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継承英雄譚、担々  作者: シロクロゲンヤク
第二章 魔王クリガナンの祝賀

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第63話 魔王崇拝~迷う~

~前回までのロストン~


なんとかリガーナを落ち着ける事に成功。

休憩がてら、サニアの昔話を聞いた。

話は終わったし、リガーナも戻ってきた。なら、出発だ。

 森の中の隠れ家はすぐに見つかったし、トバも、ちゃんといた。


「総帥は捕まえる。あなた達にも来てもらう。

 不自由はあると思うけど、ニージュ商会が調査し終わるまで待って。

 あなたの言っている事が本当なら、ちゃんと自由になれるわ。」


 トバは頷く。総帥の所まで案内してくれるそうだ。

 あまりに従順で怪しい。罠だと思うほうが自然。


 でも、構わない。


 総帥と会って、話をしようと決めた時から、危ない橋を渡る覚悟がある。 


 やがて。

 開けた場所に来た。


 石で作られた小屋ぐらいの大きさの祭壇。


 その前に、総帥が立っていた。

 両腕の無い、彼が。


 あの時、リガーナの水射ウォーターショットに切り落とされたのだろう。

 手紙は代筆か。


「君達二人かね?赤髪の子はともかく、金髪の子は来ると思ったが。」


「連れてきていないから、こうして出てきてくれたのでしょう?

 いたら、逃げるか、奇襲をしたはずです。」


「君もなかなか賢い子のようだ。

 そこの男が、私の指示通り案内した事にも気づいている。

 それならば、何しに来たのかね?

 まさか、話し合いをしにきた訳ではないだろう?」


 一人の黒ローブが総帥に近づく。

 身構えつつ、サニアが答える。


「あなたを捕まえに来ました。言い分は聞きます。

 大人しくついてきてくれるなら、手荒な事はしません。」


 総帥は声を殺して笑い、祭壇を見上げた。


「考えてはいたのだよ。

 しかし、まだ他に出来る事があるかもしれないと、先送りにしてきた。

 礼を言う。君らのおかげで、踏ん切りがついた。」


 俺もサニアも、不穏を感じて飛び出そうとした。


 しかし、トバが立ちふさがり、妨害される。

 すぐに突き飛ばしたが、遅い。


 総帥は口を大きく開けて、隣の黒ローブが、何かを流し込む。


 口元を汚しながら、総帥が叫ぶ。


「我々の研究は正しかったのか!私は魔王に至れるのか!

 君達で、試させてくれ!」


 総帥の身体が変異していく。どす黒く、ブクブクと、肥大していく。


 (まるで、前世の俺だ。)


