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継承英雄譚、担々  作者: シロクロゲンヤク
第二章 魔王クリガナンの祝賀

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第65話 清算~作り話~

~前回までのロストン~


カジノで勝利して大金を得た。

不穏な言葉を残し、リガーナが離脱。

俺達は魔装具を買う為に、リンに向かった。

 昼前には到着し、そのまま店へ。


 土壇場で遠慮し始めたトワを黙らせ、俺達も店側も笑顔になる買い物をする。


 余裕の出た金で、俺も魔装具を買う。


 マジックブースト。今度も腕輪タイプで、念願の魔法の威力を上げる魔装具だ。

 サニアも同じ物を買っていた。


 ムンタは消費魔力量とお金を気にして買わず、トワも遠慮から買っていない。


 戦闘能力の向上は生存率に直結する。躊躇ってどうする、と思う。

 しかし魔王城まで、まだ距離があり、旅にはお金がかかるのだ。


 魔王を倒したら、王国へ帰らないといけない。

 …そのつもりだから、購入を強く勧められない。


 他には、腰に巻く小型のバッグも買う。


 増えたアイテムの収納用で、『ファイアーに負けない』のフレーズに惚れた。


 マジックストック四つ、魔力抑制装置一つ、マジックブースト一つ。


 マジックストックが、全部俺持ちになったのはトワの意見。

 光天法や闇天法を味方に渡す為だ。


 サニアには躊躇するが、トワとムンタは上手く活用してくれるだろう。

 もちろんリガーナも使いこなすだろう。


 (俺が、リガーナに渡す事はあるのだろうか?)


 一体どんな強敵が出てきた時なのだと思ったが、彼女の言葉が頭をよぎる。


 厄介で、強く、俺の命を狙う敵。

 その時は、意外と早く訪れるかもしれない。




 トワは明日手術をして、問題なければ明後日に退院だ。


 それまでにリガーナと合流できればよい。

 できない時は…。


 数日は待てるだろうが、それでも来ない場合、勇者パーティーは魔王討伐の旅を再開する。


 都合が悪いのは俺とトワで、リーダーのムンタは困らないから。

 最悪、俺達も魔王を倒すまでは問題ない。


 (このまま、リガーナが戻って来なければ…。)


 ひょっとしたらそれが一番よい事なのかもしれない。


 魔王を倒した勇者達は、無事王国に凱旋する。

 もちろんトワの首輪問題があるから、素直に喜べない点もある。


 けれど、仲間同士で殺しあうなんて事より。


 (…。)


 少し前の俺ならば、リガーナが来ないなんて事、ある訳ないと考えたはずだ。

 メインイベントを逃すはずがないと。


 しかし、今の俺は思うのだ。


 (リガーナは本当に、楽しみなのか?トワ達の最期が、その時の俺の様子が。)


 あの夜に、楽しみだと言っていたけど。

 これまでで彼女は、仲間と思えない振る舞いも確かにあったけど。


 でもそれは、額面通り受け取ってよいのか?


 いつだったか俺は、彼女の行動が芝居みたいだと感じたはずだ。

 裏が、あるのではないかと。


 (もちろん、俺の願望かもしれない。)


 もう俺は、トワ達とは勿論、リガーナとだって戦いたくないと思っている。


 恐怖以外の感情が、彼女にある。


 (そう思えるほど、俺の第二の人生は、楽しかったんだ。)


 大変だったし、もうやりたくない経験もあるけれど。それでも。


 (俺は、皆と生きて帰りたい。)


 寝る前、そんな事を考えていた。




 日が昇り、トワの手術が開始される。


 街をぶらつく。

 やる事は特にないから。


 天気は曇り。中々厚い雲で、昼間なのに薄暗い。

 もう少ししたら降り出すかもしれない。


 サニアはトワについている。

 それで十分だ。皆いたら、逆にトワに気を遣わせる。


 ムンタも朝早くから訓練をしに出かけた。


 敵に関しては、情報がなさすぎる。一応、街中でもフル装備だが、それだけ。


 アトレーナを出ればそれでよいのか。リガーナが対処中なのか。

 そもそもリガーナの悪ふざけの可能性だって残ってる。


「久しぶりだな、ディオル。」


 男の声で、懐かしい名前を聞いた気がした。


「すげーカッコウだな。

 イメチェンしたって聞いたが、その方向だとは思わなかった。」


 声の主は、俺に話しかけているみたいだ。


 その意味を、理解、して。

 固まる。動けない。


「突然いなくなって、その姿だろ?

 完全にグレてるじゃねーか。

 俺は結構話しかけやすい方だと思っていたのに、相談されなくてショックだぜ。」


 魔力の質について聞いた事がある。

 高い低いの他に、相性の良し悪し。個性なんかもある。


 魔法に精通している奴は、魔力の質にも敏感になり、魔力で個人を判別なんて事も出来るらしい。


 (ディオルを知っていて、魔法に精通している奴。)


 前世の記憶と今世の情報で、一人心当たりがある。


 ゆっくりと振り返る。


 見覚えのない、がたいのいい、おっさんだ。


 瞬間、蘇る情景がある。

 俺の知らない、おそらく、この身体の記憶。


 ディオルと、三代目レーグの魔王ディルガンツ、との思い出。


「親父…。」

「おうディオル、帰ろうぜ。」


 ニカっと笑うそいつに敵意はない。


 頼もしい、とすら感じる。

 しかしそれは、ディオルに対してで、俺に対してではない。


 理解した。リガーナの言っていた敵は、こいつだ。


 俺の正体がバレだら、どうなる?

