第63話 魔王崇拝~迷う~
~前回までのロストン~
なんとかリガーナを落ち着ける事に成功。
休憩がてら、サニアの昔話を聞いた。
話は終わったし、リガーナも戻ってきた。なら、出発だ。
森の中の隠れ家はすぐに見つかったし、トバも、ちゃんといた。
「総帥は捕まえる。あなた達にも来てもらう。
不自由はあると思うけど、ニージュ商会が調査し終わるまで待って。
あなたの言っている事が本当なら、ちゃんと自由になれるわ。」
トバは頷く。総帥の所まで案内してくれるそうだ。
あまりに従順で怪しい。罠だと思うほうが自然。
でも、構わない。
総帥と会って、話をしようと決めた時から、危ない橋を渡る覚悟がある。
やがて。
開けた場所に来た。
石で作られた小屋ぐらいの大きさの祭壇。
その前に、総帥が立っていた。
両腕の無い、彼が。
あの時、リガーナの水射に切り落とされたのだろう。
手紙は代筆か。
「君達二人かね?赤髪の子はともかく、金髪の子は来ると思ったが。」
「連れてきていないから、こうして出てきてくれたのでしょう?
いたら、逃げるか、奇襲をしたはずです。」
「君もなかなか賢い子のようだ。
そこの男が、私の指示通り案内した事にも気づいている。
それならば、何しに来たのかね?
まさか、話し合いをしにきた訳ではないだろう?」
一人の黒ローブが総帥に近づく。
身構えつつ、サニアが答える。
「あなたを捕まえに来ました。言い分は聞きます。
大人しくついてきてくれるなら、手荒な事はしません。」
総帥は声を殺して笑い、祭壇を見上げた。
「考えてはいたのだよ。
しかし、まだ他に出来る事があるかもしれないと、先送りにしてきた。
礼を言う。君らのおかげで、踏ん切りがついた。」
俺もサニアも、不穏を感じて飛び出そうとした。
しかし、トバが立ちふさがり、妨害される。
すぐに突き飛ばしたが、遅い。
総帥は口を大きく開けて、隣の黒ローブが、何かを流し込む。
口元を汚しながら、総帥が叫ぶ。
「我々の研究は正しかったのか!私は魔王に至れるのか!
君達で、試させてくれ!」
総帥の身体が変異していく。どす黒く、ブクブクと、肥大していく。
(まるで、前世の俺だ。)
サニアを見る。顔色が悪く、震えてもいる。
人が魔物になる瞬間なんて、普通見るものではない。
何度見ても、慣れるものじゃない。
その肩を叩く。
「サニア、あれはただの魔物だ。」
サニアは、寂しそうで、泣きそうだった。
でもそれは一瞬で。
彼女の瞳は闘志に燃える。
「ロストン。私がやるわ。」
「OK、援護する。」
サニアにマジックストックを渡した。
咆哮と共に、総帥だった魔物が突っ込んでくる。
光射を連射。命中するが、勢いは止まらない。
更に撃ち続ける。少しでも削る。勢いを弱められれば、それでよい。
サニアが、一歩前に出る。構える。タイミングを計る。
彼女の手には、黒い輝きの一振りの剣。黒火剣。
暗闇よりも、深い黒。火と闇の混合天法。
魔物が、サニアを食い千切ろうと、デカい口を開けて迫った時、優雅に舞うように、彼女は回る。
それで終わり。
魔物は一刀で両断された。霧のように消えてゆく。
魔物は肉体が残る場合と、残らない場合がある。
強力な魔法で消し飛ばせば、もちろん何も残らないが、そうでない場合、違いは魔力の割合。
元の肉体がどれくらい残っているかだ。
だから基本、魔物になりたての奴は肉体が残り、長期間魔物として活動していた奴は、霧散する。
魔王薬は、変異させる薬。肉体丸ごと、魔力に変えた。
だから、何も残らない。
「…そんな、バカな…。」
尻もちをついているトバが呟く。
「全然、魔王じゃない。失敗だ。
召喚も失敗、変異も失敗。どうしたら成功するんだよ…。」
「魔王に縋った時点で、成功なんてない。」
ムンタだ。
トバの後ろにムンタがいる。起きて、ここまで来たのか。
奥の方に、トワを背負ったリガーナらしき人物も見える。
「好きで縋る奴なんかいるかよ。魔王にしか、縋れなかったんだろ。」
自然と口が開いてびっくりした。言うつもりなんて、なかったのに。
「だから王国が変わるんだ。頼ってもらえる国に成らないといけない。」
ムンタは目を閉じる。祈るように。
「総帥。この度は、期待にそえず申し訳ない。」
答えるものは誰もいない。
それから俺達はトバ含むマジュイメ残党を縛りあげた。
サニアは、一度、王国に戻る事を主張した。
ニージュ商会は、治安悪化に伴いアッブドーメン共和国から完全撤退している。
魔物に殺された本来のロストンも、それに伴い大陸西側の支社に移った。
つまり、ニージュ商会に調査させるには、戻るしかない。でも、却下された。
アッブドーメンの国内で暴れていた連中を、国の外に出せない。
ムンタが尤もな意見を言う。
諸々は、この国に任せる事にする。
