第73話 魔王クリガナン~哀愁~
~前回までのロストン~
リガーナとの決戦が始まった。
リガーナの地竜の前に、俺達は一時撤退。
でも、トワには打開策があるみたいだ。
魔法の真髄とは?
いや、そもそも魔法とは?
昔から、度々話題に上がっては、似たような議論が繰り返され、頭のいい人達が本を出す。
曰く、過ぎた力。
曰く、無くても困らないもの。
曰く、この世界に住むものの証。
曰く、あるという事よりも、どう使うかが重要。
諸説諸々。答えは自分で見つけてくださいのスタンスだ。
異世界では、どういう扱いなのだろう。
やはり解釈も違うのだろうか。
そもそも、異世界で魔法と呼ばれるものが、ここと同じ魔法だとも限らない。
…難しい話は終わりだ。
考えても仕方ないし、考えるにしても今じゃない。
分かっている。しかし、それでも考えてしまったのは。
きっとこれから、トワの考える魔法の真髄が見れるから。
「!?」
魔王に思い切り引っ張られる。
「退くぞ!」
言われて気づく。
攻撃に夢中で分からなかった。
地面が、白く、輝いている。
想像よりも広範囲だ。
(これは、逃げられるのか?)
不安に思っていたら、魔王に抱えられて、俺は飛んだ。
より上空にトワを見つける。
竜もトワに気づいたみたいで、口を彼女に向けた。
トワは動かない。いや、ゆっくりと手を上げた。
「コズミックヘブンブラスター!」
大地に星が現れる。
湖面に映る星空のように。
その満天の星の一つ一つから、光が伸びる。
竜を突き刺し、貫いて。
なお天へ伸びるそれは、リガーナの天柱みたいに。
確かに見た事もない魔法。
前前世で遠くから見たディオルのものとも違う。
どうやっているのか見当もつかない。
説明されても、分からないだろう。
しかしあの竜の装甲を貫くほどの威力は、間違いなく強力で。
天を支える無数の白柱は美しい。
思わず見とれていると、それはド派手に爆発した。
「爆発はいらないんじゃないか!?」
爆風に飛ばされる俺達。
魔王が上手い具合に着陸してくれて事なきをえる。
竜は木端微塵で、流石にリガーナが心配だ。
トワとサニアとムンタも。
探しに行くため、一歩を踏み出した時だった。
魔王の拳が飛んでくる。
ビビった俺は硬直し、その脇を通過した拳は、何かに激突し、それをぶっ飛ばした。
「!?蜃気楼!」
吹っ飛んでいった何かは見えなかった。
だが分かる。リガーナが隠れて、奇襲してきたんだ。
「助かった!」
でもリガーナの位置を見失い、こちらが不利に。
違う、魔王には場所が分かるんだ。
「任せろ!」
ダン、と魔王は足で、地面を強く叩く。
温度が上昇し、視界が赤くなっていく。
見える。リガーナだ。
斧みたいのを振りかぶっている。
魔王が一歩前に出て、拳を振りぬく。
「ぐえ…。」
リガーナが地面に叩きつけられた。
嫌な音がした。顎が砕けたかも。
これで終わりだろう。
相手がリガーナでなければ。
「こいつ!」
石の鎖が魔王と俺に絡みつく。
魔王が炎竜を発動させる。
(この距離では俺も焦げそうだが、仕方ない。やってくれ!)
しかし石の鎖は解けない。
どころか、石の鎖の数は増し、魔王を炎ごと完全に包んでしまった。
ゆっくりとリガーナが起き上がる。
顔は血と泥で汚れているが、傷は見当たらない。
やはり回復魔法の精度が凄すぎる。
「驚いたわ。トワがあんな魔法を使うなんて。
でも実戦向きじゃない。発動まで時間がかかりすぎる。
だから失礼させてもらったわ。撃たれる前に、ガワだけ置いてね。
爆風で飛ばされた時に転んで擦りむいたから、そのお礼はこの後させてもらうわね。」
リガーナが動けない俺の前までやってくる。
(怯えるな…ハッタリでいい、笑うんだ。)
心は折れていないのだから。
「いいわね、ロストン。もっと私と遊びましょう。」
目の前が、真っ暗になった。
爆発音で意識が起きて、肌寒い風に目を開ける。
「…ここは?」
見覚えのある眺めだ。
地竜の背中の上。
覚えのない所は、突き出した柱にぐるぐる巻きにされている事と、魔力抑制装置が着けられているのと、隣にリガーナがいる事だ。
「おはようロストン。
見て、夕陽が綺麗よ。」
「ああ、思わず泣きたくなるな。」
「分かるわ!夕陽って、ノスタルジーな気持ちになるわよね!」
俺は夕陽に思い出はない。
日が沈む時間という事は、まもなくバクー王国に到着するという事で。
苦労して倒した竜が復活し、俺も囚われの状態だから泣きたいのだ。
「…魔王は?」
死んだのか?
