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継承英雄譚、担々  作者: シロクロゲンヤク
第二章 魔王クリガナンの祝賀

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第70話 魔王クリガナン~魔王再戦~

~前回までのロストン~


俺は、再び転生した。今度こそ、皆で生きて帰る為に。

サニアもムンタも、トワも。一緒に戦ってくれると言ってくれた。

確実に勝つ為に、俺は魔王の説得を試みる。

 作戦と言っても単純で、俺が一人で街をぶらつき魔王に出てきてもらうだけだ。


 みんなは離れて待機。


 マジックストックに、音制御ノイズコントロールを入れてある。

 これで一言、二言は伝えられるから、成功か、失敗の連絡をする手筈だ。


 魔王との会話は聞かれたくないのが本音だ。

 魔王には転生の話をしないといけないから。


 トワに、出来れば魔法で聞かないでほしいとは言った。

 たくさん言いたい事があるという顔をした後、分かったと言ってくれた。


 実際、聞かないかどうかは分からない。

 でもそれを考えている場合ではない。


 静かに降り出した雨の中、傘を差した魔王が来たから。


「傘ぐらい差せよ。風邪をひくぜ?」


 俺は魔王に駆け寄った。

 勢いよく頭を下げる。


 沈黙が訪れて。


 ゆっくり頭を上げて、魔王を見ながら、言う。


「あなたの想像通りだ。俺はディオルじゃない。」


 魔王も俺を見ている。口は開かない。


「名前はロストン。パラレルワールドからやってきた。

 あなたとは違う魔王の力を借りて。

 力が必要だったから、力のある者に憑依させてもらった。

 憑依する為に、自我が弱い者を探してもらった。

 つまり、自我が弱く、強大な魔力を持つ者。

 それが、ディオルだ。」


「…お前の中に、ディオルは残っているのか?」 


 残っていると言えば、有利に交渉が出来るかもしれない。

 残っていないと言えば、前世と同じように弔い合戦になるかもしれない。


 でもここは、そういう事を考える場面じゃない気がする。


 彼に詳しい訳じゃない。


 ちょっと殺しあいをして、同じ炎で焼け死んだだけの関係だ。


 それでも分かる事はある。

 魔王の目が揺れていて、敵意はないのだ。


 会いたいだけだ、自分の子供に。

 本当に、事実が知りたいだけなんだ。


 ならば、俺の知っている事を伝えよう。


「あなたに会った時、記憶が流れてきた。

 おそらくディオルの思い出だ。

 楽しかったのか、悲しかったのか、そういうのは分からない。

 ただ、あなたを見て、親父だと思った。

 それだけだ。

 俺が俺以外の存在を感じる事はない。

 残っているのかどうかは、俺には分からない。」


 上手く伝わっただろうか。

 真実を語ったつもりだが。


「…そうか。悪かったな。」


 それだけ言うと魔王は、俺に背を向けて歩き出した。


 もう命を狙われる心配はない。

 このまま魔王を刺激しなければ。


 そう直感する。


 (だが、今はそれだけじゃあダメなんだ。)


 俺はストックした、音制御ノイズコントロールを使う。

 そして魔王の進行方向に立ちふさがった。


「何か用か?」


 一瞬にして魔王の機嫌が悪くなる。

 思わず尻もちをつきそうになるのを耐える。


「俺は今、勇者パーティーの一員で、今回の勇者はあなたとの交渉を望んでいる。

 一時停戦、そして王国との終戦について。」


「興味ねえな。」


 魔王が右手を伸ばしてくる。


 (やられる!?)


 思わず一歩下がってしまう。


 魔王の右手は更に伸びてきて。


 その手を掴む者がいた。


 サニアだ。

 彼女は何か持っていて、それを魔王の右手に握らせる。


「お勧めの、グラタンコロッケサンドです!」


 確かに、今、魔王が持っているのはパン、サンドイッチのように見えるが。


「…嬢ちゃん。ひょっとして、王国の?」


 魔王から、殺気が消えている。


「その通りです。

 そしてあなたは、私の最初のお客さん。ですよね?」




 雨の中、足から火を出して空を飛ぶ魔王を、魔走車で追いかける。

 魔王の別荘が、会談の場所だ。 


 サニアが五歳の時、親の知り合いのパン屋で店員をした事があるらしい。


 もちろん一人ではなく、常に店長がついていたらしいが、結果的には好評だったらしい。


 楽しみでもあり、緊張もしていた彼女の最初の客、それがあの魔王。

 グラタンコロッケサンドを売ったらしい。


 特別な思い出だから覚えていたらしいが、12年も昔の話だろ?

