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継承英雄譚、担々  作者: シロクロゲンヤク
第二章 魔王クリガナンの祝賀

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第75話 魔王クリガナンの祝賀

~前回までのロストン~


俺達はリガーナに勝利した。

だから後は、皆で帰るだけ。…のはずなのに。

 地面が近づいた所で、鎖を伸ばす。


 木々に巻き付けてスピードを落とす。

 衝撃を殺しきれなくて、地面にぶつかった。


「っつう…。」


 もちろん俺が下になるようにした。

 痛かったがしょうがない。それに動けなくなる程でもない。


 拘束を解く。

 そしてリガーナの傷を見る。


 近くで見ると、酷い怪我だ。

 特に、出血が止まっていないのが気になる。


 眼帯を失くしたのは最悪だが、あったとしてもだ。

 俺の残りの魔力では、回復魔法ヒールの効果も弱いだろう。


 幸い川の流れる音が聞こえたから、リガーナを背負いそこまで移動する。


 バックからタオルを取り出し、水につける。

 彼女の汚れを拭いていき、傷口には包帯を巻く。


 魔法が使えなくなる事は経験したし、サニアにも言われたから、一式持っている。


 とはいえ限りがあるし、慣れてもいない。

 一刻も早く、合流したい所だが、闇雲に動く訳にもいかない。


 結局は見つけてもらえるまで待っているのが、一番いい。


 (トワは難しいだろうけど、魔王なら…、でも魔王もボロボロかもしれない。

 でもそこは、ムンタに回復魔法ヒールしてもらって…。)


「全く、酷いわね。」


 リガーナが口を開く。

 しまった、考え事をしていて、手元がくるったか?


「ご、ごめん。」

「ロストンじゃないわ。トワよ。」


 リガーナは口を尖らせながら言う。


「絶対殺しにきたわよね。二回もよ?

 普通なら余裕で死ねるわ。私は生け捕り狙いだったのに。

 全く、どっちが魔王よ。」


「いや、リガーナなら無事だと信じていたんだよ。実際生きてるし。」


「…やっぱりロストンも酷いわ。そもそも前提が変なのよ。

 ロストンは、私の期待に応えてくれるんでしょう?なんで私の敵になってるのよ?」


「リガーナに合わせたんだよ。

 サニアと決闘する前、言ってたじゃないか。

 任せろと言うからには、任せられる力をみせろって。

 だからリガーナを倒して力をみせたんじゃないか。

 俺達は君の期待に応えられる。信じてくれ。」


 転生直前に言ったし、リガーナも納得してたよな?

 魔王城を乗っ取って待ち構えていたじゃないか。


「…私が痛いのは嫌よ。

 ディルガンツをボコボコにすればよかったじゃない。」


 いや、それ、絶対納得しないだろ?

 『魔王ぐらい、私でも倒せるわ。一人でね!』とか言いそう。


「気に入らなかったか?」


 リガーナが静かになる。

 目を閉じて、じっくり考えて、それから答えた。


「スッキリしたわ。」


 声色がさっきまでと違う。雰囲気も。


 さっきまでは、駄々っ子だったが、今は、なんていうか、優しい。


「負けたー!って思うのは本当に久しぶり。

 こんなに魔力を使ったのも、全力を出したのも。

 前がいつだったか、思い出せないもの。」


「強かっただろ?俺達。」


「そうねえ…。

 トワの魔法は凄かった。でもそれ以上に殺意が怖かったわ。

 上手くコントロールしてくれてたのはサニアね。目立たない所で大活躍よ。

 ムンタは…。

 要所で活躍してたわね。トワの指を口に入れてるなんて思わなかったわ。

 魔王はしぶとかったし。

 ロストンは、どうかしら。

 補助的な動きが多かった気がするけど?」


「そう、俺は補助するのが得意なんだ。これからは、リガーナを補助する。」

「なるほど、そう返すのね。」


 ケラケラとリガーナは笑う。


 でもいつもより元気がない。顔色がよくない。

 でももう出来る事はやった。他は、もう…。


「うん。皆強いわ。強くて、いい仲間達ね。

 だから、ロストンにはここで生きてほしい。」


 『には』ってなんだよ。


「もちろん、リガーナも一緒だ。

 そうなんだ。いい奴らなんだよ。

 だから、ここで、皆で、リガーナの望みを叶えよう!」


 彼女の手を握る。強く。


「嫌よ。このまま、ここにいた時の事を考えたら恥ずかしいわ。

 私は、カッコよくありたいもの。」


 なんだよ。どちらかといえば、可愛い系だろ?

 クソガキムーブが多かったじゃないか。


「なら、皆に謝ろうぜ?

