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継承英雄譚、担々  作者: シロクロゲンヤク
第二章 魔王クリガナンの祝賀

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第72話 魔王クリガナン~本気~

~前回までのロストン~


決戦前の夜を越え、魔王城前までやってきた俺達。

リガーナは、ちゃんと待っていた。

彼女を中心に、山のようにデカい土のドラゴンが現れる。

地竜グランドドラゴン。ドラゴンフォームの一種だが、あれはやばいな!」


 魔王が興奮気味に話す。楽しそうでよかった。


 逃げた俺達は、隠れて様子を伺っている状態。


 地竜グランドドラゴンの進行スピードはゆっくりだ。


 レーグ半島を北上している。

 つまり放っておくと、バクー王国に侵攻する事となる。


 通った跡は、文字通り草一本残らない。


 おそらく吸収しているのだ。

 魔力を物体ごと。


 それで自らを維持している。


「リガーナを侵略者に出来ない。

 レーグ半島内で倒す必要がある訳だけど、どうする?」


 想定とは全然違う戦いとなった。

 あれだけ的が大きいと、同士討ちの心配はなさそうだが。


「生半可な攻撃だとダメージは通らないだろうね。

 ムンタとロストンと、サニアも厳しいかもしれない。」


「まじか…。」


 逃げる時、魔王が火球ファイアーボールを何発か撃ちこんでいた。


 全く効いている様子はなかったから、間違っていないかもしれない。


 ムンタの最大の攻撃手段は水巨人ウォータージャイアントによる格闘だ。

 巨大な水の塊は脅威になるはずなのだが、今回は相手がデカ過ぎる。


 サニアの火剣ファイアーソードも分が悪い。

 あのデカさは数回斬りつけた程度ではどうにもならないだろう。

 なにより射程の問題がある。どうやって近づく?


 この問題は俺にも当てはまる。

 黒炎ブラックファイアーの有効射程まで近づく前に、やられてしまう。

 そうなると、最大魔法は、光射シャインショット

 確かに、心許ない。


 デカい相手は、骸骨竜スカルドラゴンで一度だけ経験している。

 でも逆に言えば一度しかない。


 あれから時間が経ち、俺の使える魔法も増えたが、有効そうな魔法はない。


 (ここまで厄介だとは。)


 旅をして俺達の弱点を知り、そこを攻めてきた?


 いや、そこまで考えてないな。

 単純に、派手で強力な魔法を使ったんだ。


 俺達との戦いを、楽しむ為に。


「魔王には、期待していいよね?」

「魔王の名に恥じない、グレートでフレイムなパンチを見せてやるよ。」


「私も大丈夫。腕輪を借りて、黒火剣ブラックファイアーソードで、斬れるまで斬るから、斬れるよ。」


 頼もしいんだが、二人とも、いつもより知能が下がってないか?

