第64話 清算~上の空~
~前回までのロストン~
色々あって、魔王討伐の旅に出て。
色々あって、アッブドーメン共和国を越えた。
「ここまで追い込まれるなんてね。」
トワを見る。汗が凄いし、顔色も悪い。
「厳しい戦いになる事は分かっていただろう。腹を括れ。
もう、逃げられない。」
「いや、それは早計だよ。逃げるべきなんだ。
どんなに、罵られようと。」
「本気か?」
「もちろん。このままだと、僕らは全部を失う。」
トワが俺の服を、肩のあたりを引っ張る。その手は震えている。
その手に、優しく触れる。安心させるように。
「違うぜトワ。失わない為に戦うんだ。
戦い続ける奴にだけ、勝利の女神は微笑むのさ。」
俺は、手を前に出す。戦いを、勝利を諦めない。
「バカだね。君は。」
それでもトワは、隣にいてくれた。
そして。
「黒の十四番!黒の十四番です!」
「「やったーー!!!」」
俺達はカジノで、大勝した。
バクー王国、アトレーナに俺達はいる。目的地である、リンの隣町。
王国を出る時、俺はニージュ商会から大金を借りた。
もちろんサニアが、多すぎる金を貰っていた。けれど、それでも足りるとは思えなかったから。
魔装具の値段はピンキリで、高性能ほど、バカ高い。
実際に、リンで一番デカい魔装具屋を覗いた。
立派な館が建つだろう額の物もある。
トワが、「いいね、これ。」と言った魔装義手は、俺達の有り金を全部足しても、届かない。
装着手術代も足せば、なおの事。
アウトサイド5、という名前で、手首も回るし、指の関節数が人体と一緒。
そして、五本の指それぞれに、魔法を仕込めるという特徴がある。
仕込んでさえしまえば、魔力を流すだけで自分の使えない魔法も、使えるというあたりが、利点だ。
しかし仕込める魔法は同属性のみ、強力なものや複雑過ぎるものも無理で、消費魔力は自前という欠点もある。
この義手の評判は、悪い。
ぶっちゃけ、慣れない魔法を五種類も使いたいかという話だ。
せめて、四属性の基礎魔法が全部使えればよかったが、それは無理で。
精々、火魔法が使えない人が火を使ったり、水魔法が使えない人が水を使うぐらい。
そうなると尚更意味はない。
なぜなら、火だけ使える指輪、ファイアーリングとか、そういう各属性の基礎魔法だけ使える指輪は、すでに存在している。
使用回数に限りはあるが、値段が全然違う。
つまり、いらない機能をつけ、値段が高くなり過ぎた残念魔装義手。
という世間の評価なのだが。
トワは違う。
まず、この魔法を仕込めるという機能。
トラウマになりそうなほど苦しめられた、魔力抑制装置の影響を受けずに魔法を使える。
自前の魔力依存の為、マジックストックのように回数を気にせずに。
しかも、トワの見立てでは、魔法の同時発動も可能になりそうとの事。
魔法の連続発動なら、俺でも出来る。
ただ、実力者の、例えばトワの連続発動はレベルが違う。
俺が水射を三発撃つ間に、トワは十発くらい撃つ。
そのトワでさえ、同時発動は出来ないらしい。
出来るのはリガーナ、つまり魔王レベル。
トワの得意な魔法、風歩。
実は、空中に一歩だけ歩ける足場を作る魔法だ。
だからマジックストックに風歩を入れた場合、俺は空中を二歩だけ歩いて終わる。
トワはそれで、自由に空を飛んでいる。ように見える。
どれだけ高速で連続で使っているのか想像出来ない。
詳細を知った時、改めて骸骨竜の時のトワが、どれだけイカれた戦い方をしていたのかと、衝撃を受けたものだ。
上空で、攻撃魔法を放つ時、空の足場は消えていたのだから。
もし、同時発動が可能になれば、またデカい奴と戦う事になった時、風歩を使いながら他の魔法が使える訳だから、前より安全に戦えるはずだ。
最後に、手入れ問題。
戦闘用という訳でもないから、パンチとかしたらきっと壊れる。
強度は高くなく、なんなら自分でバラせる。
自分でバラして、部品交換が簡単に出来る。
神経を繋げて動かす訳じゃない。魔力で動かす腕だから、バラしても痛くない。
装着手術は魔力の流れを整える為のもの。
部品代はかかるが、消し飛ぶような全損でなければ、自分で直せる。
王国とこの国は遠く、メンテに来るのも大変だから、この仕様のほうが嬉しいのだろう。
とはいえ。
トワは、いいねと言ったが、欲しいとは言っていない。
理由は簡単。お金がないから。
俺はサニアに呼び出された。
トワに、あの義手を買ってあげたいと言ってきた。
サニアは、あの館の出来事の後から、トワに甘い。
前から仲間全員に甘いやつだったが、輪をかけて。
俺もトワには世話になっている。魔法の師匠だし。
