第77話 リガーナ~勇者と魔王~
~前回までのリガーナ~
魔王となった私は、殺されて、転生するを繰り返す。
そんな生活が嫌になり、逃げだした先で、ロストンと出会う。
ロストンは死んだ。ついでに私も死んだ。今度は、彼を助けたい。
私は初めて転生したいと思った。
初めて自分の意思で転生した。
今の私には目的がある。
私がロストンを助けるのだ。
家を出る前に手紙を書く。
今までの感謝と謝罪。両親宛てだ。
初めて転生能力に感謝したし、あなた達の期待には応えられないから。
前世、孤児院での生活はちゃんと覚えている。
盗んだり、密航なんて事はしない。
しなくてもすむ知恵がある。
ロストンが死ぬまで、後、四年。
私は一歩を踏み出した。
『おかしい…。』
ロストンがいない。
三年で、ロストンがいた町までやってきた。
そこから一年かけて、町中、それこそ近隣も含めて探したのに。
転生直前、ぼんやりだけど、世界を選ぶようなイメージがあった。
二つか、三つあって、選んだ世界には、確かにロストンがいる気がしたのに。
(この三年で、何かがあって、ロストンはいなくなった?)
分からない。
分かるのはロストンがいたお店はなくて、町の人は誰もロストンという名前を知らなかったという事。
(世界のどこかにはいるけど、この町には元からいない?)
世界の仕組みが、自分の天法がよく分からない。
(世界中を周ってロストンを探す?確かにロストンには会いたい。
けど、別の町に生まれ、別の人生を歩む彼は、私が助けたかったロストンなの?)
しかも、こうなった原因は不明なのだ。
これだとまた転生しても、ロストンに会える保障がない。
この後、どうしようかと、私は途方にくれる。
その時だ。
妙な気配を感じた。
何だか分からないけど、懐かしいような?
しかも町の中から感じる。
魔力と似ているが、違う…。
『天力だ!』
思わず叫んで、周りの人を驚かせてしまう。
一度そうだと思ったら、そうとしか思えない。
自分以外に、扱える人がいるなんて知らなかった。
興奮のまま、その人物に近づいて、正体が魔王討伐の旅の途中の勇者だと判明した。
もう私の警戒心はMAXだ。
私は魔王と呼ばれているし、しかも、ロストンの仇ではないか。
仲間が風邪を引いたらしく、何日か滞在するそうで。
私は勇者の情報を集める事にした。
天力の事が気になったし、場合によっては仇を討ってやるつもりだ。
勇者の名前は、ガットル。
十七歳で男性。得意魔法は黒炎。間違いなく天力を使っている。
仲間は三人。
アレストワ、サニア、ムンタ。
ちなみに風邪を引いたのはムンタだ。
評判は、中々いい。
魔物を積極的に退治してくれるみたいだし、町のお願いも断らないらしい。
結構いいように使われるお人よし。
そう判断した私は、更なる情報を求め、接触する。
結果、私は勇者パーティーの一員となった。
いや、もちろん仲間になる気なんてなかった。
天力、天法の話をしたら、めちゃくちゃ興味を持たれて。
凄い凄いと散々言われ、ちょっと気分がよくなったと言うか。
何一つほしい情報は増えなかったが、近くで観察するのは手だと思った。
ガットルの天法は、私の天法とは異なる。
魔法に、火や水の属性があるように、天法にも、属性があるのかもしれない。
ロストンに会えず、やる事もない。
だから今回は、勇者達と行く。
私以外の魔王に、興味がない訳じゃないし。
それは、冒険と呼ぶにふさわしい旅。
私は人生経験豊富な女。
当然魔法にも自信がある。
パパ達にも教わった。孤児院でライバル達と競い合った。
魔力量は引き継げなくとも、経験や技術は覚えてる。
しかも前世で魔物に殺された経験を活かし、この四年間も鍛錬を続けた。
ロストンも、護りたかった訳だし。
でもそんなもの、本物には届かない。
勇者パーティーは、覚悟が違った。
剣戟に、魔法の応酬に、命の奪い合いに。
私は圧倒されたのだ。
それに私は、なめていた。町のお願いを。
お願いって、なんか可愛いイメージがあった。
小さい子供が大人にせがむような感じ。
実際は、数十人規模の盗賊団の壊滅に、ドラゴン退治、暴走した古の魔導超兵器の破壊とかだ。
