第61話 魔王崇拝~言い争い~
~前回までのロストン~
トバ。前世での友達に気を取られ、俺は捕まってしまう。
俺が捕まってしまった事で、形勢は逆転される。
12代目勇者パーティーは、全員、捕まってしまった。
更にしばらくして、黒ローブ三人組がやってきた。
「準備が出来た。」
そう言って、俺達は担がれる。
トワもサニアも大人しく運ばれるから、俺も暴れなかった。
運ばれたのは、地下の別室。
総帥がいる。他に黒ローブが四人。
全員顔が見えていて、トバはいない。
ムンタとリガーナもいない。
薬品の匂いのする、薄暗い部屋。
俺達含め、11人いるが、問題なく移動できる広さがある。
俺とサニアはイスに括られ、トワが前に連れられていく。
連れられた先に、十字の磔台があった。
トワの縄が緩められた瞬間、トワが黒ローブに殴りかかった。
しかし難なくいなされ、台に固定されてしまう。
「威勢のよい事だな。」
総帥が笑った。
「一思いに殺してくれるんじゃないのかい?」
トワが睨みつける。
総帥はそれに答えず、別の事を喋り出す。
「魔王様の再臨。昔はね、魔法の力で召喚できないか、色々試したのだよ。
しかし上手くいかず、よく分からんものを呼び寄せては処分を繰り返した。
だから方法を変えてね。
今の主流は、変異。魔王様に、成ってもらうという訳だ。」
総帥が注射器を取り出した。
「人に獣に魔物に薬草。それらをすりつぶして作る魔法薬だよ。
なんとも業の深い、まさに魔王薬、と呼ばれる物だ。
君達にも材料になってもらうつもりだったんだが…。」
総帥が、トワを見る。その血走った目は、正気のものだろうか。
「あの暗闇での立ち回り。
館の特性を看破し、一瞬の隙で魔法を繰り出す技術。
そして、我が最高傑作、人造魔王九号を打倒する能力。
君こそ、我らが魔王に成りうる器。」
「買い被りすぎだね。上には上がいるよ。
ぼ、僕なんかより、よっぽど魔王っぽいやつが!」
「やめて!トワに刺さないで!私に刺していいから!」
総帥は、会話をする気はないようで。
伸ばされたトワの右腕に、その注射針を近づけていく。
ギイ、と。場違いな音と共に、扉が開いた。
(リガーナ!)
入ってきた彼女は、みるみるうちに不機嫌そうな顔になる。
飛んできた蚊でも払うように、右手を気だるそうに払う。
「ぎゃ!!」
黒ローブが倒れた。
「バカな!なぜ魔法が使え、」
また一人倒れた。
トワを拘束していた磔台も倒れた。
「ぐおおぉ。」
総帥がうずくまる。攻撃を受けたのだろう。見えなかったが。
(水刃?いや、水射だ。)
水圧が高すぎて、人体が切断されている。
「死ね!化け物!」
魔法が使えるようになった黒ローブ達の反撃が始まった。
しかしそんなものが、リガーナに通用する訳もなく。
血しぶきと共に、全員倒れた。
あっという間だった。あっという間に地獄絵図だ。
サニアも口を開けたまま固まっている。返り血が少しかかってしまっていた。
リガーナが俺のロープを切ってくれた。ありがとうと、お礼を言ってトワに近づく。
流れる血が水たまりのようになっているが、気にしている場合ではない。
倒れた台の上に、拘束されたままのトワがいて。
「ト…!」
右腕が、肘から下が、なかった。トワの。
切断面は、凍っているみたいで、出血はないようだが。
リガーナの手元が狂った?まさか。
別に気にせず撃ったから当たってしまった?いや、違う。
近くに転がる腕がある。トワのものだろう。
それは、黒くブクブクした何かに、魔物のような物に変異していく。
注射器は刺さった。だから、切り落としたんだ。
トワは動かない。完全に気を失っている。
「私が運ぶから、ロストンはサニアとムンタをお願い。」