近くに、スーフリンという町があるから、そこへ向かう。
道中、朝日が見えてくる。激動の一日は、いつもの間にか終わっていた。
(町についたら、寝よう。)
最後の力を振り絞り、脚を動かすのだった。
スーフリンに到着して、数日経った。
アッブドーメン協和国の軍隊が、マジュイメ残党を首都へ連行していく。
既視感。場所も人も違うが、前世の俺の仲間達を思い出す。
(今度もトバを見送る事になるとはな。)
前世では雲の上からだったが。
「トバはさ。」
遠ざかるトバを乗せた荷車を見ながら、隣のサニアに話しかける。
「いいとこなかったよな。
俺達の事を騙して、邪魔して。
尻もちつきながら、何かわめいていただけだった。」
「ロストン。」
サニアが、窘めるように俺の名を呼ぶ。
何でだよ、と思いながらも、少しだけ嬉しかった。
「…あんな奴でもさ。
もしもこの国がもっといい国だったらさ。
あいつは真面目に働いて、要領よく出世とかしちゃってさ。
大役もらって頑張るんだよ。部下にカッコイイとこ見せようと背伸びしてさ。
結果、失敗して、ボロボロになって、夜に友達とヤケ酒だ。
情けないこといいまくって。
でも、翌日からまた頑張るんだ。
友達もそんな奴ほっとけないだろ?後ろからついていくのさ。
悪い気はしない。いい奴なんだよ。
…少し、歯車が違ったら、そんな世界も、あったかもしれない。」
思ったより、長く喋ってしまった。
サニアは、静かに聞いてくれていた。
「もしもの事、なんて私達が考えても仕方ない事。
分かっているけど、いいよね、なんか。そんな世界があるかもって思うと。」
「トバがサニアの事を好きになる世界もあるかもな。」
「う~ん、それは想像できないね。」
俺達はバクー王国へ向かう準備の為、宿屋に戻る。
途中、サニアの後ろ姿、というより服装を見て、彼女の傷の事を思い出す。
今は平気のようだが、進行すれば、やがて魔物に至る傷。
今なら、分かる。
俺の叔父さんは、もちろん死ぬのも怖かっただろうが、それよりも、魔物に成る事が怖かったのではなかろうか。
病気で死んだと聞いていた。間違ってはいないだろうが、病気が悪化して魔物になった、なりかけだから殺した。が、より正しいと思う。
出会った時から、傷はあったと思う。
でもある日、隣町から帰る時、魔物に襲われて、俺を庇って彼は噛まれた。
それで悪化して、寝たきりになった。
詳しくない。それでも見る限りあの傷は、魔物の魔力が関係している。
サニアは、こともなげに総帥を倒したが、もし噛まれていたら、彼女は魔物になっていたかもしれない。
(こんな事は、誰でも予測がつく。)
サニアの両親含む関係者も、サニア自身も。
知っていて、それでも自分が旅に出たのだ。覚悟の上で。
(凄いな。サニアも、周りも。)
嫌味なく、本心で思う。
しかし同時に考えている。
サニアは強い。まともに戦っても勝てないだろう。
でも傷がある。
あの傷は、魔物の魔力というより、闇天法の影響で広がるのではないか?
リガーナも、闇天法の呪の名を出している。
館で戦った人造魔王九号。
外見的にも、闇天法を纏っていたはずで、総帥も同じだ。
マジックストックの効果で、サニア自身も闇天法を使っている。
あの日、サニアは、闇天法の近くにいた。
あの日の後から、サニアの腰のベルトは、前より太くなった。
(もしも、黒炎を当てたら。)
魔物化が進んで、その動揺と苦しみは、大きな隙となるだろう。
正面から戦って勝てる気はしないが、一撃も当てられないとは思わない。
(俺は、きっとサニアに勝てる。)
宿屋の自分の部屋。俺は深く息を吐く。
俺の第二目標の達成の目処は立った。
今、俺は腕輪を手にしている。
魔力抑制装置。リガーナが持っていたものだ。
あの館で、取られた眼帯と一緒に置いてあった。二つともだ。
リガーナには無かったと伝えたら、簡単に信じた。
まあバレていても、構わない。リガーナには効かないし、使わないから。
トワに一つ渡した。マジックストックを返す時に。
俺が一つ持っている事も話した。全部、信用を得る為だ。
トワは、いたずらを考える子供のように笑っていたから、疑っていないはず。
少しずつ信頼関係を築いているし、根はいい奴だから。
(…計画は、こうだ。)
魔王に挑む直前、寝込みを襲う。
ムンタは適当な理由で離れてもらえばいい。
石鎖は使えるようになっている。
これで二人を拘束しつつ、トワの左腕に魔力制御装置をつける。
サニアには威力を抑えた黒炎だ。
サニアは絶叫し、トワは俺を罵倒する。
そこで俺は悪の親玉のように、ネタばらし。醜悪に笑う。
魔物化したサニアに止めを刺し、トワを石で遠くに飛ばせば終わり。
首輪が爆発し、リガーナは満足するだろう。
(今なら十分に、実現可能だと思う。)
が、
(本当にやるのか?)
