第60話 魔王崇拝~再会~
~前回までのロストン~
ムンタの交渉は上手くいかなかった。ムンタとリガーナは毒で倒れる。
その場を切り抜けた俺達は、逃げた総帥を追いかける。
解毒薬を入手する為に。
「地下も、魔法は使えないと思う。用心しよう。」
言ったトワも、聞いている俺とサニアも、気づいている。
俺達は、敵の有利なフィールドに誘い込まれているんだ。
「すま…ない…。」
ムンタの蚊の鳴くような声がする。
「置いて…行って…構わ…ない…。」
「自分の立場を理解しろ。勇者を置いていけるか。」
ちょっと前、置いていくき満々だったのに。
我ながら白々しい。
地下へ続く階段を降りていく。
明かりがついていて、暗くない。しかし長い。
ようやく降りきった所は、ちょっとした広間。
前方、左右と合計三つの扉がある。
「やばい、この館は!?」
トワが叫ぶのと、右手の扉が勢いよく開いたのと、そこから黒い影が飛び出してきたのは同時だ。
サニアが迎撃の為、前に出る。
サニアの右腕の突きを、影は右腕で弾く。
影の左手のアッパーをサニアは一歩引いて躱し、顎めがけて右足を蹴り上げる。
それは首を捻って躱された。
(サニアと、互角?)
黒い影を、まじまじと見る。
人型。サニアよりも俺よりもデカい。ムンタぐらいだろう。
そして黒い影の正体は、魔力だ。
水巨人や、水竜のような、纏う系の魔法。
(この館内で魔法、だと?)
しかも色から察するに闇天法。
地下は魔法が使える。もしくは闇天法は制限を受けない。
どちらの仮説も外れだ。
眼帯を外し、黒炎を出そうとしたが出せないから。
(流石に、リガーナクラスの制御力を持っているとは考えづらい。)
あんな魔王が、ぽんぽんいてたまるか。
(魔王…、こいつらは魔王崇拝者…。)
マジックストックのような抜け道もある。決めつけは、早い。
何にせよ、あれは、敵の切り札だろう。
サニアに加勢すべきだ。光射、四発分の使い所だ。
ムンタを下ろす。もはや意識はない。時間もない。
マジックストックを構え、慎重に見極める。
サニアの蹴りが当たり、影がよろめいた時、光射を撃った。
直撃し、影が吹き飛ぶ。サニアが追撃しに走る。俺も二発目の準備だ。
視界の端で、ゆっくりと、左手の扉が開く。
(総帥!?)
内側にいる人物と、目が合った。
彼はにやりと笑い、明かりが消えた。
(何も、見えない!)
総帥も、黒い影も、サニア、トワ、ムンタも何処か分からない。
「ぐぅ…。」
何かが転がっていった。おそらく、攻撃を受けたサニアだ。
(敵は見えているのか?この暗闇の中で?)
魔法は、火は使えないから、光源が出せない。
(!?)
殺気を感じて、下がった。
風切り音と共に、目の前を何かが通り過ぎる。
冷や汗が流れる。本格的に不味い。
じりじりと後退する、壁に触れるまで。
触れたら壁伝いに右へ。階段は、こっちだったはず。
(まずは地上へ。明かりのある場所にいかないと。)
攻撃がこない事を祈りながら進む。
(あった!)
階段を駆け上がる。転びそうになるが、止まる訳にはいかない。
四人を置いて、このまま王国まで逃げようという訳ではない。
あの場に留まっても何も出来ないのだ。
助ける為にも、足手まといにならない為にも、一度退く事は、悪い手ではない。
地上の明かりが見えてくる。
もうひと踏ん張り。心の中で叫びながら、勢いよく飛び出す。
ゴチンと。頭をぶつけた。
階段が塞がれたとか、そういうのではない。
ぶつかったのは、黒ローブの人。つまり敵。
当たり所が悪かったのか、うずくまって痛がっている。
こんな雑魚に残り三発の光射を使いたくない。
放置もしたくないし、時間もかけられない。
(数発殴って昏倒させる。)
黒ローブの身体を蹴飛ばし仰向けにする。
馬乗りになり、顔を殴る為、振りかぶり…。
俺は、固まってしまった。
「…トバ…?」
前世において、俺の上司であり友達だった奴だ。
「うわああ!」
トバに突き飛ばされる。あいつはそのまま逃げて行く。
「ぐ…。」
頭を殴られた。三人の黒ローブに囲まれている。
暴れたが、組み伏せられる。
眼帯とマジックストック二つ、俺の持つ魔装具は取られた。
ロープ状のもので縛られる。
(なんて、こった…。)
捕まってしまった。
三人は地下に行くかどうかで揉めている。
隙だらけだが、拘束された俺にはどうする事も出来ない。
やがて、地下へ行く事に決まり、一人がロウソクを持ってくる。
俺は肩に担がれ運ばれて行く。
(トワとサニアが、勝っていたりしないだろうか…。)
俺の希望はそれしかない。
だが、いくら二人でも、あの状況では厳しいだろう。
切断された四人の生首と対面。なんて事もあり得る。
それは、嫌だ。
地下に到着した。
すると、明かりがついた。
「!」
人が、うつ伏せに倒れている。いや、死んでいる。
身体が半分くらい、崩れているのだ。
後ろ姿だが、見覚えはない。しかし、直感的に、あの黒い影ではないかと思う。
広間の中央に総帥がいる。
総帥の足元にランプ、そして首元にはナイフのような刃物。
刃物を握っているのはサニアだ。
(制圧、出来ている!)
