第55話 勇者パーティー~骸骨竜~
~前回までのロストン~
警報が鳴り響いたので、トワと共に南西門へ。
どうやら骸骨竜という化け物が、こっちに向かって来てるらしい。
しかも、孤児達とシスターが近くにいるって?俺とムンタとサニアは救出に向かった。
土地勘のあるムンタを先頭に俺達は進む。
今度も俺は、女の子にしがみついているだけ。
効率を考えれば、仕方のない事だ。
暗く、足場の悪い山中の道だが、なかなかのスピード。
馬が凄いのか、二人の乗馬スキルが高いのか。
俺も御者経験はあるが、こんなスピードは出したことがない。
まあ、荷運びの馬車と比べるのも違うか。
そんな事を考えている間に、それっぽい家のシルエットが見える。
同時に空が光った。
稲光ではない。あれは、魔法の光だ。
「味方です!安心してください!救助に来ました!」
ムンタが馬から降りる。続いて、サニアと俺も降りた。
シスターらしき人が見えたから、ムンタとサニアは近づいていく。
俺は、空を見た。
馬から降りた今でも、地面に揺れを感じる。爆発音も聞こえる。
(トワが、戦っている。きっと、一人で。)
勝負になっているのか?
化け物みたいな奴だから、化け物とも戦えているのか?
(俺は、勝負になるだろうか?)
実感が湧いてくる。怖くなってくる。逃げたくなってくる。
(腹をくくれ、逃げられないんだ。)
震える手を押さえつける。歯が鳴らないように食いしばる。
そしてムンタがやってきた。
「シスターや子供達はサニア君に任せた。後、馬も。
ここからは魔法で行く。ロストン君、掴まってくれ。」
「任せてくれ、俺は人に掴まるのが得意なんだ。」
「よし、行くぞ!」
ムンタが水に包まれる。掴んでいる俺ごと。
やがてその水は、大きく膨らみ、人の形になっていく。
水魔法、水巨人。
息は出来るが、限りがある。
消費魔力も大きいはずだから、どちらにしろ長くは続かない。
視線が高くなった事で、それの姿が目に入る。
骸骨竜。
まだ距離があるが、なんという威圧感。
(周りの木の大きさからして、城壁くらいというのは間違いない。)
「いくぞおおぉぉ!!」
(このまま突っ込むんだな!ムンタ!)
大きさなら、この水の巨人も負けていない。
(流石は勇者。いい勝負になるんじゃないか!?)
木々をなぎ倒し、骸骨竜に突進する。
右手を大きく振りかぶり、骸骨竜の頭を殴りつける。
その瞬間に、水が爆散した。
「な…!?」
水の巨人が消えて行く。
俺は上空に投げ出された。
骸骨竜の右腕が突き出されている。
あの手の位置は、水の巨人の胴体。俺とムンタがいた所じゃないか?
(一撃で?)
倒されたのか?
俺は我に返り、切り替える。このまま地面に激突したら死ぬ。
手を前にして、魔法を唱える。
水壁。水の壁だ。
上空に出現したそこに狙い通り入る。無事勢いを殺せた。
本来の俺の魔力では、壁を突き破っていただろう。この身体でよかった。
ずぶ濡れ状態で地面に着地。
水巨人の時点で濡れていたから、別にいい。
(ムンタは?)
分からない。死んだかもしれない。
探しに行くため一歩を踏み出す。
上空で、爆発音がした為、見上げる。
(落ちてくる!?)
この状況で落ちてくる人物は一人しかいない。
駆けだした。そして手を伸ばす。
(間に合え!)
水壁を展開。確保に、成功した。
「おい、しっかりしろ!」
トワは気を失っているようだ。
抱きかかえ、回復魔法をしながら、声をかける。
「っ…!」
トワが目を開けた。と思ったら、突き飛ばされた。
間髪を入れずに、骸骨竜の爪が、突き刺さる。
トワは風歩で上空に移動しながら攻撃。
骸骨竜の注意を引く。
俺は眼帯を外す。
無防備な背中に向けて、渾身の黒炎を放つ。
(周りは木だらけ?まったく、よく燃えそうで、いいじゃないか!