 ちゃんと謝れる大人はカッコイイんだ。」


 リガーナがまた笑う。

 ウケ狙いじゃない、こっちは真剣だぞ。


「そういうカッコよさじゃないのよ。

 わかるでしょう?

 もうすぐ魔王がやってくる。

 流石に逃げられる気がしないわ。

 捕まって、皆に囲まれて、お説教されて、ごめんなさいよ。

 それで許されて、慰められたら、泣いちゃうもの。

 嫌よ、だって私は魔王なのよ。

 だから逃げるの。あなた達が追ってこれない所まで。

 いい?私は、あなた達に殺されるんじゃない。

 回復魔法ヒールは使えるけど、使わないのよ。

 使わないで、転生するの。」


 ふざけるな。


 何だ、そのストーリーは。


 なぜ、俺達に殺される訳ではないと、念を押す?


 決まってる。俺達の、いや、俺の黒炎ブラックファイアーでリガーナが死ぬからだ。


 回復魔法ヒールが使えるけど、使えない?嘘だ。

 使えないんだろ?使える魔力が残ってないんだ。


 しかもだ。

 回復魔法ヒールも使えない魔力で、転生は出来るのか?


 (眼帯があって、もっと魔力量があれば…。)


 悔やんでも悔やみきれない。


「リガーナが転生するなら、俺も連れていってくれ。

 力は示したんだ、いいだろ?

 前世のトワに詫びるつもりで、頭だけ吹き飛ばすよ、黒炎ブラックファイアーで。」


 手を掴まれた。リガーナに。痛いぐらい強く。


「ダメよロストン。

 断言する。今回ロストンは魔力精神体にはなれないわ。

 奇跡の時間は終わったの。

 仮になれたとしても、連れていかない。」


 こんな必死なリガーナは、初めてだ。

 すまない。泣かせるつもりなんてなかったんだ。


 リガーナに捕まっている時に、彼女の目的を予想した。


 その一つが、転生は呪い、もしくは魔王の宿命説。

 他者を転生する時には魔力がいるが、自らの転生は、自分の意思と関係なく行われる可能性。


 でもそれは、あまりにも希望的観測だ。

 俺の好きなリガーナが、ここで消えてしまうかもしれない。


「なあリガーナ。回復魔法ヒールで傷を治してくれ。

 出来るんだろ、ならお願いだ。

 俺の魔力を全部使っていいから、回復魔法ヒールを頼む。」


 再びリガーナの手を掴む。彼女の右手を祈るように両手で。


「やーよ。もう決めたもの。

 それに言ったでしょう?回復魔法ヒールを使う魔力はあるの。

 もちろん、転生できる魔力もね。

 ほら見てこの腕輪。壊れず残った最後の一つ。

 魔力を回復できる腕輪よ。

 まあ、もう効果を使いきったから、捨てちゃうけど。」


 腕輪を左手で放り投げた。上手い具合に川に落ちて流されていく。

 どう見ても、証拠隠滅。


 (見くびるなよ。ニージュ商会で働いていたんだぞ。)


 腕輪型の魔装具は、効果によって彫り込まれる模様がある。


 さっきの腕輪は、マジックブーストと同じ模様。

 つまり魔力の回復ではなく、魔法の威力向上。


 しかも転生できる魔力とか言ったか?

 自分の転生にも魔力がいるのか?


 リガーナは俺を安心させようとして言ったのかもしれないが、寧ろ、最悪な事実を突きつけられてしまった。


 (…。)


 陽はとっくに沈んだ。星が、まばらに見える。


 暗くなりつつあり、いよいよ動くのも危険だ。

 そんな中、リガーナが口を開く。


「ねえロストン。仮によ。

 仮にこの世界を舞台にした演劇があったとしましょう。」


 いきなり、何を言い出すんだと、思った。


「主役が勇者とその仲間だとして、魔王を倒す為の冒険が、物語のメインね。

 だから演じられる事はないのだけれど、それでも町の人々には生活があるの。

 生きる為に悪さをする人だっているわ。

 その人をRさんと呼びましょうか。」


 Rさん?


「魔王と全く関係なく悪い事をしたRさんは、自分の都合で勇者と戦う。

 そしてあっけなく返り討ち。

 当然ね、相手は主役だもの。

 Rさんは、ただのやられ役。出番はこれで終わり。

 仕方がない事。分かっているの。」


 俺の、話?


「でもね、観客の一人は悲しかった。

 Rさんには、お世話になった事があったから。

 お店に迷い込んだ時、遊んでくれた。

 次の日も、その次の日も。

 そしたらRさんは怒られたわ。ちゃんと仕事をしろって。

 だから次の日は、バレないようにコッソリ遊んだ。

 それが凄く面白かった。」


 いや、俺の話じゃないな。Rさんは、誰だ?


