第53話 勇者パーティー~脅迫~
~前回までのロストン~
12代目勇者、ムンタの仲間になった。
これで魔王討伐に行ける。サニアも仲間になった。後はトワを仲間にするだけ。
トワを捕縛したリガーナは、彼女をどこかへ運ぶ。俺は、黙ってついていく。
人気のない街外れにある、ボロい一軒家。
ロウソクの明かりだけの、暗い室内。
俺は入口付近で、事の成り行きを見守る。
リガーナは、柱の一つにトワをロープで括りつけた。
前に王国兵が俺を縛ったロープだ。あれで縛られると魔法が使えない。
そしてトワの顔に水をかけて起こす。威力を抑えた水だ。
むせ込みながら、トワが起きる。
驚愕の表情の後、視線を彷徨わせ、
「僕を、どうする気だい?」
リガーナを睨みつけた。
リガーナは、優雅に一歩踏み出して、右手を差し出した。
「私達は、勇者パーティー。あなたも仲間になって!
一緒に魔王討伐の旅に出るのよ!」
腕ごと縛られているトワは、当然その手をとれない。
まあ、手が自由でも取る訳がないのだが。
「頭がおかしい子なのかな?仲間になんて、なる訳ないだろう。」
睨みつける瞳に、殺意が宿る。
リガーナは、一切気にした様子なく続ける。
「あなたは泥棒という罪を犯しました。
罪には、罰が必要なのです。この旅は、あなたにとって贖罪の旅。
魔王を倒し、王国に平和をもたらして、ようやく、あなたの罪は償えるのです。」
舞台のように踊りながら、オーバーな手振りで、歌うように。
「罪だって?悪いのは、あいつらだよ。
元はあいつらが、騙し取ったものだろう!」
トワが、大声で吠える。盗み自体は否定しないようだ。
「かわいそうなアレストワ。盗みが悪い事だって、誰も教えてくれなかったのね。
孤児院の大人ども、酷い連中だわ。」
トワが怒りの形相で身を捩る。しかしロープは解けない。
「安心して。私が教えるわ。
知らない事は、覚えればいいの!学習するのよ!」
リガーナは巨大なカバンの中から紙を取り出す。
あのカバンは、俺が来た時から置いてあった。
来るときに言っていた、仲間にする準備、とはあの中身の事だろう。
ロープもあそこから出した。
「こほん。『泥棒め、なんて事をしてくれたんだ。あの金で、リコちゃんを買うつもりだったのに。』あ、リコちゃんは、夜のお店で働いているエロいお姉ちゃんの事ね。
こほん、『リコちゃんと…。』…う~ん?よく分かんないから飛ばすね。
『…一体、どうしてくれるんだ!』どう?おじさんの楽しみを、あなたは奪ったのよ?」
「何が言いたいか分からないね。
…私利私欲の為に人を騙して金をとり、取り返されたら被害者ヅラ。
そんな奴に、」
パンっと音が響く。リガーナがトワを引っぱたいた。平手で頬を。
「おじさんだってね!大変なの!
楽しみは必要なの!お姉ちゃんと、遊びたいの!」
もう一発、叩いた。
「人の痛みを、知りなさい!…はいじゃあ次の人~。」
リガーナが手紙を読む。トワが反論し、平手打ちされる。
その光景が繰り返される。
トワは完全に熱くなってしまっている。
どんなに殴られても、強気な態度を崩さない。
リガーナはそんなトワの様子を、心底楽しそうに煽り続ける。
(気持ち悪い…。)
リガーナの、悪意が。
しかし、止める事も逃げる事も出来ない。
そんな事をすれば、リガーナに、何をされるか、分からない。
この空間は、完全にリガーナのものだ。
「あれ、なくなっちゃった。さっきのが、最後の手紙よ。
アレストワ、反省は…してないか。」
トワの眼光は強いままだ。
「仲間になる気も…ないか。」
リガーナは不用意にトワに近づいていく。
そして、そうするのが当然のように、顔に顔を近づけていく。
まるで、キスでもするように。
「!?」
トワは限界まで顔を反らし、勢いよく頭突きをした。
直撃し、よろめいて二、三歩下がるリガーナ。
次の瞬間、トワの顎が蹴り上げられた。
「は?」
俺は、思わず声を出してしまう。
リガーナがトワの顔を殴り始めた。グーで、力強く、何度も何度も。
「お、おい!止めろ!」
思わず止めに行ってしまう。
今行われている意味不明な行為に対する恐怖が、この後何をされるか分からない恐怖を、上回る。
後ろから腹を抱えるように。
興奮気味のリガーナは、思いのほかあっさり引き離せた。
「かわいい顔を近くで見ようとしたら、拒絶されたの!