生存プランの一つが現実的になり、喜ばしいはずなのに。
嬉しくない。
(あの二人は嫌いではない。寧ろ…。)
やはり。
第一目標を目指すしかない。
アッブドーメン協和国の出来事は、得る事が多かった。
特に無敵と思われたリガーナの弱点が、色々垣間見えた。
自信ゆえの油断。無限ではない魔力。
サニアの予想以上の実力もあるし、リガーナは闇天法を使えない。
(思い出してみると、前世でリガーナは打倒されている。)
無敵ではないのだ。
実力と、仲間と、準備があれば、手の届く相手。
しかし。
「…。」
リガーナは分かりやすい奴だ。
何をすれば笑うのか、喜ぶのか、怒るのか、俺は分かる。
扱いは難しいが、慣れてきた。
この五人での旅を、俺は楽しんでいる。
それにリガーナは、マジュイメに対して怒っていた。
トワが注射針を刺された時とか特に。
(俺達に対して、仲間意識が芽生えてきた?)
勢いよく首を振る。
トワの首輪は着けられたままなのだ。
お気に入りの玩具に悪さをされたから怒ったんだ。
飯に毒を入れられたし、だからこその皆殺し宣言だ。
(あいつは、魔王だ。倒さないといけない相手だ。)
『言葉が通じる訳だし、分かり合えないのは、寂しいよ。』
サニアは知らないだろ?
あの夜の、会話が通じないリガーナの恐怖を。
『一歩踏み出す、という事が大事なのです。』
その結果、痛い目をみたのはお前だムンタ。
『死にたくないから、嘘をついたの。』
その通りだリガーナ。だから今、苦しんでる。
『手はあるの。殺せば解決する訳じゃない。』
なら、方法を教えてくれサニア。
『変わるんだ。』
「無責任な事を言うんじゃない!ムンタ!」
「え、ごめん…。」
「ん?」
ムンタがいた。部屋の中に。
男性陣と女性陣で別れて部屋をとってあるから、いてもおかしくはない。
「ロストン君の言う通りだ。
俺の一言で、勇者パーティーを振り回すのは、無責任だった。
今の話は忘れてくれ。」
「待ってくれ。すまないが、もう一度最初から頼む。」
「え、ああ。宴会に誘われたんだ。何でもいい酒が手に入ったからって。
この後、出発の予定だったけど、明日にして、今日は楽しもうか、て話だったけど、ロストン君が…。」
ガシ、とムンタの肩を掴む。
「飲もう。」
「いや、でも…。」
「飲みたい気分なんだ。」
ムンタと見つめ合う。
「…分かった。飲もう!」
ムンタと肩を組んで、会場へ向かう。
既に何人か来ている。トワとサニアもいる。
意外な事に、サニアが酒を飲んでいる。
しかも鼻をすすりながら、トワに抱き着いている。
「しつこいよサニア。僕はリンで、カッコイイ魔装義手を着けるんだ。
気にしなくて平気だから!触るな、離れて!」
楽しそうだから放っておく。
一人で何か食べているリガーナを見つけたから、ムンタと挟むように座った。
気にせず食べ続けるリガーナ。一心不乱に口いっぱいに詰め込んでいる。
「はへぇ、ほふほんひゃん。」
コップに酒を注ぎ、リガーナの前へ。
「これ美味しいよ!ロストンも、食べなよ!」
幸せそうな満面の笑み。
出された料理を口に運ぶ。
「確かに美味いな。」
ムンタを見たが、町の人に呼ばれていってしまう。
だからデカい口を開けて、そのまま食べ続けた。
何も考えず飯を食い、酒を飲む。楽しい。
「そういえばロストンは見た?」
「何を?」
「サニアのパンツ。」
「は?」
「あんな短いスカートでクルクルしてるのよ?
見えたんじゃないの?」
「…見えて、ないな。」
事実だ。
「そうなのね。実は私も見えてないのよ。
知っているわ。これは鉄壁スカートって言うのよ。」
「…。」
「本人も気をつけているかもしれないけど、
これはそんなレベルではないわ。
あらゆるものが、見えないように動いているみたい。
きっと、世界の加護があるのよ。」
真面目な顔で、下ネタなんて嫌だ。
もっと酔ってからにしたい。
リガーナのコップも、俺のコップも酒でいっぱいにする。
そして一気飲みだ。
勢いに任せて、他愛もない話を続けた。リガーナと。
『話を聞いていれば、こんな事には、ならなかったかもしれない。』
積み重ねれば、変わるのだろうか。
リガーナと、俺の関係も。
「うめー!!」
難しい話はなしだ。
酒が不味くなっては困る。
この後の旅は、不安な事だらけさ。
だから今は飲むんだ。楽しむんだ。
そして、明日からまた頑張るんだ。
ずっとそうやって、やってきたんだから俺達は。
そうだよな、トバ。
アッブドーメン共和国での話は終わり。
次は、バクー王国での話。そして…?