 まあ、バカみたいな奴を相手にする訳だから、こんなもんか。


「なら、取り付く必要があるね。

 ムンタ、あれの動きを止められる?」


「俺も腕輪を借りて、光巨人シャインジャイアントなら、…五秒は持たせてみせる。」


「見た所、脚に分解、吸収機能がある。

 首か、胴体を掴んで、転ばないように注意して。

 無理をしない、見栄を張らないを心がけて。」


 ムンタは頷いた。


「動きが止まったら、サニアを乗せた魔王に突っ込んでもらう。

 サニアは背中に降りて、尻尾か首を狙ってほしい。

 サニアもムンタと同じで、まずは死なない選択をして。

 重要なのは落ちない事、落ちたらまず助からない。

 僕は嫌だからね。サニアがバラバラになっちゃうのは。

 魔王は好きにしていいよ。

 ただ、サニアが乗っているのは忘れないで。

 大技を出した後は、サニアを確認してほしい。

 落ちそうなら助けて。」


 サニアは頷き、魔王は笑顔でサムズアップした。


「ロストンは僕と上空待機。

 皆の援護をするよ。

 僕も君も両手を使いたいから、石鎖ストーンチェーンを使う。

 背中合わせで固定するよ。

 眼帯はしていて。落ちた時、水壁ウォーターウォールを使えるように。」


「分かった。一蓮托生だな。」


 問題ない。俺がストーンで飛ぶより安全だ。


「俺は、初動の後は援護でいいのかい?」


 ムンタはストレッチを始めている。


「そうだね。でも待機寄りがいいかな。

 魔力の回復に努めつつ、危ない味方がいたら救ってほしい。

 いけると思ったら、僕はとっておきを使う。

 その時は声をかけるから、サニアを救出し、魔王と共に離れてほしい。」


「…トワのとっておきを初手から撃つのはダメなのか?」


「発動まで時間がかかるし、義手こいつを少し慣らしたい。 

 あんなのが相手だから、きっと持久戦になる。出来る事から試していこう。」


「俺も遠距離は火球ファイアーボールくらいしかないからな。近距離戦のほうが得意なんだ。

 赤髪の嬢ちゃんの言う通りでいいと思うぜ。」


「…俺だって文句はないさ。」


 マジックストックに魔法を入れて。

 俺達は移動を開始する。


 代案なんて出てこない。このまま行く。


「ムンタ、掛け声ある?最後の決戦だよ。」


 配置について、トワが言った。


「そうだな。じゃあロストン君、よろしく頼む。」

「え?」


「勇者パーティーのリーダーは俺だ。

 でも魔王との戦いは終わったんだ。

 今の俺達は、リガーナ君を助ける為のパーティーで、だから、リーダーは君だよ。」


「ああ、確かに。ならロストンだね。」


「ロストンよろしく。」


 急に振るじゃないか。

 バン、と背中を叩かれた。


「…。」


 魔王は俺を見なかった。名前だって呼ばない。

 でも彼なりに、折り合いをつけようとしているのかもしれない。


 右手を構えて、皆を見る。


 頷いてくれたり、笑顔だったり。

 全く、いい仲間を持ったものだ。


「勝つぞー!!」

「「「おー!!」」」


 拳を突き上げる。皆で、同じ方向に。


「リガーナにも、挨拶しようか。」


 トワがにやりと笑った。


「宣戦布告をする感じか?」

「何て言うかは、任せるよ。」


 トワと背中を合わせて、石の鎖で繋ぐ。

 落ちないように、落とさないように。


「僕の攻撃が合図だ。頼むよムンタ。」

「ああ。勇者に恥じない活躍を約束する。」


「トワ、またね。ロストンも。」

「おう。」


 身体がゆっくり浮き上がり、一気に上空まで飛ぶ。

 横を見ると、リガーナが、地竜グランドドラゴンがいる。


「リガーナはどこだ?」

「わからないね。頭、かな?」


 警戒しながら近づいていく。


「リガーナ!勝負だ!俺達が勝つ!」


 竜の目が光った気がする。

 口が勢いよく開いた。


「さあ、行くよ!」


 俺達は加速して、放たれた水流を躱す。


 トワは身体を捻りながら、俺の手を掴む。同時に急激に寒くなる。

 白く輝く強風が、竜に激突した。


 (いきなり輝吹雪シャインブリザード…。)


 片手で放たれたそれは、王国の時よりも威力が増しているようだった。


 衝撃で宙を舞う俺達。

 トワは直ぐに体勢を立て直し、回り込む。


 (大丈夫、鎖はちゃんと機能している。)


 白く輝く巨人が現れて、竜の前に立つ。


 水巨人ウォータージャイアントより一回り大きい。

 しかし竜と比べたら、胴体より小さい。


 巨人は胴体に手を突いて踏ん張る。

 それでも勢いは止まらない。引きずられてしまう。


 身体をぶつけるようにするが、変わらない。


「厳しいか!?」

「いや、見て!」


 光巨人シャインジャイアントの輝きが増す。

 ムンタの雄叫びが聞こえた気がする。


 巨人が大きくなっていく。


「ロストン!」

「分かった。」


 援護射撃の開始だ。


 光射シャインショットを撃ちまくる。


 竜の進行スピードが、徐々に弱くなっていく。

 そしてついに、動きを止める。


 爆発音が轟いて、赤い光が、いや閃光が、竜に突き刺さる。

 豪快な、魔王による突進。


 光の巨人は横に飛び、侵攻線上から離れると、泡のように消えた。


 同時に、竜の進行が再開する。


「成功だ!サニアは無事だ。首元にいる。

 ムンタも!無事離脱できた。」


 俺は実況する。トワは見ている余裕はない。

 彼女は今、攻撃を必死に避けている。


 さっきから竜の頭に狙われていて、水弾が飛んでくるのだ。


「魔王は!?」

炎竜フレイムドラゴンを発動して、尻尾に行った!

 掴んで、引きちぎろうとしているが、無理そうだ!

 サニアが、攻撃を開始した!

 敵はきっと細かい動きは出来ないんだ。

 振り落とされる心配は、今はなさそうに見える!」


 激しく揺れるから、狙いをつけるのが難しい。

 同士討ちは、気を付けないと。


「ロストン、頭だ!僕達はこのまま、頭を引き受ける!ぶっ壊すよ!」

「分かった!」


 トワが首の下へ回る。

 これなら上に撃てるから、サニアを気にせず、思い切りやれる。


「くらえ!」


 出し惜しみはしない。魔力が尽きるまで撃つ気で放つ。


 トワは、円を描くように上へ行く。

 止まったら的だから仕方ない。ちょっと休憩だ。


 ふと、頭にリガーナがいるみたいな話をしたのを思い出した。

 なら頭をぶっ壊すのはダメじゃないか?


