第62話 魔王崇拝~サニアの戦い~
~前回までのロストン~
俺達は、危ない所をリガーナに助けられた。
今後の対応で、リガーナとサニアが口論に。
激昂したリガーナが、サニアに襲い掛かる。
「あはははは!」
水竜の三本の竜頭から、水射が発射される。
サニアは踊るように身体を半回転させて、全て叩き落とした。
サニアの両手に、赤く発光する剣がある。
火魔法、火剣の二刀流。
前世とは異なる戦闘スタイル。
王国の学校に卒業まで通い、精度を高め会得した魔法。
俺の知る火剣は、炎のように揺らめく剣だ。
サニアのそれは、形だけ見れば炎と思えない。鉄だと言われても信じるだろう。
揺らぐ事なく真っすぐで、細く、長い。
人体を切断する威力の魔法に負けない強度もある。
それを片手で、合計二本。これしか使えないと、サニアは笑ったが、これ一つで学校首席の座についた実力者だ。
サニアが駆け出す。真っすぐ、リガーナに向かって。
「あは♪」
リガーナが両手を突き出した。
地面から鎖のような物が伸びて、サニアを拘束しようとする。
土魔法、石鎖。
射程の長さと、変則的な動きで躱されにくい特徴がある。
サニアは脚を止めず、回転するように剣を振るい、根本から鎖を断つ。
「は!」
水壁。サニアの正面、左右の三方向。
彼女の脚が止まる。剣を振りぬく。三枚の水の壁が両断された。
「石雨。」
上空に巨大な岩が現れたかと思うと、それが爆発し、大量のつぶてが、サニアに降り注ぐ。
「く…。」
サニアはつぶてを防ごうと剣を振るうが、数が多すぎる。
数発は被弾、というより、その場から動けない。釘付けだ。
「トリニティアクアバスター。」
三本の竜頭から水の奔流が放たれる。
いかれた威力もだが、発射までのスピードが脅威だ。
(リガーナが手を抜くなんて思わなかったが…。)
やはり手加減はしない。
完全にサニアを殺す気だ。
水が消えた時、サニアも消えていた。
完全に消し飛んでしまったのかと心配したが、離れた所で、起き上がる彼女を見つけた。なんとか回避できたらしい。
しかし、ここまでだろう。
ふらふらと立ち上がる姿を見るに、次は本当に殺されてしまう。
(リガーナを、止めないと。)
今のリガーナに近づきたくないが、そんな事を言っていられない。
俺は一歩を踏み出した。同時にサニアも駆け出した。
「~♪」
リガーナが口笛を吹きながら、水射を飛ばす。
サニアは両手を前に出す。現れたのは一本の火剣。
先程よりも大きい両手剣。しかも大きくなり続ける。
まるで、炎の盾だ。
水射を弾きながら、突っ込んでくる。
リガーナの口角が上がった。
直感する。トリニティアクアバスターだ。
手を伸ばし、止めろと叫ぼうとした瞬間。
「いて。」
リガーナが、かわいらしい声を出した。
「え?」
驚きの声は俺のもの。
リガーナの首元に、真っすぐで細長い火剣が付きつけられていた。
(あの距離を!?いつの間に!)
サニアから目を離し、リガーナを見ていた数秒間。
それで勝負は決したのか?
(サニアが、勝った…?)
ボロボロで、息も絶え絶えのサニア。
その姿をリガーナは不思議そうに見ている。
「刺さないの、これ?」
首元の剣をツンツンして、熱かったのか顔をしかめるリガーナ。
「目的は、力をみせて、信じてもらう事。刺しちゃったら、ダメじゃない。」
「ふーん。いいわよ、遠慮しないで。」
「え?」
リガーナは火剣を掴み、そのまま自分の首に突き刺した。
驚愕するサニアの目の前で、リガーナはドロドロに溶けていく。
水人形。つまり、デコイ。
リガーナはサニアの背後に現れる。掌をサニアの頭に向けた姿勢で。
「…これは、意外な結果よ。まさかあなたが、ね。」
リガーナが両手を上げる。降参のジェスチャーだ。
「ロストン。」
振り返り俺を見る。リガーナの頭に掌を突き出している俺を。
リガーナが負けを認めず、剣をツンツンした時、そんな気がして回り込んでおいた。
「実はマジュイメに知り合いがいるかもしれないから、皆殺しだと、俺も困る。」
精一杯の虚勢。アピールするんだ。まだ俺達は、お前を楽しませる事が出来ると。
思い出させる。メインは、この先にある事を。
それが出来なければ。
二人纏めてかかってこい、なんて事になれば。俺達は…。
「いいわ。私の負けを認める。サニアは好きにしていいわ。ロストンも。
私はトワ達と、ここにいるから。」
リガーナは、手をひらひらさせながら館の中へ戻っていく。
俺はサニアに近づいて、回復魔法をする。
「ありがとうロストン。助かったわ。」
サニアは今にも倒れそうだ。
一先ず館の中へ入るよう促す。
「ずっと、ひやひやしていた。でも凄かった。正直サニアがここまで強いと思わなかった。」
「はは、私は、ちゃんと勝つつもりだったんだけどなぁ。」
「…最後どうやって距離をつめたんだ?」
「火剣を、いい感じの角度で地面に突き刺すの。
そして一気に魔力を放出すると、空が飛べるわ。ちょっとだけね。
直線的な動きになって回避は出来ないから、
飛ぶ前に拾った石を投げたのよ。目くらましになればと思ってね。
かなり苦し紛れだったけど、効果があってよかったわ。」
あの時の『いて』は、石があたったのか。
俺はそれで納得、しそうになったが気づく。
(リガーナは、水竜を使っていた。)
水竜は全身に水を纏う。
その状態で、投げた程度の石が身体に当たる訳がない。
(ん?)