『私達の為に、死んでくれ!』を容赦なく言ってくる。
私とムンタが今回はダメだ、諦めようと説得しても、何だかんだ引き受けて、どうにかこうにか何とかする。
死線をなんどもくぐり抜け、私達は仲良くなった。
だから聞いてみた。
どうして、勇者なんてやっているのかと。
ガットルは答えてくれた。
五歳の時から天法が使えた自分は、特別な存在だと信じていた。
鍛錬を欠かさず続けていたが、ある日、本物の勇者と出会った。
一つ年上の少年で、名前はレーラス。
ブイブイ言わせていたガットルは、上下関係をはっきりさせる為、レーラスに決闘を挑んだらしい。
結果は敗北。
レーラスの子分となったガットルは、彼と共に行動し、だんだんとその魅力に惹かれていく。
何より、レーラスがキラキラした目で語ってくる、彼の父親の冒険譚が、歴代の勇者達の活躍が、ガットルも大好きだった。
レーラスが事故で亡くなった後、ガットルは勇者になった。
昔からの友達であるムンタと、自分と同じようにレーラスに惹かれていた、サニアとトワ。
三人と一緒に魔王討伐の旅へ。
レーラスと、歴代勇者達の想いを継いで。
町のお願いを断らないのは、それがガットルの思う勇者像だから。
きっとレーラスも、そういう勇者が好きだったはずだから。
ひねくれている私は、ガットルに続けて聞く。
『前に倒した、いえ、斬り殺した盗賊がいたじゃない?
彼にも事情があったはず、やむを得ない事情があって、盗賊になったはず。
そういう人は、助けないの?勇者様は?』
『…。』
『子供がいたかもしれないわ。その子の為に、どうしてもお金が必要で。
だから、だからかもしれないわ。』
『…。』
『ねえ、ガットル、答えてよ?』
『助けてあげたいなあ、そういう人は。』
『だったら…。』
『でも、その人を助けられるのは、勇者じゃないよ。』
『え…?』
『リガーナの言う通り、敵にも事情がある。勇者の敵になるほどの。
絶対に退けないし、止められない。俺達だってそうだから。』
『…。』
『対峙したという事は、もう殺るか、殺られるか。
助ける、助けないの段階は過ぎた後だよ。』
『でも、相手を昏倒させるだけとか、命を奪わなくても…。』
『もちろん、余裕があるなら、構わない。
でも、命を奪わないのと、助けるのはまた別だよ。
相手は死に物狂いの盗賊。昏倒させて放置は論外。
起きて、縛った縄とかを何とかしたら、また別の人を襲うだろうし。
同業者に殺されるかもしれない。
しっかり町まで連れていって、然るべき所に引き渡す。
その後に、助ける為の行動が必要になる。
そこまでの余裕は、俺達にはない。
そしてあの時は、町に戻る余裕もなかった。
急いで助けないといけない人がいた。』
『…。』
『だから理想は、盗賊になる前。隣人や家族が、助けてくれる事。
でも、それだって難しい。
不安や問題が多すぎて、余裕がない人で溢れている。
その問題の一つが魔物。そして、魔王。
だから勇者は、魔王を倒すんだ。』
『…。』
『あ、いや、何かカッコつけたけど、つまり勇者って万能じゃないんだ。
やってる事は退治屋と一緒。魔王を倒す退治屋が勇者ってだけで。
いやいや、退治屋の人を大した事ないって言っているんじゃなくて…。』
泣いている私に気づいたガットルが、慌てている。
どうしてロストンは、前世で殺されたのか、知りたかった。
ガットルがやったかは分からないけど、勇者の意見は参考になると思ったから。
ロストンを殺したのは勇者。
だから、ロストンが死んだのは勇者の所為だと思ってた。
でも、今の私は、ガットルの意見がもっともだと思ってしまう。
詳しい状況は知らないが、命のやりとりが始まったら、そりゃあ余裕なんてない。
その道を、歩ませてはいけないんだ。
助けられるのは、悪事を行う前。
つまり、私なら止められたかもしれない。
玩具やお菓子を我慢して、もっと早く向かっていれば。
ロストンが死んだのは、私の所為ではないか。
異変に気付いたトワがきて、ガットルが悪者になってしまったが、今の私にどうこう出来る余裕はない。
謝るのは後日にして、その日はそのままサニアに甘えた。
『俺達は勇者パーティーで、一刻も早く魔王を倒した方がいい。
