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継承英雄譚、担々  作者: シロクロゲンヤク
第二章 魔王クリガナンの祝賀

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第68話 清算~火葬~

~前回までのロストン~


俺は旅が楽しかったんだ。だから皆で帰りたかった。

ムンタも、サニアも、トワも死んでしまった。

全部、俺の所為だ。

 トワの声がしなくなった。


 俺の後ろで、冷めた俺が、あーあ。と言った。

 逃避だ。認めたくないから。他人事だと思いたいから。


 心の中に沸いて出たそいつを、心の中で殴り飛ばす。

 手遅れだー、と叫ぶそいつを無視して、俺を乗せたストーンを発射させる。


 頭がくらくらして、上手く制御できず、スピードも出ない。


 この行為もきっと逃避だ。


 トワはきっと死んでしまった。俺が、殺した。

 殺す気なんて、なかったのに。


 トワに誤って、許してもらいたいと、思っている。


 (なんて、情けない…。)


 それでも止まれない俺を止めたのは、物理的な衝撃だ。

 空中の俺は、撃墜され落下する。


 反射的に水壁ウォーターウォールを出そうとして。

 でも眼帯の無い俺は、出せなくて。


 頭を庇いながら、無様に転がる。


 即死は免れた。でも、腕の骨とかは折れたかもしれない。全身が痛い。

 でも、そんなのトワに比べたら…。


「は?」


 乗っていたストーンが砕かれた。それは分かる。


 リガーナだと思った。俺を逃すまいと攻撃したのだと。


 でも違う。

 なんで分かったかって?


 リガーナが倒れているからだ。


 しかも。


 よろよろと立ち上がり、のろのろとリガーナに近づく。


 見間違いだと思ったから。

 でも近くで見て、間違いじゃないと分かる。


 リガーナは目を閉じて、仰向けに倒れていて、胸から腹までが真っ赤だ。


 まるで斬り裂かれたように。

 今も、血が流れている。


「あ、れ…?」


 俺の腹から、剣が生えた。

 遅れて激痛。叫びたくなるほどの。


 剣を引っこ抜かれる。足か何かで、背中を押されるように。


 俺はリガーナに覆いかぶさるように倒れた。

 血を吐いた。もう動けない。


 それでも、何とか下手人を見ようと身を捩る。


 魔王ディルガンツ。


 凄惨な姿で立っている。

 片腕は吹き飛んでいるし、全体的に焦げている。


 なぜ動けているのか不思議だ、執念だろうか。


 何にせよ、俺を、何よりリガーナを倒したのはこいつだ。


 (あの時の魔物も、こいつか?)


 サニアに噛みついたあの。


 魔王は、にやりと笑う。

 どうやら意識はあるようだ。


 (悔しい…。)


 俺達13代目勇者パーティーは、魔王を倒したと勘違いをして、仲間割れの末、全滅。結果、目的を達成する事が出来ずに終わる。


 それは嫌だ。

 でも、もう動けない。


 (いや、動ける?)


 少しだが、痛みが消えた。


 もしやと思いリガーナを見る。

 彼女は、恥ずかしそうに笑って、魔王に首を斬られた。


「!?」


 魔王の脚を掴む。

 力の限り。


「絶対に離さねえよ。お前が灰になるまでな。」


 黒炎ブラックファイアー

 この魔力が尽きるまで。


 魔王を飲み込む、その黒い炎の柱は、勢いを増し続け、やがて、リガーナの死体と、俺をも包む。


 足に力は入らない。でも何の問題もない。

 逃げる気は、ないから。


 俺は絶叫する。


 たった一つの判断ミスから、仲間を全員失った。


 楽しかったのに。終わってしまった。

 いや、終わらせてしまった。


 悲しさと、申し訳なさと。


 魔王を巻き込んでの八つ当たり。


 黒炎の柱は、燃え続けた。




「一つの物語が終わった訳だけど、どうだった?

 楽しかった?」


 優しい声をかけられる。

 こんなはずじゃなかった。そう喚いて、甘えたくなる。


 もちろん、そんな資格があるなんて思わない。


「…演劇として見たら、雑じゃね?

