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継承英雄譚、担々  作者: シロクロゲンヤク
第二章 魔王クリガナンの祝賀

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第66話 清算~魔王VS魔王~

~前回までのロストン~


レーグの魔王、ディルガンツが現れた。

何とか誤魔化そうとしたけど、出来なくて。

リガーナとディルガンツの戦いが、始まる。

 魔王が炎に包まれる。炎の魔力が身体に纏わりつくように。


 背面から三方向に火柱が伸びて、その先端は竜の頭の形と成る。


「…ドラゴンフォーム、炎竜フレイムドラゴンね。」


 リガーナがジェスチャーで、下がるように言ってくる。

 意地を張る場面ではない。素直に従う。


 マジックストックに光射シャインショットを込める。

 マジックブーストは自分に着けた。


 (状況に応じて、リガーナを援護する。)


 リガーナが水竜アクアドラゴンを発動させ、それが合図となった。


 それぞれの竜頭から放たれる、火球ファイアーボール水射ウォーターショットがぶつかり合っては、消えていく。


 絶え間なく続く魔法の応酬。次元の違う戦いに、圧倒される。


 リガーナが、一歩下がった。

 (押されている!?)


 圧倒されている場合ではない。


 ほぼ互角で、やや押され気味なら、俺の参戦でひっくり返せる可能性が、

「うお!?」


 火球ファイアーボールが飛んできて、なんとか躱したが、出鼻をくじかれる。


 (流れ弾?いや…、魔王の牽制球だ。)


 表情を見る。リガーナは必死そうで、魔王は余裕そうだ。


「やろう…。」


 なら尚更、戦わないといけない。


 リガーナが、また一歩下がった。


 光射シャインショットを撃たないといけない。


 また一歩。


 動かないといけないと、分かっているのに動けない。

 魔王に対する、恐怖でだ。


 攻撃したら火球ファイアーボールが飛んでくる。牽制ではなく、当てる為に。


 それこそ邪魔者は先に消すという考えで、集中砲火されるかもしれない。


 あんな一発でも当たれば死ぬようなものに狙われる。

 そんな恐ろしい考えが、俺の脚を止める。


 リガーナが振り向き、俺の方へ走ってきた。


「逃げるよ!」


 地面が浮く。俺とリガーナを乗せて、物凄い速度で空を飛ぶ。


「逃がさねえよ?」


 随分近くで聞こえた。俺達は今、空の上なのに?


「ぐ、う…。」


 目の前に魔王が現れて。


 リガーナが腹を殴られて。


 足場の岩が、砕かれた。


「うおぉぉお!」


 空中に投げ出される前、とっさにリガーナを掴めた事は、奇跡だと思う。


 水壁ウォーターウォールを展開し、地面への激突は防ぐ。


 まずは、リガーナに回復魔法ヒールを、

「いい反応だったな。」


 腹を思い切り蹴られ、俺は宙を舞う。


 受け身も取れず無様に転がってしまう。


 (や、やられる…。)


 魔王が速すぎる。


 魔王は止めを刺そうとリガーナに手を向けて、そして後ろへ飛んだ。


 魔王のいた位置に、鋭く尖った岩が数個突き刺さる。


 よろよろと立ち上がるリガーナ。


 (こんなリガーナ見た事ない…。)


 あのリガーナが苦戦している?本当に?


