第6話 仲間~戦う理由~
~前回までのガットル~
ドラゴンは強かった!一時撤退!
でも倒せる方法はあるらしい。準備が整うまで見張りながら休憩だ。
ところで皆さんは、なんでドラゴンや魔王を倒したいのです?
会話パートの続きです。
「レーラスの目的は、歴史に名を残す事。
この国の記録に、永く刻まれる事。」
「え?」
意外だった。
てっきり人々を守りたい、だとか、魔物が許せない、とかだと思っていた。
「その為に、国に認められる功績が必要だ。それが、魔王討伐。」
土人形が現れて、同じく現れた土城に近づいていく。
レーラスの方から王国に打診したのか。
「俺とサニアは、それぞれでレーラスと接点がある。
理由は別だが、レーラスの力になる事が目的だ。
一緒に王宮に行った。それが一年半前。」
土人形が二つ増えて三つになった。
デフォルメされた二頭身の物だが、特徴があり、どれが誰なのか分かりやすい。
「しかし王国側の反応は、レーラスの求める物ではなかった。」
「魔王を討伐したいのは一緒なのに?」
第四の人形が現れる。黒い炎を纏っている。こいつが魔王だ。
「不一致なのは討伐後の話だな。」
土魔王の首が落ちて、体が灰になる。実は凄い技術を見せられているのでは。
「この頃にはもう王国は、機械奨励の魔法廃止の動きだからな。
討伐に必要な支度金や、討伐成功時の報奨金は大層だったが、討伐後は魔法に関係する物を徐々に無くしていきたかった。
魔王とか、勇者とかも。」
喉が渇いたのだろう。ディオルが瓶を開ける。
一人で飲むのも気が引けたのか、俺にも一本くれる。
もはや俺の愛飲物となり始めている体力回復用ドリンクだ。
喉が渇いて飲む物ではない。まぁ飲むが。
「魔王を倒した勇者の銅像でも造って、それに感化されて魔法ブーム再燃とか、そういうのを嫌がった訳だ。」
「逆に勇者様としては、寧ろ銅像を造って欲しかった?」
「その通り。」
ディオルが珍しい表情をする。苦虫を嚙み潰したような。
「王宮の庭園の隅のほうにある慰霊碑。歴代の勇者の名前が彫ってあるらしい。
それも移動予定と聞いた時、レーラスは剣を抜いた。
あれを超えるトラブルはない。」
(…想像出来ない。)
居合わせた事に同情するし、治められたのは尊敬するし、土人形勇者が剣を振り回しているのには感動する。
そして、勇者はどうしてそこまでしたのか、気になる。
しかし、理由を話す気は無いようで。
「次に俺達はフフゴケ商会に接触した。」
土人形のゴケさん。クオリティ高すぎて吹き出しそうになった。
「君の方が詳しいと思うが、当時の商会の勢いは凄く、機械商品は王国内ほぼ独占。規模を拡大していた。
一方で、他の国々では大苦戦。老舗や大手のネームバリューに歯が立たない。
知名度を上げられる何かを、求めていた。」
黒い炎の土魔王が蘇る。その数、四体。
「話が逸れるが、魔王は四体いて、四大魔王と言われている。
知っているか?」
「…二大魔王なら、知ってる。
俺達のワイバン大陸の最東端と、北のライダ大陸の最北端のやつ。」
「ああ、それで構わない。
この辺で魔王と言ったら、ワイバン大陸のレーグ半島にある天落峡谷。
そこを根城にしている、レーグの魔王。王国の宿敵で、俺達の相手もそいつだ。」
三体の土魔王がさっと消える。
「ガットル君のいう二大魔王は、数百年前から存在している。
強大な力を持ち、国を攻撃した事もある。
王国以外でも、嫌われ者という事だな。」
「倒したともなれば、話題になる、のか?」
「【遂に魔王討伐を果たした勇者。その旅は、フフゴケ商会の支援で成り立っていた!】
こういう売り方はどうかと聞いたら、フフゴケさんは乗ってきた。」
…ゴケさん。
「こうして商会を抱き込み、王国と交渉を続けた結果、レーラスは国代表の勇者になった。
捕らぬ狸の皮算用をしても仕方ない。
魔王を倒した後に、改めて交渉をするという事で一旦まとまった訳だ。
夏の終わり頃、勇者のお披露目セレモニーをやったな。」
俺は行けなかった、いや、行かなかったやつだ。
「勇者の魔王討伐の旅は、国を挙げての国事となり、フフゴケ商会の宣伝も兼ねたものにもなった。
その都合上、魔王の根城に行くまでに、2つの国、合計9の町に滞在する訳だ。」
何処かで半年の計画と聞いたな。
「準備が整って、出発の日取りを決めている時だ。
国の勇者なのだから、後顧の憂いを断ってから出発しろ。
そういう指示が来た。」
「それが、ドラゴン退治。」
「そうだ。」
ふーっと、長い溜息を一つ。
寝ている土ドラゴンが現れる。