 ここまで必死に戦ってきたのに、あっさり全滅かよ。」


 だから強がる。格好つけて、クールぶる。

 泣くことだけは、許されないと思ったから。


「それは違うよ。

 気を抜けば、あっという間に全滅するような旅を、頑張って乗り越えてきたの。

 だから十分ありえる結果よ。

 今までが、よくやってきたと褒めるべき。」


「…言われてみれば、そうかもな。」


 骸骨竜スカルドラゴンの時も、マジュイメの時も、それこそリガーナがいなければ終わっていた。


 (…。)


 自分の死体を見下ろすのは二回目。いや、あのロストンを入れると三回目か?

 まあ、幽霊になるのは二回目だな。


 現実感がなくて、酷く他人事。

 本当に他人なのかもしれない。悲しくて、悔しくて堪らないロストンは、俺の眼下で燃えている。


 そしてその、永遠に燃え続けるのではないかと思われた黒炎の柱も、徐々に勢いを失くしていく。


「まさか、お前がやられるとは思わなかった。」


「いや、私もね。背後からバッサリで驚いたわ。まさか生きてると思わないじゃない。

 私の油断と言うより、魔王がタフ過ぎたわ。」


「なんで、自分に回復魔法ヒールをしなかったんだ?」

「…。」


「責めてる訳じゃないさ。ここで全滅した原因、戦犯は俺だ。」


 愚痴っぽくなってしまう。

 でも、今は許される気がして、甘えたくなる。


 (全く、さっきまでの意地はどうした。)


 自分に呆れる。

 でも、俺は昔からこうだった気もする。


 だいたい死んだ後まで意地を張ってどうする。


 (…。)


「…にしても、ロストンやるね。

 魔力を大量摂取した訳でもないのに、魔力精神体で存在出来るなんて。

 ほらみて、ムンタもトワもサニアも、魔王ですら、いないでしょう?

 異常な状態なの、これは。

 前回、この状態を長く経験したから、こつでも掴んだのかも?

 あ~今回も研究出来なかった、残念。」


「…今回は前回より、短いみたいだけどな。」


 身体の崩壊は始まっている。数分で消えるだろう。


 ちなみにリガーナはしっかりした半透明。しばらく留まる事も可能だろう。

 手慣れている感がある。言動からも、そんな気がする。


 おそらくリガーナは、何度か転生を繰り返している。


「結果的に、俺はサニアとトワを殺したじゃないか。役にたったか?」

「ええ。ある仮説が否定出来たわ。」


「次の世界で二人にあったら、また殺すのか?」


「殺さない。その必要はもうないわ。

 次もし会う事があったら、普通にお酒が飲める。あなたのおかげよ。」


「なら、褒美がほしい。」


 リガーナを見て、伝える。


「もう一度チャンスをくれないか?」

「嫌よ。」


 即答か。へこむな。


「二人の殺害は、今世に転生させた事でチャラよ。」


 リガーナも俺を見た。


「忘れちゃったみたいだから、もう一度言うわ。

 私は時間を戻している訳じゃない。

 やり直しなんて出来ないわ。

 世界はね、私達が死んでも続いていくの。

 ロストンの元いた世界。

 勇者が魔王を倒して、旅を続ける世界は今も続いているし、この世界だってそう。

 勇者達と魔王は死んだ。

 残された人達は、この後どうしようか考えて、そうやって、一生懸命生きていくの。

 王国は喜ぶかもね、厄介者が共倒れしてくれて。

 私達は観測できないけれど、私達の戦いを無駄にしないように、頑張ってくれるんじゃないかしら。」


 サニアの両親と、孤児院の子供の顔が浮かぶ。


「楽しい瞬間も、笑える瞬間もあった。新たな発見のある、いい旅だったわ。

 でもそれは、『あなた』が、いたからじゃない。

 ロストンは好き。また会いたいとも思う。

 でも、記憶を引き継いでいる必要はない。

 寧ろ、記憶を引き継いでいないほうがいい。」


 記憶を引き継いだロストンは、リガーナの期待に応えられなかった。

 そういう事か。


「記憶を引き継ぐなんて、いい事だけじゃない。

 目的もなく繰り返すなんて、辛いわ。終わりにしましょう。」


 リガーナの声色は優しい。


 分かる。

 きっと俺を転生させる事は不可能じゃない。


 リガーナは、俺の心配をしている。


 消えたくないから転生する、惰性で続けてたらどうなる?

