第72話 魔王クリガナン~本気~
~前回までのロストン~
決戦前の夜を越え、魔王城前までやってきた俺達。
リガーナは、ちゃんと待っていた。
彼女を中心に、山のようにデカい土のドラゴンが現れる。
「地竜。ドラゴンフォームの一種だが、あれはやばいな!」
魔王が興奮気味に話す。楽しそうでよかった。
逃げた俺達は、隠れて様子を伺っている状態。
地竜の進行スピードはゆっくりだ。
レーグ半島を北上している。
つまり放っておくと、バクー王国に侵攻する事となる。
通った跡は、文字通り草一本残らない。
おそらく吸収しているのだ。
魔力を物体ごと。
それで自らを維持している。
「リガーナを侵略者に出来ない。
レーグ半島内で倒す必要がある訳だけど、どうする?」
想定とは全然違う戦いとなった。
あれだけ的が大きいと、同士討ちの心配はなさそうだが。
「生半可な攻撃だとダメージは通らないだろうね。
ムンタとロストンと、サニアも厳しいかもしれない。」
「まじか…。」
逃げる時、魔王が火球を何発か撃ちこんでいた。
全く効いている様子はなかったから、間違っていないかもしれない。
ムンタの最大の攻撃手段は水巨人による格闘だ。
巨大な水の塊は脅威になるはずなのだが、今回は相手がデカ過ぎる。
サニアの火剣も分が悪い。
あのデカさは数回斬りつけた程度ではどうにもならないだろう。
なにより射程の問題がある。どうやって近づく?
この問題は俺にも当てはまる。
黒炎の有効射程まで近づく前に、やられてしまう。
そうなると、最大魔法は、光射。
確かに、心許ない。
デカい相手は、骸骨竜で一度だけ経験している。
でも逆に言えば一度しかない。
あれから時間が経ち、俺の使える魔法も増えたが、有効そうな魔法はない。
(ここまで厄介だとは。)
旅をして俺達の弱点を知り、そこを攻めてきた?
いや、そこまで考えてないな。
単純に、派手で強力な魔法を使ったんだ。
俺達との戦いを、楽しむ為に。
「魔王には、期待していいよね?」
「魔王の名に恥じない、グレートでフレイムなパンチを見せてやるよ。」
「私も大丈夫。腕輪を借りて、黒火剣で、斬れるまで斬るから、斬れるよ。」
頼もしいんだが、二人とも、いつもより知能が下がってないか?
まあ、バカみたいな奴を相手にする訳だから、こんなもんか。
「なら、取り付く必要があるね。
ムンタ、あれの動きを止められる?」
「俺も腕輪を借りて、光巨人なら、…五秒は持たせてみせる。」
「見た所、脚に分解、吸収機能がある。
首か、胴体を掴んで、転ばないように注意して。
無理をしない、見栄を張らないを心がけて。」
ムンタは頷いた。
「動きが止まったら、サニアを乗せた魔王に突っ込んでもらう。
サニアは背中に降りて、尻尾か首を狙ってほしい。
サニアもムンタと同じで、まずは死なない選択をして。
重要なのは落ちない事、落ちたらまず助からない。
僕は嫌だからね。サニアがバラバラになっちゃうのは。
魔王は好きにしていいよ。
ただ、サニアが乗っているのは忘れないで。
大技を出した後は、サニアを確認してほしい。
落ちそうなら助けて。」
サニアは頷き、魔王は笑顔でサムズアップした。
「ロストンは僕と上空待機。
皆の援護をするよ。
僕も君も両手を使いたいから、石鎖を使う。
背中合わせで固定するよ。
眼帯はしていて。落ちた時、水壁を使えるように。」
「分かった。一蓮托生だな。」
問題ない。俺が石で飛ぶより安全だ。
「俺は、初動の後は援護でいいのかい?」
ムンタはストレッチを始めている。
「そうだね。でも待機寄りがいいかな。
魔力の回復に努めつつ、危ない味方がいたら救ってほしい。
いけると思ったら、僕はとっておきを使う。
その時は声をかけるから、サニアを救出し、魔王と共に離れてほしい。」
「…トワのとっておきを初手から撃つのはダメなのか?」
「発動まで時間がかかるし、義手を少し慣らしたい。
あんなのが相手だから、きっと持久戦になる。出来る事から試していこう。」
