第54話 勇者パーティー~危機~
~前回までのロストン~
リガーナに屈したトワは、俺達の仲間になった。
着けられた爆弾首輪の範囲を確認しにいくトワ。
俺は大人しく縛られて協力する。同情したのさ。
(…警報?)
目が覚めた。
辺りは暗く、縛られたまま。
感覚としては寝ていたのは数十分、いや、一、二時間は経ったかもしれない。
(どうしようも、ないしな。)
身動きのとれない状況で警報を聞くというのは、いいものではない。
しかし、そこまで取り乱す必要もない。
警報の種類は国が変わっても同じだ。少なくとも周辺三か国は。
そして、今鳴っているやつは三つの意味がある。
1、魔物の襲撃。
2、兵士は南西門に集結。
3、国民は不用意な外出禁止。
つまり、拘束状態でも自由な状態でも、待機に変わりない。
(トワは、どうなった?)
まだ、範囲を確認中だろうか、もうこちらに向かっているだろうか。
(まさか、首輪が爆発して、死んでたりは…。)
説明を聞いた限りだと、俺は起爆条件の一つに過ぎず、デメリットもなければ、爆発したとしても気づかない。
(…。)
少しだけ、不安になる。
今はまだ腹は減っていないし、トイレも平気だが、終了時間が分からないのはきつい。
(一時間ごとに一度戻るとか、条件はつけとくべきだった…。)
俺が小さな後悔をしていると、扉が開いた。
トワが、息を切らしながら戻ってきた。
「ごめん、遅くなった。」
言いながら、拘束を解いてくれる。
「どうだった?」
俺も知っていないと、やばいだろう。
「思ったより、だいぶ広いね。同じ町の中なら問題ないくらい。
…あの化け物め。」
町全てをカバー出来る探知魔法と、高威力の爆発力を備えた首輪。
そんなものを手作りした訳だから、俺から見たら化け物のトワに、化け物と言われるのも納得だ。
(もういっそのこと、あいつが魔王だと教えてやりたい。)
言ったら言ったで、その事を知っている俺まで警戒される可能性がある。
だから、言わない。
「さあ、行こう。」
拘束が解かれた。同時に手を引かれる。
「待機じゃないのか?何処へ行くんだ?」
トワは俺の顔を見て、目を伏せ、苦々しい表情になりながら答えた。
「僕達は、勇者パーティーだろ?」
「あ。」
そうか俺は、不用意な外出禁止のただの国民では、ないのだ。
外に出る。
言われるがまま、トワにしがみつく。
15歳の少女に抱きつく20歳の男。
そこは別にいいんだけど、身長差のため、俺はかなりのへっぴり腰だ。
それが恥ずかしい。
トワは、風魔法の風歩を発動させた。
その効果を簡単に言うと、空を歩ける。というか、走る?いや、飛んでる!?
「!!」
凄いスピードだ。振り落とされないようにするのが、やっと。
あっという間に南西門に。
掴まっていただけだが、俺は冷や汗で汗だくだ。
正直休みたい。
しかし迷わず歩くトワについていくしかない。
迷子は嫌だ。
トワが小屋に入ったから、俺も入る。
ムンタがいた。そして俺が初日に言い争った王国兵もいる。
(南西門って、俺が入ってきた門か。)
二回とも連れてこられただけだから、気づかなかった。
しかし今そこは重要じゃない。
「ロストン君!無事だったか、心配したよ。!?なぜ君がここにいる!?」
ムンタとトワの間に入る。
「味方にしました。後でちゃんと説明しますよ。今は、状況をお願いします。」
ムンタは王国兵と目配せして、王国兵は机に広げた地図を指さしながら、説明してくれる。
「標的は一体。ゆっくりと山中を移動中。」
(一体?)
警報が鳴るレベルだから、大挙して押し寄せてきたのだと思った。
(でもそうか。一体で、警報が鳴るレベルの奴か。)
「かなりデカい。南西門の城壁よりも。」
(何て…?)
聞き返そうかと思ったが、王国兵もムンタも深刻な表情だ。
二日前の、犬のような獣型の魔物を思い出す。
俺より一回りデカいだけの、あれですら、あの脅威なのに。
南西門の城壁なんて、俺何人分か、分からん大きさだぞ?
(本当に現実の話か?城壁よりデカいなんて、それじゃあまるで、本に出てくる…。)
「ドラゴン。しかも魔物化している。
肉は削げ落ち、骨の状態。魔力は可視化できるほど濃い。
骸骨竜。伝承のみだった存在が、迫っている。」
「…警報が、違うんじゃないか?
待機じゃなくて、逃げろだろ、これ。」
思わず言ってしまう。
そして気づく。勇者が隣にいるのに、敬語が外れてしまった。
しかしムンタは、気にした素振りはなく、優しく諭すように答えてくれる。
「王国は、周囲を険しい山々に囲まれている。
隣の国に行くのに半月は掛かるし、強力な魔物に襲われるし、道中に町や村もない。陸の孤島なんだよ。
だから、国を捨て逃げるという選択肢は、最初から無いんだ。」
気づく。小屋の外に、人が続々と集まっている。
王国の兵士達は、ここで迎え撃つつもりだ。
ずっと続けてきたのだろう。敗北すれば、国が滅ぶ戦いを。
「ロストン君、彼女は、どこだ?」
言われてみると、トワがいない。いつの間に?