 一生懸命生きる事をしなくなり、感動が無くなって。最後には心が壊れた状態で死ぬ。


 俺が、そんな悲しい事にならないように、リガーナは止めようと言っている。


 そしてリガーナは、一人で転生するつもりなのだ。


「もちろん、楽しい旅の切っ掛けをくれたのは、あなた。

 感謝しているの。

 だから、あなたが消えるまでちゃんといる。」 


 いつものような満面の笑顔。自信に満ち、威風堂々たる様で、ない胸を叩く。


「好きなだけ、罵るといいわ!

 今までの分も含めてね!

 あなたを助ける気のない、薄情な私を!」


 (全く、こいつは、本当に…。)


 長い事、忘れていた。

 いや、忘れた振りをしていた。


 怖い思いをして、裏切られた気になり、辛かったから。


 あの、最初の時。


 消える事が怖くてたまらなかった俺に、手を差し伸べてくれた。


 『助けよう。君を。』そう言ってもらえて、どれだけ救われた事か。


 罵るなんて、するものか。

 このままこいつに甘えながら消えるなんて、贅沢過ぎる最期だ。


 でもそれは、今の俺のやりたい事ではない。


 叔父さんの顔が浮かぶ。

 俺が消えたくなかった理由。


 前世の最後、あのサニアを見て。

 勇者パーティーとして、魔王討伐を果たし、功績を残し、笑いあえる仲間を見つけた彼女を見て。


 何にも成れず、成せず、残せず、見つける事すら出来ずに終わりたくないと思ったからだ。


 この旅で、それは達成できた。全滅は悲しいが、成し遂げたものはある。


 でも欲が出だ。まだ足りない。


 花の咲くような笑顔を向けられたい。圧倒的な強さの彼女に認められたい。


 リガーナを見据え、消えかけの両手を肩にのせる。


「目的を見つけたんだ。

 今までは、リガーナの期待に応えて生き残りたかった。

 今は、リガーナの期待に応える為に、生きたい。」


「え?ロストン、どうしたの?」


「策はある、君を後悔させない。

 分かってる。

 まずは、後悔させない力をみせる。

 全力の君を、倒してみせる。」


 不敵に笑ってみせる。リガーナの好きそうな顔のはず。

 でも、それは関係ない。単純に俺自身、ワクワクしている。


「ロストンが?全力の私を倒せるなんて思えないよ?」


 リガーナも、悪戯っぽく笑う。

 いいぞ、調子が出てきたじゃないか。


「仲間と一緒に戦うさ。信頼関係を築いてきたのは、俺の努力だ。」

「どうして、ほしいの?」


「転生先は、こことよく似た世界。

 ベストは、石を蹴っ飛ばすか蹴っ飛ばさないかの違いだ。

 リンの街で、魔王が話しかけてくる前の俺を乗っ取りたい。」


「はは、無茶苦茶いうじゃん。

 そんな都合のいい世界、簡単に見つかる訳…。」

「思った事がある。」


 胸を張り、叩く。叩いた右手が消える。


「俺は運がいい。王国の賭場の勝率は高かった。

 アトレーナのカジノでは、奇跡の大逆転を成し遂げた。

 つまり大丈夫だ。きっと見つかる。」


 リガーナが吹きだす。ケラケラ笑う。


 魔力が集まって、小さな丸を作る。いくつも、いくつも。


「ねえロストン。

 あなたの言う、運がいいってのは、自分の努力や行動に関係なく、自分の都合のよい事が起こるって事よね?

 それって、あなたの為に動く人がいて、それにあなたが気付いていないだけかもよ?

 例えばね。

 アトレーナのカジノであなたが勝ったのは、バレないように、私が魔法を使ったからよ。」


「え?」


「あなたの運がいいんじゃなくて、これは私の実力よ。」


 俺の視界は、眩い光に包まれた。

清算は終わり。


ロストンに、新しい目標ができた。

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