「俺も遠距離は火球くらいしかないからな。近距離戦のほうが得意なんだ。
赤髪の嬢ちゃんの言う通りでいいと思うぜ。」
「…俺だって文句はないさ。」
マジックストックに魔法を入れて。
俺達は移動を開始する。
代案なんて出てこない。このまま行く。
「ムンタ、掛け声ある?最後の決戦だよ。」
配置について、トワが言った。
「そうだな。じゃあロストン君、よろしく頼む。」
「え?」
「勇者パーティーのリーダーは俺だ。
でも魔王との戦いは終わったんだ。
今の俺達は、リガーナ君を助ける為のパーティーで、だから、リーダーは君だよ。」
「ああ、確かに。ならロストンだね。」
「ロストンよろしく。」
急に振るじゃないか。
バン、と背中を叩かれた。
「…。」
魔王は俺を見なかった。名前だって呼ばない。
でも彼なりに、折り合いをつけようとしているのかもしれない。
右手を構えて、皆を見る。
頷いてくれたり、笑顔だったり。
全く、いい仲間を持ったものだ。
「勝つぞー!!」
「「「おー!!」」」
拳を突き上げる。皆で、同じ方向に。
「リガーナにも、挨拶しようか。」
トワがにやりと笑った。
「宣戦布告をする感じか?」
「何て言うかは、任せるよ。」
トワと背中を合わせて、石の鎖で繋ぐ。
落ちないように、落とさないように。
「僕の攻撃が合図だ。頼むよムンタ。」
「ああ。勇者に恥じない活躍を約束する。」
「トワ、またね。ロストンも。」
「おう。」
身体がゆっくり浮き上がり、一気に上空まで飛ぶ。
横を見ると、リガーナが、地竜がいる。
「リガーナはどこだ?」
「わからないね。頭、かな?」
警戒しながら近づいていく。
「リガーナ!勝負だ!俺達が勝つ!」
竜の目が光った気がする。
口が勢いよく開いた。
「さあ、行くよ!」
俺達は加速して、放たれた水流を躱す。
トワは身体を捻りながら、俺の手を掴む。同時に急激に寒くなる。
白く輝く強風が、竜に激突した。
(いきなり輝吹雪…。)
片手で放たれたそれは、王国の時よりも威力が増しているようだった。
衝撃で宙を舞う俺達。
トワは直ぐに体勢を立て直し、回り込む。
(大丈夫、鎖はちゃんと機能している。)
白く輝く巨人が現れて、竜の前に立つ。
水巨人より一回り大きい。
しかし竜と比べたら、胴体より小さい。
巨人は胴体に手を突いて踏ん張る。
それでも勢いは止まらない。引きずられてしまう。
身体をぶつけるようにするが、変わらない。
「厳しいか!?」
「いや、見て!」
光巨人の輝きが増す。
ムンタの雄叫びが聞こえた気がする。
巨人が大きくなっていく。
「ロストン!」
「分かった。」
援護射撃の開始だ。
光射を撃ちまくる。
竜の進行スピードが、徐々に弱くなっていく。
そしてついに、動きを止める。
爆発音が轟いて、赤い光が、いや閃光が、竜に突き刺さる。
豪快な、魔王による突進。
光の巨人は横に飛び、侵攻線上から離れると、泡のように消えた。
同時に、竜の進行が再開する。
「成功だ!サニアは無事だ。首元にいる。
ムンタも!無事離脱できた。」
俺は実況する。トワは見ている余裕はない。
彼女は今、攻撃を必死に避けている。
さっきから竜の頭に狙われていて、水弾が飛んでくるのだ。
「魔王は!?」
「炎竜を発動して、尻尾に行った!
掴んで、引きちぎろうとしているが、無理そうだ!
サニアが、攻撃を開始した!
敵はきっと細かい動きは出来ないんだ。
振り落とされる心配は、今はなさそうに見える!」
激しく揺れるから、狙いをつけるのが難しい。
同士討ちは、気を付けないと。
「ロストン、頭だ!僕達はこのまま、頭を引き受ける!ぶっ壊すよ!」
「分かった!」
トワが首の下へ回る。
これなら上に撃てるから、サニアを気にせず、思い切りやれる。
「くらえ!」
出し惜しみはしない。魔力が尽きるまで撃つ気で放つ。
トワは、円を描くように上へ行く。
止まったら的だから仕方ない。ちょっと休憩だ。
ふと、頭にリガーナがいるみたいな話をしたのを思い出した。
なら頭をぶっ壊すのはダメじゃないか?
