第59話 魔王崇拝~交渉~
~前回までのロストン~
アッブドーメン共和国にやってきた。マジュイメという集団に襲われた。
ムンタは、この組織と話がしたいらしい。
向こうも、話し合いに応じてくれた。罠だと思うが、指定場所にいく。
館の前まで来た俺達は、黒いローブの奴に案内されて中へ入る。
そのままついて行き、二階へ。
会議室みたいに、広い部屋まで来た。
促されるままイスに座る。デカいテーブルを前に俺達は横一列だ。
ちなみにムンタ、俺、トワ、サニア、リガーナの順。
俺達が入ってきた、反対側のドアが開き、男が入って来る。
顔出しのローブ姿。白髪で瘦せ型長身。
深く刻まれたシワが印象的な、50歳くらいの厳つい奴だ。
「マジュイメ総帥、レンバトだ。ようこそ我が館へ。」
ムンタの前に座った男は、不愛想に言った。
ようこそ、とは思えない偉そうな態度だ。まあ、ここでは偉いんだが。
「12代目勇者ムンタです。お招きいただきありがとうございます。
早速ですが、総帥に、伝えたい事があります。」
どうやって攻撃を止めさせるつもりだろう?
いっそのことリガーナがここでお手玉すれば、敵はビビって逃げるんじゃないか?
「総帥、いや、レンバト博士。王国を代表して、謝罪します。
12年前、あなたの行動を全て肯定する事は出来ません。
しかし、言葉に耳を傾けず、追放した王国にも落ち度があります。
申し訳ありませんでした。」
ムンタはテーブルに頭をつける勢いでお辞儀をした。
(知らない話が出たな。王国の闇の話?)
対岸の向こう側からなら、菓子でもつまみながら聞きたい話ではある。
でも正面の話だから緊張が走る。雲行きの怪しさを感じる。
「王国は変わりました。
博士の功績が、認められ始めています。
だからここで止まって下さい。罪を広げないで下さい。
条件はありますが、博士を王国に戻せる計画があります。
博士の力が、王国には必要なのです。」
(待ってくれ。何かとんでもない片棒を担がれそうになっていないか?)
犯罪者を王国に連れ戻して、働かせる?問題が無い訳がない。
仮にリガーナを倒せて、無事帰れた後に、王国のいざこざに巻き込まれたくないぞ?
「君は何を言っているんだ?我々がしてきた事を知らないのか?
王国になど、戻れる訳がないし、出来たとしても、戻りたくはない。」
(いいぞ、断ってくれ。頑張れ総帥。)
「伝承の魔王カーツアの再臨が、あなた方の目的でしたね?
伝承で、かの魔王は降臨と共に大陸を裂き、周辺の魂を喰らいつくすと言われています。
その浄化という名前の破壊の後、再生が始まると続きますね?
あなた方は、やり直したいんだ。新しい世界で。」
(…。)
新しい世界でやり直す。それは、俺の事ではないか。
「博士なら分かっているはずです。そんなに上手く行くはずがない。
問題点を、私がいちいち上げるまでもなく。」
「それでも希望は必要なのだよ。
マジュイメに集まったのは、そういう人達だ。
人数を見れば分かるだろう?いやな世の中だねえ、まったく。」
「新しい世界でなくとも、この世界でやり直せます。」
「…私だけでなく、マジュイメごと王国に?正気かい、君は?」
「女王より、魔王討伐の暁には望みを叶えると言われています。
限度はあるでしょうが、それも、交渉次第だと思います。
魔王による救済よりは、現実的だと考えますが?」
「…我々の業は深い。知れば納得できる者など、一人もおるまいよ。」
「一歩踏み出す、という事が大事なのです。
未来の為に。
先駆けとして、我々がレーグの魔王を倒します。
一先ず、その結果を待ってみて、判断されてみてはいかがでしょう?」
総帥は口を閉じ、考えるように目も閉じた。
(上手くいく、のか?これは?)