 何とかして、身体をディオルに戻そうとするのではないか?


 (どうやって?)

 『分からないから。』


 だからって、とりあえず試すみたいなノリで殺されてたまるか。


 今更、こんな所に魔王がいる事を嘆いても仕方がない。

 一人で勝てる気もしない。


 どうにかして、隙をみて逃げるしかない。


 (仲間と合流を…、トワは無理だ。ムンタの所に…。)


「駄目よディルガンツ。ディオルにはやる事があるの。まだ帰れないわ。」


 声を聴いただけで、思わず泣きそうになる。

 リガーナが、いる。


「ちゃんと、説明したじゃない。」

「…俺は、納得してねえよ。」


 二人の魔王の視線がぶつかる。

 二人の顔に、笑顔はない。


 この世の終わりみたいな状況だ。


「だから、もうちょっと話そうぜ。三人で、酒でも飲みながらよ。」


 魔王が歩きだした。

 リガーナを見る。頷いて、歩き出した。


 ついていく。下手に逃げる方が危険だろう。


 しかし魔王は酒場には向かわない。町から出るつもりだ。


「大丈夫。首輪の範囲内よ。あいつの別荘に向かっているの。」


 小声でリガーナが教えてくれる。


 (範囲を忘れたと言っていたのは、嘘か。)


 今回の方が嘘だとは思わない。

 それだけの信頼がある。




 町を出ると、リガーナが蜃気楼ミラージュを使った。


 ストーンで平らな岩を作り、三人が乗ると猛スピードで動き出す。

 速さは、トワの風歩ウインドウォーカーに勝るとも劣らない。


 こっちは多人数を運べる利点があり、あっちは小回りが利く利点がある、と言った感じだ。


 (リガーナが本気で魔王討伐の旅に協力していたら、移動はこれだったかもしれない。)


 思いのほか遠くまで来て、本当にトワの首輪は大丈夫かと心配になった頃、その場所に到着した。


 魔王の別荘。


 二階建ての一軒家で、年季がある。つまりボロい。

 でも普通に生活する分には不自由なさそう。そして生活感がある。


 (魔王は今、ここに住んでいる…。)


