第68話 清算~火葬~
~前回までのロストン~
俺は旅が楽しかったんだ。だから皆で帰りたかった。
ムンタも、サニアも、トワも死んでしまった。
全部、俺の所為だ。
トワの声がしなくなった。
俺の後ろで、冷めた俺が、あーあ。と言った。
逃避だ。認めたくないから。他人事だと思いたいから。
心の中に沸いて出たそいつを、心の中で殴り飛ばす。
手遅れだー、と叫ぶそいつを無視して、俺を乗せた石を発射させる。
頭がくらくらして、上手く制御できず、スピードも出ない。
この行為もきっと逃避だ。
トワはきっと死んでしまった。俺が、殺した。
殺す気なんて、なかったのに。
トワに誤って、許してもらいたいと、思っている。
(なんて、情けない…。)
それでも止まれない俺を止めたのは、物理的な衝撃だ。
空中の俺は、撃墜され落下する。
反射的に水壁を出そうとして。
でも眼帯の無い俺は、出せなくて。
頭を庇いながら、無様に転がる。
即死は免れた。でも、腕の骨とかは折れたかもしれない。全身が痛い。
でも、そんなのトワに比べたら…。
「は?」
乗っていた石が砕かれた。それは分かる。
リガーナだと思った。俺を逃すまいと攻撃したのだと。
でも違う。
なんで分かったかって?
リガーナが倒れているからだ。
しかも。
よろよろと立ち上がり、のろのろとリガーナに近づく。
見間違いだと思ったから。
でも近くで見て、間違いじゃないと分かる。
リガーナは目を閉じて、仰向けに倒れていて、胸から腹までが真っ赤だ。
まるで斬り裂かれたように。
今も、血が流れている。
「あ、れ…?」
俺の腹から、剣が生えた。
遅れて激痛。叫びたくなるほどの。
剣を引っこ抜かれる。足か何かで、背中を押されるように。
俺はリガーナに覆いかぶさるように倒れた。
血を吐いた。もう動けない。
それでも、何とか下手人を見ようと身を捩る。
魔王ディルガンツ。
凄惨な姿で立っている。
片腕は吹き飛んでいるし、全体的に焦げている。
なぜ動けているのか不思議だ、執念だろうか。
何にせよ、俺を、何よりリガーナを倒したのはこいつだ。
(あの時の魔物も、こいつか?)
サニアに噛みついたあの。
魔王は、にやりと笑う。
どうやら意識はあるようだ。
(悔しい…。)
俺達13代目勇者パーティーは、魔王を倒したと勘違いをして、仲間割れの末、全滅。結果、目的を達成する事が出来ずに終わる。
それは嫌だ。
でも、もう動けない。
(いや、動ける?)
少しだが、痛みが消えた。
もしやと思いリガーナを見る。
彼女は、恥ずかしそうに笑って、魔王に首を斬られた。
「!?」
魔王の脚を掴む。
力の限り。
「絶対に離さねえよ。お前が灰になるまでな。」
黒炎。
この魔力が尽きるまで。
魔王を飲み込む、その黒い炎の柱は、勢いを増し続け、やがて、リガーナの死体と、俺をも包む。
足に力は入らない。でも何の問題もない。
逃げる気は、ないから。
俺は絶叫する。
たった一つの判断ミスから、仲間を全員失った。
楽しかったのに。終わってしまった。
いや、終わらせてしまった。
悲しさと、申し訳なさと。
魔王を巻き込んでの八つ当たり。
黒炎の柱は、燃え続けた。
「一つの物語が終わった訳だけど、どうだった?
楽しかった?」
優しい声をかけられる。
こんなはずじゃなかった。そう喚いて、甘えたくなる。
もちろん、そんな資格があるなんて思わない。
「…演劇として見たら、雑じゃね?