「生きてるわ。大事な魔力源だもの。最後の一滴まで搾り取るんだから。」
まだ生きているが、危険な状態らしい。
「どうして、俺はこんな状況に?」
「話し相手がほしかったの。トワ達がしぶとくて、退屈だから。」
竜は頭と尻尾の先から、水弾と岩を発射している。
「こんな所にいないで、直接叩きに行けば、いいじゃないか。」
「ロストン。それはダメよ。
これ、強いというか厄介でしょう?戦ったから分かるわよね。
ここにいたほうが、安全で優位なの。
それを手放すのは舐めプよ!トワ達に失礼だわ。」
「…でも、トワ達がこの竜を倒せなくても、リガーナだってトワ達を倒せないんじゃないのか?」
「ふふん。甘いわよロストン。
勇者パーティーがバクー王国への侵攻を許すはずがない。
もう少ししたら、死に物狂いの玉砕覚悟でやってくるわ。
そこを叩く。
もしも、こなかったら…。」
リガーナが顔を近づけてくる。
笑っている、ように見えるけど。
「バクー王国とアッブドーメン共和国は素通りするつもり。
まあ攻撃してきたら、魔王らしく更地にしてやるけどね。
メインは王国よ。ここは徹底的にやるつもり。
ムンタの戦友も、サニアの家族も、トワの孤児院の皆、全員。
殺すわ。それでお終い。」
「どうして?」
「やるなら、とことんやらないと。
中途半端はよくない、全部味わわないと、逆に失礼よ。
…うん。悪くないわ。
大事な人を殺されて、三人がどんな顔をするか、興味はある。」
リガーナは向き直る。
突っ込んでくる光の巨人に。
「トワなら聞いてると思ったわ!
大丈夫、嘘は言ってない!私を止めないと、王国は滅ぶ!
大事な人を守る為には、私を倒さないとダメね!」
鎖が伸びる。太く、長く、幾重にも。
それを引きちぎりながら、巨人は近づく。
「あっはっは!」
頭と、尻尾から水流が放たれる。
巨人の両腕は吹き飛んで、のけぞった首に鎖が巻き付く。
仰向けに倒された巨人は、鎖でぐるぐる巻きにされ消えていく。
俺が言葉を発せずにいると、竜の背中からムンタが出てくる。
息はありそうだが意識はないのだろう、ぐったりしている。
彼は俺と同じように、伸びてきた柱に括られた。
彼の着けていたマジックストックは取られ、代わりに魔力抑制装置が着けられた。
(魔力抑制装置、全員分持ってそうだな。)
一体、どうやって手に入れているんだか。
「あと、二人ね。」
リガーナがまた寄ってくる。
「こうやってね。皆を捕まえるの。それで皆で王国へ帰りましょう。
途中でお腹が空くかもしれないわね。道中の町を襲おうかしら。
最後の旅ですもの。楽しくいきましょう!
美味しい物を食べて、絶景を眺めるの。」
リガーナが口を閉じる。俺の様子を伺っているのだ。
(俺は…。)
俺は諦めたくない。今、出来る事をする。
「頑張れ!トワ!サニア!頑張れ!」
声を張り上げる。
これが、俺の出来る最善。
リガーナは目を丸くする。
そしてケラケラ笑う。
俺は構わず、二人の応援を続けた。
「いいわ、ロストン。
そうよね。二人が勝ってくれないと、皆死んでしまうものね。
王国を徹底的に破壊したらね、次はあなた達よ。
一人ずつ、丁寧に殺してあげるわ。
最初は誰がいいかしら。トワは残したいわね、面白そうだから。
ムンタ、サニア、トワの順ね。
一日ごとなんて、どうかしら。
もちろん最後はロストンよ。
ああ、これでやっとあなたを研究できる。楽しみね。」
リガーナの声をかき消すように、声を出す。
(分かってる。もう確信している。)
リガーナは言った事は、実行する。そうしなければと、思っている。
二度、転生した俺はようやく解る。
リガーナの感覚は、皆と違う。
彼女にとって、ここはやり直しの出来る世界だから。
トワと仲よくしたかったら、別の世界で、出会いからやり直せばいい。
だからいくら嫌われても、別にいいんだ。
いや、よくないか。
嫌われて喜ぶ奴じゃない。
その証拠に、さっきからよく笑っているが、楽しそうじゃないんだ。
感情をストレートに出す奴だから、楽しそうに笑う時は分かりやすい。
この旅で、なんども見てきたんだ。
なら、なぜこんな事をする?目的はなんだ?