「ガットル君の疑念の通り、このドラゴンは人間に害していない。
記録上は数百年間、ただこの辺りで棲息しているだけだ。」
「数百年間…。」
生きやすい場所なのかも知れない。
「まぁ、今まで何もしていなくても、これから、何かするかもしれない。」
また、溜息を一つ。
「俺達はドラゴンと意思疎通が出来ない。
何故ここにいるのか、何故何もしないのか。
気まぐれかもしれない。理由があるのかもしれない。
人間を襲わないのか、襲えないのか、分らない。」
土ドラゴンに黒い炎が灯る。
「気が変わって、喰うものが無くなって、頭をぶつけて、年老いてボケて、人間を襲うかもしれない。」
「だから、その憂いを断つのか?」
「それが表向きの理由だ。」
黒い炎の土ドラゴンが咆哮する。いや、ポーズだけだが。
「王国が閉鎖的な理由は、地形にもある。」
土城の回りに次々と山が伸びる。
「険しい山に囲まれていて、領土もそれなり。隣の国に行くのに、半月は掛かる。
強力な魔物に襲われるし、道中、町はおろか村もない、行商人は来たがらない。」
伸びた山々に黒い炎が灯る。魔物を表しているのだろう。
小さいが、複数個所から噴き出している。
「だからこその100%の自給率。独自の文化も生まれ、危険を顧みず頻繁に行き来した、フフゴケ商会も大きくなった。」
そこら辺の苦労話は、酒の入ったゴケさんの十八番だ。
「しかし発展には限界がある。本当は他国と貿易を行いたい。
魔法分野は相当遅れているが、対魔王を掲げ培った軍備力は強大だし、特産物や伝統工芸品は人気が出そうだ。」
「その意味でも魔物が邪魔なんだな。」
ディオルは頷き、亀裂を指さす。ドラゴン?いや、その奥だ。
「魔物の侵攻を防ぎきれず今では王都のみとなったが、昔は違った。
王都以外に町も村もあった。漁業をしている所もあったらしい。
隣国よりずっと海が近いからな。
王国民で知らない者も多いが、実は南西方向は魔王の魔力の影響が低い。
魔王城との距離の問題だな。
山を削り、新たな港町を造れれば、船で貿易、漁業も始められる。」
「得体の知れないドラゴンさえいなければ?」
土のドラゴンが消えていく。
「そういう事だ。」
土人形も土城も土山も消えていく。
「魔法を失う事よりも、魔物がいないほうが利とする王国。
その王国に名を残す為、言うことを聞く勇者一行。
他国進出の足掛かりの為協力するフフゴケ商会。」
改めてディオルが俺を見た。
「俺達と行く事で、君の目的は果たせるかい?」
ディオルの言った事何処まで理解出来ただろう。
そもそも何処まで本当の事なのか。
理由とか動機とか、言っていない事もある。
だと、しても。
毎日剣を振りながら、あるいは魔法を使いながら、感じていたあの、言い表せない焦燥感。
その正体は、今なら解る。
クレスタが、サニアが、ディオルが、言ってくれたから。
勇者に成る事も、勇者の仲間に成る事も、目的の為の手段だ。
「俺の目的も、ひどく個人的な物なんだ。」
照れくさいというか、恥ずかしい。
でも、目も顔も逸らさない。
「俺を、」
「二人とも!!」
俺の言葉はディオルの首元から発せられた叫び声で止められた。
声色声量から解る緊急事態。
この場所でそれと言えば。
「!?」
消える。足場が。いや、溶けて、変形している!
(滑り、落ちる!)
俺達のいた場所は巨大な滑り台となっていた。続いて、上の方で爆音。
ドラゴンがブレスで攻撃してきて、ディオルの魔法で窮地を脱した?
いや、逆かもしれない。わからない。
そんな中、俺に出来た事は首元のスイッチをONにする事だけだった。
「私じゃないよ。」
臨戦態勢のドラゴンを見ながらサニアが言う。
「解ってる。悪かった。助かった。」
立ち上がり、サニアの横に。
ドラゴンが起きた理由が、サニアだろうとなかろうと。
そもそも見張りは自分の役目で。
サニアが教えてくれなかったら死んでいたかもしれない。
「先程言いかけた言葉は、勇者に直接伝えてくれ。」
ディオルが後ろから現れて、大きさ的に無理だったから置いてきた、アサルトフローを渡してくれる。
(あの短時間でどうやって?)
聞いている時間はない。ディオルだから出来た、で納得しておく。
「こいつを倒した後で、な。」
「勝つよ!ガットル!」
「おう!」
サニアと一緒に駆け出す。
そして、思った。
(勇者とクレスタまだじゃん!)
大丈夫なのか!?二人とも!?
それぞれ目的があって、実現の為、協力していますっていう話。
とりあえず、魔王を倒したいという気持ちは同じはず、です。