第58話 魔王崇拝~帰郷~
~前回までのロストン~
勇者パーティーは、魔王討伐の為に、旅立った!
『なぜだ!なぜ死ななければならない!』
胸倉を掴まれる。
『俺はまだ、やらなきゃならない事があるのに!』
いつも穏やかな人だった。
表情を変えない人だった。
そんな人が、今、目の前で、声を荒げて喚き散らす。
『いやだ!死にたくない!死にたくない!』
大人がやってきて、彼を取り押さえた。
俺は茫然と立ち尽くす事しかできない。
意味が分からない。
何が起きているのか分からない。
ただ、一つだけ、分かった事がある。
死ぬという事は、あの彼が取り乱すほど、恐ろしいという事。
その夜、彼は亡くなった。
「お疲れ様ロストン。交代に来たよ。」
その声で目を開け、時計を見た。
数分とはいえ、うたた寝していた。見張り中だと言うのに。
幸い敵に動きはなさそうだが、こんな状況で寝てしまうほど、疲れが溜まっていたのか、俺は。
急いで立ち上がる。姿勢を正し、答える。
「お疲れ様ですサニアさん。こちらは異常ありません。
まだ交代の時間まで八分ありますので、こんな所ですが、おくつろぎになってお待ちください。」
「ロストンは真面目だね。隣いいかな?一緒に座ろう。」
「かしこまりました。」
真夜中、肌寒く、綺麗な星が見える高台で、美女と並んで座る。
なんともロマンチックなシーンじゃないか。
眼下に見える明かりが、こちらの命を狙う敵のものでなければ。
魔王の居城があるレーグ半島の天落峡谷に行くには、アッブドーメン共和国とバクー王国を越えないといけない。
魔装具を買う為、バクー王国には用事があるが、アッブドーメンに用はない。
前世でこの国は、ニージュ商会の本社があり、俺が住んでいた町もある。
大陸西側から見ると、東大陸の玄関だ。
南東のウーイング王国、北のバクー王国に、その先のテイール共和国。
陸路でこの三国に行くには、アッブドーメンを通る必要がある。
流通の中継地として、賑わっていたものだ。
しかし今世は、そうではない。
とにかく治安が悪いのだ。
暴力が正義な無法地帯と言っても過言ではない。
国外逃亡した犯罪者は、この地で盗賊の職につくと揶揄されてもいる。
流通は海路が主となり、港を持たない王国の孤立が進む要因の一つだ。
治安最悪の最大の原因は、怪しげな集団の本拠地の存在だ。
その集団の名は、マジュイメ。構成員は魔王崇拝者達。
前世で12代目勇者パーティーに壊滅された連中。
今世の12代目勇者パーティーは俺達だから、壊滅されることなく、寧ろ大きくなり、結果この国はこんな有様。
だからこそ、速やかに通り抜けたい場所だった。
しかし、当然のように襲撃される。このマジュイメという集団に。
リガーナの手引きを疑ったが、退屈そうだったから違うだろう。
魔王崇拝者達だから、勇者パーティーを狙うのは分かる。
襲撃の想定はしていた。
想定外は、敵の数と、しつこさと、この勇者パーティーの、勇者であるムンタの方針。
『マジュイメのトップと話がしたい。だから、積極的な攻撃は避けてくれ。』
サニアが賛成して、トワが反対して、リガーナが欠伸をした。
正直な所、俺はどちらでも構わない。
マジュイメは、ロストンの故郷をめちゃくちゃにしている。
腹がたたない事もないが、今の俺にとっては他人事。
というより、他に優先すべき事がある。
生き残る為、リガーナに対抗できる力を、魔装具を入手し、倒す為の策を練る。
この国の為だとか、悪を野放しに出来ないとか、そういう正義感は元よりない。
マジュイメは周辺国やそこに住む人々にとっては脅威だ。
でもこの勇者パーティー、リガーナにとっては雑魚だ。
戦いを避けて進もうが、全滅させて進もうが、どっちでもいいから、早く進みたい。
しかし、だ。
ここで俺が反対して、二対二になり、リガーナの意見で決まる事は怖かった。
決定権をあいつに渡したら、何か、企むんじゃないかと警戒したのだ。
どうすれば自分が楽しいか。そんな事を考えさせてはいけない。
だから俺は賛成した。
しかし、当たり前だが、交渉はなかなか上手くいかない。
俺達は追い込まれ、この廃村に立てこもった。
膠着状態になって丸二日。
こうしてサニアと並んで座っている。
「ロストンはどうして賛成してくれたの?」
「…敵の総戦力は分かりません。不必要に恨みを買うリスクは避けるべきです。
話し合いですめば、それが一番いいと思いました。」
嘘だ。リガーナ一人で、全滅させられると思っている。
でもその後、暴れ足りないと思った彼女が、マジュイメ残党の振りをして、俺達に襲い掛かってくる展開はあるかもしれないと思っている。
「サニアさんは、どうして賛成したんですか?」
怖い考えを振り払うように質問する。
サニアは、少し考えてから口を開けた。
「魔物っていう脅威がある中で、人同士で戦いたくないって思ったからかな。
言葉が通じる訳だし、分かり合えないのは、寂しいよ。」
これまでに受けた襲撃を思い出す。
躊躇いはなく、手慣れている。確実に、命を取りにきていた攻撃だ。
おそらく、行商人やら旅人を何人も殺っている。
そんな連中と分かり合えると、本気で思っているのか?
