第69話 魔王クリガナン~仲間達~
~前回までのロストン~
13代目勇者パーティーは、魔王と相打ちとなり、全滅した。
再び幽霊となった俺は、リガーナと話をする。
そして思い出した。リガーナにどれほど感謝していたかを。
だから今度こそ、彼女の為に生きる。
目を覚ました。
日付と時間を確認する。
今日はトワの手術の日。その朝。
「よし。」
気合を入れて起き上がり、訓練に出かけようとしているムンタを引き止めた。
目的の確認をする。
俺はリガーナと共にありたい。
彼女にも、そう思ってもらいたい。
彼女は魔王で、傍にいるには力がいる。
その力が俺にあると、彼女を納得させる必要がある。
つまり戦って、彼女を倒す。
命を絶つのが目的ではないから、拘束する。
転生できる、できないは問題ではない。
俺は勇者パーティー五人全員で生き残りたい。今度こそ。
その為に、皆の協力が必要だ。共にリガーナと戦ってもらいたい。
話をして、説得する。
何を何処まで話すべきか。
心情として、全てを話してしまいたい気持ちはある。
転生している事も、今世、いやもう前世か。
前世でトワとサニアを殺した事も。
事情を話せば、サニアは、許してくれそうだ。
でも、許されてはいけないし、甘えてもいけない。
謝罪しなければならない相手は、前世のサニアとトワだ。
もう会う事は出来ない二人、だからずっと抱えていく俺の罪。
だから、伏せる。転生関連は言わない。
前世でトワが言ってくれた事と、その謝罪。
今の俺の思いを伝える事がスタートだ。
手術に向かう前、皆を部屋に集めて話をする。
「まとめると、君はリガーナに脅されて僕らを殺そうと企んでいた。
弱点を探る為、一緒に旅をしていたら、僕らの事が大好きになって、殺したくなくなった。
でも、リガーナの事も大好きだから彼女も殺したくない。
皆で彼女をボコボコにして、考えを変えさせよう。
そうゆう事だね?」
「申し訳ございませんでした。」
所々引っかかる所はあるが、大体あってる。
俺は、床につきそうなほど頭を下げた。正座して、手も揃えている。
「そして、どうか協力して下さい。」
「嫌だね。」
トワは即答した。
前世のトワの様子から、上手くいくと思っていた俺はショックを受ける。
(リガーナは自信満々だったが、やはり前世とは違うのか?)
トワの右腕は無いし、サニアのベルトは太いから、大体一緒だとは思うのだが。
「自己中がすぎるんじゃないかな?
謝罪とお願いを一緒にするものじゃないよ。
焦っているのは分かるけど、心証はよくないね。」
トワは不機嫌オーラを隠そうとしない。
「そもそもリガーナの目的はなんだい?
なぜ僕らを殺したいの?」
「それは…。」
分からない。何らかの事情があるのだろうけど、具体的には。
だから適当なストーリーを言いそうになる。
王国の図書館でサニアにしたように、魔王の別荘で魔王にしたように。
でも、もう嘘はつきたくない。
本当の意味で仲間になりたいから。誠実でありたい。
言い淀んでいるとトワが続ける。
「ご立派な理由があるかもしれない。
僕は清廉潔白とはほど遠い。悪行もしたし、恨まれてもいると思う。
だから文句はないよ。
命を狙われても、ボコボコに殴られて、爆弾を着けられて、連れまわされてもね。
だけど、黙ってやられてやる訳ないだろ。
素直に受け入れる事も、やられっぱなしも嫌だ。
僕はリガーナが嫌いだよ。
皆で戦うのはいい。でも、助ける気はないね。」
「…。」
それは、そうだ。
浮かれていた。いや、甘えていた。トワに。
何だかんだで、俺につきあってくれるトワの優しさに頼りきりで、あいつの気持ちを考えていなかった。
「だいたいあのリガーナが、ボコボコにされたぐらいで改心するとは思えないね。
人を殴る時の、あの笑顔を忘れたのかい?
