第66話 清算~魔王VS魔王~
~前回までのロストン~
レーグの魔王、ディルガンツが現れた。
何とか誤魔化そうとしたけど、出来なくて。
リガーナとディルガンツの戦いが、始まる。
魔王が炎に包まれる。炎の魔力が身体に纏わりつくように。
背面から三方向に火柱が伸びて、その先端は竜の頭の形と成る。
「…ドラゴンフォーム、炎竜ね。」
リガーナがジェスチャーで、下がるように言ってくる。
意地を張る場面ではない。素直に従う。
マジックストックに光射を込める。
マジックブーストは自分に着けた。
(状況に応じて、リガーナを援護する。)
リガーナが水竜を発動させ、それが合図となった。
それぞれの竜頭から放たれる、火球と水射がぶつかり合っては、消えていく。
絶え間なく続く魔法の応酬。次元の違う戦いに、圧倒される。
リガーナが、一歩下がった。
(押されている!?)
圧倒されている場合ではない。
ほぼ互角で、やや押され気味なら、俺の参戦でひっくり返せる可能性が、
「うお!?」
火球が飛んできて、なんとか躱したが、出鼻をくじかれる。
(流れ弾?いや…、魔王の牽制球だ。)
表情を見る。リガーナは必死そうで、魔王は余裕そうだ。
「やろう…。」
なら尚更、戦わないといけない。
リガーナが、また一歩下がった。
光射を撃たないといけない。
また一歩。
動かないといけないと、分かっているのに動けない。
魔王に対する、恐怖でだ。
攻撃したら火球が飛んでくる。牽制ではなく、当てる為に。
それこそ邪魔者は先に消すという考えで、集中砲火されるかもしれない。
あんな一発でも当たれば死ぬようなものに狙われる。
そんな恐ろしい考えが、俺の脚を止める。
リガーナが振り向き、俺の方へ走ってきた。
「逃げるよ!」
地面が浮く。俺とリガーナを乗せて、物凄い速度で空を飛ぶ。
「逃がさねえよ?」
随分近くで聞こえた。俺達は今、空の上なのに?
「ぐ、う…。」
目の前に魔王が現れて。
リガーナが腹を殴られて。
足場の岩が、砕かれた。
「うおぉぉお!」
空中に投げ出される前、とっさにリガーナを掴めた事は、奇跡だと思う。
水壁を展開し、地面への激突は防ぐ。
まずは、リガーナに回復魔法を、
「いい反応だったな。」
腹を思い切り蹴られ、俺は宙を舞う。
受け身も取れず無様に転がってしまう。
(や、やられる…。)
魔王が速すぎる。
魔王は止めを刺そうとリガーナに手を向けて、そして後ろへ飛んだ。
魔王のいた位置に、鋭く尖った岩が数個突き刺さる。
よろよろと立ち上がるリガーナ。
(こんなリガーナ見た事ない…。)
あのリガーナが苦戦している?本当に?
「リガーナ!」
魔王の火球が飛び交う中、リガーナの元へ走る。
怖い。リガーナが負ける事が。
がむしゃらに走る。
手にはマジックブーストとマジックストック。
リガーナに渡すんだ。
炎の玉が飛んでくる。足は止めない。速度を上げて躱す。
雄叫びで悲鳴を消しながら、なんとか辿り着けた。
そんな俺を見て、リガーナは笑った。
そして視界が白くなる。
雨の音で目を覚ます。
知らない洞窟の中にいた。
リガーナもいる。壁に寄りかかるように座っていた。
「フラッシュボムっていうアイテムよ。
強烈な光と音で視界と聴覚を一時的に麻痺させるの。
ついでに魔力もばら撒くから、探知系の魔法もしばらくは誤魔化せるわ。
ロストンが気を失ったのは、ばら撒かれた魔力の所為だけど、ダメージは残ってないはずよ。」
「つまり、リガーナが助けてくれたのか?」
「そうよ。
…最初から使え、なんて言われたら殴るわ。
貴重な物なの。追いつかれるなんて思わなかったし。」
唇を尖らせながら言ってきた。文句なんてある訳ない。
「この場所は?」
「念のため作っておいた避難所よ。探知系の魔法対策をしてある。
少しは時間を稼げるはずよ。」
リガーナの周りに、空の瓶が落ちている。
体力や魔力の回復薬だろう。
逃げ切れた訳ではない。ここを出たら、戦いが再開する。
バッグを開けた。戻されている腕輪を取り出す。
今度こそ渡す為に近づいた。
「俺はどうすればいい?どうやったら、リガーナはあいつに勝てる?」
リガーナはキョトンとして、そして笑った。
「ロストンはここにいて。無理しなくていいよ。
怖がって動けなかったじゃない。」
