第71話 魔王クリガナン~開戦~
~前回までのロストン~
魔王はサニアの最初のお客さんで、救国の英雄だった。
トワの頑張りで、魔王を仲間にする事が出来た。
いよいよリガーナとの決戦が、近い。
リガーナは、魔王の居城にいる。
サニアから聞いた。
俺が魔王に接触されるのを待って、街を一人でぶらついていた時、なんと皆はリガーナに会っていたらしい。
彼女から接触してきたのだ。
一方的に手紙を渡してきて、こちらが何か言う前に姿を消した。
手紙には一言。魔王城にて待つ、とだけ。
明日、出発だ。
今日は、勇者も魔王も、酔いつぶれているから。
俺は今、外に出ていて、夜風にあたっている。
魔王の別荘を襲撃するやつはいない。
だから、見張りをたてる必要はない。
単純に、眠れないだけだ。
「早く寝たほうがいいんじゃないかい?明日は決戦だよ。」
トワだ。寒そうにこちらに近づいてくる。
「本当に一日で、天落峡谷まで行けるのか?
かなりの距離があるはずだろ?」
「落ちる前に魔王が言っていたから、大丈夫でしょう。
ちゃんと連れていってくれるよ。」
魔王なら行けるとは思うが、着いた時、俺達が無事なのかが心配だ。
トワは俺の隣までくる。上を見上げ、星を見ている。
「お前は寝ないのか?」
「酔い冷ましだよ。」
俺も見上げて、同じように星を見る。
「そういえば、トワはなんで自分の事を『僕』、って言うんだ?」
「どうしたの?
…別に、大した意味はないよ。
僕のいた孤児院は、男の子ばっかりで、皆が僕と言っていたからだよ。」
「そっかあ。」
最後の夜になるかもしれない。
だから他に言う事がありそうなのに。
急には何も出てこない。
まあ、最後の夜にする気はないから、これでいいのかもしれない。
「楽しい話かな?私も混ざっていい?」
サニアだ。
「ムンタと魔王は?」
「仲良く寝てるよ。いいね、平和って感じがする。」
「ムンタは夢の中で歴代勇者に怒られてるかもね。」
「大丈夫よ。未来の為に~って真剣に語るムンタの事を、きっと勇者達は怒らない。」
サニアも顔を上げた。三人の見ている景色は一緒のはずだ。
「二人には、いや、ムンタにも。
感謝してる。
俺一人だと、魔王の説得なんて無理だった。」
リガーナに大口叩いたのに、情けない。
「…勇者と魔王の共闘、そんな素敵な事は、ロストンがいなかったら無理だった。
ロストンが最初に言いだしてくれたから、こんな気持ちで星空を見れる。
だから私からも、ありがとう。」
「二人とも、感謝が早いよ。
まだ終わってない。帰れると決まった訳じゃない。
そういうのは明日、リガーナを倒して、五人で、いや、六人で帰る時だよ。
頼むよ、本当。」
サニアがトワの頭を撫でる。
トワがサニアの腕を払おうとするが、それを躱してサニアは撫で続ける。
トワはムキになって、サニアは笑顔で。
二人のじゃれ合いは見ていて楽しいが、トワの発言で不安になる。
彼女的には、魔王が仲間になった現状でも、負ける可能性はあり、犠牲者ゼロは厳しいのか。
「作戦とか対策を考えたほうがいいのかな、リガーナに勝つ為の。」
二人は動きを止め、俺を見て、トワが口を開く。真面目モードだ。
「残念だけど、僕達はリガーナの底を知らない。
圧倒的な魔力量と魔法精度で、何をやってくるか分からないから、対策らしい対策はないね。
探知、探索系の魔法は弱く、奇襲が有効だろうという事。
ロストンの教えてくれた、フラッシュボムっていうアイテムがある事。
魔装具を装備しているから、拘束時には没収する事。
これらの情報を事前に知っているのは武器になると思うけど。」
「…。」
「それに僕達は、連携して敵に挑むという経験が、少ない。
骸骨竜の時、僕の感想としては、各々が全力を出して、たまたまいいタイミングの時もあった戦い、って感じだよ。
ロストンは僕を気にしていてくれた、かもしれないけど、連携しようとは思わなかったはずだ。出会って数分だったしね。
マジュイメの館で戦った黒い奴も、まずサニアが戦って、その後に僕が戦う感じだった。
一対一、しかも短期戦がほとんどなんだよ僕達は。
今回の多対一。一番気をつけないといけないのは同士討ち。
魔王とサニアが交互に前衛をして、僕とロストンで援護射撃。
ムンタに戦況を見てもらって、奇襲もしくは一時撤退時の援護、そしてフラッシュボムなどの対応かな。
大胆さではなく、慎重さを重視する。
どんなとんでも魔法が飛んできても対処しないといけないから。
臨機応変。人数差でゴリ押す。作戦らしい作戦はないね。」
「分かったわ。いつも通り、一生懸命頑張ればいいのね。」
「流石サニア。理解が早いね。」
確かに、付け焼き刃でどうにかなる相手でもない。
「だからこそ魔王を仲間に出来た事はでかい。
戦闘面で、僕らにデメリットが少ないからね。
様子をみてサニアは下がってもいいし。
いい判断だったと思うよロストン。」
「…ああ。」
トワに褒められる事は珍しい。だから嬉しい。
けど、やはり不安は残る。
それは表情に出ていたかもしれない。
トワが俺の胸を軽く叩き、明るめの声で言った。
「底を見せていないのはリガーナだけじゃない。
ロストン。王国出発の前日を覚えているかい?
