第57話 勇者パーティー~幻想~
~前回までのロストン~
骸骨竜はリガーナに倒された。
俺はトワに魔法を教わる。土魔法が使えるようになった。
トワと色々話をした。少しは仲良くなれたと思う。
夜。着替えた俺は、ある建物に入る。
初日に訪れた賭場だ。
この一週間、通い詰めて、すっかり顔なじみ。
勝ったり負けたりを繰り返し、仕込みは万全だ。
「知ってる人も多いと思うけど、俺、明日から旅に出ます!
旅は何かと入用ですからね。お金が足りないんですよ。
だから今日は、みんなから金を巻き上げようと思います!」
「やれるもんなら、やってみろー!」
「こっちが巻き上げて、旅に出れなくしてやるぜー!」
ご機嫌な野次が飛ぶ。
いつも緩いが、今日は一段と緩い。既に酒が入っているかもしれない。
掛け金は高くない。あくまで遊びの範疇だ。
しかし人気の賭場なのだ。雰囲気がいいからかもしれない。
ここにいる全員に勝てば、かなりの儲けになるだろう。
最初は普通に。徐々にレートとボルテージを上げていく。
最高潮の瞬間に、仕掛ける。
「埒が明かない!ここはもう、一発勝負で全部決めよう!」
みんなノッてくる。こういうのが、好きな連中なのだ。
(悪い、イカサマするわ。最後だから、許してくれ。)
トワが今、この建物の上にいる。あいつがサイコロの目を変える。
音制御と、風の二つの魔法で。
緩い賭場だからこそ出来る技。シンプルしかし巧みの技術が必要な業。
トワなら、きっとやり遂げる。
「勝負だ!」
作戦を話した時、彼女は嫌そうな顔をした。
別れる時、彼女は文句を言っていた。
呆れられたかもしれない。裏切られるかもしれない。
しかし、賽は投げられた。
そして。
両手を上に突き出しガッツポーズ。俺は勝利の雄叫びをあげた。
「それで、どうしてこんな事に?」
目の前に座るトワは怖い。
その怒りは尤もだ。彼女のおかげで勝ったのだから。
「仕方がなかった。これしかないと思った。
…約束を、思い出しちまったのさ。」
なんとかいい話にならないかと、カッコつけてみたが、滑ったようだ。
「ごめんなさい。」
「今更どうにもならないよ。
…ねえ、僕も飲んでいいんだよね?」
「はい。もちろんです。」
酒に厳しい事で有名な国があるが、王国及び近隣国に制限する法律はない。
水魔法使いはアルコールに強いんだ。
「他のみんなは?」
「声はかけていません。ムンタは病院ですし、サニアは飲めません。
リガーナは行方不明です。」
「OK、分かったよ。」
トワが立ち上がる。お酒を取りにいったのだろう。
(ふぅ…。)
一息つけた。
後ろの方から、ドッと笑い声が響いた。
後悔はない。この酒場を俺の奢りで貸し切った事を。
イカサマで勝利した俺は、一列にならんだ皆から、金を徴収していった。
「いい勝負だったぜ、兄弟。」
「最後は決めるんだよな~カッケーよ。」
「お前が主人公だ。胸を張れ。」
「元気で。成功を祈ってる。」
「いつまでも待ってる。お前の帰る場所はここだ。」
「実はさ、みんなで考えていたんだ。
最後だし、何か出来ねえかなって。もしお前が大負けしたら、その金でパーッと送別会でもやろうかって。
しっかり勝つんだからな。流石だぜ。」
一人一人が、金と共に言葉をくれる。
自分を負かした相手なのに、恨み言は一つもない。
(違うんだ。俺は、イカサマで…。)
この旅で死ぬかもしれない。最後の別れになるかもしれない。
最後の別れが、これでいいのか?
家族のように暖かい連中なんだぞ?
「送別会、開いてくれよ。」
迷いなど、あるものか。
「この金で、盛大にな!」
集めた金を放り投げた。
「ひゅー、それでこそ兄弟だ!」
「奢る約束、まだだったからな!」
それから皆で腕を組みながら酒場に行って、貸し切って、飲んでいた所に、不審に思ったトワがやって来たという訳だ。
(…。)
もう大分時間が経ったから、流れ解散状態だ。
ひょっとしたらこれは、俺が大勝ちした場合の、連中のプラン通りなのかもしれない。
構わないさ。こんなに気持ちよく酒が飲めたんだ。
魔装具を買うあては、これだけじゃない。
仏頂面のトワが隣に座る。
(中々大きなジョッキじゃないか。)
俺のジョッキを近づけて乾杯した。
「今夜はこのまま飲み明かそうぜ。」
「僕の記憶だと、明日出発なんだけど。」
「奇遇だな、俺の記憶でも明日出発だ。」
「僕は強いけど、ロストンは?」
「やってみれば、分かるぜ?」
それから飲み比べ大会が始まって。
最終的に、トワVS酒場にいる全員となり、トワが優勝した。
薄れゆく意識の中で、あいつのドヤ顔を見た。
年相応かは知らないが、今までで一番いい笑顔だ。
こうして俺の第二の人生、最高の夜が過ぎていく。
そして第二の人生、最低の朝を迎えた。
頭痛、吐き気、胸やけ。腹の調子がよろしくない。
俺は酒に強いと思っていた。
井の中の蛙だと思い知らされた。
トワはサニアと何かを話している。
(ケロっとしてやがる。やはり化け物…。)
俺達は今、王国西門前の小屋にいる。
ムンタとリガーナが揃い次第、出発だ。
「ロストン?辛そうね。」
叫びそうになってしまった。
後ろからリガーナ。これほど怖いものはない。
…骸骨竜の時は、助かったが。
「…あ、ああ。飲み過ぎたんだ。…緊張してさ。」
飲み会に呼ばれなかったと知ったら、機嫌を損ねるかもしれない。
リガーナの表情を伺う。
何とも言えない。真顔にも見えるし、不思議そうな顔にも見え…。
「えい!」
「ごふっ…。」
腹を殴られた。バレたのか、嘘をついた事が?
