第65話 清算~作り話~
~前回までのロストン~
カジノで勝利して大金を得た。
不穏な言葉を残し、リガーナが離脱。
俺達は魔装具を買う為に、リンに向かった。
昼前には到着し、そのまま店へ。
土壇場で遠慮し始めたトワを黙らせ、俺達も店側も笑顔になる買い物をする。
余裕の出た金で、俺も魔装具を買う。
マジックブースト。今度も腕輪タイプで、念願の魔法の威力を上げる魔装具だ。
サニアも同じ物を買っていた。
ムンタは消費魔力量とお金を気にして買わず、トワも遠慮から買っていない。
戦闘能力の向上は生存率に直結する。躊躇ってどうする、と思う。
しかし魔王城まで、まだ距離があり、旅にはお金がかかるのだ。
魔王を倒したら、王国へ帰らないといけない。
…そのつもりだから、購入を強く勧められない。
他には、腰に巻く小型のバッグも買う。
増えたアイテムの収納用で、『ファイアーに負けない』のフレーズに惚れた。
マジックストック四つ、魔力抑制装置一つ、マジックブースト一つ。
マジックストックが、全部俺持ちになったのはトワの意見。
光天法や闇天法を味方に渡す為だ。
サニアには躊躇するが、トワとムンタは上手く活用してくれるだろう。
もちろんリガーナも使いこなすだろう。
(俺が、リガーナに渡す事はあるのだろうか?)
一体どんな強敵が出てきた時なのだと思ったが、彼女の言葉が頭をよぎる。
厄介で、強く、俺の命を狙う敵。
その時は、意外と早く訪れるかもしれない。
トワは明日手術をして、問題なければ明後日に退院だ。
それまでにリガーナと合流できればよい。
できない時は…。
数日は待てるだろうが、それでも来ない場合、勇者パーティーは魔王討伐の旅を再開する。
都合が悪いのは俺とトワで、リーダーのムンタは困らないから。
最悪、俺達も魔王を倒すまでは問題ない。
(このまま、リガーナが戻って来なければ…。)
ひょっとしたらそれが一番よい事なのかもしれない。
魔王を倒した勇者達は、無事王国に凱旋する。
もちろんトワの首輪問題があるから、素直に喜べない点もある。
けれど、仲間同士で殺しあうなんて事より。
(…。)
少し前の俺ならば、リガーナが来ないなんて事、ある訳ないと考えたはずだ。
メインイベントを逃すはずがないと。
しかし、今の俺は思うのだ。
(リガーナは本当に、楽しみなのか?トワ達の最期が、その時の俺の様子が。)
あの夜に、楽しみだと言っていたけど。
これまでで彼女は、仲間と思えない振る舞いも確かにあったけど。
でもそれは、額面通り受け取ってよいのか?
いつだったか俺は、彼女の行動が芝居みたいだと感じたはずだ。
裏が、あるのではないかと。
(もちろん、俺の願望かもしれない。)
もう俺は、トワ達とは勿論、リガーナとだって戦いたくないと思っている。
恐怖以外の感情が、彼女にある。
(そう思えるほど、俺の第二の人生は、楽しかったんだ。)
大変だったし、もうやりたくない経験もあるけれど。それでも。
(俺は、皆と生きて帰りたい。)
寝る前、そんな事を考えていた。
日が昇り、トワの手術が開始される。
街をぶらつく。
やる事は特にないから。
天気は曇り。中々厚い雲で、昼間なのに薄暗い。
もう少ししたら降り出すかもしれない。
サニアはトワについている。
それで十分だ。皆いたら、逆にトワに気を遣わせる。
ムンタも朝早くから訓練をしに出かけた。
敵に関しては、情報がなさすぎる。一応、街中でもフル装備だが、それだけ。
アトレーナを出ればそれでよいのか。リガーナが対処中なのか。
そもそもリガーナの悪ふざけの可能性だって残ってる。
「久しぶりだな、ディオル。」
男の声で、懐かしい名前を聞いた気がした。
「すげーカッコウだな。
イメチェンしたって聞いたが、その方向だとは思わなかった。」
声の主は、俺に話しかけているみたいだ。
その意味を、理解、して。
固まる。動けない。
「突然いなくなって、その姿だろ?
完全にグレてるじゃねーか。
俺は結構話しかけやすい方だと思っていたのに、相談されなくてショックだぜ。」
魔力の質について聞いた事がある。
高い低いの他に、相性の良し悪し。個性なんかもある。
魔法に精通している奴は、魔力の質にも敏感になり、魔力で個人を判別なんて事も出来るらしい。
(ディオルを知っていて、魔法に精通している奴。)
前世の記憶と今世の情報で、一人心当たりがある。
ゆっくりと振り返る。
見覚えのない、がたいのいい、おっさんだ。
瞬間、蘇る情景がある。
俺の知らない、おそらく、この身体の記憶。
ディオルと、三代目レーグの魔王ディルガンツ、との思い出。
「親父…。」
「おうディオル、帰ろうぜ。」
ニカっと笑うそいつに敵意はない。
頼もしい、とすら感じる。
しかしそれは、ディオルに対してで、俺に対してではない。
理解した。リガーナの言っていた敵は、こいつだ。
俺の正体がバレだら、どうなる?