「逃走失敗の後は動けただろ。もう大丈夫だ。囮でもなんでも、出来る。」
リガーナの目を見る。彼女も俺を見た。
「私が負けると思っている。」
「厳しいと思っている。そして、二人なら勝てるとも思っている。」
「勝ちたいんだ?」
「もちろん。」
リガーナが立ち上がる。服の汚れを払う。
「それはいらないわ。」
腕輪は受け取ってもらえなかった。
「手を、貸してもらえるかしら?」
差し出された手を、しっかりと掴む。
洞窟を出て、少し歩く。
傘なんてないから濡れたまま。
雨と風の勢いは増していく。
「簡単だけど難しい事を言うわね。」
晴れていれば見晴らしのよい平原。手を繋いだまま、二人で並ぶ。
「これから魔王と戦う訳だけど、手を離さないで。」
遠くで揺らめく炎が見える。雨なんて関係ないようだ。
「動かないでいいなんて、楽勝だぜ。」
握る手に力が入る。
衝突音。突風が顔を叩き、地面が揺れる。
現れたのは、炎の魔王。炎竜は発動済み。
その後ろから魔物。一体ではない。獣型の魔物がぞろぞろと出てくる。
「悪いな。なかなか見つけられなくてよ、こいつらに手伝ってもらった。」
「流石ディルガンツね。魔王って感じだわ。」
「40年近く魔王やってるからな。年季ってやつだろう。」
「謙遜しなくていいわ。ただ長くやるだけじゃ、出来ない事よ。」
リガーナもドラゴンフォームを発動させる。
魔力が、手から流れ出る。リガーナの纏う水が白く輝く。
天竜。水と光の混合天法。
翼はない。代わりに頭が四つある。
「勝てる気なのか?」
「ええ、勝つわ。」
「そいつがいるから?」
「その通りよ。」
「強そうに見えねえけどな。」
「見る目がないのね。」
火球が飛んでくる。
それを合図に、魔物が一斉に襲い掛かる。
俺は、動かない。
リガーナを信じる。
輝く四本の竜頭が口を開く。
放たれる魔法が、火球を迎撃し、魔物を薙ぎ払っていく。
「ロストンはね。」
リガーナが口を開く。話しかけた相手は魔王だ。
「怖がりで情けない奴よ。
勇ましそうな時も、カッコよさげな時も、結局は保身、打算の結果なのよ。
行動原理は恐怖で、どっちの結果が怖いかで動くわ。
最初からずっと。今だってそう。
私が負けたら、あなたに殺されるから、だからここにいるの。」
否定しようとして口を開けかける。
しかし止める。俺に言ったのではないし、否定する事でもない。
魔王は返事をしない。
そんな余裕はないだろう。
魔物は既に蹴散らされた。
火球の勢いは凄まじいが、今のリガーナは、それ以上だ。
「でもそれは悪い事?違うわよね。
危険な事、不味い場面で、ちゃんと逃げる。
自分を大切に出来ている。
未来を選んでいるの。自分で考えて。」
魔王は腰の剣を抜いた。
デカく、禍々しい意匠の剣だ。
炎で燃え上がる刀身を構え、雄叫びと共に突っ込んでくる。
竜頭で、火球を撃ちながらだ。
地面から無数の石の鎖が飛び出して魔王に向かう。
「それに見て。ロストンは手を離さない。
気を失った訳でも、腰が抜けた訳でも、無謀でも、蛮勇でもないわ。
私が勝つって信じているの。」
最初こそ物ともしなかったが、鎖の数は増え続けた。
そしてリガーナを両断しようと高く剣を振り上げた時、その体勢のまま、ついに魔王が止まる。竜頭の口にも、鎖が巻き付いている。
あと一歩で届く距離。鎖で拘束されても、魔王の眼光は衰えない。
「臆病で構わないわ。だって傍にいてくれるのよ。
私が魔王だと知っているのに、私から離れなかった。
力が湧いてくる。嬉しいの私は。」
鎖が軋む。炎で石が灰になっていく。
光竜の竜頭が伸びる。先端が、変化していく。
四本の竜頭は、四本の剣となった。
「あなたに負ける気はしないわ。」
ついに鎖が引きちぎられ、剣が振り下ろされる。
リガーナの二本の剣がそれを受け止め、残り二本が魔王の身体を貫く。
「天柱。」
輝く柱が魔王を飲み込んで、天を貫く。
雲は蹴散らされ、太陽の光が降り注ぐ。
それが消えた時、残ったのは大穴が出来た地面のみ。
「ぶい!」
リガーナ勝利のVサイン。
光の中心に、彼女はいた。
(俺が見たかったリガーナは、これだよな。)
俺はへたり込む。ゆっくりと手を離す。
リガーナがアクアドラゴンを使う時、翼を生やしていたのは見栄えの為。
張りぼての翼なんて生やさなければ、竜頭を四本、出せたという話。




