第7話 仲間~洞窟のドラゴン~
~前回までのガットル~
皆、色々事情があるんだなぁ。
俺?もちろん仲間になりたいよ。
あ、ドラゴン起きた。今度こそ倒す!
仲間編、最後の山場。
戦闘開始から数分後。
ドラゴンの右前脚が爆発した。
迫るかぎ爪をかいくぐり、サニアは駆け抜けた。
右後ろ脚が爆発する。
(うまいな。)
飛び過ぎを注意された俺は、同じく飛び跳ねスタイルで注意され、今は違うらしいサニアを見ていた。
動きを参考にする為にだ。他意は無い。
(でも、俺には無理だ。)
地を走る稲妻のように、鋭く、速く、曲がる。
あの動きは真似出来そうもない。
(あ!)
ドラゴンが暴れた反動で、岩の塊が宙を舞う。
それにサニアが運悪く当たりそうになるが、飛翔物が岩の塊を迎撃する。
鋭く尖り、炎を纏った土の塊。
炎槍。
ディオルの火、土の二種混合魔法だ。
近接で攻めるサニアと遠距離で補助するディオル。
師弟の連携に、ドラゴンは完全に翻弄されている。
(しかし…。)
これで倒せるのであれば、最初に邂逅した時に倒せている。
ドラゴンはタフだ。まだまだ余裕だろう。長引けば、サニアの体力が尽きる。
「これでも、くらえ!」
中距離の位置にいるのは、見学の為だけではない。
前の戦いで、俺の斬撃はほぼダメージが通らないのは把握している。
アサルトフローで加速した一撃でさえ防がれた。
だからこそ、今度は魔法で攻める。
火球を立て続けに三発投げた。サニアに当たらないように。
それらは見事に命中したが、やはりというか、びくともしない。
ドラゴンは、こちらを完全に無視してサニアに夢中だ。
「…。」
一時期本当に嫌だった。
だから、炎が赤くなった時は、嗚咽した。嬉しくて。
(魔法を強化する魔法か…。)
炎の色が黒くなる。
「こっちのほうが、しっくりくるな。」
嫌う理由は、もう無い。
「黒火球!」
今までの鬱憤を晴らすように、叫びながら投げつける。
命中したドラゴンの頭が跳ねる。
アッパーがきれいに入ったようで、いい気分だ。
「まだまだいくぞ!」
骸骨の時のように連続で投げ続ける。
ダメージは入っている事だろう。
しかし当然、致命傷には程遠い。
「ねぇ!魔力は残ってる!?」
いつの間にか、サニアが隣にいた。
「あぁまだまだ余裕だ!」
ちょっと盛った。テンション上がってて、すまない。
「了解!」
サニアが俺の手を掴む。
何を!?と叫ぶ前に、サニアが叫ぶ。
「コントロールは任せるから!」
「!?」
魔力が、大量に流れてくる。
例えるなら、そうだな。
両手にそれぞれお皿を持っていて、右手のお皿に、でかい鳥の丸焼きを、急に、しかも乱雑に、二つ三つ乗っけられたような。そんな感じ。
(うおう…。)
転ばないように、落とさないように、態勢をなんとか立て直し。
「くらえ!」
一気に投げつける。
それは黒い炎の塊で、ドラゴンを包み込んだ。
「獄炎。いい火力だ。」
ディオルが隣にいる。
「対抗心が燃えるね。ほら、俺って熱い男だから。」
気の抜けた声でのたまうと、ディオルの手から黒い炎の奔流が放たれた。
ドラゴンに直撃したそれは、黒い火柱を上げる。
どう見ても俺達のより強いだろ。
「ほんと、むかつく。」
ぼそっと呟くサニア。
一瞬、微笑ましい空気を感じたが、ドラゴンは、それを、吹き飛ばす。
突風が吹き荒れる。
俺達は、ディオルが生やした土柱にしがみついて耐える。
ドラゴンは翼を広げていた。
(あ…やばい…。)
飛ばれたら、逃げられる。いや、それよりも。
ディオルの言葉が思い出される。
(人間を襲いにいくかもしれない。)
アサルトフローに魔力を込めようと構える。
「ここまでは順調だ。」
ディオルの声をかき消すように、その音は聞こえた。
硬い物と硬い物がぶつかる、甲高く響く音。
慌てて向き直る。発生源はドラゴン。その上。
「勇者!?」
ドラゴンの背中に、剣を突き刺し、暴れるドラゴンから振り落とされまいとしている勇者がいた。
「不意打ち失礼!僕は、うわっ。」
勇者がバランスを崩す。落ちはしなかったが、ドラゴンが浮かび上がる。
「あれは、不味いな。」
ディオルが呟く。
(もっと近づけば、アサルトフローで追いつける!)
