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継承英雄譚、担々  作者: シロクロゲンヤク
第二章 魔王クリガナンの祝賀

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第60話 魔王崇拝~再会~

~前回までのロストン~


ムンタの交渉は上手くいかなかった。ムンタとリガーナは毒で倒れる。

その場を切り抜けた俺達は、逃げた総帥を追いかける。

解毒薬を入手する為に。

「地下も、魔法は使えないと思う。用心しよう。」


 言ったトワも、聞いている俺とサニアも、気づいている。

 俺達は、敵の有利なフィールドに誘い込まれているんだ。


「すま…ない…。」


 ムンタの蚊の鳴くような声がする。


「置いて…行って…構わ…ない…。」

「自分の立場を理解しろ。勇者を置いていけるか。」


 ちょっと前、置いていくき満々だったのに。

 我ながら白々しい。


 地下へ続く階段を降りていく。


 明かりがついていて、暗くない。しかし長い。


 ようやく降りきった所は、ちょっとした広間。

 前方、左右と合計三つの扉がある。


「やばい、この館は!?」


 トワが叫ぶのと、右手の扉が勢いよく開いたのと、そこから黒い影が飛び出してきたのは同時だ。


 サニアが迎撃の為、前に出る。


 サニアの右腕の突きを、影は右腕で弾く。

 影の左手のアッパーをサニアは一歩引いて躱し、顎めがけて右足を蹴り上げる。

 それは首を捻って躱された。


 (サニアと、互角?)


 黒い影を、まじまじと見る。

 人型。サニアよりも俺よりもデカい。ムンタぐらいだろう。


 そして黒い影の正体は、魔力だ。


 水巨人ウォータージャイアントや、水竜アクアドラゴンのような、纏う系の魔法。


 (この館内で魔法、だと?)


 しかも色から察するに闇天法。


 地下は魔法が使える。もしくは闇天法は制限を受けない。


 どちらの仮説も外れだ。

 眼帯を外し、黒炎ブラックファイアーを出そうとしたが出せないから。


 (流石に、リガーナクラスの制御力を持っているとは考えづらい。)


 あんな魔王が、ぽんぽんいてたまるか。


 (魔王…、こいつらは魔王崇拝者…。)


 マジックストックのような抜け道もある。決めつけは、早い。


 何にせよ、あれは、敵の切り札だろう。


 サニアに加勢すべきだ。光射シャインショット、四発分の使い所だ。


 ムンタを下ろす。もはや意識はない。時間もない。


 マジックストックを構え、慎重に見極める。


 サニアの蹴りが当たり、影がよろめいた時、光射シャインショットを撃った。

 直撃し、影が吹き飛ぶ。サニアが追撃しに走る。俺も二発目の準備だ。


 視界の端で、ゆっくりと、左手の扉が開く。


 (総帥!?)


 内側にいる人物と、目が合った。

 彼はにやりと笑い、明かりが消えた。


 (何も、見えない!)


 総帥も、黒い影も、サニア、トワ、ムンタも何処か分からない。


「ぐぅ…。」


 何かが転がっていった。おそらく、攻撃を受けたサニアだ。


 (敵は見えているのか?この暗闇の中で?)


 魔法は、ファイアーは使えないから、光源が出せない。


 (!?)


 殺気を感じて、下がった。

 風切り音と共に、目の前を何かが通り過ぎる。


 冷や汗が流れる。本格的に不味い。


 じりじりと後退する、壁に触れるまで。

 触れたら壁伝いに右へ。階段は、こっちだったはず。


 (まずは地上へ。明かりのある場所にいかないと。)


 攻撃がこない事を祈りながら進む。


 (あった!)


 階段を駆け上がる。転びそうになるが、止まる訳にはいかない。


 四人を置いて、このまま王国まで逃げようという訳ではない。


 あの場に留まっても何も出来ないのだ。

 助ける為にも、足手まといにならない為にも、一度退く事は、悪い手ではない。


 地上の明かりが見えてくる。


 もうひと踏ん張り。心の中で叫びながら、勢いよく飛び出す。


 ゴチンと。頭をぶつけた。


 階段が塞がれたとか、そういうのではない。

 ぶつかったのは、黒ローブの人。つまり敵。


 当たり所が悪かったのか、うずくまって痛がっている。


 こんな雑魚に残り三発の光射シャインショットを使いたくない。

 放置もしたくないし、時間もかけられない。


 (数発殴って昏倒させる。)


 黒ローブの身体を蹴飛ばし仰向けにする。


 馬乗りになり、顔を殴る為、振りかぶり…。

 俺は、固まってしまった。


「…トバ…?」


 前世において、俺の上司であり友達だった奴だ。


「うわああ!」


 トバに突き飛ばされる。あいつはそのまま逃げて行く。


「ぐ…。」


 頭を殴られた。三人の黒ローブに囲まれている。


 暴れたが、組み伏せられる。


 眼帯とマジックストック二つ、俺の持つ魔装具は取られた。

 ロープ状のもので縛られる。


 (なんて、こった…。)


 捕まってしまった。


 三人は地下に行くかどうかで揉めている。


 隙だらけだが、拘束された俺にはどうする事も出来ない。


 やがて、地下へ行く事に決まり、一人がロウソクを持ってくる。

 俺は肩に担がれ運ばれて行く。


 (トワとサニアが、勝っていたりしないだろうか…。)


 俺の希望はそれしかない。

 だが、いくら二人でも、あの状況では厳しいだろう。


 切断された四人の生首と対面。なんて事もあり得る。


 それは、嫌だ。


 地下に到着した。

 すると、明かりがついた。


「!」


 人が、うつ伏せに倒れている。いや、死んでいる。

 身体が半分くらい、崩れているのだ。


 後ろ姿だが、見覚えはない。しかし、直感的に、あの黒い影ではないかと思う。


 広間の中央に総帥がいる。


 総帥の足元にランプ、そして首元にはナイフのような刃物。

 刃物を握っているのはサニアだ。


 (制圧、出来ている!)