 サニアを見る。顔色が悪く、震えてもいる。


 人が魔物になる瞬間なんて、普通見るものではない。

 何度見ても、慣れるものじゃない。


 その肩を叩く。


「サニア、あれはただの魔物だ。」


 サニアは、寂しそうで、泣きそうだった。

 でもそれは一瞬で。


 彼女の瞳は闘志に燃える。


「ロストン。私がやるわ。」

「OK、援護する。」


 サニアにマジックストックを渡した。


 咆哮と共に、総帥だった魔物が突っ込んでくる。


 光射シャインショットを連射。命中するが、勢いは止まらない。

 更に撃ち続ける。少しでも削る。勢いを弱められれば、それでよい。


 サニアが、一歩前に出る。構える。タイミングを計る。


 彼女の手には、黒い輝きの一振りの剣。ブラック火剣ファイアーソード

 暗闇よりも、深い黒。火と闇の混合天法。


 魔物が、サニアを食い千切ろうと、デカい口を開けて迫った時、優雅に舞うように、彼女は回る。


 それで終わり。


 魔物は一刀で両断された。霧のように消えてゆく。


 魔物は肉体が残る場合と、残らない場合がある。


 強力な魔法で消し飛ばせば、もちろん何も残らないが、そうでない場合、違いは魔力の割合。

 元の肉体がどれくらい残っているかだ。


 だから基本、魔物になりたての奴は肉体が残り、長期間魔物として活動していた奴は、霧散する。


 魔王薬は、変異させる薬。肉体丸ごと、魔力に変えた。

 だから、何も残らない。


「…そんな、バカな…。」


 尻もちをついているトバが呟く。


「全然、魔王じゃない。失敗だ。

 召喚も失敗、変異も失敗。どうしたら成功するんだよ…。」


「魔王に縋った時点で、成功なんてない。」


 ムンタだ。


 トバの後ろにムンタがいる。起きて、ここまで来たのか。

 奥の方に、トワを背負ったリガーナらしき人物も見える。


「好きで縋る奴なんかいるかよ。魔王にしか、縋れなかったんだろ。」


 自然と口が開いてびっくりした。言うつもりなんて、なかったのに。


「だから王国が変わるんだ。頼ってもらえる国に成らないといけない。」


 ムンタは目を閉じる。祈るように。


「総帥。この度は、期待にそえず申し訳ない。」


 答えるものは誰もいない。




 それから俺達はトバ含むマジュイメ残党を縛りあげた。


 サニアは、一度、王国に戻る事を主張した。


 ニージュ商会は、治安悪化に伴いアッブドーメン共和国から完全撤退している。

 魔物に殺された本来のロストンも、それに伴い大陸西側の支社に移った。


 つまり、ニージュ商会に調査させるには、戻るしかない。でも、却下された。


 アッブドーメンの国内で暴れていた連中を、国の外に出せない。

 ムンタが尤もな意見を言う。


 諸々は、この国に任せる事にする。


 近くに、スーフリンという町があるから、そこへ向かう。


 道中、朝日が見えてくる。激動の一日は、いつもの間にか終わっていた。


 (町についたら、寝よう。)


 最後の力を振り絞り、脚を動かすのだった。




 スーフリンに到着して、数日経った。


 アッブドーメン協和国の軍隊が、マジュイメ残党を首都へ連行していく。


 既視感。場所も人も違うが、前世の俺の仲間達を思い出す。


 (今度もトバを見送る事になるとはな。)


 前世では雲の上からだったが。


「トバはさ。」


 遠ざかるトバを乗せた荷車を見ながら、隣のサニアに話しかける。


「いいとこなかったよな。

 俺達の事を騙して、邪魔して。

 尻もちつきながら、何かわめいていただけだった。」


「ロストン。」


 サニアが、窘めるように俺の名を呼ぶ。

 何でだよ、と思いながらも、少しだけ嬉しかった。


「…あんな奴でもさ。

 もしもこの国がもっといい国だったらさ。

 あいつは真面目に働いて、要領よく出世とかしちゃってさ。

 大役もらって頑張るんだよ。部下にカッコイイとこ見せようと背伸びしてさ。

 結果、失敗して、ボロボロになって、夜に友達とヤケ酒だ。

 情けないこといいまくって。

 でも、翌日からまた頑張るんだ。

 友達もそんな奴ほっとけないだろ?後ろからついていくのさ。

 悪い気はしない。いい奴なんだよ。

 …少し、歯車が違ったら、そんな世界も、あったかもしれない。」


 思ったより、長く喋ってしまった。

 サニアは、静かに聞いてくれていた。


「もしもの事、なんて私達が考えても仕方ない事。

 分かっているけど、いいよね、なんか。そんな世界があるかもって思うと。」


「トバがサニアの事を好きになる世界もあるかもな。」

「う~ん、それは想像できないね。」


 俺達はバクー王国へ向かう準備の為、宿屋に戻る。


 途中、サニアの後ろ姿、というより服装を見て、彼女の傷の事を思い出す。

 今は平気のようだが、進行すれば、やがて魔物に至る傷。


 今なら、分かる。


 俺の叔父さんは、もちろん死ぬのも怖かっただろうが、それよりも、魔物に成る事が怖かったのではなかろうか。


 病気で死んだと聞いていた。間違ってはいないだろうが、病気が悪化して魔物になった、なりかけだから殺した。が、より正しいと思う。


 出会った時から、傷はあったと思う。


 でもある日、隣町から帰る時、魔物に襲われて、俺を庇って彼は噛まれた。

 それで悪化して、寝たきりになった。


 詳しくない。それでも見る限りあの傷は、魔物の魔力が関係している。


 サニアは、こともなげに総帥を倒したが、もし噛まれていたら、彼女は魔物になっていたかもしれない。


 (こんな事は、誰でも予測がつく。)