でも、困っている人を助けたいから、結構寄り道してると思う。
そう、俺の我儘なんだ。
だからリガーナも、我儘言ったっていい。』
あれからガットルに変な気の遣われ方をされている。
気にしてないと言っているのに。
寧ろ悪いのはこちらなのに。
でもそこが、ガットルのいい所でもあるのだ。
私は好きだ。
他の三人の事も。
だから、魔王を倒して、皆と一緒に帰りたいと、思ってた。
思ってたのに。
『うっぐ、ぎっく、ひっぎ…。』
『うう…。』
眼下で、サニアとトワが泣いている。
魔王ディルガンツは強かった。
真っ先に私が殺されて、ムンタも殺られた。
最後はガットルが、相打ちの形で終わらせた。
私は幽霊になって、一部始終見守った。
幽霊にはたまになる。
条件は分からない。
私の他に幽霊はいない。
三人くらいいても、おかしくないのに。
二人と一緒に私も泣いた。
涙は出てないだろうけど。
結局は二人を残して、私は消えていく。
どうか二人が、立ち直って、また歩き出せますように。
気になる事を言っていた。
誰が?魔王が。
ガットルは天力の事を全く知らなかった。
でも魔王は知ってそうだったのだ。
ロストンも、ガットルも気になるが、やはりここは天力だ。
私は更に手際よく動き、二年で、魔王の居城に辿り着いく。
そこには知らない男がいた。
ディオルと言うらしい。
そして私は驚愕する。
魔王ディルガンツが死んでいた。
今はこのディオルが魔王らしい。
ディルガンツに色々聞く計画は、あっけなく瓦解した。
絶望していた私を、ディオルが慰めてくれる。
冷たそうに見えたが、良い人なのかもしれない。
自分がゾトの魔王クリガナンだと名乗ると、なんとディオルは私の事を知っていた。
天法についても詳しい。
なんなら、使えるそうだ。
私はディオルの弟子になった。
私の想像以上の事を教えてくれる。
天上の国。天法の使い方。魔法の使い方。四体の魔王。レーグの魔王の事。ゾトの魔王の事。
気付けば二年、経っていた。
なぜ気づいたか?勇者が来たから。
トワとサニアと、あと知らない二人の女性。まさかの女子パ。
トワが勇者で、レーラスを名乗っている事も、ガットルやムンタがいない事も、確かに気にはなったが。
もうこれくらいだと驚かない。
それだけ、意味のある二年だった。
恩に報いる為にも、ディオルの弟子として勇者達と戦う。
トワやサニアと戦いたくはない。
まだあの泣き顔は覚えている。
でもそれでも。
対峙したという事は、もう殺るか、殺られるか。
全力で戦って。
私達は負けた。
私もディオルも、勇者パーティーの名前の知らない二人も死んだ。
今度もトワとサニアだけ生き残り、また二人を泣かせてしまった。
ディオルと過ごした二年間で、思った事がある。
レーグの魔王の居城には地下があって、そこに研究資料が眠っていた。
だからもしかしたら、ゾトの魔王の居城。というか研究所には、地下があるのではないか。
パパ達は何も知らなさすぎる。
何百年も続く中、途中で伝達が途絶える事があったのだろう。
調べると、昔の研究者が住んでいた館を見つけた。
さっそく侵入して家探しだ。
魔法のレベルがかなり上達した私にとって、それは造作もない事で。
予想通りの地下室を見つける事に成功する。
パパ達に教えようとも思ったが、やめた。
彼らは研究を続けたいのではなく、結果がほしいのだ。
沢山の資料がある。
でもディオルの元で学んだ私は、動じない。
取捨選択をしていくと、私に必要な物は、ちょっと大きめな本、三冊だ。
(なら別に、こんな所で読まなくていいか。)
私は、ロストンやガットルや、ディオル、トワ、サニア、ムンタに会いに行く。
今度は誰がいて、誰がいないのか。
そんな事を楽しむ余裕まである。
その私も、これには驚いた。
レーラスがいる。本物の。男の子の。
旅に出るはずが、出られない人。
まだ二回しか経験していないのだけど、なんとなく、そういう星の下の人かと思っていた。
初めて見た彼は、中々爽やかな好青年。
ちゃんと勇者をやれているのが、感慨深い。
パーティーは、レーラス、トワ、サニア、ディオル。
(ん?ディオル?)