こいつを倒せたら、水魔法で消すよ!)
倒せたら。
黒い炎に巻かれ、骸骨竜はたじろぐ。
(効いている!)
口角があがる。俺は戦えている。
上空から突風が吹く。風に煽られ炎はより勢いを増す。
黒い火柱は骸骨竜を飲み込んだ。
規模は段違いだが、初戦の犬型魔物と同じ光景。
(え…?)
勝ったと思ってしまった。でも俺は飛んでいた。
短くない浮遊感の後、地面を転がる。
腹が、いや全身に激痛。
「がはっ…。」
血を吐いた。
(何、が…?)
ようやく止まった俺は、震える手で眼帯をして、回復魔法を使う。
そして辺りを見渡す為に起き上がろうと、
「ぐ…!」
起き上がれない。痛くて。
情報を求め、視線だけ彷徨わせる。
骸骨竜は、健在。
周辺の火は、消えている。木々ごと、地面が抉られている。
(尻尾、か。)
尻尾の骨。
鬱陶しそうに振り回されるそれは、鞭のような柔軟さで、地形を変えるほどの破壊力がある。
あんなのに巻き込まれたら、バラバラになり即死は確実。
つまり、あれじゃない。
俺を吹っ飛ばしたのは、トワの魔法だ。
「ったく、折角の貸しだったのに。即、返すなよな…。」
使い続けた回復魔法の効果で、立ち上がれるくらいまで回復した俺は、両手を骸骨竜に向けた。
そして思う。
(俺は、何をしているんだ?)
俺の目的は生き残る事だ。死ぬのが怖いから。
(ここは、死地だ。)
骸骨竜はトワを攻撃している。俺を見ていない。
(今なら逃げられる。)
もし骸骨竜を攻撃したら、きっと矛先はこちらにも向く。
今度こそ死ぬかもしれない。
(この場所に、居続ける、理由…。)
トワには助けてもらった。しかし俺だって助けた。
トワがここで骸骨竜と戦うのは、あいつの事情だ。
孤児院のシスターや子供達には、俺だって同情できる。
助けたい気持ちだってある。
強くなったんだ。そこらの魔物なら、いくらでも倒してやる。
でも、骸骨竜は、格が違う。
自分の命を捨ててまで助けたいとは思わない。
(俺は、そういう奴だ。)
寧ろ今まで、よく逃げ出さなかった。
少なそうだが、ダメージだって与えた。
いい時間稼ぎになったんじゃないか?
サニアはきっと子供達を避難させられたさ。
(もう、十分だろ?)
骸骨竜の話を聞いて逃げたかった。でも耐えた。
骸骨竜を前にして、逃げたかった。でも耐えた。
(骸骨竜に殺されそうになっている今、逃げたって…。)
何度覚悟を固めた所で、その都度、壊されてしまうほど敵は強大。
が。
それでも。
掌に魔力を集める。
使う魔法は水射。
黒炎より火力は劣るが、射程で勝る。
反撃に気を付けながら、数を撃ち、攪乱する。
少しでも注意を引ければ、トワの助けになるだろう。
発射と同時に走る。直ぐに次弾の準備をする。
走りながら撃つ事を繰り返す。
(自棄じゃない。シンプルな話さ。)
骸骨竜は、禍々しい姿だ。
何で汚れたのか分からない骨は、もはや白ではなく極彩色。
関節を無視した動きは、完全に生物のそれではない。
翼は完全に溶けてなくなり、言われなければドラゴンとは分からない、もはや何者か分からない。
伽藍洞の瞳に漆黒の闇を宿し、理由なく暴れ回る。
正真正銘の、魔物。
それでも。
姿を目の当たりにした今でも。
(こいつより、リガーナのほうが、恐ろしい。)
考えないようにしていた。
骸骨竜と戦う時、いや、話を聞いた時、いやもっと前、警報で目が覚めてからずっと。
(だっておかしいだろ?なんで姿を現さない。)
用事がある。流石に骸骨竜は怖い。
見た目は少女だし、ムンタやサニアはそれで納得したはずだ。
しかし俺は、あの二人より、リガーナに詳しい。
警報が鳴ったんだ。この騒ぎに気付かないはずがない。
あいつほどの化け物なら、骸骨竜にビビる訳がない。
嬉々としてやってきそうじゃないか。
人々が苦しむ様を特等席で見られるんだぞ。
なのに、姿が見えない。
(間違いなく来ている。そして姿を隠し、見ているんだ。)
トワで遊ぶあいつは、楽しそうだった。
しかし、小屋を出る時の顔は真顔。
まるで、たくさん遊んで、飽きて、興味を無くしたような顔。
だからこそ、見極めようとしている。
俺は、トワは、勇者パーティーは、あいつが楽しめる玩具かどうかを。
(…。)
トワが反発している時は楽しそうで、折れたら説明だけして去っていった。
前世の最後、復讐を吠える俺にときめいたと言っていた。
リガーナが好きなやつは、賢く逃げる奴じゃない。
無謀に噛みつく狂犬だ。
(活路があるとすれば、骸骨竜に挑む事だ!)