俺はサニアに、隣町のアトレーナについて説明した。
そこのカジノについて。
サニアはムンタを説き伏せた。
翌日には出発して、現地入り。
そして今、勝利の女神の祝福を受けた俺達は、目標額以上を手に入れて、ムンタとサニアの待つ宿屋へ向かって凱旋中だ。
「あれ、リガーナは?」
面白そうだとついてきたリガーナは、即、飽きて休憩所で何か食べていた。
俺達が戻ると、足をプラプラさせながら呆けていた。
声をかけたら、勝った事よりも、帰れる事を喜んだ。
(子供じゃないんだから、一人で帰ればいいのに。)
いつも勝手にいなくなるくせに、なぜ律儀に待っているのか。
そんな事を考えながらの帰り道、気づいたらいない。
「あ、いたよ。」
トワが指さす方、後方にリガーナを見つけた。
空を見上げ、呆けている。近づいて話しかけた。
「どうした?さっきから、様子が変だぞ。何かあったか?」
リガーナが俺を見る。ドキッとした。
大人びた表情、いや、真面目な表情だ。
「ロストン、気を付けて。厄介なのが、近くにいるかも。」
「…え?」
不吉な事を言われ、熱が引いていく。
大勝した高揚感は、消えてしまった。
「リガーナ君を、追放しようと思う。」
ゴフ、と思わず吹き出しそうになった。
リンに戻るのは明日にして、今日はここで一泊しようとなって。
夕食を食べ終わり、部屋でくつろいでいるとムンタがきた。
トワとサニアをつれて。
全員座った所で、このセリフだ。
「ムンタ、いきなりどうした?」
リガーナといい、ムンタといい、一体何があったと言うのだ。
ムンタは両手で顔を覆いながら言った。
「本当にすまなかった。俺は間抜けだ。
リガーナ君の悪行に、全く気付かなかった。」
(あ~。)
話が見えてきた。一先ず、最後まで聞こう。
「ロストン君を高所から突き落としたり、サニア君を何度も蹴りつけたり、挙句、決闘を仕掛け、殺しかけるなんて。」
「あ、えっと、ロストンのはちょっと分かんないけど、私のは、ほら、私が悪い部分もあったし、私は気にしてないよ。」
ムンタのあまりにも深刻そうな声に、サニアがフォローに入る。
ムンタのフォローなのか、リガーナのフォローなのかは分からない。
サニアも動揺している。
「トワ君にいたっては、何度も顔を殴り。…なんと言っていいか分からない。
オシャレだと、思っていたんだ。その首輪の事は。まさか、爆弾だったなんて…。」
「え、ええ!?」
サニアが、今まで見た事もない顔をした。
「…どこで、いや、誰から聞いたのさ?」
ガン見しているサニアと、目線が合わないようにしながらトワが聞く。
「リガーナ君本人だ。
前から、彼女の時折見せる残虐性は、気になっていた。
だから思い切って聞いてみたんだ。ストレートに。
そしたら、全部教えてくれた。
悪びれた様子はなく、寧ろ楽しそうに。
まるで、好きなお菓子の話をしているみたいだった。」
(なるほどな、いや、なるほどね。)
想像できる絵面だ。
リガーナは、本当に悪いと思っていないんだ。
(不思議だ。十分あり得る展開だと思うのに、全く想定していなかった。どうしよ、これから。)
俺の目的を果たす為に。それこそ第一でも第二でも。
リガーナがいなくなるのは都合が悪い。
隠れて見られるより、見える位置にいてくれたほうが全然やりやすい。
どうやってムンタを説得しようか、頭を悩ませていると、トワの口が開いた。
「ムンタ、この件は一旦保留で。あと可能なら、サニアを正気に戻しておいて。
ロストン、行くよ。」
「え、ああ。」
気落ちしたままのムンタと、動かなくなったサニアを残し、とりあえずトワについていく。
外はもう暗いから、ランプを持っていく。
ついた場所は、公園だ。
リガーナは遊具に腰掛けていた。明かりは持っていない。
トワは迷いなく近づいて、声をかけた。
「君、今、追い出されそうになってるよ?」
何とも言えない声色だ。怒り?心配?とりあえず恐怖はなさそうだ。
「?」
「君には首輪を外してもらわないといけないから、抜けられると困るんだ。」
「…。」
「そもそも、何で君はこの旅に同行してるんだよ?」
「…楽しそうだと、思ったからよ。」
「なら上手くやりなよ。少し我慢するだけでいい。
ムンタは真面目なんだ。リーダーとして、一人の我儘を許せないと思っている。
もし、旅を続けたいなら、…一緒にいくから、反省を伝えにいこう。
もう仲間に暴力は振るいません、て言えばいい。」
「…。」
「それともあれかな。僕らとの旅は、思ったより楽しくなかったかい?
もう、飽きてしまったかい?なら、首輪を外してくれないかな?