 サニアは人の顔を覚えるのが得意だと思っていたが、これほどだとは思わなかった。


 それは魔王にも言える事で。


 グラタンコロッケサンドを食べたのがその一度だけで、だから印象に残っていたとか?

 無い所には、無いだろうし。


 そんな感じで、サニアが魔王と数分会話していたと思ったら、いつの間にか会談をする事になっていた。


 サニアは顔見知りだったから上手く言った、とか言っていたが、そうなのか?

 世間話をしているようにしか見えなかったのに。


「あれは色仕掛けだね。」


 トワが小声で言う。サニアは今、御者席で運転中。ここにいるのは三人だ。


「魔王の年齢は知らないが、アラフィフぐらいじゃないか?

 サニアは17だぞ?有効なのか?」


 なんとなく俺も小声になる。


「いくつになっても、結局は若い子がいいって聞いた事があるよ。

 そうなんじゃないのかい?」


「とはいえ、もう少し上じゃないか?」


「いや、サニア君は20代だと言っても通じると思う。

 もちろん老けて見えるという意味ではなく。」


「ロストンはサニアが魅力的に見えないのかい?

 ムンタみたいのが好きなのかい?」


「違う。」


「そうだ、確かロストン君はリガーナ君が好きなんだろ?

 つまり小さい子が…。」


 殴って黙らせようと腰を浮かせた所で到着した。

 いい感じに緊張がほぐれた所で、ここからは、真面目な話。




「13代目勇者ムンタです。この場を用意して頂きありがとうございます。」


 いつかのマジュイメの時と同じ横一列に並んで座る。

 目の前には当然のように酒がある。


「3代目レーグの魔王ディルガンツだ。まずは、乾杯といこうじゃないか。」


 応じる。流石に一杯で酔っ払うなんて事はないから口にする。


 (強…。)


 一口でギブアップ。

 そういえば前世は乾杯だけして口にしなかった。


 それどころではなかったから。


「それで、停戦、だったか?勇者様はそれでいいのかい?」

「まずは停戦を。

 最終的には王国と魔王の間で終戦協定を結びたいと思っています。」


「へえ。なんで?」

「これ以上争っても、お互い得をしないと考えます。

 こうして会話が出来ている訳ですから、話し合いでの解決を望みます。」


「会話が出来る奴は、襲撃なんてしねえよ?」

「…40年前の事は、残念ながら分かりません。

 なぜ襲撃されたのか。王国で知る者はいないのです。

 だからこそ、再び襲撃されないように、王国は勇者を、魔王討伐を掲げた。

 もちろん、友や家族を失った恨みや憎しみ、復讐心も大きいはずです。

 しかし、一番は、未来の為なんです!」


 ムンタは勢いよくコップを空にした。


 相手は魔王だ。緊張もするし、喉も渇くだろう。

 でも飲むのはその酒で大丈夫か?


 まあ他に飲み物はないんだが。


「40年経ったんです。状況だって変わります。

 何が最適解かは、変わるんですよ。

 そして今の正解は、終戦です。これしかありません!」


 空のコップに魔王が酒を足す。ムンタはそれも飲む。

 魔王はにやけている。


 いい雰囲気、なのか?


「本当はね、この場で終戦したいんですよ。

 でもね、流石の私でも、それは無理なんですよ。

 私はね、勇者なんですけど、勇者なんて大した影響力はないんです。

 いいようにね、使われて、寧ろ死んだ方が喜ばれますよ!

 ここだけの話、私はね、王国が嫌いなんです!

 でもね、勇者になった事は後悔しませんよ!

 こうしてね、あなたと、未来の、為に、…。」


 ムンタが倒れる。毒ではない。酔いつぶれただけだ。

 勇者を二杯で倒す、強い酒だった。


「12年前さ。」


 倒れたムンタの変わりに続けたのはトワだ。

 前のコップは空になっている。


 魔王が注ぎ足し、トワはそれを空にしてから続ける。


 ひょっとして、発言権を得る為には酒を飲まないといけないルールなのか?