「…。」
敵が骸骨竜だからといって、今更逃げるような奴ではない。
首輪だってあるんだ。
つまり、離れた場所に行ったのではない。
しかし、俺を放置するほど慌てている。緊急性がある。
ここに来てから、今の話を聞いてから…。
机の上の地図を見た。
おかしな所は、無い。
「…なあ、魔物って、魔力を大量に摂取するとなるのか?」
「魔力暴走の事かな?
そうだね、そういう話も聞いた事がある。
コントロールしきれない魔力を大量に摂取すると、魔物になるらしい。
でも、そんな大量の魔力なんて、そうそうあるわけ、」
「骸骨竜の、可視化できるほどの魔力。それなら?」
ムンタが黙り、再び王国兵と顔を見合わせた。
王国兵が頷く。ムンタが口を開く。
「あの魔力は骸骨竜のものだから、動いているうちは心配いらない。
接近攻撃をする場合もね。
もちろん攻撃はされるから、危険には変わりないけど、あの魔力にあてられて、こちらが魔物になってしまうなんて事はない。
でも、骸骨竜を撃破し、制御を失った魔力があふれ出る可能性は高い。
その量は、確かに魔物化するほどかもしれない。
ロストン君、いい目の付け所だよ。
作戦は、近づかずに遠距離からの集中砲火、これ一択だね。
城壁があるから、押し寄せる魔力の大半は防げる。
それでも防げない魔力は、吸った所で少量さ。
やはり最大の問題は、倒す事のようだね。」
「仮に、城壁の外側に人がいたとしたら?」
「危険だとも。だから、そうならない為にも打って出る事はしない。
城壁の上から魔法を撃つんだ。」
「今、城壁の外側に、人がいるとしたら?」
「…どういう事だい?」
「あ、あの!」
ドア付近にいた兵士が、近づいてくる。
小屋は狭いから、俺達の会話は聞こえていたはずだ。
「います!人が、城壁の外に人はいます!」
「どういう事だい!?」
更に二、三人の兵士が近づいてくる。
そのうちの一人が、地図を指さす。
「この辺りです。
数日前、個人経営の孤児院が潰れました。
金を騙し取られ、多額の借金を残し、建物は差し押さえられ、挙句、院長が国外逃亡しました。
寄付金もままならず、他の孤児院も手一杯で受け入れが難しく、何より子供達が離れたがらない。
シスターが子供達全員と一緒に住処を転々とし、今、この辺りに。」
「知っていたんだな!ここは、パトロール範囲内だ。
知って、隠していたんだな!お前達全員で!」
勇者の隣の王国兵、多分上官なのだろう。彼だけ知らなかった。
察しはつく。
どう考えてもこのシスターは正規の手順を踏んでいない。
金の問題でだ。
同情した王国兵が匿える場所、それが城壁の外。
(安心しなよ、上官さん。人柄云々じゃなくて、上官だから、言わなかったんだ。
悪い事をしている、そして隠し通せる算段があったんだろう。
俺にも、経験がある。)
「大金が、手に入ったようなんです!
手続き中で、もうすぐ建物も買い戻せるはずなんです!
だから、本当に短い期間だけで、魔物対策もしっかりしていて!
なのに、まさか、あんなのが、くるなんて…。」
改めて、地図を見た。
骸骨竜が、予想通りの進路で来たとして、ぎりぎり戦場に、ならないかどうかの、絶妙な位置。
安全ではないし、何より高低差を考えれば、撃破した骸骨竜の魔力は、ここを飲み込む事だろう。
(トワは、間違いなくここにいる。)
大金を渡したのは、あいつだ。
ひょっとしたら、この孤児院出身なのかもしれない。
警報が南西門の時点で嫌な予感はあっただろう。
そして、進行方向と魔物の正体を知った訳か。
(本当に今日は、あいつにとって厄日だな。)
王国兵達はざわついている。
シスター達の救助をどうするか。
敵はあの、骸骨竜。
全員で挑んで勝てるか分からないのに、救助に人員を割いてよいのか。
人員を割いて、城壁を突破されるような事があれば、王国は滅ぶ。
なら、見捨てるのか。
パンっと。ムンタが手を叩いた。
「勇者ムンタと、その仲間、ロストンが救助に向かう。
皆は配置について、敵が射程に入り次第、攻撃を開始してくれ!」
そんな気はしていた。だから頷く。
ムンタは上官と握手をし、二、三言葉を交わしたら小屋を出る。
俺も後をついていく。
「ムンタ!」
馬に乗ったサニアだ。
ムンタは俺を見た。連れていくかどうかと言う事か?
「骸骨竜が来ているのは知ってる!
私も、勇者パーティーの一人よ。」
「来てもらいましょう。サニアさんは実力者ですし、足止めと誘導と、やる事は多いはずです。」
ムンタはもういいやと思うが、社長の娘にタメ口は無理だ。
「サニア君はロストン君を乗せてくれ。俺は、馬がある。」
長い夜が、始まる。
図書館で調べものしていたら、サニアに声を掛けられる→サニアに勇者を紹介され、仲間になる→合流したリガーナから、トワの話を聞く→ムンタとトワを捕まえに行き、返り討ちにあう→戻ってきたリガーナはトワを捕縛、脅迫して仲間にする→警報が鳴ったので、トワと様子を見に行く→骸骨竜の話を聞く→ムンタとサニアと、骸骨竜に挑みに行く。
51話の途中から、同じ日の話です。