転生を、人生を周回してまで成し遂げたい事。
もしくは周回せざるおえない理由。
例えば、手に入れたいものがあり、希少な物だから、中々見つからない。
例えば、王様になりたくて、いい土地や人材を探している。
例えば、運命なんてものがあり、それを乗り越える為に、リトライし続ける。
例えば、これは呪いで、自分の意思とは関係なく転生してしまうから、解呪の方法を探している。
正確な目的は分からないけど。
多くの研究と考察、その為に多くの情報が必要なのは、分かる。
だからきっと今回も、情報収集の為の周回だ。
(そう、俺があの時、前前世の最後の時に、復讐したい、なんて言ったから。)
リガーナは思ったはずだ。
そのルートは辿ってないな、と。
辿っていないルートだから、新しい発見が、情報があるかもしれない。
『新しい世界を見せてくれる』と期待した。
だから彼女は、この世界では、悪なのだ。
そしてやってみて、やっぱり楽しくはなかった。
二度とやりたくないと、思ったかもしれない。
だからもう、やらなくてもいいように。
とことん進んで、最後まで進んで。
もしかしたら、の可能性を潰す。
この道が、なんの価値もないと知る為に。
二度と進まなくて、よくなる為に。
正しい情報を、得る為に。
(あの時、復讐ではなくて、違うアイディアが出せていたら。)
トワが殴られたり、サニアが蹴られたりは無かったかもしれない。
(…。)
そして前世で終わるはずだった、彼女の悪役ロールは、今度も俺の我儘で続いている。
(このままリガーナに殺されたら、本当にただのバカ野郎だ。)
これ以上、彼女の期待を裏切りたくない。
「負けるな!トワ!サニア!」
二人を信じるしかない。
「ねえ、ロストン。私は気づいたわ。」
リガーナが寄ってくる。したり顔で。
「ロストン、さっきから、トワとサニアの名前の他には、頑張れと、負けるな、しか言ってないわね?」
「…それが、どうかしたか?」
「変だと思ったのよ。語彙力がなさすぎる。
決めてあったんじゃない?
もし、私に囚われて、状況が分かる状態なら、私にバレずに情報を流す方法を。」
「…。」
「例えば、『頑張れ』が『はい』で、『負けるな』が『いいえ』とかね。
トワが魔法であなただけに声を届ける。
質問はそうね。
『リガーナはこちらの位置を把握できているか』とか、『大魔法の準備をしているか』とかね。
いいえ、あの子は賢いから、もっといい質問を思いついているのかも。
ロストンが必死に叫ぶのも、不自然さを隠す為でしょう?
でも、残念。バレちゃった。」
「それ、バレたらどうなんだ?」
「確かに、もう必要な情報は取られたかも。
この会話も聞かれていたら、以降は質問してこないだろうし。
今更ロストンの口を塞いでも、私が退屈になるだけだし。
考えたわね。隙のない作戦だわ。」
「…言いにくいんだけどさ。
そんな作戦はない。俺の語彙力が無いだけだ。」
ふん、とリガーナは鼻を鳴らして、そっぽを向いた。
しまった。ここは、「バレると思わなった。流石はリガーナだ。」と言って、機嫌をとるべきだったか。
真偽の証明なんて出来ないんだから。
「でも一つ、正解があって。」
リガーナが再びこちらを向いた。よし、興味は引けている。
「トワが音制御を使っているのは正しい。
俺の声は、二人に届いている。」
「ほら、やっぱり!」
「作戦じゃないんだ。俺は捕まる気なんてなかった。」
「じゃあ、何の為に?」
きょとんとした顔。本当に分からないんだな。
なら、ちゃんと教えよう。
「俺は、俺達は…」
『ありがとうロストン、私達。』
「頑張ってる時に、応援されると、力が出るんだ。」
『頑張るからね。』
だから、折れずに、絶望せずに、いられる。
次回、決着…?




