第76話 リガーナ~夕焼けの思い出~
舞台の裏側の物語です。
*リガーナ視点*
『おめでとうリガーナ。これでお前は、ゾトの魔王だ。』
『まおう?パパ、魔王ってなに?』
『魔王は、そうだね。凄い魔法が使える存在で、皆の救世主だ。
リガーナは、それに成ったんだ。
初代ゾトの魔王に。』
『んー?むずかしいよー。』
『リガーナ、これは大変名誉な事なんだぞ。
パパ達、皆の夢だったんだ。そうだ、襲名しないと。』
『しゅうめい?』
『リガーナ、君は今日から、クリガナンだ。
開拓者として有名だった、ゾトの国を興した最初の王様の名前だぞ。』
『くり、え、なに?』
その一か月後、私達は殺された。
『パパ、信じて!私は未来から来たの!』
『…。』
『早く逃げないと!皆、殺されちゃう!』
パパは困惑しているようだった。
無理もない。私だって信じられない。
私自身の状況も、敵の目的も正体も、何も分からず、証拠もない。
『どうして…。』
呟くようにパパが言った。
『?』
変な気がした。
パパの様子が、おかしい。
『どうして、パパに記憶がないんだ?』
見た事のない顔だった。
パパは私の肩を掴む。
『い、痛いよ、やめて、パパ…。』
『お前が世界を渡れる事は知っている。その為にパパ達は頑張ってきたんだ。
でも、なぜだ?なぜ一人できた?パパは死んだんだろ?
なら、連れてこなくちゃダメじゃないか?』
『分からない…何を、言って、るの…?』
『そうか。教育前だったのか。
なら仕方ないね。安心して。今からちゃんと教えてあげよう。
時間がないみたいだから、急ごうか。』
パパに引きずられて、小さな小部屋に入れられた。
今までの生活は一変。
世界の事、パパ達の事、私の事。
毎日毎日、教えられた。
パパは、パパじゃないみたいで。
私の話は聞いてくれない。
『さあ、魔王クリガナン!私達を、新たな世界へ連れていってくれ!』
焼け落ちる家の中で、狂ったように笑うパパだった人を見ながら、私は死んだ。
私達の世界と異なる世界。
異世界なんてものがあって。
その一つに、天上の国と呼ばれる世界があるそうで。
天上の国は、全てにおいて私達の世界を上回っていて。
天上の国の気まぐれで、私達は生きていられる。
パパ達、ゾトの国の研究者達は、天上の国を観測するのがお仕事だった。
技術を盗むとか、弱点や交渉材料を探るとか、そういうんじゃない。
機嫌をそこねてないかだけを見てきた。ずっと長い間。
必要と思われた事。
でも、気が滅入るだけで退屈な仕事。
周りには内緒だから、理解もされない仕事。
ある時、天上の国から接触されたらしい。
当然のように見られている事はバレていた。
でも怒られたりはしなかった。
それどころか、二つの天法を教わったらしい。
それは私達が使う魔法とは全く別のもの。
魔力ではなく、天力を使うもの。
【転移】と【転生】。
世界を移動する力。
天上の国の意図はさっぱり分からず、当時の研究者達は絶望した。
天上の国は、神様みたいな力を、ポンっと渡せてしまうほど強大で。
渡した所で、私達の世界は脅威とも何とも思われない。
改めて叩きつけられた、圧倒的な実力差。
ゾトの研究者達は、天力の研究に必死になった。
なぜかって?