「リガーナ!」


 魔王の火球ファイアーボールが飛び交う中、リガーナの元へ走る。


 怖い。リガーナが負ける事が。


 がむしゃらに走る。


 手にはマジックブーストとマジックストック。

 リガーナに渡すんだ。


 炎の玉が飛んでくる。足は止めない。速度を上げて躱す。


 雄叫びで悲鳴を消しながら、なんとか辿り着けた。


 そんな俺を見て、リガーナは笑った。

 そして視界が白くなる。




 雨の音で目を覚ます。


 知らない洞窟の中にいた。


 リガーナもいる。壁に寄りかかるように座っていた。


「フラッシュボムっていうアイテムよ。

 強烈な光と音で視界と聴覚を一時的に麻痺させるの。

 ついでに魔力もばら撒くから、探知系の魔法もしばらくは誤魔化せるわ。

 ロストンが気を失ったのは、ばら撒かれた魔力の所為だけど、ダメージは残ってないはずよ。」


「つまり、リガーナが助けてくれたのか?」


「そうよ。

 …最初から使え、なんて言われたら殴るわ。

 貴重な物なの。追いつかれるなんて思わなかったし。」


 唇を尖らせながら言ってきた。文句なんてある訳ない。


「この場所は?」


「念のため作っておいた避難所よ。探知系の魔法対策をしてある。

 少しは時間を稼げるはずよ。」


 リガーナの周りに、空の瓶が落ちている。

 体力や魔力の回復薬だろう。


 逃げ切れた訳ではない。ここを出たら、戦いが再開する。


 バッグを開けた。戻されている腕輪を取り出す。

 今度こそ渡す為に近づいた。


「俺はどうすればいい?どうやったら、リガーナはあいつに勝てる?」


 リガーナはキョトンとして、そして笑った。


「ロストンはここにいて。無理しなくていいよ。

 怖がって動けなかったじゃない。」


「逃走失敗の後は動けただろ。もう大丈夫だ。囮でもなんでも、出来る。」


 リガーナの目を見る。彼女も俺を見た。


「私が負けると思っている。」

「厳しいと思っている。そして、二人なら勝てるとも思っている。」


「勝ちたいんだ?」

「もちろん。」


 リガーナが立ち上がる。服の汚れを払う。


「それはいらないわ。」


 腕輪は受け取ってもらえなかった。


「手を、貸してもらえるかしら?」


 差し出された手を、しっかりと掴む。




 洞窟を出て、少し歩く。

 傘なんてないから濡れたまま。


 雨と風の勢いは増していく。


「簡単だけど難しい事を言うわね。」


 晴れていれば見晴らしのよい平原。手を繋いだまま、二人で並ぶ。


「これから魔王と戦う訳だけど、手を離さないで。」


 遠くで揺らめく炎が見える。雨なんて関係ないようだ。


「動かないでいいなんて、楽勝だぜ。」


 握る手に力が入る。


 衝突音。突風が顔を叩き、地面が揺れる。


 現れたのは、炎の魔王。炎竜フレイムドラゴンは発動済み。


 その後ろから魔物。一体ではない。獣型の魔物がぞろぞろと出てくる。


「悪いな。なかなか見つけられなくてよ、こいつらに手伝ってもらった。」

「流石ディルガンツね。魔王って感じだわ。」


「40年近く魔王やってるからな。年季ってやつだろう。」

「謙遜しなくていいわ。ただ長くやるだけじゃ、出来ない事よ。」


 リガーナもドラゴンフォームを発動させる。


 魔力が、手から流れ出る。リガーナの纏う水が白く輝く。


 天竜ヘブンドラゴン。水と光の混合天法。


 翼はない。代わりに頭が四つある。


「勝てる気なのか?」

「ええ、勝つわ。」


「そいつがいるから?」

「その通りよ。」


「強そうに見えねえけどな。」

「見る目がないのね。」


 火球ファイアーボールが飛んでくる。


 それを合図に、魔物が一斉に襲い掛かる。


 俺は、動かない。

 リガーナを信じる。


 輝く四本の竜頭が口を開く。


 放たれる魔法が、火球ファイアーボールを迎撃し、魔物を薙ぎ払っていく。


「ロストンはね。」


 リガーナが口を開く。話しかけた相手は魔王だ。


「怖がりで情けない奴よ。

 勇ましそうな時も、カッコよさげな時も、結局は保身、打算の結果なのよ。

 行動原理は恐怖で、どっちの結果が怖いかで動くわ。

 最初からずっと。今だってそう。

 私が負けたら、あなたに殺されるから、だからここにいるの。」


 否定しようとして口を開けかける。


 しかし止める。俺に言ったのではないし、否定する事でもない。


 魔王は返事をしない。 

 そんな余裕はないだろう。


 魔物は既に蹴散らされた。

 火球ファイアーボールの勢いは凄まじいが、今のリガーナは、それ以上だ。


「でもそれは悪い事?違うわよね。

 危険な事、不味い場面で、ちゃんと逃げる。

 自分を大切に出来ている。

 未来を選んでいるの。自分で考えて。」


 魔王は腰の剣を抜いた。

 デカく、禍々しい意匠の剣だ。


 炎で燃え上がる刀身を構え、雄叫びと共に突っ込んでくる。

 竜頭で、火球ファイアーボールを撃ちながらだ。


 地面から無数の石の鎖が飛び出して魔王に向かう。


「それに見て。ロストンは手を離さない。

 気を失った訳でも、腰が抜けた訳でも、無謀でも、蛮勇でもないわ。

 私が勝つって信じているの。」


 最初こそ物ともしなかったが、鎖の数は増え続けた。


 そしてリガーナを両断しようと高く剣を振り上げた時、その体勢のまま、ついに魔王が止まる。竜頭の口にも、鎖が巻き付いている。


 あと一歩で届く距離。鎖で拘束されても、魔王の眼光は衰えない。


「臆病で構わないわ。だって傍にいてくれるのよ。

 私が魔王だと知っているのに、私から離れなかった。

 力が湧いてくる。嬉しいの私は。」


 鎖が軋む。炎で石が灰になっていく。


 光竜ヘブンドラゴンの竜頭が伸びる。先端が、変化していく。

 四本の竜頭は、四本の剣となった。


「あなたに負ける気はしないわ。」


 ついに鎖が引きちぎられ、剣が振り下ろされる。

 リガーナの二本の剣がそれを受け止め、残り二本が魔王の身体を貫く。


天柱ヘブンピラー。」


 輝く柱が魔王を飲み込んで、天を貫く。


 雲は蹴散らされ、太陽の光が降り注ぐ。


 それが消えた時、残ったのは大穴が出来た地面のみ。


「ぶい!」


 リガーナ勝利のVサイン。


 光の中心に、彼女はいた。


 (俺が見たかったリガーナは、これだよな。)


 俺はへたり込む。ゆっくりと手を離す。

リガーナがアクアドラゴンを使う時、翼を生やしていたのは見栄えの為。

張りぼての翼なんて生やさなければ、竜頭を四本、出せたという話。

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