ここまで必死に戦ってきたのに、あっさり全滅かよ。」
だから強がる。格好つけて、クールぶる。
泣くことだけは、許されないと思ったから。
「それは違うよ。
気を抜けば、あっという間に全滅するような旅を、頑張って乗り越えてきたの。
だから十分ありえる結果よ。
今までが、よくやってきたと褒めるべき。」
「…言われてみれば、そうかもな。」
骸骨竜の時も、マジュイメの時も、それこそリガーナがいなければ終わっていた。
(…。)
自分の死体を見下ろすのは二回目。いや、あのロストンを入れると三回目か?
まあ、幽霊になるのは二回目だな。
現実感がなくて、酷く他人事。
本当に他人なのかもしれない。悲しくて、悔しくて堪らないロストンは、俺の眼下で燃えている。
そしてその、永遠に燃え続けるのではないかと思われた黒炎の柱も、徐々に勢いを失くしていく。
「まさか、お前がやられるとは思わなかった。」
「いや、私もね。背後からバッサリで驚いたわ。まさか生きてると思わないじゃない。
私の油断と言うより、魔王がタフ過ぎたわ。」
「なんで、自分に回復魔法をしなかったんだ?」
「…。」
「責めてる訳じゃないさ。ここで全滅した原因、戦犯は俺だ。」
愚痴っぽくなってしまう。
でも、今は許される気がして、甘えたくなる。
(全く、さっきまでの意地はどうした。)
自分に呆れる。
でも、俺は昔からこうだった気もする。
だいたい死んだ後まで意地を張ってどうする。
(…。)
「…にしても、ロストンやるね。
魔力を大量摂取した訳でもないのに、魔力精神体で存在出来るなんて。
ほらみて、ムンタもトワもサニアも、魔王ですら、いないでしょう?
異常な状態なの、これは。
前回、この状態を長く経験したから、こつでも掴んだのかも?
あ~今回も研究出来なかった、残念。」
「…今回は前回より、短いみたいだけどな。」
身体の崩壊は始まっている。数分で消えるだろう。
ちなみにリガーナはしっかりした半透明。しばらく留まる事も可能だろう。
手慣れている感がある。言動からも、そんな気がする。
おそらくリガーナは、何度か転生を繰り返している。
「結果的に、俺はサニアとトワを殺したじゃないか。役にたったか?」
「ええ。ある仮説が否定出来たわ。」
「次の世界で二人にあったら、また殺すのか?」
「殺さない。その必要はもうないわ。
次もし会う事があったら、普通にお酒が飲める。あなたのおかげよ。」
「なら、褒美がほしい。」
リガーナを見て、伝える。
「もう一度チャンスをくれないか?」
「嫌よ。」
即答か。へこむな。
「二人の殺害は、今世に転生させた事でチャラよ。」
リガーナも俺を見た。
「忘れちゃったみたいだから、もう一度言うわ。
私は時間を戻している訳じゃない。
やり直しなんて出来ないわ。
世界はね、私達が死んでも続いていくの。
ロストンの元いた世界。
勇者が魔王を倒して、旅を続ける世界は今も続いているし、この世界だってそう。
勇者達と魔王は死んだ。
残された人達は、この後どうしようか考えて、そうやって、一生懸命生きていくの。
王国は喜ぶかもね、厄介者が共倒れしてくれて。
私達は観測できないけれど、私達の戦いを無駄にしないように、頑張ってくれるんじゃないかしら。」
サニアの両親と、孤児院の子供の顔が浮かぶ。
「楽しい瞬間も、笑える瞬間もあった。新たな発見のある、いい旅だったわ。
でもそれは、『あなた』が、いたからじゃない。
ロストンは好き。また会いたいとも思う。
でも、記憶を引き継いでいる必要はない。
寧ろ、記憶を引き継いでいないほうがいい。」
記憶を引き継いだロストンは、リガーナの期待に応えられなかった。
そういう事か。
「記憶を引き継ぐなんて、いい事だけじゃない。
目的もなく繰り返すなんて、辛いわ。終わりにしましょう。」
リガーナの声色は優しい。
分かる。
きっと俺を転生させる事は不可能じゃない。
リガーナは、俺の心配をしている。
消えたくないから転生する、惰性で続けてたらどうなる?