このアウトサイド5は、とある魔法を可能にするよ。」
「王国…前日…、まさか!」
「明日を楽しみにしていなよ。」
手をひらひらさせながら、トワは戻っていく。
俺もサニアも後を追う。
冷えてきたし、明日に備えてそろそろ休もう。
「ねえ、ロストン。」
サニアに声をかけられた。
「王国の図書館でしてくれた、魔族と魔石の話。あれ、嘘でしょう?」
「…。」
リガーナ、凄いよ。こんな細部まで一緒の世界にこれるなんて。
俺が休めるのはもう少し後。サニアが納得するまで付き合おうではないか。
魔走車で半月近くかかる道のりを、半日で行く。
どうやって?
魔王の魔法、噴出炎。
足から炎を出して、空を飛んで連れていってくれる。
「流石に無理だ。」
俺達が魔走車に乗って待機していたら、魔王が言った。
「荷車ごとは重すぎる。」
「どうやって行くつもりだったんだい?」
「そりゃ、こうやって。」
俺とムンタが魔王の右腕に抱えられた。
トワとサニアに、左腕でこっちへ来いとジェスチャーする魔王。
「ちょっとタイム。」
俺達は四人集まった。
「ここまできて、うだうだ言うのはカッコ悪いとは思う。
でも、これはどうなんだい?」
「仮に魔王がくしゃみをして、手を離したら、俺達は死ぬかもしれない。」
「…鳥にぶつかっても死ぬかもしれない。」
「でも、自信ありそうだし、大丈夫じゃないかな?」
覚悟が決まるまで、少なくない時間が必要だった。
食料なんかも持っていけない。
勝利できても魔王が死んだら、俺達は餓死する危険がある。
リガーナと和解できれば平気かもしれないが。
「おっしゃ、いくぞー。」
「「「「お願いします!」」」」
両脇に抱えられた俺達は、ただ祈るのみ。
そして俺達は風になる。
目なんて開けていられない。
耳だって何も聞こえない。
今、分かった。
トワの風歩。
リガーナの石。
俺の事をちゃんと人として扱ってくれていたのだ。
生きて大地を踏めたなら、お礼を言おう。二人に。
(いきて…だいちを…。)
「とわ…いつも…ありがとう…。」
生きて大地を踏めたからお礼を言った。
トワも気持ちが悪いみたいで、反応できる余裕はなさそうだ。
屈んで、口を抑えている。
後の二人も、同じような感じだ。
「あの金髪の嬢ちゃん、やってんな。」
一人元気な魔王は、上を見上げながら言った。
俺達は、魔王の居城の前にいる。
この辺りにいた魔物は、魔王が追っ払った。
俺は座り込み、魔王の見ている先を見る。
門があって、その上に、旗がある。
『ゾトの魔王の城』と、でかでかと書かれている。
仲間になった魔王は、レーグの魔王だ。
城は占拠したというリガーナのメッセージだろう。
「いけるな!お前ら!」
魔王が威勢よく声をかける。
残念だがNOだ。少し休ませてくれ。
「ったく、仕方ねえな。」
魔王が城内に入ろうとする。
待て待て待て。
「待ってくれ。一人で行く気か?」
慌てて止める。
「疲れてるんだろ?なら俺が行くしかないだろう。」
「いや、少し休めば大丈夫だから、一緒に行こう。」
「我が家が乗っ取られたんだ。俺の心は穏やかじゃない。」
「分かった。今、皆立つから。ほら、今立とうとしてるから、ちょっと待って。」
ギイイ、と異音が聞こえた。
音のした方を見る。
門の扉が開いていた。
そこにいたのは。
「リガーナ!」
間違いない。一日会わなかっただけなのに、久しぶりな気がする。
彼女は、
「遅いわロストン。何をしていたの?」
不機嫌だった。
「え、いや、」
転生後、一日半でここまできたんだぞ?十分、早いだろうに。
待たせたら、やばそうだから魔王に運んでもらったというのに。
それでもどうやら手遅れのようで。
「楽しみよ。だってこんなに待ったのだから。とても、とても期待しているわ。」
「!?」
地面が隆起する。
慌ててリガーナから離れる。
でもその程度ではダメだ。
周辺の物が、土が、木々が、城門が、分解されていく。
分解されて、リガーナの周りに集まっていく。
(巻き込まれる!)
「一時撤退!」
ムンタが叫ぶ。
水の巨人に抱えられ、俺達は逃げ出す。
「俺の城が!」
魔王の城も崩れる。そして崩れた瓦礫はリガーナの元へ。
「さあ、全力で、遊びましょう。」
声が響いた。
振り向くとそこには、巨大な半球体の何か。
リガーナを中心に、円を描くように。
あらゆる物が分解され、土のように見えるそれらは、彼女の周りを回っている。
水の巨人より、何倍もデカいそれは、ゆっくりと浮かび上がり、やがて形を変えていく。
四本の柱が伸びて球体の物体を支える。
そこから前後に伸びる何かがあり、陸ガメのような形になる。
でもそれは一瞬で、前後の突起物は凄い勢いで伸びた。
後ろが尻尾で、前が首。四本の柱は前脚と後ろ脚。
表皮が太陽の光を反射する。いつの間にか固い鱗のような物になっている。
(翼のないドラゴンだ。)
山のようにデカい、それが咆哮する。
これが、俺達の旅の、最後の戦い。
長かったロストンの旅も、この戦いで最後。
対戦よろしくお願いします。