「…え?」
殴られた痛みが消えた。
更には、頭痛、吐き気、胸やけも感じない。腹の調子も戻っている。
「まさか、治癒魔法?」
回復魔法が外傷、殴られたり斬られたりしたダメージを回復する魔法なら、治癒魔法は風邪とか病気、果ては疲れや悩みを治癒する魔法と言われている。
水魔法とも、水と土の混合魔法とも言われていて、めちゃくちゃ難しい魔法で有名だ。
回復魔法の十倍難しい。全くの別物。医者が使う魔法。そんな評価だった気がする。
「えっへん。」
「…ありがとう。」
胸を張るリガーナにお礼を言う。
リガーナの口角が徐々に下がっていく。
(不満?)
俺の態度が気に入らないのか?何かを求めている?お礼以外の何か?
お腹が痛くなってくる。もう一度、治癒魔法をしてほしい。
俺は、恐る恐る自分の手をリガーナの頭に乗せた。
「流石、リガーナだ。治癒魔法が使えるなんて、凄い。」
頭を軽く撫でる。髪型が、変わらないように注意して。
「ん~♪」
笑顔になったリガーナが去っていった。
賭けだった。バカにしてんのかと怒られて、腕が消し飛ぶくらいは覚悟した。
あまりにも子供っぽい態度だったから、もしやと思ったが、正解だったらしい。
(生きてるって、すばらしい…。)
脱力してイスに沈む。このまま気持ちよく眠れそうだ。
「みんな、お待たせ!」
ムンタがやってきた。
白い、ジャージみたいな格好だ。
みたいなだけで、ジャージではない。
炎の意匠がされているし、いい生地を使っているはずだ。
関節部には布が巻いてある。きっと魔法効果のある布だろう。
防御力はないだろうが、動きやすさ重視といった所か。
(…。)
トワは魔王指定の例の格好だ。黒のロングコートのやつ。
リガーナもいつものやつだ。フリル多めの黒い服。
サニアは、まさかの初日と同じ格好だ。
白基調のフリルのやつ。
いや、分かるよ。たぶん魔法防御とかが高いんだろ?
でもよくミニスカートで納得したな。
一応、最低限の防具っぽいのは付けているみたいだが、これからデートですって言われたほうが、納得だ。
なんか、ニージュ商会の闇を見ている気がする。
(まさかこんな事になるなんて。)
眼帯、バンダナ、胸当て、小手、脛あて、マント、ポケット付きベルト。
それが俺の格好。
戦いにいくんだ。これでも軽装な方だろ?
しかし勇者パーティーで並ぶと、一人だけ場違い感が凄い。恥ずかしい。
胸当て外そうかと思ったが、怖くて外せない。
(俺間違ってないよな?おかしいのはこいつらだよな?)
混乱する俺をよそに仲間達は準備を始めた。
と言っても、外の荷車に荷物を載せるだけだが。
俺の荷物は一つの袋にまとめてあるから、すぐ終わる。
(それにしても、何とも不思議な荷車だ。)
魔力を動力にして動く荷車の魔装具。いや、魔道具と言っていたか?
個人的には、どっちでもいい。
とりあえず名前は、魔走車。
王国が最近完成させた、試作機だ。
この王国からの餞別品に、ニージュ商会の餞別品を載せていく。
サニアとリガーナが、運ぶ前に箱を開けて、これはなんだと騒ぐから、中々進まない。
いつの間にか、トワもその輪に加わっているし。
ムンタは腕を組んで、微笑ましそうに笑っている。
こんな状況で、一人まじめに運ぶ気にはならない。
休憩がてら腰を下ろす。
そして姦しい女子三人の姿を眺める。
(サニアはともかく、トワは何でリガーナと楽しそうに話せるんだ?)
不思議だ。
不思議だが、悪くない。
少なくともこの瞬間は、三人とも仲がよさそうなのだ。
ふと、考えてしまう。
リガーナは、隣の二人の死を望んでいる。
正確には、俺がサニアとトワを殺す、その時の、それぞれの反応を楽しみにしている。
でも、もしもリガーナが二人と親密な関係になったら?
死んでほしくないと思えるようになったら?
殺すその一瞬の楽しみではなく、生かしてこれからも楽しみたいと考えたならば?
俺の地獄は、終わるのではないだろうか?
(そんな単純なら、苦労はないさ。)
無邪気に見えても、魔王なんだよ。
「ほら、急がないと日が暮れちゃうぞ。」
ムンタが手を叩いた。
準備が再開する。
討伐の旅へ、出る為に。
ロストン、トワ、サニア、ムンタ、リガーナ。
五人の旅が始まる。
勇者パーティーの目的は、魔王の討伐。
ロストンの目的は、第50話参照。