骸骨竜から逃げられても、リガーナに殺される。
いらない玩具を処分するように。
『勝負は、勝算があるときか、負けてもいい時以外はしてはいけない。』
そんなスタンスではいられない。
これからは、勝算がなくても、負けてはならない戦いばかりだろう。
それが、魔王に縋って生き延びた、俺の。
「!」
今、水射の色が、変わった。
心当たりはある。
前世の勇者パーティーの会話の中にあった。
闇天法は、魔法を強化する強化魔法。混合魔法専用の魔法だ。
そして一緒に使う魔法によって、その色が変わる特徴がある。
火と土に使うと黒色。水と風に使うと白色。
水射は、白く輝く弾丸となり、骸骨竜に飛んでいく。
(光天法だ。光と水の混合天法、光射。)
昨日の特訓では使えなかった魔法だ。
全部が白くなる訳ではない。力加減の問題なのか?まだ、自在に出せない。
(魔力量には、自信がある!)
折角だから、練習に付き合ってくれ。
それから、何発も、何十発も撃って、撃ちまくった。
だんだんと、分かってくる。
なんというか、ジャンケンで、チョキを出す時に小指も立てる、みたいな。
親指で薬指を抑えると、やりやすいみたいな?
とにかく、コツは掴めた。
「くらえ!」
輝く水の弾丸が、白線を描き着弾する。
精度は九割。威力も中々。
それでも致命傷までは程遠く、侵攻は止まる気配がない。
(考えていたさ。どうやったら火力が出せるかを。)
ベルトのポケットから、腕輪を取り出す。
トワから買った、マジックストックだ。
魔法を込める。光射を、ありったけ。
属性により色が変わるはずだ。火なら赤。水なら青。
今の色は、白色。
「トワーー!!」
上空に向けて叫ぶ。手を振り、アピールする。
もちろん走りながらの撃ちながら。
何度も叫ぶ。応答があるまで。
やがて、俺は突風に攫われる。
「もしかして呼んでる?なんか用?」
お姫様抱っこ。される日がくるとは思わなかった。
「光属性だ。いけるか?」
腕輪を見せながら。
「…時間がほしい。」
「任せろ。」
地面に降ろされる。
トワは腕輪をはめて飛び立った。
時間をくれと言った。集中する必要があるのだろう。
光の混合天法を使うなんて事は、初めてのはずだから。
俺は深呼吸する。
攻撃頻度はトワが上だった。甘く見積もっても七対三。
攻撃を受けていたのもほとんど向こうだ。
その彼女が抜けた。
(…。)
勝算はある。抱っこされて上空にいった時、見えた。
もうすぐ城壁。王国兵の魔法攻撃の射程が近づいている。
「行くぞ!」
ここが、正念場だ。
戦いの中で、成長し、新技を閃く!
確か、第一章にはなかった展開。




