第70話 魔王クリガナン~魔王再戦~
~前回までのロストン~
俺は、再び転生した。今度こそ、皆で生きて帰る為に。
サニアもムンタも、トワも。一緒に戦ってくれると言ってくれた。
確実に勝つ為に、俺は魔王の説得を試みる。
作戦と言っても単純で、俺が一人で街をぶらつき魔王に出てきてもらうだけだ。
みんなは離れて待機。
マジックストックに、音制御を入れてある。
これで一言、二言は伝えられるから、成功か、失敗の連絡をする手筈だ。
魔王との会話は聞かれたくないのが本音だ。
魔王には転生の話をしないといけないから。
トワに、出来れば魔法で聞かないでほしいとは言った。
たくさん言いたい事があるという顔をした後、分かったと言ってくれた。
実際、聞かないかどうかは分からない。
でもそれを考えている場合ではない。
静かに降り出した雨の中、傘を差した魔王が来たから。
「傘ぐらい差せよ。風邪をひくぜ?」
俺は魔王に駆け寄った。
勢いよく頭を下げる。
沈黙が訪れて。
ゆっくり頭を上げて、魔王を見ながら、言う。
「あなたの想像通りだ。俺はディオルじゃない。」
魔王も俺を見ている。口は開かない。
「名前はロストン。パラレルワールドからやってきた。
あなたとは違う魔王の力を借りて。
力が必要だったから、力のある者に憑依させてもらった。
憑依する為に、自我が弱い者を探してもらった。
つまり、自我が弱く、強大な魔力を持つ者。
それが、ディオルだ。」
「…お前の中に、ディオルは残っているのか?」
残っていると言えば、有利に交渉が出来るかもしれない。
残っていないと言えば、前世と同じように弔い合戦になるかもしれない。
でもここは、そういう事を考える場面じゃない気がする。
彼に詳しい訳じゃない。
ちょっと殺しあいをして、同じ炎で焼け死んだだけの関係だ。
それでも分かる事はある。
魔王の目が揺れていて、敵意はないのだ。
会いたいだけだ、自分の子供に。
本当に、事実が知りたいだけなんだ。
ならば、俺の知っている事を伝えよう。
「あなたに会った時、記憶が流れてきた。
おそらくディオルの思い出だ。
楽しかったのか、悲しかったのか、そういうのは分からない。
ただ、あなたを見て、親父だと思った。
それだけだ。
俺が俺以外の存在を感じる事はない。
残っているのかどうかは、俺には分からない。」
上手く伝わっただろうか。
真実を語ったつもりだが。
「…そうか。悪かったな。」
それだけ言うと魔王は、俺に背を向けて歩き出した。
もう命を狙われる心配はない。
このまま魔王を刺激しなければ。
そう直感する。
(だが、今はそれだけじゃあダメなんだ。)
俺はストックした、音制御を使う。
そして魔王の進行方向に立ちふさがった。
「何か用か?」
一瞬にして魔王の機嫌が悪くなる。
思わず尻もちをつきそうになるのを耐える。
「俺は今、勇者パーティーの一員で、今回の勇者はあなたとの交渉を望んでいる。
一時停戦、そして王国との終戦について。」
「興味ねえな。」
魔王が右手を伸ばしてくる。
(やられる!?)
思わず一歩下がってしまう。
魔王の右手は更に伸びてきて。
その手を掴む者がいた。
サニアだ。
彼女は何か持っていて、それを魔王の右手に握らせる。
「お勧めの、グラタンコロッケサンドです!」
確かに、今、魔王が持っているのはパン、サンドイッチのように見えるが。
「…嬢ちゃん。ひょっとして、王国の?」
魔王から、殺気が消えている。
「その通りです。
そしてあなたは、私の最初のお客さん。ですよね?」
雨の中、足から火を出して空を飛ぶ魔王を、魔走車で追いかける。
魔王の別荘が、会談の場所だ。
サニアが五歳の時、親の知り合いのパン屋で店員をした事があるらしい。
もちろん一人ではなく、常に店長がついていたらしいが、結果的には好評だったらしい。
楽しみでもあり、緊張もしていた彼女の最初の客、それがあの魔王。
グラタンコロッケサンドを売ったらしい。
特別な思い出だから覚えていたらしいが、12年も昔の話だろ?