王国と総帥の関係も、マジュイメの目的も知らないし、ムンタの真意も分からない。
ただ状況は分かる。
ムンタの提案を、総帥が承諾すれば俺達はこのまま国を出て、拒否すれば戦闘。
ポケットの中のマジックストックに手が触れる。
「分かりました。勇者殿の提案に乗らせてもらいましょう。」
目を開けた総帥は、敬語で答えて、呼び鈴を鳴らした。
リーン、リーンと鈴の音が響く。
「レーグの魔王は我らにとっても目障りな相手です。
我々は、勇者殿が本懐を果たされるのを待つ事とし、それまで危害を加えないと約束しましょう。」
「おお、レンバト博士。ありがとうございます。
討伐後にまた会える事を、楽しみにしております。」
ムンタと総帥は立ち上がって握手をした。
(まあ、本人達が納得したなら…。)
よく知らない人間が口出ししてもいい事はないだろう。
討伐後の事は討伐後に考えればいい。
(出発の準備をしよう。一度廃村に戻って…。)
そんな事を考えていたら、ドアが開いた。
なんとも美味しそうな料理が運ばれてきたではないか。
「博士、これは?」
「話が纏まった祝いです。どうぞお召し上がりください。」
初日の夜に、社長にご馳走してもらったやつほどではないが、十分に豪華だ。
「実は、勇者殿がふざけた事を言い出したら、毒でも盛ってやろうと準備させたものです。
しかし思いのほか、よい話が出来ました。安心して食べてください。」
「あ、ああ博士。かたじけない。ではいただきますね。」
トワに腕を掴まれた。サニアの腕も掴んでいるようだ。
(食べるな、か。確かに危ない橋を渡る事もないか。)
わざわざ口で否定したが、毒が入っていない証拠にならない。
総帥にその気がなくても、暴走する奴がいるかもしれない。
「おいし~♪」
リガーナは、放っておこう。
ムンタに耳打ちする。食べずに出ようと。
折角いい雰囲気になったのに、出された料理を食べないのは、悪い印象を与えるかもしれない。
討伐後の話し合いこそが本番であるなら、信頼の証として、完食したほうがプラスになるかもしれない。
とはいえ、失礼のない断り方だってある。
実際、朝食は食べたし、こいつらの妨害で足止めされ、予定より遅れている。
次の話し合いを早く行う為にも、魔王討伐を急ぐというのはおかしくないだろう。
このあたりを、上手く言えば十分だ。
なんなら包んでもらったっていい。食べる食べないは別だ。
「ムンタ。」
(敵地で、魔法が使えないんだぞ。当然、安全策を取るべきだ。)
ムンタは俺に、優しくほほ笑んだ。
そして、一番デカい骨付き肉をとり、豪快にかぶりつく。
見事な食いっぷりだ。美味しそうに食べなさる。
トワの目が怖い。「なんで食べるかな」とご立腹だ。
もう後は本当に毒が入っていない事を祈るのみ。
俺とトワは、食べるムンタの様子を凝視した。
サニアはムンタと、リガーナを心配そうに見ている。
もちろん三人は食事に手をつけない。
不自然と思われようが構わない。
ムンタは肉を完食した。
「博士、ご馳走様でした。とても美味しかったです。
他の者はすみません。今日も一戦あるかと思い、しっかり朝食を食べてしまったのです。
ですが、」
バタンと。聞きなれない音がした。
音のした方を振り向く。
思考が停止した。
リガーナが倒れている。
机に突っ伏すような感じで。
(あの、リガーナが!?)
どうやっても倒せそうもないから、こんなに悩んでいるというのに。
サニアがリガーナの名を叫んでいる。
ピクリとも動かない。
「ごふっ…。」
ムンタを見た。
血を吐いていた。
そしてリガーナと同じように机に突っ伏した。
ガシャンと、いくつかの食器がムンタに押されて、床に落ちて割れた。
(毒…。)
だろう。食べていた二人が倒れたのだから。
直球すぎて逆にビビるが、動揺は一瞬だ。
そして総帥を睨みつける。彼は涼しい顔で食事を続けている。
「すまないね。呼び鈴を間違えたようだ。」
バンっとドアが蹴られるように開けられて、剣や斧を構えた黒ローブの人物が入って来る。
(…10人か。)
あっという間に囲まれた。
「理由を聞いても?」
トワが不機嫌オーラを全開にして聞いた。
「何、君達と組んでもよいかの簡単なテストだよ。
この調子では駄目なようだ。君達は魔王に殺されて終わる。
なら、大人しく我らが魔王の贄になってくれ。」
「やだね。」
突風が吹き荒れて、部屋はめちゃくちゃになる。
俺はムンタを背負う。トワはリガーナを背負った。
サニアは、いきなりの事態に混乱した黒ローブ達を倒していく。
風魔法、風の効果がきれる頃には、10人全員倒れていた。
しかし総帥には逃げられた。おそらく奴が最初に出てきたドアから。
「想定より悪い状況だ。魔法が使えないのは不味い。一度外に出よう!」
悲鳴みたいな声になってしまった。
リガーナがやられた事が、ショックだったのだ。
「待って、解毒薬は?治癒魔法が使えるのはリガーナだけよ。
解毒薬がないと、二人が死んじゃう!」
サニアの言葉を聞いて、俺に電流が走った。
(死ぬ?リガーナが?こんな簡単に?)
トワに背負われたリガーナは、動いていない。
本当に毒で死ぬのならば、それは、遷宮一遇のチャンスだ。
このまま皆で外に出る。
そうするとリガーナとムンタが死ぬ。
ムンタは気の毒だが、食べるなと言ったのに食べたのは、あいつだ。
勇者も死んだ事だし、王国へ帰ろう。
俺はニージュ商会で働く。トワも誘おうか。
二人でサニアの下についてもいい。
俺にとっては、ハッピーエンドだ。
「総帥を追うしかないね。サニア、先頭を頼むよ。
ロストン急いで、僕は最後尾からいく。」
「…ああ、分かった。」
二人はムンタを見捨てないだろう。
二人の活躍で解毒薬が手に入ってしまえば、リガーナが目覚める。
つまり俺だけ逃げても意味がない。
そもそも本当にリガーナは死にそうなのか?
あいつは治癒魔法が使えるから、実はとっくに治していて、狸寝入りなんじゃないか?
右往左往する俺達を、楽しんでいるんじゃないか?
スッキリしないまま、サニアについていく。
ほぼ一本道の廊下を進み、階段を降り、そして、地下への階段を見つけた。
『魔王崇拝』のエピソードは、勇者パーティーVSマジュイメの話。
色々話はしてますが、簡単にまとめると、
マジュイメは、国を荒らす悪い集団で、総帥が前に出てくるタイプの悪の組織。