 サニアの両親含む関係者も、サニア自身も。

 知っていて、それでも自分が旅に出たのだ。覚悟の上で。


 (凄いな。サニアも、周りも。)


 嫌味なく、本心で思う。

 しかし同時に考えている。


 サニアは強い。まともに戦っても勝てないだろう。

 でも傷がある。


 あの傷は、魔物の魔力というより、闇天法の影響で広がるのではないか?


 リガーナも、闇天法のカースの名を出している。


 館で戦った人造魔王九号。

 外見的にも、闇天法を纏っていたはずで、総帥も同じだ。


 マジックストックの効果で、サニア自身も闇天法を使っている。


 あの日、サニアは、闇天法の近くにいた。

 あの日の後から、サニアの腰のベルトは、前より太くなった。


 (もしも、黒炎ブラックファイアーを当てたら。)


 魔物化が進んで、その動揺と苦しみは、大きな隙となるだろう。

 正面から戦って勝てる気はしないが、一撃も当てられないとは思わない。


 (俺は、きっとサニアに勝てる。)




 宿屋の自分の部屋。俺は深く息を吐く。


 俺の第二目標の達成の目処は立った。


 今、俺は腕輪を手にしている。


 魔力抑制装置。リガーナが持っていたものだ。

 あの館で、取られた眼帯と一緒に置いてあった。二つともだ。


 リガーナには無かったと伝えたら、簡単に信じた。

 まあバレていても、構わない。リガーナには効かないし、使わないから。


 トワに一つ渡した。マジックストックを返す時に。


 俺が一つ持っている事も話した。全部、信用を得る為だ。

 トワは、いたずらを考える子供のように笑っていたから、疑っていないはず。


 少しずつ信頼関係を築いているし、根はいい奴だから。


 (…計画は、こうだ。)


 魔王に挑む直前、寝込みを襲う。


 ムンタは適当な理由で離れてもらえばいい。


 石鎖ストーンチェーンは使えるようになっている。

 これで二人を拘束しつつ、トワの左腕に魔力制御装置をつける。


 サニアには威力を抑えた黒炎ブラックファイアーだ。

 サニアは絶叫し、トワは俺を罵倒する。


 そこで俺は悪の親玉のように、ネタばらし。醜悪に笑う。


 魔物化したサニアに止めを刺し、トワをストーンで遠くに飛ばせば終わり。


 首輪が爆発し、リガーナは満足するだろう。


 (今なら十分に、実現可能だと思う。)

 が、

 (本当にやるのか?) 


 生存プランの一つが現実的になり、喜ばしいはずなのに。

 嬉しくない。


 (あの二人は嫌いではない。寧ろ…。)


 やはり。

 第一目標を目指すしかない。


 アッブドーメン協和国の出来事は、得る事が多かった。


 特に無敵と思われたリガーナの弱点が、色々垣間見えた。

 自信ゆえの油断。無限ではない魔力。


 サニアの予想以上の実力もあるし、リガーナは闇天法を使えない。


 (思い出してみると、前世でリガーナは打倒されている。)


 無敵ではないのだ。

 実力と、仲間と、準備があれば、手の届く相手。


 しかし。


「…。」


 リガーナは分かりやすい奴だ。


 何をすれば笑うのか、喜ぶのか、怒るのか、俺は分かる。

 扱いは難しいが、慣れてきた。


 この五人での旅を、俺は楽しんでいる。


 それにリガーナは、マジュイメに対して怒っていた。

 トワが注射針を刺された時とか特に。


 (俺達に対して、仲間意識が芽生えてきた?)