駆け出す瞬間、思い切り背中を叩かれる。転ぶのを、耐える。
クレスタだ。
「翼に!これを!」
ベルトのポケットに入っているドリンクを引っこ抜かれ、代わりに別の何かを入れられる。
「レーラスを!お願い!」
サニアに手を掴まれる。今度は何をするのか解る。
「ああ!任せろ!」
アサルトフローが爆発し、俺は空中へと飛び出した。
あまりの勢いに体が回転してしまう。
尻もちをついているクレスタと、サニアを支えるディオルが見える。
(…この!)
何とか体制を立て直し、軌道の修正にも成功する。
黒い軌跡を描きながら、上昇していくドラゴンに追いついた。
俺は剣を構えなおし、勢いそのまま翼の付け根に突き刺した。
耳に聞こえる轟音は、ドラゴンか、風か、俺の悲鳴か。
どれだとしても、ドラゴンの上昇は止まらない。
俺は必死にしがみつく。
しがみつきながら、ポケットの中身を取り出す。
当たり前のように、知らない機械だ。
(今更、疑うわけがない!)
それを、翼に押し当て、スイッチを押した。押し続けた。
物の数秒で、変化が起きる。
ドラゴンの翼の羽ばたきが止まる。
ドラゴンの上昇が止まる。
世界が、止まる。
もしも、もう少し余裕が持てていて…。
上を見上げる事が出来たなら、満天の星空が出迎えてくれた事だろう。
もし、今が昼で、場所が死地で無かったら…。
地平線の彼方まで続く、初めて見る世界の姿に感動すら覚えたかもしれない。
でも、今、俺は、無限の闇の中にいる。
人々の光はあまりにもか細く、今にも飲まれそうだった。
そして、闇の中に落ちていく。
ドラゴンが、落ちていく。
抗えるわけがない。ただ流されていく事しか出来ない。
恐怖のあまり絶叫している事だろう。
鼻水とかで、顔はぐちゃぐちゃだ。
それでも、しがみついている手は離さなかった。
掴めたものを離すまいと、必死だった。
いつしか、風を感じていた。
いや、風自体は落下し始めてから、ずっと感じていたが、それとは別の風だ。
(これは…魔法?)
風圧自体は強い。ドラゴンの落下方向を変えるほどだ。
しかし、これは、
(何処かで感じた事のあるような…。)
優しい風だと、そう思った。
「安心安全フフゴケ商会。今後ともご贔屓に、お願いしま~す。」
背中を思い切り引っ張られ、思わず手を放してしまった。
(死…!)
しかし、俺の体は落ちる事はなく。
空に、浮かんでいた。
(なんだ…これ…?)
放心状態の俺は、何も出来ず、流されるままだ。
やがて俺の体は岩肌の斜面に当たるように止まった。
同時に巨大な何かが俺に被さる。
なんだこれはと、這い出る。布のようだが、触った感じ、違うのか?
(パラ…シュート?)
商品名だろうか、そう書かれているのを見つける。
(あの時か?)
『翼に!これを!』の前に、背中を叩かれたと思ったが、これを取り付けていたのか。
謎が解けて、それに伴い落ち着いてくる。
すると、他の事が気になってくる。
みんなは、ドラゴンは、どうなった?
「お疲れ様、ガットル。」
近くから声がした。
「勇者様!無事で、よかった。」
離れた所に見覚えのある布の塊が。
同じような状況のようだ。
「すいません、その…」
勇者を助けに行ったのに、自分の事で手一杯。
気にする余裕が全くなかった。
「最初の一撃の後、思いの外暴れられて、クレスタに渡された機械を、思わず落としちゃった。」
勇者が俺の手を取る。包むように。
「君がいなかったらドラゴンを止められずに、被害が出ていたかもしれない。
君は恩人だ。ありがとう。」
勇者がほほ笑む。めちゃくちゃ可愛い。他の人には男に見えるってマジ?
「ドラゴンも倒せたようでよかった。」
「倒せたのか!?」
「うん。あれ。」
勇者の指さした方へ進む。
そして気づいた。ここは風鳴洞窟の上だ。
「おおぅ…。」
巨大な穴が空いていて、そこからのぞき込む。
そこは俺達が戦っていた場所で、ドラゴンが寝ていた場所。
そこに、串刺しになっているドラゴンの姿があった。
「獄炎槍ってディオルは言っていたよ。
天、火、土の三種混合魔法だって。」
「なるほど…。」
確かに槍から、そしてドラゴンから黒い炎が出ている気がする。
あまり見ていたいものではないので、手近に腰を下ろす。
「倒せたんなら、よかったよ。」
ドラゴンの近くに、クレスタ達三人も見えた。みんな無事だ。
(そうだ。勇者に、伝えないと…。)
ドラゴンは倒せた。だから、今。
しかし、安心した為か、強烈な睡魔が襲ってきた。
疲れた俺に、抗う術はない。抵抗する間もなく、意識は飛んだ。
ドラゴンさん、いつもありがとうございます。
ちなみにこの世界におけるドラゴンは、伝説上の上位存在というほどではありません。
めちゃくちゃレアな、デカくて火を吹く翼の生えたトカゲです。
南の方の海には、ドラゴンの島もあるとかないとか、そんな感じ。