サニアは人の顔を覚えるのが得意だと思っていたが、これほどだとは思わなかった。
それは魔王にも言える事で。
グラタンコロッケサンドを食べたのがその一度だけで、だから印象に残っていたとか?
無い所には、無いだろうし。
そんな感じで、サニアが魔王と数分会話していたと思ったら、いつの間にか会談をする事になっていた。
サニアは顔見知りだったから上手く言った、とか言っていたが、そうなのか?
世間話をしているようにしか見えなかったのに。
「あれは色仕掛けだね。」
トワが小声で言う。サニアは今、御者席で運転中。ここにいるのは三人だ。
「魔王の年齢は知らないが、アラフィフぐらいじゃないか?
サニアは17だぞ?有効なのか?」
なんとなく俺も小声になる。
「いくつになっても、結局は若い子がいいって聞いた事があるよ。
そうなんじゃないのかい?」
「とはいえ、もう少し上じゃないか?」
「いや、サニア君は20代だと言っても通じると思う。
もちろん老けて見えるという意味ではなく。」
「ロストンはサニアが魅力的に見えないのかい?
ムンタみたいのが好きなのかい?」
「違う。」
「そうだ、確かロストン君はリガーナ君が好きなんだろ?
つまり小さい子が…。」
殴って黙らせようと腰を浮かせた所で到着した。
いい感じに緊張がほぐれた所で、ここからは、真面目な話。
「13代目勇者ムンタです。この場を用意して頂きありがとうございます。」
いつかのマジュイメの時と同じ横一列に並んで座る。
目の前には当然のように酒がある。
「3代目レーグの魔王ディルガンツだ。まずは、乾杯といこうじゃないか。」
応じる。流石に一杯で酔っ払うなんて事はないから口にする。
(強…。)
一口でギブアップ。
そういえば前世は乾杯だけして口にしなかった。
それどころではなかったから。
「それで、停戦、だったか?勇者様はそれでいいのかい?」
「まずは停戦を。
最終的には王国と魔王の間で終戦協定を結びたいと思っています。」
「へえ。なんで?」
「これ以上争っても、お互い得をしないと考えます。
こうして会話が出来ている訳ですから、話し合いでの解決を望みます。」
「会話が出来る奴は、襲撃なんてしねえよ?」
「…40年前の事は、残念ながら分かりません。
なぜ襲撃されたのか。王国で知る者はいないのです。
だからこそ、再び襲撃されないように、王国は勇者を、魔王討伐を掲げた。
もちろん、友や家族を失った恨みや憎しみ、復讐心も大きいはずです。
しかし、一番は、未来の為なんです!」
ムンタは勢いよくコップを空にした。
相手は魔王だ。緊張もするし、喉も渇くだろう。
でも飲むのはその酒で大丈夫か?
まあ他に飲み物はないんだが。
「40年経ったんです。状況だって変わります。
何が最適解かは、変わるんですよ。
そして今の正解は、終戦です。これしかありません!」
空のコップに魔王が酒を足す。ムンタはそれも飲む。
魔王はにやけている。
いい雰囲気、なのか?
「本当はね、この場で終戦したいんですよ。
でもね、流石の私でも、それは無理なんですよ。
私はね、勇者なんですけど、勇者なんて大した影響力はないんです。
いいようにね、使われて、寧ろ死んだ方が喜ばれますよ!
ここだけの話、私はね、王国が嫌いなんです!
でもね、勇者になった事は後悔しませんよ!
こうしてね、あなたと、未来の、為に、…。」
ムンタが倒れる。毒ではない。酔いつぶれただけだ。
勇者を二杯で倒す、強い酒だった。
「12年前さ。」
倒れたムンタの変わりに続けたのはトワだ。
前のコップは空になっている。
魔王が注ぎ足し、トワはそれを空にしてから続ける。
ひょっとして、発言権を得る為には酒を飲まないといけないルールなのか?