「Rさんはね。正直、そんなに好かれないと思うわ。

 小悪党には違いないし、割とポカをするし、嘘つきだし、感情的で怖がりで、勢いで乗り切ろうとする癖がある。

 やられ役には違いない、けど他の側面もちゃんとあるの。

 観客の一人はね。

 そんなRさんの側面が、誰にも知られず物語が終わるのが悲しかったの。

 もっと物語が見たかった。

 それこそ、Rさんが主役のスピンオフなんかをね。

 そこではRさんが活躍するの!

 最強で無双するのは解釈違いで嫌だけど、出来る範囲で、仲間を頼りながら頑張るの。

 そしてついに、自分を苦しめた魔王を倒すの。

 あの、Rさんがよ?

 物語の序盤に、ぽっと出て、瞬殺されるザコキャラの。

 恐らく推しているのは、自分だけ。

 そんな彼が、ハッピーエンドを迎えられたとしたら?

 Rさんは、ああ見えて仲間思いだから、皆と一緒にお酒を飲むの。

 幸せそうに、大笑い。

 それはなんて、幸せな光景。」


 幻視する。


 それは、どこか安っぽい劇場での演劇だ。

 お客さんはたった一人の女の子。


 その子の為の、その子を楽しませる事が出来るかの劇。


 女の子は食い入るように観劇して、エンドロールで拍手する。

 無様な主演の幸せ面を見て、『おめでとう』と声をかける。


 前前世。俺は店番なんてほとんどしていない。


 女の子と遊んだ記憶はない。

 だから、間違いなく別人。


 Rさんは、パラレルワールドのロストンだ。


「私には使命がある。

 もはや誰の為かも分からないけど、それの為に生きている。

 だから演劇のスピンオフを作ろうなんてしない。いくら見たいと思っても。

 実現させるなんて大変で困難で、何より独りよがりだわ。

 でも目の前に、いい演者が現れて、演じてみたいなんて言い出したら、やってみたくなるじゃない。

 もちろん使命が優先。ムダに出来る時間なんてないもの。

 結局最後まで、そのスタンスだったんだけど。

 その演者がね、あまりにも一生懸命で。

 だから終わった後に、その子の為の舞台を、用意しちゃった。

 今だと、私はその演者のファンよ。」


 リガーナにマントをかけて抱き寄せる。

 冬空は寒いから。


 ほら、こんなにも身体が冷えている。


「ねえロストン。

 もう少しで見たかった世界になりそうなの。

 だからお願い。ここで、生きて。精一杯。

 そうしてくれたら。

 きっと私は、この世界にきて、よかったと思える。」


 焦燥感に負けた俺は、リガーナを背負う。

 そして走りだす。


「ロストンのハッピーエンドを見たいんだろ!

 なら、もうちょっと頑張れ!」


 躓いて、転びそうになる。

 なんとか踏みとどまって、走り続けた。


「見なくたって分かるわ。

 ロストンの笑顔は、ちゃんと覚えてる。

 だからゆっくり行きましょう?

 こんなに暗いんだもの。走ると危ないわ。」


「勝手なこというな!

 俺はまだ、今回転生させてもらったお礼をしていない!」


「そう、私は勝手なの。

 我儘で、やりたい事だけやってやったわ。

 立派な大魔王よ。

 だから喜んでよ。ようやく解放されるのよ?

 今回の転生は、あなたが幸せになって、それでチャラ。」


 遠くの空に、赤い光が見えた。きっと魔王だ。


「見えた!リガーナ!もう少しだ!」


 ムンタとサニアも一緒のはず。

 ムンタなら、回復魔法ヒールが出来る。


「例え演劇が終わっても、続くんだ!俺達の幸せは!」

「…ファンの一人として、あなたの、成功を…。」


 それからは会話をせずに走り続けた。


 赤い光は地面に降りた。


 たぶん、トワと合流したのだろう。


 まずはムンタに回復魔法ヒールを頼む。


 それから魔王に運んでもらう。


 サニアに金を借りて、酒場にある酒を、空にするまで飲んでやる。


 今までの冒険を振り返ろう。

 皆の功績を称え合おう。


 それで、今後の予定をたてよう。


 皆の姿が見えてきた。

 魔王の手元が明るくて助かる。


 ちゃんと四人、全員いる。

 首輪をつけていないトワなんて珍しい。


 さあ、もうひと踏ん張り。まだまだこれから。

 力を込める。


 最高のハッピーエンドを見せるんだ。

祝賀:祝って喜ぶこと。


ほぼ終了しましたが、第二章は、もうちょっと続く予定です。

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