サニアも交戦していたのに?
「立派な考えだと思います。
その優しさが、彼らにも伝わるとよいのですが。」
サニアが困ったように笑う。
ちょっと白々し過ぎただろうか。
「ねえロストン。私にもタメ口でいいよ?」
「…お心遣いは感謝しますが、サニアさんは社長の娘さんで、上司でもありますから。
このままでお願いしますよ。」
「今は同じ目的をもつ仲間でしょう?私にだけ敬語だから、寂しいよ?」
サニアの様子をみる。社交辞令というよりは、本音っぽいか?
意固地になる事でもないし、へそを曲げられても、つまらない。
「それでは、失礼して。
ごほん。
サニア、見張りの交代を頼む。」
「任せてよ。」
笑顔のサニアに手を振って、寝床へ向かう。
『同じ目的をもつ仲間』。サニアの言葉から逃げるように、速足で。
「やったぞ皆!話し合いに、応じてくれるそうだ。」
翌朝、朝食を頬張る俺達の元に、偵察中のムンタが駆け込んできた。
机を持ってきて、地図を広げ、指さしながら続ける。
「今、俺達がいる場所が、この廃村だ。それを、こう進んで、ここ。
マジュイメの所有する館があるらしい。この場所で、話し合いだ。」
「…確かに、連中引き上げていったね。」
トワが言う。魔法で確認したのだろう。
「文句は言わないよ。決まった事だし。
館の中には、ムンタとロストンとリガーナで行ってきなよ。
僕とサニアは周辺を見張っておく。」
「いや、話し合いの条件は、五人全員でいく事なんだ。」
「ごめん、前言撤回するよ。やめよう。露骨な罠過ぎる。」
「ん、トワ、怖いの?どのあたりが?教えてよ。」
リガーナが無邪気に聞くと、トワは物凄く苦々しい顔をして黙った。
そうして俺達は、指定された館に向かう。
その間トワは、ずっとリガーナに絡まれていた。
何度かトワから、助けを求める視線を感じたが、この件に関して俺は無力だ。
すまないトワ。
「どのあたりが怖いか、答えるよ。」
館が近づいてきた時、トワが口を開けた。
「魔力抑制装置って聞いた事あるかな?
その装置の影響下では、魔力の性質が変わる。
簡単にいうと、魔力の制御が難しくなって、魔法が使えなくなる。
あの館の、内部の音が拾えない。
あの館に対して魔法が上手く使えない。調子を狂わされている感覚がある。
おそらく、あの館そのものが巨大な魔力抑制装置だ。
建物内に入ったら魔法は使えない。魔法が使えなければ、僕は無力だ。
それが、怖い。」
魔法が使えない。敵も味方も。
その状況では、数が多い相手が有利ではないか?
トワのいう通り、不味いのでは?
「魔力抑制装置って、これ?」
リガーナがポケットから輪っかの形をした物を取り出して見せてくる。
トワがビクっとなって一歩下がった。
リガーナがリング状の物を持つ状況がトラウマになってそうだ。かわいそうに。
リガーナが、それをトワに放り投げる。
引きつりながらキャッチして、まじまじと見る。
そしてトワは、リガーナに手渡しで返した。
「これで間違いないよ。でも、何のために持ち歩いているの?」
「~♪」
口笛を吹いて誤魔化す彼女は、答える気はなさそうだ。
しかもリガーナは、ポケットから同じものをもう一つだして、自分の両腕に、一つずつ着けた。
「な…。」
声を出したのはトワだったが、俺達全員同じ感想だろう。
リガーナは、魔力抑制装置を二つも着けた状態で、水魔法の水球を出した。
しかも複数、全て同じ掌サイズで、所謂お手玉を始める。
しばらくやった後、指を鳴らすと、全ての玉が消え、リガーナは、呆気にとられた俺達に向けて、大げさにお辞儀をした。
まるで大道芸人のように。
「確かに魔力の制御は難しいけど、魔法が使えないだなんて大げさよ。
まったく、トワは心配性ね。」
腕輪を外しながら、ケラケラとリガーナが笑う。
天然を装っているつもりだろうか?
明らかに知っていて煽っているだろ。
トワは両手をあげて、降参のジェスチャーだ。
「俺とサニア君は、体術にも自信がある。
いざという時は、トワ君とロストン君は、俺達が守る。」
ムンタが胸を叩く。どことなく表情が固い。
彼もリガーナに引いている。
館に向けて再び歩きだした。
リガーナは最後尾で、ご機嫌そうについてくる。
トワが、俺に近づいてきた。
マジックストックを一つ渡してくる。
「マジックストック、一つ持っているよね?
ストックした魔法は館内でも使えるはずだよ。今の内に二つとも何か入れておいて。」
「トワは?」
「僕も二つ持っている。強めの風が四回使える。
話がこじれた場合は戦闘になる。
風歩で五人を移動させるのは無理だから、逃げるにしろ、制圧は必要になる。
水射か、光射あたりがいいと思う。
…リガーナは信用できないだろ?」
「了解。」
リガーナがさぼったとしても、この面子で負ける事はないだろう。
でも、足手まといは気分がよくない。
それぞれに、光射を二発分ストックした。これで四発撃てる。
ストックした魔法が消えるまで一時間。
それまでに戦闘になったら、容赦はしない。
第一章だと、第10話~第22話までいた、アッブドーメン共和国。
向こうは滞在も目的でしたが、今回、そんな予定はないので、サクサク。…予定。