逃げる為に。
天上の国が攻めてきたら、別の世界に皆で逃げる。
世界中の人間まるごと、侵攻されていない世界へ転生させる。
こうして、ゾトの魔王計画が動き出す。
長い計画で、転移の技術が流出したりもした。
魔力を一時的に天力として扱う儀式なんかと一緒に。
後にマジュイメなんて集団が、異世界召喚を行えたのは、これの所為。
他にもやってる連中はいると思う。
異世界のものと思われる、道具やら思想やらは、世界の分岐になる事が多いから。
パパは怖かった。
だからママに相談した。
詳細はよく覚えていないのだけれど。
たくさん平手打ちをされて、首輪を着けられたのは覚えている。
パパの仕事仲間、研究員の人達に相談した事もあった。
何でかは忘れたけど、最後は袋叩きにされた。
何回か転生した後に知ったのだけど、パパの仕事先では所謂、派閥みたいなのがあった。
パパ達、とんずらする派と、今まで通りの仕事を続けようとする派の二つだ。
研究して出された結論がある。
人類全員の転生なんて不可能。方舟に乗れる定員は多くない。
寧ろ天上の国を刺激するかもしれない。偉い人達だけ逃げようなんて許さない。
そういう主張の人達が、私を殺す人達だ。
私は、てっきり完成したらしい転生の技術を盗もうとしている、どこかの権力者か、金持ちの仕業だと思っていたから、驚いた。
高い崖の先端で、私の腕を掴みながら、何かを喚く誰か。
本当に何を言っているのか聞き取れなかった。
泣いている。怯えている。怒っている。誰かの所為にしたがっている。
そのまま落とされて、私は死んだ。
パパもママもその仲間も嫌い。
優しいのに、豹変する。それが怖い。
私には天力があって、それがある限り転生できる。
いや、転生してしまう。無意識に。
死んだら次に目を覚ますのは十歳の冬。
パパにお前は今日からクリガナンだと言われた翌日。
だからパパ達を、どうすれば転生させられるかは分からない。
彼らの研究は途中だ。
私に天力を付与できて、浮かれて、それで終わりだと勘違いしている。
天力の使い方を知りたいのに、教えてくるのは今までの苦労話。
辛いのは分かったから、私だって助けたいから、優しい皆に戻ってほしいから、だから話を聞いてほしいのに。
理由までは知らない。分かる事は、研究機関としては、もうここは終わっている。
嫌になった私は逃げ出した。
世界を移動したんじゃない。
言葉通り。距離的に。
あてなんて無い。とにかくパパ達から離れたかった。
家のお金を適当に盗って、でも全然足りないから、密航して。
バレて、捕まって、逃げて。出来る限り遠くへ。
そうして辿り着いた町で、ロストンと出会った。
私の身なりは、酷かった。
お店に行くと、嫌な顔をされる事も多いほど。
実際、物を盗る事も多かったから、間違いじゃない。
お金なんてとっくに無いから。
そのお店は、最初は何を売っているのか分からなかった。
とりあえず入ってみたけれど、食べ物なんかは無さそうで。
どころか、商品が高い所にあって届かない。
ケースか何かに入っていて、手も触れられない。
だから、いつもはさっさと出るんだけど、私は見つけたの。
誰もいない休憩スペースを。
折角だから休むことにした。
イスに座って特に何もしない。閑古鳥が鳴いている店内は快適。
暫くすると、店員らしき人物がやってくる。
経験から、追い出されるのだと思った。
私としても、いつまでもいるつもりはないから立ち上がる。
『お待ちください。』
出ていこうと歩き出した所で声をかけられる。
(出ていくんだからいいでしょう?物も取ってない。)
睨みつけるように振り返る。
『こちら新商品の試作品です。』
差し出されたのは可愛いお人形だった。
黒色のフリル多めな服を着ている。
『服を着替えさせたり、小道具を持たせたりして楽しむものなのですが…。』
店員はカバンみたいのを持っている。
(え、ひょっとして、その中身、全部?)
『よろしければ、感想をお願いできますか?』
無精ひげのおっさん。いや、ひょっとしたら若いかも?
言葉遣いは丁寧っぽいけど、なんかぎこちない?