トワに言おうとした直前、突然の急降下。
口を閉じていてよかった。舌を噛んでいたかもしれない。
もちろん急降下したのは理由がある。
竜の口がサニアに向いている。
自分ごとサニアを攻撃するつもりだ。
体勢的に、サニアを掴むのはトワだから、俺は頭を攻撃する。
標準をずらしたり、発射を遅らせる為だ。
リガーナが頭にいてもいなくても。これくらいじゃあ、頭は壊れない。
「サニア!」
「トワ!」
トワはサニアを抱える。お姫様抱っこ。いつかの骸骨竜を思い出す。
直後、水弾が竜の背中を打つ。
「手応えはどうだい?」
「もっと頑張る。まだ頑張れる!」
爆音が轟いた。
竜の身体が揺れる。
魔王だ。
サニアが離れたから、大技を叩き込んだのだろう。
ブラックグレートフレイムパンチ。
渡したマジックストックは問題なく使えている。
しかし、消耗が激しかったのか、炎竜が消える。
そして、ゆっくり後退していく。
「一度退くよ。」
トワが進路を変えた。
依然進行中の竜を横目に俺達は再び集まった。
音制御があるから、合流はスムーズに行える。
「個人的には上手くいっている、と思うけど?」
魔法の水を飲む。コップなんてないから直飲みだ。
マジックストックを一度返してもらって、魔法を入れ直す。
「確かに、こちらは外傷を受けず、相手にダメージを与えている点では、上手くいっているね。」
しかしトワの表情は暗い。
「希望的観測だなあ。ありゃ、まだ元気だぞ。」
なんでこいつは嬉しそうなんだ。魔王は変な奴が多いらしい。
「もう一度は難しいね。魔力の消耗は思ったより大きいよ。」
「…すまない。」
ムンタはへたり込んでいる。
活躍を称えたい所だが、相手が化け物過ぎて、成果が霞む。
「リガーナの魔力は尽きないの?」
サニアの疑問は俺も感じている。
いくら魔力を回収しているからといって、あんな魔法を長時間維持は無茶なはず。
「魔王の領地だぜ?魔力量には自信があるさ。
金髪の嬢ちゃんは、魔力の扱いがビビるほど上手い。」
なるほど、回収量も凄いって事か。
リガーナが、決戦の地に魔王領を選んだのは、雰囲気の為だけじゃない。この辺りが理由だろう。
「バクー王国の国境線までに、挑戦できる回数は、多めに見てあと二、三回。
挑戦回数を削って回復に回してもいい。
なんなら俺が一人で行ってきたっていい。
時間稼ぎくらいできるさ。」
ガハハと笑う魔王は頼もしいが、おそらく、厳しいのだ。
あの魔王が時間稼ぎと言っている。
一人では勝てないと認めている。
(いよいよ、不味いか?)
しかし、諦めたりはしない。
リガーナに約束したのだから。俺達は勝つと。
「…いい顔じゃないか、ロストン。何か策があるのかな?」
「…無い。でも諦めない心はある。」
「いいね。…なら、僕がいこうかな。」
トワが一歩前に出る。力強さのある一歩だ。
「赤髪の嬢ちゃんは、なんとか出来るのかい?この状況を。」
魔王は嬉しそうに笑う。
「とっておきを使うよ。
魔力量が多くて嬉しいのは、魔王だけじゃないって事を見せる。」
「もう、慣らしはいいんだな?」
トワは不敵に笑う。右手を上げる、義手を見せるように。
「想像以上、納得の値段だよ。なんで不人気なのか、理解に苦しむね。」
トワは全員を見ながら続ける。
「魔王とロストンは遠距離から狙撃して、注意を引いておいて。
音制御で声をかけるから、そしたら逃げて。
地面が光るから、その外まで。
ムンタとサニアは、今回はお休み。
だけど、ついてきて。
この魔法の後、地竜を破っても、戦いは続く可能性はあるからね。
その時は、きっと力が必要になる。」
「やれるのか、あれを?」
あの魔法を。
期待と共に、マジックブーストと、光射を入れたマジックストックをトワへ。
「強力で、複雑で、難解で、綺麗で、ド派手なやつを見せてあげるよ。」
腕輪を着けながら笑うトワは、リガーナみたいだ。
「さあ、第二ラウンドの開始だ。」
第一ラウンド、終了。
今までで、一番長い戦い。
それが、ロストンと仲間達にとっての、ラスボス戦。