そうしたら、もう自由でいいよ。」
リガーナは、ずっと沈黙していた。
トワは俺に近づいて、肩を叩いた。後は任せたとでも言うように。
(いや、困るんだが。)
一応近づいて、様子を伺う。
ショックを受けている、訳ではなさそう。
やはり、心ここにあらず、と言った感じだろう。
だから生返事だし、反応も悪い。
「厄介なのって、どんな奴だ?」
心当たりは、これだけだ。
「…強い奴。たぶんロストンを殺しにくる。」
心当たりはない。
「俺、だけを殺すのか?」
「うん。」
「何の為に?」
「分からないから。」
ギブアップ。分からないと言いたいのは俺のほうだ。
リガーナが立ち上がる。
「ムンタには、ちゃんと伝えるわ。今は一人になりたいの。じゃあね。」
去っていくリガーナを見送る。
追いかけたりもしない。出来る事はないから。
「命を狙われるなんて、どんな悪さをしたんだい?」
トワだ。
小声だし、離れていたから聞こえてないと思ったが。
魔法で聞いていたようだ。
「心当たりはないな。」
トワとサニアとリガーナにならある。
殺害計画を立てた、いや、立てている。実行は、迷っているが。
俺とトワは宿屋に戻る。
「逆に、あんな化け物を野放しにするのは、勇者としてダメじゃないか?」
トワの一言で、ムンタは納得する。
一応の決着はついたと、思われたが。
翌日になっても、リガーナは戻って来なかった。
彼女からの置手紙があったのだ。
後で追いかけるから、先にリンへ行っててほしいという内容で、話し合いの結果、そうする事にする。
出発の準備をしている時だ。
ちょっとしたイベントが起こる。
王国からの早馬がきたのだ。
馬だって魔力を操る。しかも、長距離の伝達用に調教された馬だ。
それでもやはり関心する。よく魔走車の俺達に追いつけたものだ。
「それで、王国はなんだって?」
凄い凄いと言いながら馬を撫でているサニアを横目に、トワがムンタに聞いた。
手紙に目を通し終わったムンタが答える。
「俺は、13代目の勇者になった。」
「どういう事だ?」
普通に意味が分からない。ムンタは12代目の勇者のはずだ。
気になったのか、サニアもこっちにくる。
「実は俺の前に12代目勇者がいたんだ。
だが彼は、討伐の旅に出る事なく、亡くなった。
魔王討伐の旅に出ていない。
だから、改めて俺が12代目勇者になった訳だが…。」
初耳だ。図書館で調べた限り、そんな情報は見つけられなかった。
意図的に隠されたのかもしれない。
「功績がないからといって、一度、国が認めた勇者を無かった事にしてよいのか?
そんな話が、俺が12代目勇者になった時からあったんだ。
議論は続いていて、ようやく決着した。
結果、俺は13代目勇者だ。」
ムンタは俺達三人の顔を見ながら続ける。
「俺達の目的は魔王を倒す事。何代目の勇者だろうと変わらない。
今日から13代目勇者になるけど、引き続きよろしく頼む。」
「あ、今日からなんだ?」
サニアが、確認する。なんでもない、ただの疑問として。
「…今日からだな。手紙にそう書いてある。」
「って事は、あれかな?
マジュイメを潰したのが、12代目勇者ムンタで、これから魔王を倒すのが13代目勇者ムンタって事になるんだね。」
トワが、確認する。おかしな話だと、笑いながら。
「…えぇと、手紙を読む限り、そうなりそうだな。」
ムンタがトワに手紙を渡す。間違ってないかの確認の為に。
「…あってるね。
いいじゃないか。歴史を教える未来の先生を、困らせてやろう。」
トワが、そしてムンタも、サニアも笑う。
手紙を持ってきてくれた王国兵は苦笑いだ。
そうこれは、王国が変な誤魔化し方をするから、変に強情だから笑える話なのだ。
それだけの、話なのに。
(12代目勇者がマジュイメを潰した…。)
俺達の事だ。でも、俺は。
俺達ではない話を、思い出していた。
前世、の話だ。
(13代目勇者は、どうなった?)
魔王と、相打ちになって死んだ。
関係のない話だ。だって前世とは、こんなにも違う点がある。
(なら、なんでこのタイミングで、ムンタが13代目勇者になるんだよ!)
偶然だ。運命なんて、あるものか。
(…リガーナを探したい。)
会って、運命なんて無いと、言ってもらいたい。
探し出せるとは思わないし、高額な小切手を持ち続けたくない。
やばい奴に命を狙われている訳だから、戦力増強の為にもトワに魔装義手を着けてもらいたい。
俺はトワと離れられないし、戦力分散も避けたい。
これでよい。分かっている。それでも。
後ろ髪を引かれる。リガーナを残したまま町を出る事に。
(全く。もう町にいない可能性だってあるのに。)
いつから俺はこうなった?自嘲しながら、皆についていく。
???「一度認めた12代目勇者を無かった事にしていい訳がない!」
???「そうだ。ムンタには13代目勇者になってもらおう!」
???「ムンタも12代目勇者として、一度認めた訳だが、それは無かった事にしていいのか?」
???「…。」
一度決めた設定、後から矛盾に気づくと誤魔化すの大変ですよね。