「解毒薬を二つお願い。
それから、その人も開放して。
私達全員が、館を出れたら、あなた達に、何もしない。」
俺は捨てられるように、床に転がされた。
三人組の黒ローブは、両手を上げる。
「震えているね、お嬢さん。
こういうのは、慣れていないのかね?」
総帥が口を開く。この状況で、余裕そうなのが不気味だ。
不気味なのは黒ローブ達もだ。両手を上げたまま動かない。
誰も、解毒薬を取りにいかない。
「!」
三人組が両手を前に突き出した。
尖った先端の石が複数、放たれる。
「う、あ、…。」
土魔法の石が、サニアに突き刺さる。総帥ごとだ。
倒れた二人は、かなりの出血が見られる。
一人がサニアを拘束し、二人が総帥に回復魔法を使う。
(なぜ、魔法が使えている!?)
館に入って、何度か魔法を試したが使えなかった。
黒い影ならともかく、あの三人組が魔法に長けていてたまるか。
俺を拘束する時、魔法を使っていなかったんだぞ。
(使える時と、使えない時がある?)
『やばい、この館は!?』トワは、そう叫んでいた。
(この館は、魔力抑制装置のON、OFFが可能なのか!?)
それも、任意で。
(くそっ!)
回復魔法を使えているという事は、今は魔法が使える状態。
しかし、俺は使えない。ロープの効果だ。あの日、トワを縛ったやつと同じ。
(トワは、どこだ?)
あいつがいれば、この状況でもなんとか出来るのに。
回復魔法の光が消える。ボーナスタイムが終わる。
総帥がのろのろと立ち上がった。
「実に惜しい所までいったな。しかし、詰めが甘い。」
総帥が、サニアを蹴りつけた。小さな呻き声が聞こえる。
サニアに回復魔法は使われていない。血が流れ続けている。
総帥は声を張り上げ、言う。
「さあ、出てきてくれ。人質は四人もいるんだ。
出てくるまで、一人ずつ殺していく。」
首を捻ってみると、ムンタとリガーナが寝かされているのが見える。
総帥はサニアの髪を掴む。
「まずは君からだ。彼女に聞こえるように、大きな声で命乞いを頼むよ。」
キィ、と。小さな音がして、正面の扉が開く。
両手を上げながら、トワが出てきた。
そして三人組に拘束された。
その後ムンタとリガーナも縛られて。
12代目勇者パーティーは、怪しげな集団に、全員捕縛されてしまった。
「…お願いだよ…彼女に、回復魔法を。」
俯きながらトワが言う。
総帥が頷く。回復魔法が使われ、サニアの出血が止まる。
しかし、彼女はぐったりしたままだ。きちんとした場所で休ませてあげたい。
が、もちろんそんな事は叶わず。
俺達は地下の奥の牢屋らしき場所に放り込まれる。
両手と両足を縛られているから、イモムシみたいな状態で、だ。
俺とトワとサニアが同じ場所で、ムンタとリガーナは別の場所だ。
「すまない。」
連中が見えなくなってから、言った。
「何か、謝るような事をしたのかい?」
トワに覇気がない。
「俺が無様に捕まったりしなかったら、こんな事には…。」
「すぐに合流せず、地下の探索を優先したのは僕だ。
あの暗闇の中、君が光源を探しに、階段を上がったのは分かった。
僕も、光源を探したからね。だから、僕の判断ミスだ。」
「…どうして、出てきたんだよ。
お前なら、もっと、やりようがあったんじゃないか?」
「…僕の設定を忘れたのかい?君が死んだら、僕も死ぬんだよ?
風は、あの黒い奴に使い切ってしまってね。出ていくしか、なかったのさ。」
「…。」
トワが地下を探索したのは、安全確保と解毒薬を見つける為だ。
上には俺が行ったから。俺が光源を見つけて、すぐに戻ってくると信じたから。
俺は期待に応えられなかった。
あの時、トバに、気を取られなければ。
「…この後、どうなるかな。」
「…贄にするって、言ってたじゃないか。」
それで会話は終わり、沈黙が続く。
(贄、つまりは殺される。死ぬ。)
なぜか、落ち着いている。
俺は死にたくないから、この旅をしているのに。
(実感が湧いていない?)
また直前になってから、死にたくないとわめくのだろうか俺は。
それともまだ、ここから助かると思っているのだろうか。
(ここから助かる方法…。)
やはり、リガーナの狸寝入り説。
自嘲する。一体なんなんだ。
恐れている存在なのに、殺そうとしている存在なのに、こんなにも、あいつの事を、信頼している。
しばらくして、サニアが起きた。
事情を説明する。ごめんなさいと言って彼女は泣いた。
謝罪の相手は俺達か、それとも両親か。
どちらでもいい。事態が好転する訳でもないのだから。
全員やらかさないと発生しない、レアイベントが発生した。




