺ちゃんの得意とするドラゴンフォーム。
山が動くとはまさに、あれ。
天へと伸びる、八本の竜頭は、もう、世界観が違う。
10人の勇者と仲間達が、為す術なく敗れ去ったのも納得だ。
だから、もし、そんなのを倒せたら、とんでもない事よ。
大見得を切ったロストンには、是非、倒してもらわないと。
とはいえ、私のは、全然小さいし、竜頭も二本だけ。
まあ、それでも。
ラスボスに相応しい貫禄じゃあないかしら。
さあ、最後の戦いを始めましょう。
死ぬかと思った。
トワは、どの世界でも優秀だったけど、あんな魔法は初めてだ。
魔王が、魔法の恐怖で取り乱すなんて恥ずかしい。
ディルガンツに少し感謝。
二度ほど殴られて、この野郎と思う事で冷静になれたから。
まあ、殴ってくれたお礼はするけど。
もう一度、地竜を発動。流石に次の発動は無理だ。
蜃気楼からの闇討ちも考えたが、より勝率が高いのはこっちだろう。
おそらく、トワは同じ魔法を撃てない。魔力残量的に。
なら、攻略法の無い、地竜だろう。
私は手を抜かない。だからこそ、もし、彼らが勝利できたなら。
気絶しているロストンの頬を撫でる。
「ほら起きて。私はまだ、満足していないわ。」
綺麗な夕焼けだった。
あの、ロストンと手を繋いで帰った日と同じくらい。
私が思い出に浸っていると、ロストンが起きた。
私はロストンとお話する。
(いいわね。まだ、諦めた顔をしていないわ。)
しかし、逆転はもうなさそうだ。
トワ達は、じり貧。後は、各個撃破して終わり。
(一回は撃破したけど、あれはトワが一人でやったようなものだし、私の魔力は残っているから、あれで勝利にしてあげられないわ。私はゾトの魔王なのよ。)
その上で、ロストン達の勝利を期待したのだけど。流石に無理か。
(でも、頑張ったと思う。)
レーグの魔王と和解というのは、勇者レーラスで見た。
でも、ディルガンツと和解は初めてだ。
見た事ない魔法だって開発した。
功績としては、十分じゃないか。
(…。)
私は、誰一人として殺す気はない。
ロストンに話した計画には穴がある。
地竜は、王国まで持たない。
どころか、バクー王国の途中で魔力切れだ。
陸路ではなく、海路を行くのも無理。海を渡れない。
だから私は、脅しじゃなくて、落としどころを。
この物語のエンディングを考える。
とりあえず、このまま全員捕まえて。
一応、バクー王国の国境までは行こうかな。
そこで、ロストンに勝利のVサインだ。
それから、楽しかったお礼を言う。トワの首輪も外す。
で、フラッシュボムだ。お別れの花火。
私は姿を消す。もう二度と会わないつもり。
どこかに潜伏して、天力の回復を待って、ヨダーシルにでも行こうかな。
ロストン達は王国へ戻り、幸せに暮らす。
まあまあじゃない?ノーマルエンディングってやつ。
全滅エンドより、ずっといい。
そんな結末に一人で満足していると、気づいた。
ロストンのトワ達への応援は、まだ続いている。
ぼんやりとそれを眺めて、私は彼に近づいた。
「ねえ、ロストン。私は気づいたわ。」
そこからは、怒涛の展開だった。
トワとサニアの混合魔法による反撃。
ディルガンツの復活。
ムンタの隠し玉。
ロストンが救出されて。
勇者と魔王が共闘して。
ロストンと、トワとサニアの、混合天法。
色が、どこまでも広がっていく。
ああ、なんて綺麗な景色。
私は、これを見る為に旅をしてきた。そう、思えてしまうくらい。
でも、同時に思い出した事がある。
私は、景色を見たかったのではなく。
私が作る景色を、パパに、ママに、ゾトの研究者達に見せたかったのだと。
私は全力で魔法を使う。
生き残る為に。夢を繋ぐ為に、足掻く。
投降はしたくなかった。
だって、ムンタは私が殺したのよ?トワやサニアだって、私が殺したようなものだし。
それなのに、甘えるなんて、嫌。
魔力量的に、バクー王国方向へ逃げれば追いつかれてしまうだろう。
だから、レーグ半島に潜伏するしかない。
避難所は、ここにも作ってある。
フラッシュボムで攪乱し、その隙に逃げ込む。
魔力回復薬だってある、私は逃げ切れる。
スッキリ勝たせてあげられないのは申し訳ないと思う。
でも、私を焚きつけたのは、そっちだ。
ロストンは、本当に。何度でも見せてくれる。見た事の無い景色を。
可能性を。
だから、弱音なんて、もう言わない。
この窮地を脱し、いつか必ず、ゾトの魔王の使命を果たす。
(と、思ったんだけどな…。)
見事だった。完敗だ。
奇襲を察知し、フラッシュボムの処理までやってのけたサニア。
私の全力についてくるトワ。
そして、ロストン。
消耗が激しかったとはいえ、魔王に魔法勝負で勝つなんて。
大金星だ。もう、勇者じゃん。
(…これは、ダメね。)
死んだ回数には自信がある。
だから、分かる。私は、死ぬ。
魔力はすっからかん。
天力は、どうだろう。転生する分は、足りないかもしれない。
(…何て顔をしてるのよ。)
ロストンは泣きそうだ。
折角、魔王を倒したというのに。
安心させる為に嘘をついたが、もっと不安な顔になる。
あ、泣いちゃった。
(…でも、少し、嬉しいかも。)
私と別れる事を、悲しんでくれるのだから。
(やめてよね…。私まで悲しくなるじゃない。)
もっと、ロストンとお話がしたいとか。
ましてや、皆と、もっと一緒にいたいだなんて。
私には、願う資格なんてないんだから。
「ねえロストン。仮によ。」
言う気なんて、無かった。
でも、最後だと思ったら、伝えたくなった。
あの時、幽霊のあなたと出会えた事は、私にとって嬉しい事だった。
色々あったけど、この旅は、楽しかったの。
あなたが、魔王を倒した事が、生きていてくれる事が、本当に喜ばしい。
ねえ、ロストン。
私はね。
パパ達を恨んだ事も、笑顔になってほしかった事も本当。
勇者と魔王の、想いを継ぐという事に憧れたのも本当。
そんなに綺麗ではない、寧ろ歪んだ色をした、夢の残骸。
落ちていたそれを、勝手に担いで歩きだしたのは、私の意思。
そう、私が決めたのよ。ゾトの魔王に成る事を。
他の生き方は、たくさんあったの。
共に過ごした仲間達は大好きだし、殺し合った事を間違いと思わない。
背負った荷物を放り出して、ロストンに駆け寄った事も間違いと思わない。
節操がないがないように見えるかしら?
その場のノリで生きているように見えるかしら?
そうかもしれないわ。
だって、私の周りには、それだけ魅力的なもので溢れていたのだから。
全部、本当で本気だった。
胸を張って言える。
後悔なんて、ない。
だからね。
これでよかったのよ。
次回、第二章の最終回!