ショックよ!心が傷ついたわ!」
(怖…。)
精神が幼い?しかし違和感がある。芝居っぽいのだ。
現に今も、興奮気味に喋ってはいるが、暴れたりしない。
ふざけているのか、本心なのか、隠れた意図があるのか。
少しして、落ち着いた様子で、リガーナは再びトワに近づく。
トワは、顔を腫らし、口から血を流しながら、ぐったりしている。
俺からは息があるかどうかも分からない。
「…。」
トワの傷が癒えていく。
俺の回復魔法では、こんなに早く治せないし、ここまで綺麗に治せない。
こいつの魔法精度は抜群だ。
その後、顔に水、咳き込むトワと、最初にみた光景が流れるように続く。
リガーナはトワに、目線を合わせた。
「仲間になってくれるかな?」
いつもの、花が咲くような笑顔。
「…だ、誰が…!」
トワが、揺らぎだした。
(無理もない、怖すぎる。)
訳が、解らなすぎて。
リガーナはトワから離れて、カバンの方へ。
鼻歌を歌いながら、中をごそごそ漁っている。
そして振り向いた時、手に持っていたのは。
首輪。
「じゃじゃーん。手作りよ。あなたの為に作ったの。
火と土と水の三種混合魔法の魔装具。自信作でーす♪」
「…!」
トワが息をのむ。俺もだ。
魔法には相反属性、相性が悪い組み合わせがある。
火と水、土と風がそうだ。
混合魔法を使えるだけで化け物なのに、相反属性を交えた三種混合。
正しく、魔王だ。
「~♪」
驚愕する俺達を気にせず、鼻歌交じりに魔法を使うリガーナ。
現れたのは土の人形。人の形をして、人と同じくらいの大きさ。
いや、もっと具体的に、トワにそっくりな土人形だ。
「な…。」
またしても声が出てしまう。
リガーナが人形を殴り始めたのだ。先程のトワと同じように。
人形は固いようでリガーナの拳が傷ついていく。
皮がむけ、血が滲む。それでも殴るのを止めない。
人形は丈夫なようで、びくともしない。
笑顔で殴るリガーナは正気とは思えない。狂気の沙汰だ。
トワも、絶句している。
唐突に、リガーナは殴るのを止めた。
自分の血で汚れた人形の顔を愛おしそうに優しく撫でる。
そして人形の首に、首輪をはめた。
リガーナは俺と、トワを見た。その目が、しっかり見ておけと告げる。
人形が宙に浮き、物凄いスピードで小屋を出ると、上空へ向けて打ちあがった。
更にそれを追うように、地面から何かが飛び出して…。
一拍の後、地面が揺れた。轟音と共に。
見えずとも分かる。爆発したのだ、あれが。
リガーナがくいくいと手を動かすと、ゆっくりと土人形が戻ってくる。
焦げ臭いそれは、首から上が、頭が吹き飛んでいた。予想通りに。
リガーナがぱちんと指を鳴らすと、土人形は崩れるように消えていく。
鼻歌の続きを歌いながら、カバンを漁り、新しい首輪を取り出した。
見せびらかしながら、トワに近づく。もちろん、笑顔だ。
「僕の負けだ。お前の言う事を聞くよ。」
トワが折れた。
(寧ろよくもった。俺なら手紙の辺りで、いや、この部屋で、縛られた状態で、あいつの笑顔を見た瞬間に折れてる。)
しかしリガーナは、歩みを止めない。
「ぼ、わ、私が間違っていました!許してください!言う事、聞きますから!」
「そ、ありがと。」
カチャンと、小さな音がした。
「爆発する条件は三つ。
まず一つ目。無理に外そうとした時。さっきの人形みたいにね。
解析しようとするのも、お勧めしないわ。誘爆って、怖いじゃない?
二つ目は、魔装具の魔力が無くなった時。だから、ちゃんと自分で補充してね。
そして三つ目。ロストンがいるでしょう。そこの男の人よ。
彼の魔力が、首輪に仕込んだ探知魔法に引っかからなくなった時。
つまり、ロストンが死んだ時。
それから、探知魔法の射程外まで離れた時ね。
範囲がどれくらいかと言うと、…ごめんね。忘れちゃった。
ああ、安心して。そろそろ危ないって時に首輪が光るわ。
あ、でもあなたには見えないわね。
でも、更に親切な事に、音で知らせてくれるわ。ぴぴぴってね。
いい?ぴぴぴよ、ぴぴぴ。それがあなたの死のカウント。
聞こえたら、直ぐにロストンに近づいて。忘れないでよ?」
トワは顔面蒼白。
両目はこれ以上ないくらい開いていて、口が微かに震えている。
「爆弾つきの首輪の話、知った時は痺れたわ。
最初に考えた人って、天才よね。いつか作りたいって思ってたのよ。」
対してリガーナは、踊るように上機嫌だ。
「あなたに似合いそうな服を用意したの。
遠慮はいらないわ。だって仲間なんだから!
…ちゃんと、着てね。」
カバンから、衣服と思われるものを出し、机にのせた。
「私達は魔王討伐の旅にでる。ロストンも行くし、あなたも一緒よ。
魔王を倒したら、それ、外してあげるわ。
…旅の詳細は、あとで勇者様が伝えに行くから、それまであなたは、今まで通りの生活を送っていてね♪」
リガーナは手をひらひらさせながら、去っていった。
俺とトワを放置して。
(首輪の範囲はどれくらいなんだ?トワから離れられないだろ…。)
嵐が過ぎ去った。被害は甚大。
「…。」
トワは俯き沈黙している。
正直、気まずいなんてもんじゃない。
深呼吸する。状況を、一つずつ確認しよう。
俺の目的を考えれば、この状況は悪くない。寧ろ最高ではないか?