「僕は三歳で、全然覚えてないんだけど、大きくなった後に孤児院のシスターから、何度も聞かされたよ。

 大変な流行り病に王国が襲われたそうじゃないか。」


 酒が注ぎ足されて、それを飲み、彼女は続ける。


 (頑張れトワ。会談の成功はお前にかかっている。)


「勇者候補の男も死んだ。

 国民は、本気で王国は滅亡するんじゃないかと怯えていたらしいね。

 そんな絶体絶命の時に、一人の男がやってきた。

 その病の、薬を大量に持ってね。

 王国の研究者達は、それらの量産に成功し、王国は滅亡を免れた。

 男はいつの間にかいなくなっていて、王国は彼を探した。

 救国の英雄に謝礼をしたかった。

 謝礼すら出来ない無礼な国になりたくなかった。

 手配書みたいな似顔絵なんかも出回って、王国内はくまなく捜索されたが、発見は出来なかった。 

 流石に国外指名手配なんて出来ないから、一旦捜索終了みたいになっているけど、まだ探してはいるんじゃないかな。

 王宮の庭園の隅のほうに、歴代の勇者の名前が彫ってある慰霊碑があるんだけど、その隣に、救国の英雄様の等身大の銅像がおいてある。

 あなたにそっくりな奴だよ、魔王さん。」


 素直に驚く。知らなかったから。 


 王国の図書館で病の事は知ったが、勇者の方が気になって、解決方法までは調べなかった。


 (なるほど、俺の土人形を見ての沈黙は、見覚えがあったからか。)


「身に覚えがないな。他人の空似じゃねえの?」


「サニアからパンを買ったって認めてる。

 病気の蔓延する12年前、なんで王国にいたのさ?

 実はあったんだよね。

 銅像を見たお爺さんが、これは魔王だって大騒ぎした事が。

 しかも別の人で数件。

 大きな声では言えないけど、英雄イコール魔王説は、魔王イコールドラゴン説よりも有力だね。

 元勇者パーティーの一人である学校の学長が、コメントを控えているのも大きい。」


 くいっと、酒を煽る。


 陰謀論が好き、というか、自分の考えを披露するのが好きなんだろうと感じる。

 機嫌よさそうにトワは続ける。


「この際さ、あなたが英雄本人かどうかは、どちらでもいいんだ。

 大事なのは、あなたが魔王である事。

 英雄だと言っても通じそうな事。

 そして、王国の現状。

 もう魔王と争っていたくないけど、ただで矛を収められない。

 でももし、魔王が英雄なら?

 40年前、多くの人を死なせたが、12年前、多くの人を助けた。

 ほら、上手くやれば話がまとまりそうじゃないか。

 終戦協定は十分現実的だと思うよ?

 だから後は魔王さん次第さ。

 あなたはまだ、王国と勇者と、争いたいのかい?」


 王国滅亡が目的なら、12年前、助けるような真似はしない。

 トワの中では、英雄イコール魔王説が確定している。


 (上手くいくか?)


 マジュイメの時も、前世の魔王の時も、敵勢力との交渉は失敗続きではあるが。


「…わかった。この戦いは終わりにしよう。」


 魔王も自分のコップを空にした。


「王国の魔法技術は嫌いじゃない。

 別分野の技術を取り入れたら、もっと面白い発展をみせてくれるだろう。

 俺の持っている研究資料を渡す。

 それでお前達の指示に従う。仲直りをする為に協力させてくれ。」


 魔王とトワが握手をした。

 魔王と勇者の停戦という記念すべき瞬間だ。


 勇者が寝ているのは残念だが。


 トワは続ける。


「一つお願いがあるんだけど、いいかな?」

「どうぞ。」


「僕らはこれから、リガーナって奴をボコボコにして捕まえようとしているんだけど、協力してほしい。」

「…なんで?」


「指示に従ってくれるって言ったじゃないか。」

「王国との和平交渉に向けての話だ。便利に使おうとするな。」


「この件が片付かないと、僕らは王国に帰れないんだ。これも交渉を進める為だよ。」

「…。」


「リガーナは強いんだ。あなたの力を借してほしい。全員無事に王国へ戻りたいから。」

「…ちょっと待ってろ。」


 魔王は席を立ち、戻ってきた時には大量の酒を抱えていた。


「分かりやすく、いこうじゃないか。俺の力が必要なら、俺を倒してみろ。」


「受けて立つよ。勝負だ魔王。」


 決着がつく頃には、雨は止んでいた。今は綺麗な星空だ。


 アレストワ。彼女こそ、真の勇者。


 ここに魔王は倒れ、新しい時代が始まる。

Q、サニアは、グラタンコロッケサンドを、どうやって手に入れたのですか?

A1、新商品として、たまたま売っていた。

A2、頑張って作った。

A3、実は、ただのコロッケパン。

この辺で、勘弁してもらいたい。

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