頷いて、リガーナに任せる。まずはサニアに近づいた。
途中気づいたが、死体は7体だ。総帥がいない。逃げたらしい。
蜃気楼か、それに類する魔法を使ったのだろう。
「サニア、大丈夫か?歩けそうか?」
「…うん。私は、大丈夫。」
サニアと共に部屋の外へ。
壁を背に、座り込むムンタを見つけた。
穏やかな寝息だ。顔色もいい。リガーナが、治癒魔法を使ったんだ。
ムンタを背負うと、トワを背負ったリガーナが出てくる。
俺は言った。
「二人を横にしたい。立派な屋敷だから、いいベッドくらいあるだろう。上の階を探そう。」
地下が死体だらけなのは、いい気はしない。でも、廃村よりは、マシだろう。
二人は頷いてくれた。
いい感じの部屋に二人を寝かせ、改めてリガーナは二人に魔法をかける。
命に別状はなさそうだが、目を覚まさない。
館内は魔法が使える状態だ。
リガーナは前に、腫れあがった顔面も、苦しかった二日酔いも一瞬で治した。
そのリガーナの全力でも、直ぐには回復できないほど、二人は弱っている。
後はもう、魔法というより本人次第なのだろう。
館内に敵がいないかは、俺とサニアで調べた。生きて居る者は俺達だけだ。
外はすっかり夜になり、サニアは館のキッチンで夕食を作る。
総帥が普通に食ってたから、食材は無事のはず。
それでも怖いから、よく洗って、よく火を通して、リガーナの前で毒見もした。
結果おいしい料理が完成。二人が目を覚ましたら、安心して食べてもらえる。
夕食後、サニアは周辺の見回りに行き、リガーナは仮眠。
俺は館内の物色だ。取られた魔装具を探さないといけない。
取られてから時間が経っているから、持ち出されている可能性もある。
「見つけた…。」
感動で、思わず涙ぐむ。
もう眼帯がないと落ち着かない身体になってしまったようだ。
丁寧に、はたいてから装着した。マジックストックも四つ見つけた。
更に別のもあったので、取りあえず全部持っていく。
一度戻ろうと二階へ続く階段に足をかけた時だった。
玄関のドアが開き、サニアが入ってくる。
急いで戻ってきた雰囲気ではない。しかし、表情は暗かった。
(何か、思い詰めている?)
サニアは手に何か持っている。封筒のようだった。
「マジュイメの人に、渡されたんだ。」
俺はリガーナを起こした。今後の方針を決めないといけない。
『先程は失礼した。反省し、謝罪しよう。
君達の実力は分かったから、これ以上の襲撃はしない。
解毒薬を二本同封した。魔王討伐後に再び会えるのを楽しみにしている。』
そう書かれた手紙と、解毒薬二本が封筒の中身だった。
リガーナが解毒薬を瓶ごと握り潰して立ち上がった。
「待って。」
サニアも立ち上がりリガーナの前に出た。
「どいてサニア。邪魔よ?」
「何をしにいくの?」
「ふざけた連中を皆殺しに。」
「なら、行かせない。」
「なぜ?」
「この人達は、もう戦う意思がないから。」
「は?」
リガーナは起きた時から不機嫌だった。
手紙を読んで更に不機嫌になり、今、もっと不機嫌になった。
(ひょっとしたら今までで一番…。)
リガーナはサニアを睨みつけ、サニアはリガーナから目を逸らさない。
やがてリガーナは、やれやれといった感じで首を振り、子供に言い聞かせるように、あやすように言った。
「ねえサニア。ご飯が出てきた時、偉そうなおっさんは言ったわ。
安心して食べていいって。結果はどう?ムンタはまだ起きないわ。
今度も嘘よ。私達は嘗められているの。」
「総帥が信じられないのは私も同じ。放っておくのもダメだと思う。
でも皆殺しもダメ。話を、」
「サニア。私達は酷い事をされたの。皆、死んでいてもおかしくないのよ?