 トワに言おうとした直前、突然の急降下。


 口を閉じていてよかった。舌を噛んでいたかもしれない。


 もちろん急降下したのは理由がある。


 竜の口がサニアに向いている。

 自分ごとサニアを攻撃するつもりだ。


 体勢的に、サニアを掴むのはトワだから、俺は頭を攻撃する。

 標準をずらしたり、発射を遅らせる為だ。


 リガーナが頭にいてもいなくても。これくらいじゃあ、頭は壊れない。


「サニア!」

「トワ!」


 トワはサニアを抱える。お姫様抱っこ。いつかの骸骨竜スカルドラゴンを思い出す。


 直後、水弾が竜の背中を打つ。


「手応えはどうだい?」

「もっと頑張る。まだ頑張れる!」


 爆音が轟いた。

 竜の身体が揺れる。


 魔王だ。

 サニアが離れたから、大技を叩き込んだのだろう。


 ブラックグレートフレイムパンチ。

 渡したマジックストックは問題なく使えている。


 しかし、消耗が激しかったのか、炎竜フレイムドラゴンが消える。

 そして、ゆっくり後退していく。


「一度退くよ。」

 トワが進路を変えた。




 依然進行中の竜を横目に俺達は再び集まった。


 音制御ノイズコントロールがあるから、合流はスムーズに行える。


「個人的には上手くいっている、と思うけど?」


 魔法のウォーターを飲む。コップなんてないから直飲みだ。


 マジックストックを一度返してもらって、魔法を入れ直す。


「確かに、こちらは外傷を受けず、相手にダメージを与えている点では、上手くいっているね。」


 しかしトワの表情は暗い。


「希望的観測だなあ。ありゃ、まだ元気だぞ。」


 なんでこいつは嬉しそうなんだ。魔王は変な奴が多いらしい。


「もう一度は難しいね。魔力の消耗は思ったより大きいよ。」

「…すまない。」


 ムンタはへたり込んでいる。

 活躍を称えたい所だが、相手が化け物過ぎて、成果が霞む。


「リガーナの魔力は尽きないの?」


 サニアの疑問は俺も感じている。


 いくら魔力を回収しているからといって、あんな魔法を長時間維持は無茶なはず。


「魔王の領地だぜ?魔力量には自信があるさ。

 金髪の嬢ちゃんは、魔力の扱いがビビるほど上手い。」


 なるほど、回収量も凄いって事か。

 リガーナが、決戦の地に魔王領を選んだのは、雰囲気の為だけじゃない。この辺りが理由だろう。


「バクー王国の国境線までに、挑戦できる回数は、多めに見てあと二、三回。

 挑戦回数を削って回復に回してもいい。

 なんなら俺が一人で行ってきたっていい。

 時間稼ぎくらいできるさ。」


 ガハハと笑う魔王は頼もしいが、おそらく、厳しいのだ。

 あの魔王が時間稼ぎと言っている。


 一人では勝てないと認めている。


 (いよいよ、不味いか?)


 しかし、諦めたりはしない。

 リガーナに約束したのだから。俺達は勝つと。


「…いい顔じゃないか、ロストン。何か策があるのかな?」

「…無い。でも諦めない心はある。」


「いいね。…なら、僕がいこうかな。」


 トワが一歩前に出る。力強さのある一歩だ。


「赤髪の嬢ちゃんは、なんとか出来るのかい?この状況を。」


 魔王は嬉しそうに笑う。


「とっておきを使うよ。

 魔力量が多くて嬉しいのは、魔王だけじゃないって事を見せる。」


「もう、慣らしはいいんだな?」


 トワは不敵に笑う。右手を上げる、義手を見せるように。


「想像以上、納得の値段だよ。なんで不人気なのか、理解に苦しむね。」


 トワは全員を見ながら続ける。


「魔王とロストンは遠距離から狙撃して、注意を引いておいて。

 音制御ノイズコントロールで声をかけるから、そしたら逃げて。

 地面が光るから、その外まで。

 ムンタとサニアは、今回はお休み。

 だけど、ついてきて。

 この魔法の後、地竜グランドドラゴンを破っても、戦いは続く可能性はあるからね。

 その時は、きっと力が必要になる。」


「やれるのか、あれを?」


 あの魔法を。

 期待と共に、マジックブーストと、光射シャインショットを入れたマジックストックをトワへ。


「強力で、複雑で、難解で、綺麗で、ド派手なやつを見せてあげるよ。」


 腕輪を着けながら笑うトワは、リガーナみたいだ。


「さあ、第二ラウンドの開始だ。」

第一ラウンド、終了。

今までで、一番長い戦い。

それが、ロストンと仲間達にとっての、ラスボス戦。

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