あれは、本物だよ。
人が苦しむ様を眺めるのが大好きなんだ。
制御なんて出来ない。生きている限り、害し続ける。
あんなのが好きだなんて、ロストンも趣味が、もが!」
トワの口が塞がれる。
サニアがトワの頭を、自分の胸にうずめるように抱き寄せた。
「私はロストンに協力したい。
私にとってもこの旅は、貴重な経験だったし、皆とも仲良くなれたと思っている。
だから最後に殺し合いなんてやりたくない。
もちろん、リガーナはやりすぎる時がある。
トワの首輪とか、絶対にダメ。
だからちゃんと教えないと、ダメな事を。
あの子はまだ、子供だから。
私達で、しっかり教育しましょう。」
最後の方、トワよりも怖い雰囲気だったが、サニアが賛成してくれて嬉しい。
「俺は…。」
ムンタが口を開く。
「リガーナ君の行いを聞いた時、なんて恐ろしい子なんだと恐怖した。
しかし、彼女に助けられた事も覚えている。
殺したいかどうかなら、当然、殺したくはない。
必要なら戦う事に躊躇いはない。
その後で、もし可能なら話し合いをしたいと考える。
だからロストン君、俺も君に協力しよう。」
マジュイメの総帥も信じたムンタなら、そう言ってくれると思っていた。
三対一。
これでトワは拒否できない。
トワが戦闘に参加しないと言うのであれば、二人はその意思を尊重するだろう。
しかし、戦いで俺が死んだらトワも死ぬ。一緒に戦うしかない。
トワは戦う事には賛成で、生け捕りに反対した。
きっとトワは気づいている。リガーナの攻略法に。
奇襲。不意打ちの一撃必殺。
前世で魔王ディルガンツが、リガーナを倒したのはこれだ。
その前の、ムンタのキックも躱せずに当たっている。
まともに戦っても勝てるか分からないが、暗殺は有効。
であれば、トワは確実な勝利を手にしたかったのだろう。
そうすれば、無事に四人は帰れるから。
(すまないトワ。俺は五人で帰りたいんだ。)
サニアが手を放し、トワが開放される。
「…酷いねサニア。物理的に言葉を遮るなんて、横暴だよ。」
「意見ならちゃんと聞くけど、あれはただの愚痴だし。
八つ当たりっぽかったしね。
そういうのは、後でちゃんと聞くから安心してね。」
「…。」
トワが俺を見る。
「僕はロストンが嘘を言っているとは思わない。
けど、ロストンを信じきるのは早いと思う。
劣勢になったらリガーナ側に寝返る事だってありえると思うよ。
リガーナの事が大好きなんだから。
ロストンは、どうやって僕達を信じさせるんだい?」
「リガーナにとって俺の命は特別じゃない。
だから寝返りはリガーナが認めない。」
彼女にとって全ての命は、世界そのものが、やり直し可能な物であり、きっと、作り物のような、芝居を見ているような気分なのでと思う。
飽きているのかもしれない。
だから目新しいものをみたら、あんな子供みたいな態度になる。
そんな彼女の特別になりたい。
「俺はトワ達の事も大好きなんだ。だから裏切らない。
また五人で、酒が飲みたい。」
「それはいいわ。ロストンの奢り?」
「あなたに借金してもよければ。
というか、サニアは飲めるのか?」
「スーフリンでも飲んだから、大丈夫よ。
この戦いが終わったら、酔っ払うまで飲んでみたい。そんな気分。」
サニアが笑って、ムンタが頷いてくれる。
トワは、
「ボコボコにした後、話し合いをして、あいつの態度を見て、処遇を決めるって事で納得しておくよ。」
そっぽを向きながら、納得してくれた。
話は続く。
「ロストン君、本当なのか?
魔王が君の命を狙っていて、しかもこの町にいるというのは。
…正直リガーナ君の件より気になるぞ。」
ムンタは勇者で、勇者パーティーの目的は魔王討伐。
当然の反応だろう。
次の俺の言葉は言いづらい。が、話す。話さないといけない。
「レーグの魔王とは停戦したいと考えている。可能ならば、共闘したい。」
「な!?…ん…。」
「レーグの魔王よりリガーナのほうが強いと、ロストンはそう思うんだ?」
驚愕のムンタと、息を飲むサニアと、質問してくるトワ。
「真向勝負をしたらリガーナだと思う。
ルール無用の命の奪い合いなら、魔王だとは思うけど。」
「…リガーナは寝込みを襲われるのに弱そうだからね。」
「いや、二人共、割り込ませてもらってすまない。
ロストン君、君は魔王と交渉する気なのか?」
「ああ。一応、見込みはある。」
「…魔王は、人語を話せるのか?」
(あ。)
気づく。
王国に伝わる魔王の姿は、ドラゴンだった気がする。
「魔王は、魔力の高い人間の事らしくて。」
俺は石を使う。
前世の記憶を頼りに魔王の土人形を作る。
リガーナほど上手くできないが、旅の道中、ずっと練習してきたのだ。
その成果もあり、なかなかよく出来たと思う。
およそ十分の一スケールの土製魔王人形の誕生だ。
「レーグの魔王は、こんな見た目だ。」
三人とも、土人形をまじまじと見ている。
結構な、沈黙が流れる。
(なんだ…この間?)