 そんな気がする。


 最短ルートで魔王城を目指したら、魔王がいなくて困惑しただろう。

 などと考えていると、目の前に酒が出される。


 地下から、魔王が持ってきた。


「まずは、乾杯といこうじゃないか。」


 魔王のイメージするディオルなら、どんな反応だろうか。

 リガーナも俺の事をディオルと呼んでいたし、やはりディオルで通したいが。


「…。」


 分かる訳がない。

 無言で乾杯する。


 グレたと思われている訳だし、やや不機嫌そうにしていれば、喋らなくても不自然ではないはず。


 事前に会話をしていたようだし、リガーナのフォローに期待したいが。


「お前は誰だ?名前から教えてくれよ。」

「…。」


 乾杯の仕草だけでバレたのか。難易度高すぎて笑うしかない。


「ディオルの魔力と、全く別の魔力が混じりあって見えた。

 一目で分かったさ。ディオルの中に誰か別の奴がいるってな。

 クリガナンの態度にも納得できた。

 ん?まさか、バレないとでも思ったか?」


 ガハハと。豪快に笑う。


 もちろん俺は笑えないし、リガーナも苦々しい顔をしている。

 リガーナのこんな顔は初めてだ。


「ロストン、と言います。ディオルさんの身体を借りている者です。」


 踏み外したら大惨事、会話の綱渡りの開始だ。


「ロストンねえ。あ、俺はディルガンツ。魔王だ、よろしく。」


 握手を求められたので、応じる。


「そこの嬢ちゃんは、ディオルは自分探しの旅の途中とか言っていたが、そうなのか?」


「…私がこの身体を借りた時、ディオルさんは王国にいました。

 なぜ王国にいたのかは、私は分かりません。

 自分探しの旅の途中だった可能性は、否定も肯定も出来ません。」


 信憑性の為、真実を多めに。つく嘘は考えないといけない。

 最後に大きな嘘をつくのだから。


 ディオルの身体は借りているだけで、返す気があるという嘘を。


 この場を見逃してもらえればいい。

 リガーナの態度から、彼女一人で魔王を倒せる保障がない。


 しかし、仲間と一緒ならきっと勝てる。

 リガーナも同じ意見のはず。


 だからリガーナは、トワの手術が終わるまで時間を稼ごうとして、しかし上手くいかなかった。


 まあ、あいつの交渉は、実力差からの脅迫だしな。

 同等の力を持つ相手、魔王と相性は悪いだろう。


「お前は、なぜディオルの中に?」


 一呼吸する。そして答える。


「…まず私と、私の目的について話します。」


 魔王の挙動に気を張りつつ。


「私は所謂、小悪党です。

 生きる為に、悪事をしている組織の下っ端でした。

 その組織は、勇者達に壊滅させられ、もうありません。

 やぶれかぶれで突撃し、仲間の多くは死にました。

 勇者達からしたら、当然の行いでしょう。

 私も間違いだとは思いません。

 しかし、それでも私にとっては大事な仲間達だったのです。

 私は勇者達に復讐しようと気を伺い、挑み、そして敗れました。

 重症を負った私が何とか逃げ延びた先にいたのが、クリガナンさんと、ディオルさんです。」


 魔王に、変化はない。続ける。


「私は二人に思いの丈を伝えました。

 勇者達を、私の手で倒したい。仲間の仇を討ちたい。

 クリガナンさんは私を気に入り、助けてくれる事になりました。

 彼女なら私の傷を治せます。しかし治した所で、私の力では勇者に及ばない。

 そこで、提案されたのです。

 私の精神をディオルさんの中に入れる。

 そして私が復讐を遂げる。

 ディオルさんの魔力なら、可能性があるだろうと。

 ディオルさんは…。」


 ここが、一番のキモだ。


「興味がないようでした。

 私の目的にも、自分の身体を貸す事にも。

 ぶっきらぼうに、一言、いいよとだけ言って。

 私にはこれ以上ない提案で。

 クリガナンさんにお願いしました。

 彼女にはそれが出来たのです。

 私の身体は、今、王国にあります。」


 途中から、魔王の視線が下がっている。考えているのだろう。


「私はこの後、勇者達を殺します。

 魔王討伐の旅に同行したのは弱点を探る為。

 そして、完璧なタイミングで復讐を遂げる為です。

 …弱点は見つけました。勝算はあります。

 その時は、遠くないでしょう。

 クリガナンさんは見届け人であり、全てが終わった後に、身体を戻してもらう為に同行してもらっています。」


 説明は終わりだ。


 真実を含めた嘘。短時間で仕上げたにしては、いいんじゃないか?

 魔王は、少しの沈黙の後、リガーナを見た。


「なんで王国にいたんだ?」

「散歩よ。」


「なんでディオルといたんだ?」

「たまたまよ。」


「こいつを気に入った?」

「そうよ。」


「なぜ?」

「仲間の復讐に燃えていたのよ。カッコイイわ。」


「精神の移動なんて出来るのか?」

「出来るわ。」


「ふっふっふ。」

「あはは。」


 ああ、ダメだ、これは誤魔化せない。


 ゴシャっと、聞きなれない音がして、リガーナが吹っ飛ぶ。


 魔王のパンチが炸裂したのだ。


 壁を突き破り、屋外まで飛ばされるリガーナ。その彼女の元に、急いで駆けつけた。

 心配と保身と動揺がある。


 魔王に背を向けたのは迂闊だと、途中で気づいたが、幸い追撃はされなかった。


「ディオルの反応のあたりな。」


 拳を振りぬいた体勢のまま、魔王が喋る。


「あいつらしいと思った。

 間違ってないと思うぜ。

 興味がなかったから、簡単に身体を譲ったんだろうよ。」


 位置的に、魔王の顔は見えない。声色は寂しそうだ。


「あいつをそんな風に育てたのは俺だ。

 だからそれでお前達を、とやかく言うことはしねえよ。

 …けどな?」


 魔王が歩き始めた。こちらに向けて、ゆっくりと。


「嘘をついて、誤魔化すのはよくねえな。

 魔王だぜ?嘗められたままで、終われねえよ。」


「…どうして、嘘だと?」


 倒れているリガーナに回復魔法ヒールを使うが、目は閉じたままだ。

 彼女が起きるまで少しでも時間を稼ぐ。


「そこの嬢ちゃんの父親と交流があってな。

 娘が、ゾトの魔王を名乗る事になったと手紙をもらった。

 出来る事も知っている。

 精神を移動させる能力じゃないな。

 お前は、並行世界から逃げてきて、ディオルの身体を乗っ取った盗人だ。」


 リガーナが身体を起こした。

 殴られた頬をさすっている。


「!」


 火球ファイアーボールが飛んできて、リガーナが弾く。着弾地点は抉れた。


「弔い合戦だ。魔王の業炎にて、送ってやる。」


 悠然と歩いてくるそいつは、完全に魔王の風格だ。


 相変わらずの曇天の下、腹を括る時がきた。


 勇者不在の魔王戦。

 魔王対魔王の始まりだ。

『魔王崇拝』終了時点、ロストンのリガーナ好感度(上下値省略)


転生後↑「命の恩人!」→高所脅迫↓「魔王怖すぎ…」→掌の上↓「やばすぎ!」→トワ脅迫↓「気持ち悪い…」→骸骨竜撃破↑「…」→お手玉↓「え、やば…」→救出↑「…リガーナ!」→サニア対応↓「…うわぁ…」→宴会↑「…酒、うめー」


情緒、乱高下!

現在、プラスな気がしますが…。

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