「僕は三歳で、全然覚えてないんだけど、大きくなった後に孤児院のシスターから、何度も聞かされたよ。
大変な流行り病に王国が襲われたそうじゃないか。」
酒が注ぎ足されて、それを飲み、彼女は続ける。
(頑張れトワ。会談の成功はお前にかかっている。)
「勇者候補の男も死んだ。
国民は、本気で王国は滅亡するんじゃないかと怯えていたらしいね。
そんな絶体絶命の時に、一人の男がやってきた。
その病の、薬を大量に持ってね。
王国の研究者達は、それらの量産に成功し、王国は滅亡を免れた。
男はいつの間にかいなくなっていて、王国は彼を探した。
救国の英雄に謝礼をしたかった。
謝礼すら出来ない無礼な国になりたくなかった。
手配書みたいな似顔絵なんかも出回って、王国内はくまなく捜索されたが、発見は出来なかった。
流石に国外指名手配なんて出来ないから、一旦捜索終了みたいになっているけど、まだ探してはいるんじゃないかな。
王宮の庭園の隅のほうに、歴代の勇者の名前が彫ってある慰霊碑があるんだけど、その隣に、救国の英雄様の等身大の銅像がおいてある。
あなたにそっくりな奴だよ、魔王さん。」
素直に驚く。知らなかったから。
王国の図書館で病の事は知ったが、勇者の方が気になって、解決方法までは調べなかった。
(なるほど、俺の土人形を見ての沈黙は、見覚えがあったからか。)
「身に覚えがないな。他人の空似じゃねえの?」
「サニアからパンを買ったって認めてる。
病気の蔓延する12年前、なんで王国にいたのさ?
実はあったんだよね。
銅像を見たお爺さんが、これは魔王だって大騒ぎした事が。
しかも別の人で数件。
大きな声では言えないけど、英雄イコール魔王説は、魔王イコールドラゴン説よりも有力だね。
元勇者パーティーの一人である学校の学長が、コメントを控えているのも大きい。」
くいっと、酒を煽る。
陰謀論が好き、というか、自分の考えを披露するのが好きなんだろうと感じる。
機嫌よさそうにトワは続ける。
「この際さ、あなたが英雄本人かどうかは、どちらでもいいんだ。
大事なのは、あなたが魔王である事。
英雄だと言っても通じそうな事。
そして、王国の現状。
もう魔王と争っていたくないけど、ただで矛を収められない。
でももし、魔王が英雄なら?
40年前、多くの人を死なせたが、12年前、多くの人を助けた。
ほら、上手くやれば話がまとまりそうじゃないか。
終戦協定は十分現実的だと思うよ?
だから後は魔王さん次第さ。
あなたはまだ、王国と勇者と、争いたいのかい?」
王国滅亡が目的なら、12年前、助けるような真似はしない。
トワの中では、英雄イコール魔王説が確定している。
(上手くいくか?)
マジュイメの時も、前世の魔王の時も、敵勢力との交渉は失敗続きではあるが。
「…わかった。この戦いは終わりにしよう。」
魔王も自分のコップを空にした。
「王国の魔法技術は嫌いじゃない。
別分野の技術を取り入れたら、もっと面白い発展をみせてくれるだろう。
俺の持っている研究資料を渡す。
それでお前達の指示に従う。仲直りをする為に協力させてくれ。」
魔王とトワが握手をした。
魔王と勇者の停戦という記念すべき瞬間だ。
勇者が寝ているのは残念だが。
トワは続ける。
「一つお願いがあるんだけど、いいかな?」
「どうぞ。」
「僕らはこれから、リガーナって奴をボコボコにして捕まえようとしているんだけど、協力してほしい。」
「…なんで?」
「指示に従ってくれるって言ったじゃないか。」
「王国との和平交渉に向けての話だ。便利に使おうとするな。」
「この件が片付かないと、僕らは王国に帰れないんだ。これも交渉を進める為だよ。」
「…。」
「リガーナは強いんだ。あなたの力を借してほしい。全員無事に王国へ戻りたいから。」
「…ちょっと待ってろ。」
魔王は席を立ち、戻ってきた時には大量の酒を抱えていた。
「分かりやすく、いこうじゃないか。俺の力が必要なら、俺を倒してみろ。」
「受けて立つよ。勝負だ魔王。」
決着がつく頃には、雨は止んでいた。今は綺麗な星空だ。
アレストワ。彼女こそ、真の勇者。
ここに魔王は倒れ、新しい時代が始まる。
Q、サニアは、グラタンコロッケサンドを、どうやって手に入れたのですか?
A1、新商品として、たまたま売っていた。
A2、頑張って作った。
A3、実は、ただのコロッケパン。
この辺で、勘弁してもらいたい。