まだ危ない橋を渡るの?今狙われてやばいのは、トワよ?
次は、本当に死んじゃうわ。トワより連中を優先するの?
あなたはトワと仲が良いんじゃなかったの?トワがかわいそうよ?
私が行って皆殺しにする事が、一番安全なのよ?」
圧が凄い。サニアが一歩下がった。
「ねえサニア。優しさを勘違いしてはいけないわ。
罪には罰を。
魔王薬だっけ?あれの為に、何人死んだんだと思う?
命があるだけで、連中の所業に泣き寝入りをした人だってきっといるわ。
私達が見逃したとしたら、それはただの腰抜けよ。
皆殺しは妥当なの。」
「皆殺しは妥当じゃない。
手紙を渡してきた人は震えていたし、泣いていた。
人殺しも、人攫いもしてないって。
マジュイメに入った事を後悔しているって、抜けたいって。
そういう人が、まだ他にも、」
「サニアはそいつに騙されているのよ。
死にたくないから、嘘をついたの。
やった、やってないを調べるの?調べられるの?
サニアはあれね。あの偉そうなおっさんが、脅されて仕方なくやったんです~、黒幕がいるんです~、て言ったら信じそうね。」
「そういう話が出るのなら、調べるべきよ。
私達がじゃない、調べられる人に頼むの。ニージュ商会が調べたっていい。
手はあるの。殺せば解決する訳じゃない。
今回だって、私達がもっと上手く動けば、ここまでの犠牲は出なかった。
トワの手だってなくならなかった!
あなたほどの実力者が、最初から、殺さずに制圧を目的に動いていたら!」
「サニアそれは、」
やばいと思って、口を挟んだが遅かった。
リガーナがサニアの腹を蹴った。
うずくまる彼女の髪を引っ張り、床に叩きつける。リガーナが握り潰した解毒薬が水たまりのようになっていて、バシャ、と音がした。
「私の所為だって言うの!?
ムンタが話したいって言ったから大人しくしてたのに!
美味しそうな料理が出でてきて、食べていいって言われたら、嬉しかったのに!お腹が痛くなって辛かったのに!
お腹が痛い中、皆を頑張って助けたのに!」
癇癪を起した子供が、地団駄を踏むように。リガーナはサニアを蹴り続けた。
俺はリガーナの後ろ側に回り込む。
トワの時のように、彼女を引き離す為だ。
「!?」
でも出来なかった。サニアがリガーナの足を掴んだ。
それをそっと床に下ろすと、自身もゆっくり立ち上がる。
瓶の破片で切ったのだろう。顔に傷がある。
そしてその瞳は、闘志が燃えているように、力強いものだった。
パン、と。小気味よい音が響く。
サニアがリガーナに平手打ちをかました。
リガーナは、キョトンとしている。
「さすがに蹴りすぎだから、お返し。
でも自分の力不足を、あなたの所為にした事は悪かったわ。
ごめんなさい。
私達が生きているのはあなたのおかげ。トワを救ってくれてありがとう。
だから今度は私に任せてほしい。
嘗められないようにする。総帥は捕まえる。そしてニージュ商会で調査をする。
私を信じて。お願い。」
サニアが頭を下げた。
リガーナは口を半開きで呆けている。
目をパチパチさせて、そして、部屋の湿度が、一気に高くなる。
「サニア!逃げろ!」
サニアは素早く反応して、窓から飛び降りた。二階だから、怪我はないだろう。
「あはははは!」
リガーナがサニアを追いかけていく。
まさか室内で、しかもトワとロストンが寝ている部屋で、水竜を使うとは思わなかった。
軽く異常がないか確認して、俺も二人を追って地上へ。
石で足場を作り、慎重に降りる。
二人は距離をおいて対峙している。
「任せろと言うからには、任せられる力をみせてくれるのよね?」
「…わかったわ。」
リガーナVSサニア。まるで予想していなかった戦いが、始まる。
モブに厳しい話でした。