魔王では?と思ったが、私が最初に魔王に挑んだ時、ディオルは魔王ではなかったから、別におかしくはない。
天法あたりの話で、また仲間に入れてもらえる。
ガットルがいなくて不安だったが、ディオルが興味を持ってくれた。
ちなみに、今回もロストンには会えなかった。
そして今回の旅の、私の感想。
恐ろしく順調。
やってる事は、ガットルの時とほぼ一緒なのに。
ディオルもいるけど、レーラスが怖いくらい強い。
レアキャラなだけある。
旅に中々出れないけど、出れたら最強みたいな?
強すぎるから、今まで神様が制限をかけていたのかも。
まあお陰で本も読み進められるし、分からない所はディオルに聞けるから、個人的には助かるけども。
(大丈夫、ガットルはよくやってたよ。レーラスがおかしいだけだから。)
初めて私が出会った勇者様に同情する。
レーラスの伝説は続く。
『ディオルってさ。魔王だろ、実は。』
『…。実はそうなんだ。よく分かったな。』
バクー王国の宿屋の一室でそんな会話が炸裂した。
冗談だと思っていたサニアとトワも、会話が続き、何だか本当っぽいと感じてきて、青ざめていく。
更に私達三人を困惑させたのは、そのまま旅が続いた事。
そして魔王城にて、レーラスとディオルの一騎打ちが始まった事。
最後にレーラスが勝利して、ディオルと和解がなされた事。
よく分からないうちに、勇者パーティーは、全員生存で魔王討伐を終えていた。
冗談みたいな笑い話。
こんなに笑えたのは、初めてかもしれない。
打ち上げの後、私は皆と別れた。
実家に帰った。
やりたい事が出来たから。
世界を渡る力を得た後、訳も分からず殺された。
なんとかしようと、もがいてみたけど、どうにもする事が出来なくて。
逃げ出した先でロストンと出会い、彼を救うと心に決めた。
結局それは出来なくて、代わりに勇者と魔王を知った。
彼らの想いと、受け継がれてきた願いと歴史の事を。
全部抱えて戦った勇者と魔王はカッコ良かった。憧れた。
私も、そうなりたいと思った。
私だって魔王だから。
それに、思った事もある。
ロストンは優しい時と、悪事を働く時があった。
サニアも仲間の時と、敵の時は当然違う。
ディオルの語るディルガンツは、誰だそいつ状態で。
トワも、勇者ガットルと勇者レーラスの時で別人。
だからパパ達も。
二週目か三週目の私に、パパも根は優しい人なんだから我慢しろ、なんて言う奴がいたら、そいつの首をしめていた。
でも今の私は。
遠い昔の楽しかった思い出は、きっと嘘じゃないはずだと信じられる。
受け継いだ夢の重圧に苦しんで、研究成果の失敗を認めたくないだけなんだ。
(今は無理でも、いつか、私なら助けられる。
失敗なんかしていない事を証明し、そして、ゾトの研究者達の想いも叶えたい。
それがきっと、ゾトの魔王の使命。)
一年ぐらいで戦争が起きた。
知らぬ存ぜぬのスタンスだったら、いつのまにか巻き込まれた。
魔王の存在はデカいらしい。
追い詰められて、魔力の尽きた私は、焼け落ちる館の中で、先人達の記録を握りしめながら、死んだ。
リガーナに目的が出来て。
それの達成を目指す中で、魔王の使命に気づいたという話。