第一目標のリガーナの殺害。
トワは間違いなくリガーナの事が憎いはずだ。
上手く立ち回れれば、共に戦ってくれるだろう。
しかし、今回の件でもリガーナの強さと異常さを目の当たりにした。
正直勝てる気がしない。
第二目標の勇者達の殺害。
前世の勇者達だ。つまり、サニアとトワの殺害。
(…。)
実力は圧倒的にトワが上だ。
もう大分前に感じるが、数十分前、手も足も出ず敗北した。
しかし俺は、確実にこいつを殺せる手段を手に入れてしまった。
離れる。それだけ。
「…。」
どちらにしても、まずは仲良くなっておいて損はない。
俺は両手を上げ、ゆっくりトワに近づく。
そして拘束を外しながら、声をかける。
「改めて、俺はロストンだ。お前は、アレストワだよな。」
「…。」
「実は俺も、あの女に脅されて勇者パーティーに入ったんだ。
お互い厄介な奴に目を付けられたよな。あいつの強さは本物だ。
今は大人しくしておこうぜ。」
「…。」
当然、返事は期待していない。そんな余裕はないだろう。
しかし今から敵ではないアピールはしておく。後々効いてくるはずだ。
俺の言葉や行動は、火に油を注ぐ事に十分なりえる。
しかし、今こいつは爆弾首輪をしている。
俺の命を奪う事はもちろん、危害を加える事も厳しい。
俺の機嫌を損ねたら、自分の命が危ないのだから。
そしてこいつは、それが分からないほどバカではない。
と、思ったが。
「うおっ!」
拘束が外れた瞬間、トワは俺の背後に回り、俺を押し倒した。
更にロープを俺に巻き付け、拘束しようとする。
「危害は加えない!ちょっと首輪の範囲を確認してくる。
だから、大人しくしていてよ!」
俺を縛る手際が悪い。手が震えていて、うまく縛れないのだろう。
今なら、反撃したら勝てそうだ。
「…。」
でもしなかった。同情さ。俺はこいつを憐れんでいる。
「絶対に戻ってくるから、動くな、頼むから、動かないで…。」
途中から、泣き声だ。
俺は黙って縛られた。
トワは俺を壊れ物でも扱うようにソファーに座らせると、俺の死角で着替え始める。リガーナが置いていったやつだ。
確かに着ないと、殺される可能性がある。
「…っ。」
(戸惑い、いや、舌打ちか?)
ネタ系、幼女系、露出過多。着ぐるみだったとしても笑うまい。
それが、情けというものだ。
(…なるほどな。)
やがて視界にトワが入る。
へそ出しホットパンツ。
そして真っ黒の、マントみたいに長い、袖のないコート姿だった。
前世は、白が基調でしっかりと固めていたイメージだ。
対して今は、黒が基調で、露出が多い。
(勇者だった奴が、染められちまったな。魔王に。)
トワは、慎重に歩き始める。
一歩歩いては、音がしないか確認し、大丈夫なら更に一歩。
文字通り、命懸けの作業だ。
その動作を繰り返し、やがて俺から見えなくなった。
「ふう…。」
ようやく、一息つけた。
トワについて、考える。
実際、盗まれた連中の悲しみは、知らない。
しかし、自業自得の部分がある上に、トワの行動は、孤児院の為らしい。
それらを加味すれば、トワの罰は重すぎに思う。
散々殴られ、脅されて。
これから命がけの旅に出て、その果てに魔王に挑む。
しかも魔王だけではない。
最恐のリガーナに、伏兵で俺までいる。
言ってはなんだが、他人事で本当によかった。
こいつに比べれば、俺のほうが生存確率は高いだろう。
いったい前世でどんな悪行をしたらこうなるのか、と言った感じだ。
(俺の知る限り、前世は勇者として、人々の為に戦っていたはずなんだがな。)
まあ、俺含む小悪党を成敗していたはずだから、その怨念が塵のように積もり、山となったのかもしれない。
(まあ結局は、罰を口実にリガーナが好き勝手やっているだけだ。)
リガーナは。
今までの言動を考えるに。
好奇心が強く、退屈を嫌う性格で、怒りや恐怖など、他人の強い感情を好む。
面白そうだと思ったら、それが最優先となり、実現に向け努力を惜しまない。
(度々いなくなり、その間は一体何をしているんだか…。)
彼女は、何を、隠しているのだろう。
やる事がなく、暇な俺は、そんな事を考えながら、いつの間にか寝てしまった。
やったね、ロストン。最後の一人が仲間になったよ!
第一章で、サニアが黒、トワが白の服。
第二章で、サニアが白、トワが黒の服。
カラーの交換!仲良し!