そういえば火剣を首元に突き付けられた時、水竜は消えていた。
(え、いつから?)
トリニティアクアバスター、その後の水射は竜頭で撃っていた。
その後、トリニティアクアバスターを撃とうとして、『いて』の発言。
(水竜が無かったから、石が当たったんだ。)
自分の心臓の鼓動が、早くなるのが分かる。
リガーナはなぜ、水竜を消した?
トリニティアクアバスターを撃つのに?
消したのではなく、消えたのだとしたら?
自分の意思とは関係なく、魔法が消える。それは、
(魔力切れ…!?)
王国領土内の荒野を移動している時、水巨人で走れば速いのでは?
という話題がでた。
ムンタは、魔力消費が激しいから無理だと笑った。
同系列と思われる、水竜も、魔力消費が激しくてもおかしくない。
俺がリガーナの背後を取ったのは、彼女を止める為だ。
そうでもしないと、サニアが殺されると思ったから。
攻撃しなかったのは、どうせ防がれると思ったし、反撃を恐れたからだ。
まだ、余裕だと思っていた。
(考えてみれば、仮眠をとるぐらい疲れていたんだ。)
規格外の奴だから、魔力が足りなくなるなんて思いもしなかった。
水人形と、蜃気楼は、おちょくる為ではなく、逆転の一手で。
簡単に引き下がったのは、満足したからではなく、ギリギリだったからで。
だとしたら?
(今なら、リガーナを殺せる?)
サニアを座らせ、飲み物をとってくると言い別れた。
二階へあがる。
トワとムンタの部屋を開け、中へ。
「…。」
リガーナはいなかった。
「一緒にいるんじゃないのかよ…。」
脱力して、思わず座り込んでしまった。
「遅くなってすまない。
トワとムンタの様子も見に行ったら、リガーナがいなくて、何処に行ったのかと周りの部屋も探したんだ。
…結局いなかった。外かもしれない。まあ、その内戻ってくると思うけど。」
「そうなんだ。ロストンも知り合いを探しに来るんだよね?
二人だけを残していけないから、リガーナが帰ってくるのを待とうか。
ちょっと休憩したいし。」
飲み物を飲んで、高そうなイスに沈む。
沈黙が嫌だから、話題を振った。
「サニアはさ。どうしてリガーナを止めたんだ?
正直いうと、リガーナの主張は間違ってないと思うし、サニアがいなかったら、俺はリガーナに頼んでた。」
トバはあくまで前世の友。今世では、他人だ。
「…実は、よく分かってないかも。」
「ええ…。」
「あ、いや、ある、あるよ、心当たり。
…昔話をしてもいいかな?ちょっと長めで、楽しくないやつ。」
ジェスチャーで促す。ちょうど机の上に茶菓子もある。
まあ食べるかどうかは、内容によるが。
「学生だった頃、私が14歳の時ね。
私は優秀で学内で成績はトップクラス。
天狗になってたんだよね。態度も、大分偉そうだったと思う。
だからこそ、妬まれて、攻撃されて。
私は私で、それらに屈せず、跳ね返す事が強さだと信じていた。
気持ちなんて、考えた事もない。」
前世では、その鼻っ面をレーラスに折られた。
今世では、その出会いが無いからか。
「ある時ね。王国の外れのほうにある、廃墟みたいなお屋敷に呼び出されたの。
もちろん行ったわ。返り討ちにしてやるって意気込んで。
待っていたのは、一人の同年代の女の子。
大勢いると思っていたから、拍子抜けしたわ。
彼女は私に色々質問してきた。
内容は覚えていない。興味がなかったの。彼女にも、彼女の事情にも。
面倒だった私は言ったわ。
『御託はいいから、かかってきなよ。どうせあなたは私に勝てない。』
彼女は泣いたわ。泣きながら、必死に何かを叫んでいた。
私は『うるさいなあ』って、聞き流して。
彼女は、瓶を取り出して、飲んだの。
胸を抑えて、苦しみだして。私は駆け寄ったわ。
『お前の所為だ。』て、怒りの形相で睨まれた。
身体がね、ブクブクと黒い何かに変わっていくの。
魔物化。今なら分かるけど、当時はただ怖かった。」
学生がそんな物を手に入れられるのか。王国の治安、やべえな。
…いや、探せばどこにでもあるのかもな。裏社会というか、そういうの。
「私は怖くなって逃げ出したの。
後ろから、黒い何かが追ってきて、引っ搔かれたわ。
身体を、何か所かね。
痛い、痛いって、無様に地面を転がった。
そしたら王国兵の方がきて、助けてくれた。
兵士さん数人がかりで、魔物は討伐されたわ。
私は入院して、沢山の人がお見舞いにきてくれて。
心配と、励ましと、謝罪。
私を責める人は、一人もいなかった。」
…社長令嬢だしな。
「退院した時、ちょうど私を襲った子のお葬式があったの。
誰も私が悪いと言わなかった。つまり悪いのは襲った子の方。
悪人の葬式というのはどんなものか。
そんな考えで、軽い気持ちで、覗いてみたの。
皆、泣いていたわ。同年代の子が多かった。
明るくて、努力家で、友達思いで、いい子だった、らしい。
ここにいる人は、あの子が最後に何をしたのか、知らないのだと思った。
知っていたら、こんな風になるはずないから。
だって、これだと、まるで、明るくて努力家で友達思いないい子を、追い詰めて殺した、私が悪いみたいじゃない。
私は、また逃げ出した。
あの廃墟みたいなお屋敷に行ったの。立ち入り禁止の看板を乗り越えてね。
中に入って、私とあの子が話をした場所まできて、私は泣いたわ。」
三年前の話だろ?なら俺の感覚からすると、その状況は異常だ。
ニージュ商会の令嬢を襲ったんだ。
一族は、よくて国外追放だろ。呑気に葬式をしている場合じゃない。
ひょっとすると、サニアの口添えで、罪が軽くなった?