トワにはよく見せている。上手いと褒めてもらった事もある。
そのトワも沈黙しているのはなぜだ?
「僕がこの旅に同行しているのは、リガーナに脅されているから。
ロストンと同じだね。
だから、ぶっちゃけリガーナ問題が片付けば、魔王はどうでもいい。
でもムンタは違うよね?
倒すべき相手と停戦は、不味いんじゃないかい?」
正しくトワの言った通り。ここが一番、難しいと思っている。
それでもムンタには納得してもらう必要がある。
レーグの魔王は強い。リガーナ抜きは相当厳しいだろう。
リガーナ戦の前に消耗したくないし、最悪全滅もありえるのだ。
かと言って、魔王を放置してリガーナと戦うのもダメだ。
前世と同じ末路なんて、絶対に嫌だから。
最低でも停戦。
可能なら共闘。
ムンタが口を開く。
「そうだな。皆に話した事はなかった。
今こそ話そう、なぜ俺が勇者になったのか。」
ムンタの話は長かった。
昔、仲の良かった友達と出会いから始まって、その友達と過ごす日々を楽しそうに話し続ける。
話がずれていると指摘するべきなのだろうが、気が引ける。
楽しそうなムンタはレアだから。
長すぎて、途中でトワの手術の時間になった。
皆でトワの付き添いに行く。
魔王が俺に声をかけたのは偶然ではない。
魔王は俺の位置を把握している。
俺が一人になるのを待っている。
悪いがもう少し待っててもらう。話がまだ、まとまっていないんだ。
サニアがムンタの話の続きを聞いている。
手術が終わるまでに、話も終わっているとありがたい。
(リガーナはどうしているだろう。)
魔王の説得方法と、リガーナの現在に思いをはせながら、時間は過ぎていく。
無事、手術が終わる。
トワは順調で、しばらく休めば動けそうだ。
入院を勧められたが断る。おそらく前世でもそうしたのだろう。
それでも数時間は休んでいくよう言われたので、その場でムンタの話が再開される。
まとめるとこうだ。
1、ムンタは中のよい友達がいた。
2、十二年前、友達が流行り病にかかる。
3、友達の父親は研究員で、病気を治す為に尽力する。
4、結果を急いだ父親は、非人道的な実験を繰り返す。
5、結果父親は王国を追放され、友達も亡くなった。
6、その父親の名前はレンバト。マジュイメに入り、後に総帥となる。
「優しい父親だった彼を、俺は覚えている。
だから彼の噂を聞いた時はショックだった。
なんとかしたいと、思った。
魔王打倒の功績があれば、何とか出来るかもしれなかった。
だから俺は勇者になった。
それから彼に会って、結果は皆の知っている通りだ。
彼は俺を覚えていたのか、亡くなった息子の為に動いていたのか、復讐の為だけに動いていたのか、正気が残っていたのか。
その辺りは全部、もう分からない。」
昔話は終わり、ムンタは結論を出す。
「俺の目的は、達成できずに終わっている。
皆を巻き込んだ責任があるから、最後まで、つまり魔王討伐は果たすつもりだった。
もともと王国は、40年前に魔王の襲撃を受けた事で、打倒魔王を掲げた。
しかし討伐は難航し、魔王の更なる襲撃もない。機運は年々下がり続ける。
昔ほど、魔王討伐にこだわっていないのが現状だ。
かまけている余裕がないとも言える。
実は俺達は、そんなに期待されていない。失敗しても、罰とかもない。
だから俺は、交渉してもいいと、いや、交渉したい。
犠牲になった人達がいるし、今までの勇者とその仲間達の思いもある。
分かっている。軽視はしない。それでも。
変化は必要だと、考える。未来の為に。
一歩踏み出す。停戦とは言わず、終戦を目指そう。
それが、13代目勇者の意思だよ。」
ムンタが右手を差し出してきたから、両手で握り返す。
「サニア君はどうだろうか?」
「私も大丈夫。
私は魔王城にあるかもしれない資料が必要なのだけど、討伐後に魔王城を捜索するよりも、本人に聞ければ一番いいし。」
これで皆の了承を得れた。
後は、魔王本人だ。
「ありがとう皆。改めて、作戦を聞いてくれ。」
仲間を集めて、魔王に挑む。
その、最初の一歩。