何とかして、身体をディオルに戻そうとするのではないか?
(どうやって?)
『分からないから。』
だからって、とりあえず試すみたいなノリで殺されてたまるか。
今更、こんな所に魔王がいる事を嘆いても仕方がない。
一人で勝てる気もしない。
どうにかして、隙をみて逃げるしかない。
(仲間と合流を…、トワは無理だ。ムンタの所に…。)
「駄目よディルガンツ。ディオルにはやる事があるの。まだ帰れないわ。」
声を聴いただけで、思わず泣きそうになる。
リガーナが、いる。
「ちゃんと、説明したじゃない。」
「…俺は、納得してねえよ。」
二人の魔王の視線がぶつかる。
二人の顔に、笑顔はない。
この世の終わりみたいな状況だ。
「だから、もうちょっと話そうぜ。三人で、酒でも飲みながらよ。」
魔王が歩きだした。
リガーナを見る。頷いて、歩き出した。
ついていく。下手に逃げる方が危険だろう。
しかし魔王は酒場には向かわない。町から出るつもりだ。
「大丈夫。首輪の範囲内よ。あいつの別荘に向かっているの。」
小声でリガーナが教えてくれる。
(範囲を忘れたと言っていたのは、嘘か。)
今回の方が嘘だとは思わない。
それだけの信頼がある。
町を出ると、リガーナが蜃気楼を使った。
石で平らな岩を作り、三人が乗ると猛スピードで動き出す。
速さは、トワの風歩に勝るとも劣らない。
こっちは多人数を運べる利点があり、あっちは小回りが利く利点がある、と言った感じだ。
(リガーナが本気で魔王討伐の旅に協力していたら、移動はこれだったかもしれない。)
思いのほか遠くまで来て、本当にトワの首輪は大丈夫かと心配になった頃、その場所に到着した。
魔王の別荘。
二階建ての一軒家で、年季がある。つまりボロい。
でも普通に生活する分には不自由なさそう。そして生活感がある。
(魔王は今、ここに住んでいる…。)
そんな気がする。
最短ルートで魔王城を目指したら、魔王がいなくて困惑しただろう。
などと考えていると、目の前に酒が出される。
地下から、魔王が持ってきた。
「まずは、乾杯といこうじゃないか。」
魔王のイメージするディオルなら、どんな反応だろうか。
リガーナも俺の事をディオルと呼んでいたし、やはりディオルで通したいが。
「…。」
分かる訳がない。
無言で乾杯する。
グレたと思われている訳だし、やや不機嫌そうにしていれば、喋らなくても不自然ではないはず。
事前に会話をしていたようだし、リガーナのフォローに期待したいが。
「お前は誰だ?名前から教えてくれよ。」
「…。」
乾杯の仕草だけでバレたのか。難易度高すぎて笑うしかない。
「ディオルの魔力と、全く別の魔力が混じりあって見えた。
一目で分かったさ。ディオルの中に誰か別の奴がいるってな。
クリガナンの態度にも納得できた。
ん?まさか、バレないとでも思ったか?」
ガハハと。豪快に笑う。
もちろん俺は笑えないし、リガーナも苦々しい顔をしている。
リガーナのこんな顔は初めてだ。
「ロストン、と言います。ディオルさんの身体を借りている者です。」
踏み外したら大惨事、会話の綱渡りの開始だ。
「ロストンねえ。あ、俺はディルガンツ。魔王だ、よろしく。」
握手を求められたので、応じる。
「そこの嬢ちゃんは、ディオルは自分探しの旅の途中とか言っていたが、そうなのか?」
「…私がこの身体を借りた時、ディオルさんは王国にいました。
なぜ王国にいたのかは、私は分かりません。
自分探しの旅の途中だった可能性は、否定も肯定も出来ません。」
信憑性の為、真実を多めに。つく嘘は考えないといけない。
最後に大きな嘘をつくのだから。
ディオルの身体は借りているだけで、返す気があるという嘘を。
この場を見逃してもらえればいい。
リガーナの態度から、彼女一人で魔王を倒せる保障がない。
しかし、仲間と一緒ならきっと勝てる。
リガーナも同じ意見のはず。
だからリガーナは、トワの手術が終わるまで時間を稼ごうとして、しかし上手くいかなかった。
まあ、あいつの交渉は、実力差からの脅迫だしな。
同等の力を持つ相手、魔王と相性は悪いだろう。
「お前は、なぜディオルの中に?」
一呼吸する。そして答える。
「…まず私と、私の目的について話します。」
魔王の挙動に気を張りつつ。
「私は所謂、小悪党です。