 勢いよく首を振る。


 トワの首輪は着けられたままなのだ。

 お気に入りの玩具に悪さをされたから怒ったんだ。


 飯に毒を入れられたし、だからこその皆殺し宣言だ。


 (あいつは、魔王だ。倒さないといけない相手だ。)


『言葉が通じる訳だし、分かり合えないのは、寂しいよ。』

 サニアは知らないだろ?

 あの夜の、会話が通じないリガーナの恐怖を。


『一歩踏み出す、という事が大事なのです。』

 その結果、痛い目をみたのはお前だムンタ。


『死にたくないから、嘘をついたの。』

 その通りだリガーナ。だから今、苦しんでる。


『手はあるの。殺せば解決する訳じゃない。』

 なら、方法を教えてくれサニア。


『変わるんだ。』


「無責任な事を言うんじゃない!ムンタ!」


「え、ごめん…。」

「ん?」


 ムンタがいた。部屋の中に。

 男性陣と女性陣で別れて部屋をとってあるから、いてもおかしくはない。


「ロストン君の言う通りだ。

 俺の一言で、勇者パーティーを振り回すのは、無責任だった。

 今の話は忘れてくれ。」


「待ってくれ。すまないが、もう一度最初から頼む。」


「え、ああ。宴会に誘われたんだ。何でもいい酒が手に入ったからって。

 この後、出発の予定だったけど、明日にして、今日は楽しもうか、て話だったけど、ロストン君が…。」


 ガシ、とムンタの肩を掴む。


「飲もう。」

「いや、でも…。」


「飲みたい気分なんだ。」


 ムンタと見つめ合う。


「…分かった。飲もう!」


 ムンタと肩を組んで、会場へ向かう。

 既に何人か来ている。トワとサニアもいる。


 意外な事に、サニアが酒を飲んでいる。

 しかも鼻をすすりながら、トワに抱き着いている。


「しつこいよサニア。僕はリンで、カッコイイ魔装義手を着けるんだ。

 気にしなくて平気だから!触るな、離れて!」


 楽しそうだから放っておく。


 一人で何か食べているリガーナを見つけたから、ムンタと挟むように座った。


 気にせず食べ続けるリガーナ。一心不乱に口いっぱいに詰め込んでいる。


「はへぇ、ほふほんひゃん。」


 コップに酒を注ぎ、リガーナの前へ。


「これ美味しいよ!ロストンも、食べなよ!」


 幸せそうな満面の笑み。

 出された料理を口に運ぶ。


「確かに美味いな。」


 ムンタを見たが、町の人に呼ばれていってしまう。


 だからデカい口を開けて、そのまま食べ続けた。

 何も考えず飯を食い、酒を飲む。楽しい。


「そういえばロストンは見た?」

「何を?」


「サニアのパンツ。」

「は?」


「あんな短いスカートでクルクルしてるのよ?

 見えたんじゃないの?」

「…見えて、ないな。」


 事実だ。


「そうなのね。実は私も見えてないのよ。

 知っているわ。これは鉄壁スカートって言うのよ。」

「…。」


「本人も気をつけているかもしれないけど、

 これはそんなレベルではないわ。

 あらゆるものが、見えないように動いているみたい。

 きっと、世界の加護があるのよ。」


 真面目な顔で、下ネタなんて嫌だ。

 もっと酔ってからにしたい。


 リガーナのコップも、俺のコップも酒でいっぱいにする。


 そして一気飲みだ。


 勢いに任せて、他愛もない話を続けた。リガーナと。


 『話を聞いていれば、こんな事には、ならなかったかもしれない。』

 積み重ねれば、変わるのだろうか。


 リガーナと、俺の関係も。


「うめー!!」


 難しい話はなしだ。

 酒が不味くなっては困る。


 この後の旅は、不安な事だらけさ。

 だから今は飲むんだ。楽しむんだ。


 そして、明日からまた頑張るんだ。


 ずっとそうやって、やってきたんだから俺達は。

 そうだよな、トバ。

アッブドーメン共和国での話は終わり。

次は、バクー王国での話。そして…?

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