一生懸命生きる事をしなくなり、感動が無くなって。最後には心が壊れた状態で死ぬ。
俺が、そんな悲しい事にならないように、リガーナは止めようと言っている。
そしてリガーナは、一人で転生するつもりなのだ。
「もちろん、楽しい旅の切っ掛けをくれたのは、あなた。
感謝しているの。
だから、あなたが消えるまでちゃんといる。」
いつものような満面の笑顔。自信に満ち、威風堂々たる様で、ない胸を叩く。
「好きなだけ、罵るといいわ!
今までの分も含めてね!
あなたを助ける気のない、薄情な私を!」
(全く、こいつは、本当に…。)
長い事、忘れていた。
いや、忘れた振りをしていた。
怖い思いをして、裏切られた気になり、辛かったから。
あの、最初の時。
消える事が怖くてたまらなかった俺に、手を差し伸べてくれた。
『助けよう。君を。』そう言ってもらえて、どれだけ救われた事か。
罵るなんて、するものか。
このままこいつに甘えながら消えるなんて、贅沢過ぎる最期だ。
でもそれは、今の俺のやりたい事ではない。
叔父さんの顔が浮かぶ。
俺が消えたくなかった理由。
前世の最後、あのサニアを見て。
勇者パーティーとして、魔王討伐を果たし、功績を残し、笑いあえる仲間を見つけた彼女を見て。
何にも成れず、成せず、残せず、見つける事すら出来ずに終わりたくないと思ったからだ。
この旅で、それは達成できた。全滅は悲しいが、成し遂げたものはある。
でも欲が出だ。まだ足りない。
花の咲くような笑顔を向けられたい。圧倒的な強さの彼女に認められたい。
リガーナを見据え、消えかけの両手を肩にのせる。
「目的を見つけたんだ。
今までは、リガーナの期待に応えて生き残りたかった。
今は、リガーナの期待に応える為に、生きたい。」
「え?ロストン、どうしたの?」
「策はある、君を後悔させない。
分かってる。
まずは、後悔させない力をみせる。
全力の君を、倒してみせる。」
不敵に笑ってみせる。リガーナの好きそうな顔のはず。
でも、それは関係ない。単純に俺自身、ワクワクしている。
「ロストンが?全力の私を倒せるなんて思えないよ?」
リガーナも、悪戯っぽく笑う。
いいぞ、調子が出てきたじゃないか。
「仲間と一緒に戦うさ。信頼関係を築いてきたのは、俺の努力だ。」
「どうして、ほしいの?」
「転生先は、こことよく似た世界。
ベストは、石を蹴っ飛ばすか蹴っ飛ばさないかの違いだ。
リンの街で、魔王が話しかけてくる前の俺を乗っ取りたい。」
「はは、無茶苦茶いうじゃん。
そんな都合のいい世界、簡単に見つかる訳…。」
「思った事がある。」
胸を張り、叩く。叩いた右手が消える。
「俺は運がいい。王国の賭場の勝率は高かった。
アトレーナのカジノでは、奇跡の大逆転を成し遂げた。
つまり大丈夫だ。きっと見つかる。」
リガーナが吹きだす。ケラケラ笑う。
魔力が集まって、小さな丸を作る。いくつも、いくつも。
「ねえロストン。
あなたの言う、運がいいってのは、自分の努力や行動に関係なく、自分の都合のよい事が起こるって事よね?
それって、あなたの為に動く人がいて、それにあなたが気付いていないだけかもよ?
例えばね。
アトレーナのカジノであなたが勝ったのは、バレないように、私が魔法を使ったからよ。」
「え?」
「あなたの運がいいんじゃなくて、これは私の実力よ。」
俺の視界は、眩い光に包まれた。
清算は終わり。
ロストンに、新しい目標ができた。