それで葬式も出来た?
だとしたら、サニアは運の悪いやつだ。
いや、よかったのか?分からないな。
「私を攻撃する人は、弱い人だと思っていた。
弱いのは努力が足りないからで、努力が足りないのは自分の所為。
自分の所為なのに、他人の所為にするなんて最低な事で、最低な事なんて、聞く必要はない。
だから彼女の話を聞かなかった。決めつけていた。
思いが、悩みが、事情があったはずなのに。
話を聞いていれば、こんな事には、ならなかったかもしれない。
だって、いい子、らしいから。
『お前の所為だ。』
彼女の言葉と共に、傷の痛みを思い出して私は倒れた。
すぐ発見されたけど…。」
サニアが左手に着けていたグローブを外した。
「!?」
皮膚の一部が、黒く、ブクブクした渇いた何か、になっていた。
「魔物みたいでしょう?
左手の他に、左肩の下と左の腰と左膝下あたりも、こうなの。
あの子に引っ搔かれた場所ね。
回復魔法でも、治癒魔法でも治らなかった。」
サニアはグローブを着ける。
驚いた。何に驚いたかって、その傷は、前世で俺が子供の頃に亡くなった叔父さんと同じだったから。
「一年くらい前かな。傷がさ、知らぬ間に大きくなってたんだよね。
パパもママも気にしちゃって、周りの人が気づけるようにって、こんな服装に。
大きくなったのが分かった所で、なんだけど。」
「…。」
「ロストンに会う少し前、リガーナに見てもらったの。
呪って言う闇天法の効果に似ているんだって。
封印って言う光天法で治りそうだって話なんだけど、流石にリガーナも使えないって。
でも、魔王城になら、そういう魔法に詳しい資料があるかもしれないって。
だから私は探しにいくの。
…昔話はこれでお終い。」
サニアの声のトーンが、明るくなる。
「それで、最初の質問は、リガーナを止めた理由だったよね?
話をしたいのよ。
封筒を私に渡したマジュイメ人、その様子が、なんとなく、あの子に似てると思ったから。」
ふーっと息を吐いて、サニアは茶菓子に手を伸ばした。
どことなく、すっきりした顔だ。誰かに話したかったのかもしれない。
俺も茶菓子に手を伸ばす。とても食べながら聞ける話じゃなかった。
感想を求められても困るタイプのやつだ。
何言っても、何かに引っかかりそうで、「大変だったね。」みたいなありきたりなやつで茶を濁すしかない。
サニアも分かっている。だから、言い渋ったし、感想も求められない。
話題を変える。
「サニアに封筒を渡した奴の名前って聞いた?」
「トバって言ってたかな。いる場所も聞いたから、まずはそこに行くよ。」
「ちなみに、今までに会った事は?」
「ないね。初対面だったよ。」
「俺の知り合いかもしれない奴、そいつの事。」
「そうなんだ!なら、ロストンが話すといいかもね。」
「すまない。俺が一方的に知っているだけなんだ。」
「複雑なんだね。理由は聞いても?」
「遠慮してくれると、助かる。」
「うん、わかった。」
「あれ~、二人共、まだいるじゃん。行くの止めた?」
リガーナが、二階から降りてきた。
「お前がいなかったから、戻ってくるのを待ってたんだよ。」
「え~、ずっといたよ?ロストンの探し方が悪いんじゃない?」
どこまで本気か分からないリガーナは置いておいて、サニアを見る。
力強く頷く。なら、出発だ。
前話で、リガーナが来てくれた件。
狸寝入りだったのか、タイミングよく復活し来てくれたのかは、不明。
ロストンは気になっているけど、怖くて聞けない。