不味いのは笑顔だ。引きつってる。
それでも、その人は、ロストンは。
私に声をかけてくれて、私を追い出したりしなかった。
休憩スペースで日が沈むまで遊んで、用紙いっぱいに、裏面まで感想を書いた。
居座り続けたからか、途中事情を聴かれた。
気分が良かったから答えた。親に殺されそうになって逃げてきた、と。
全くの嘘ではない。
そしたらお礼という事で、お風呂に連れてってもらった。
安いけど、服も買ってくれた。ご飯を御馳走してくれた。
最後には泊めてくれる事になった。
同居人に驚かれたけど、私みたいな子は別に珍しくないらしい。
明日、孤児院に連れていくという事となり、私は久しぶりに屋内で眠った。
翌日行った孤児院は、いっぱい。
でも近くの町の孤児院にも聞いてくれるという事で。
それまではロストンの所でお世話になる事に。
私はロストンのお店に行って遊んだ。
相変わらずガラガラだったから、ロストンも一緒に遊んでくれる。
次の日も、そんな感じだったけど、終わり際に、偉い人がやってきて。
私と遊んでいる姿をバッチリ見られたロストンは怒られた。
私は嫌な予感がした。
楽しかった空気が、一瞬で変わる。
それはパパ達が、豹変する前のあの空気に似ていたから。
(ロストンも、変わってしまうかもしれない。)
仕事が終わって帰り道。
夕焼けの中、影二つ。
私は内心ビクビクだ。
ロストンの顔が見れない。
『なあ、リガーナ。』
息が止まる。足も。
『おっかねえ人だったよな。』
ロストンも足を止めた。
『もう、怒られたくねえよな。』
近づいてくる。私は動けず、ただ、縮こまる。
『だから、明日は、バレないように遊ぼうぜ。』
目線を合わせて言ってくれたロストンは。
髭面でキレイじゃないけれど、頼もしくて優しい顔だった。
一週間くらいして。
私は孤児院に入れる事になった。
ちょっと遠い場所だ。
護衛付きの馬車で何日もかかるから、気軽に会いには来れない。
でも絶対会いにくる。
そう約束して、私はロストンと別れた。
孤児院は良い所だった。想像していたよりずっと。
仲のいい友達も出来た。
まさか出来るとは思わなかった。
同年代の子と遊んだ事なんてないし、そもそも、私は人生経験豊富なのだ。
お子様となんて釣り合わない。そう思ってなめていた訳だけど。
彼らと彼女らは、逞しく、色んな事を知っていた。
そう、皆が凄いのであって、私の精神年齢が幼い訳ではない。
尊敬できる人物たちだ。
生活に慣れてくると、仕事もはじめる。
お給料だった貰えた。
自分の力でロストンに会いにいけるのは、いつ頃になるか計算してみる。
ざっと五年後くらい。
まぁまぁまぁ。
玩具やお菓子はほしいから、しょうがない。
楽しい新生活は続いていく。
四年経った。
ロストンの訃報を知った。
町一つが甚大な被害を受けたそうで、だから飛び交う情報量は多かった。
ロストンは悪い事をしていた連中の仲間で、だから勇者に成敗された。
町の人達が言う。
何て悪い奴なんだ。自業自得。死んでよかった。流石勇者様。
友達が、言う。
リガーナには関係ないよ。リガーナは友達だよ。
こっちにこれてよかったね。リガーナは騙されていたんだよ。
『…。』
間違ってないと思う。
皆の凄さは知っている。
優しさも。
でも。
だからこそ、悔しい。
私は、ロストンのいた町へ行く荷車に乗せてもらった。
ロストンは、ただの悪者じゃないって伝えたい。
きっと理由があるはずだから。
皆に分かってほしいから。
真実を知りに行く為の、旅の途中で私は。
魔物に襲われてあっけなく死んだ。
リガーナの過去編が続きます。
ロストンの同居人、特に考えていませんが、トバとか、そのあたりの男友達でしょう。
とりあえず、女性ではないでしょう。