「解毒薬を二つお願い。

 それから、その人も開放して。

 私達全員が、館を出れたら、あなた達に、何もしない。」


 俺は捨てられるように、床に転がされた。

 三人組の黒ローブは、両手を上げる。


「震えているね、お嬢さん。

 こういうのは、慣れていないのかね?」


 総帥が口を開く。この状況で、余裕そうなのが不気味だ。


 不気味なのは黒ローブ達もだ。両手を上げたまま動かない。

 誰も、解毒薬を取りにいかない。


「!」


 三人組が両手を前に突き出した。

 尖った先端の石が複数、放たれる。


「う、あ、…。」


 土魔法のストーンが、サニアに突き刺さる。総帥ごとだ。


 倒れた二人は、かなりの出血が見られる。


 一人がサニアを拘束し、二人が総帥に回復魔法ヒールを使う。


 (なぜ、魔法が使えている!?)


 館に入って、何度か魔法を試したが使えなかった。


 黒い影ならともかく、あの三人組が魔法に長けていてたまるか。

 俺を拘束する時、魔法を使っていなかったんだぞ。


 (使える時と、使えない時がある?)


 『やばい、この館は!?』トワは、そう叫んでいた。


 (この館は、魔力抑制装置のON、OFFが可能なのか!?)


 それも、任意で。


 (くそっ!)


 回復魔法ヒールを使えているという事は、今は魔法が使える状態。

 しかし、俺は使えない。ロープの効果だ。あの日、トワを縛ったやつと同じ。


 (トワは、どこだ?)


 あいつがいれば、この状況でもなんとか出来るのに。


 回復魔法ヒールの光が消える。ボーナスタイムが終わる。

 総帥がのろのろと立ち上がった。


「実に惜しい所までいったな。しかし、詰めが甘い。」


 総帥が、サニアを蹴りつけた。小さな呻き声が聞こえる。

 サニアに回復魔法ヒールは使われていない。血が流れ続けている。


 総帥は声を張り上げ、言う。


「さあ、出てきてくれ。人質は四人もいるんだ。

 出てくるまで、一人ずつ殺していく。」


 首を捻ってみると、ムンタとリガーナが寝かされているのが見える。


 総帥はサニアの髪を掴む。


「まずは君からだ。彼女に聞こえるように、大きな声で命乞いを頼むよ。」


 キィ、と。小さな音がして、正面の扉が開く。


 両手を上げながら、トワが出てきた。

 そして三人組に拘束された。


 その後ムンタとリガーナも縛られて。


 12代目勇者パーティーは、怪しげな集団に、全員捕縛されてしまった。


「…お願いだよ…彼女に、回復魔法ヒールを。」


 俯きながらトワが言う。


 総帥が頷く。回復魔法ヒールが使われ、サニアの出血が止まる。


 しかし、彼女はぐったりしたままだ。きちんとした場所で休ませてあげたい。

 が、もちろんそんな事は叶わず。


 俺達は地下の奥の牢屋らしき場所に放り込まれる。


 両手と両足を縛られているから、イモムシみたいな状態で、だ。

 俺とトワとサニアが同じ場所で、ムンタとリガーナは別の場所だ。


「すまない。」


 連中が見えなくなってから、言った。


「何か、謝るような事をしたのかい?」


 トワに覇気がない。


「俺が無様に捕まったりしなかったら、こんな事には…。」


「すぐに合流せず、地下の探索を優先したのは僕だ。

 あの暗闇の中、君が光源を探しに、階段を上がったのは分かった。

 僕も、光源を探したからね。だから、僕の判断ミスだ。」


「…どうして、出てきたんだよ。

 お前なら、もっと、やりようがあったんじゃないか?」


「…僕の設定を忘れたのかい?君が死んだら、僕も死ぬんだよ?

 ウインドは、あの黒い奴に使い切ってしまってね。出ていくしか、なかったのさ。」

「…。」


 トワが地下を探索したのは、安全確保と解毒薬を見つける為だ。


 上には俺が行ったから。俺が光源を見つけて、すぐに戻ってくると信じたから。


 俺は期待に応えられなかった。

 あの時、トバに、気を取られなければ。


「…この後、どうなるかな。」

「…贄にするって、言ってたじゃないか。」


 それで会話は終わり、沈黙が続く。


 (贄、つまりは殺される。死ぬ。)


 なぜか、落ち着いている。

 俺は死にたくないから、この旅をしているのに。


 (実感が湧いていない?)


 また直前になってから、死にたくないとわめくのだろうか俺は。


 それともまだ、ここから助かると思っているのだろうか。


 (ここから助かる方法…。)


 やはり、リガーナの狸寝入り説。


 自嘲する。一体なんなんだ。

 恐れている存在なのに、殺そうとしている存在なのに、こんなにも、あいつの事を、信頼している。




 しばらくして、サニアが起きた。

 事情を説明する。ごめんなさいと言って彼女は泣いた。


 謝罪の相手は俺達か、それとも両親か。


 どちらでもいい。事態が好転する訳でもないのだから。

全員やらかさないと発生しない、レアイベントが発生した。

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