生きる為に、悪事をしている組織の下っ端でした。
その組織は、勇者達に壊滅させられ、もうありません。
やぶれかぶれで突撃し、仲間の多くは死にました。
勇者達からしたら、当然の行いでしょう。
私も間違いだとは思いません。
しかし、それでも私にとっては大事な仲間達だったのです。
私は勇者達に復讐しようと気を伺い、挑み、そして敗れました。
重症を負った私が何とか逃げ延びた先にいたのが、クリガナンさんと、ディオルさんです。」
魔王に、変化はない。続ける。
「私は二人に思いの丈を伝えました。
勇者達を、私の手で倒したい。仲間の仇を討ちたい。
クリガナンさんは私を気に入り、助けてくれる事になりました。
彼女なら私の傷を治せます。しかし治した所で、私の力では勇者に及ばない。
そこで、提案されたのです。
私の精神をディオルさんの中に入れる。
そして私が復讐を遂げる。
ディオルさんの魔力なら、可能性があるだろうと。
ディオルさんは…。」
ここが、一番のキモだ。
「興味がないようでした。
私の目的にも、自分の身体を貸す事にも。
ぶっきらぼうに、一言、いいよとだけ言って。
私にはこれ以上ない提案で。
クリガナンさんにお願いしました。
彼女にはそれが出来たのです。
私の身体は、今、王国にあります。」
途中から、魔王の視線が下がっている。考えているのだろう。
「私はこの後、勇者達を殺します。
魔王討伐の旅に同行したのは弱点を探る為。
そして、完璧なタイミングで復讐を遂げる為です。
…弱点は見つけました。勝算はあります。
その時は、遠くないでしょう。
クリガナンさんは見届け人であり、全てが終わった後に、身体を戻してもらう為に同行してもらっています。」
説明は終わりだ。
真実を含めた嘘。短時間で仕上げたにしては、いいんじゃないか?
魔王は、少しの沈黙の後、リガーナを見た。
「なんで王国にいたんだ?」
「散歩よ。」
「なんでディオルといたんだ?」
「たまたまよ。」
「こいつを気に入った?」
「そうよ。」
「なぜ?」
「仲間の復讐に燃えていたのよ。カッコイイわ。」
「精神の移動なんて出来るのか?」
「出来るわ。」
「ふっふっふ。」
「あはは。」
ああ、ダメだ、これは誤魔化せない。
ゴシャっと、聞きなれない音がして、リガーナが吹っ飛ぶ。
魔王のパンチが炸裂したのだ。
壁を突き破り、屋外まで飛ばされるリガーナ。その彼女の元に、急いで駆けつけた。
心配と保身と動揺がある。
魔王に背を向けたのは迂闊だと、途中で気づいたが、幸い追撃はされなかった。
「ディオルの反応のあたりな。」
拳を振りぬいた体勢のまま、魔王が喋る。
「あいつらしいと思った。
間違ってないと思うぜ。
興味がなかったから、簡単に身体を譲ったんだろうよ。」
位置的に、魔王の顔は見えない。声色は寂しそうだ。
「あいつをそんな風に育てたのは俺だ。
だからそれでお前達を、とやかく言うことはしねえよ。
…けどな?」
魔王が歩き始めた。こちらに向けて、ゆっくりと。
「嘘をついて、誤魔化すのはよくねえな。
魔王だぜ?嘗められたままで、終われねえよ。」
「…どうして、嘘だと?」
倒れているリガーナに回復魔法を使うが、目は閉じたままだ。
彼女が起きるまで少しでも時間を稼ぐ。
「そこの嬢ちゃんの父親と交流があってな。
娘が、ゾトの魔王を名乗る事になったと手紙をもらった。
出来る事も知っている。
精神を移動させる能力じゃないな。
お前は、並行世界から逃げてきて、ディオルの身体を乗っ取った盗人だ。」
リガーナが身体を起こした。
殴られた頬をさすっている。
「!」
火球が飛んできて、リガーナが弾く。着弾地点は抉れた。
「弔い合戦だ。魔王の業炎にて、送ってやる。」
悠然と歩いてくるそいつは、完全に魔王の風格だ。
相変わらずの曇天の下、腹を括る時がきた。
勇者不在の魔王戦。
魔王対魔王の始まりだ。
『魔王崇拝』終了時点、ロストンのリガーナ好感度(上下値省略)
転生後↑「命の恩人!」→高所脅迫↓「魔王怖すぎ…」→掌の上↓「やばすぎ!」→トワ脅迫↓「気持ち悪い…」→骸骨竜撃破↑「…」→お手玉↓「え、やば…」→救出↑「…リガーナ!」→サニア対応↓「…うわぁ…」→宴会↑「…酒、うめー」
情緒、乱高下!
現在、プラスな気がしますが…。




