第52話 勇者パーティー~この世界の勇者~
~前回までのロストン~
自身の弱体化が判明し、ショックを受ける。
サニアを仲間にする為の布石、同情を誘う噓ストーリーを披露する。
そしたらサニアが、勇者に会わせたいと言ってきて…。
サニアに連れられて、住宅地から離れた山の麓にやってくる。
昨日とは、反対方向だ。
「勇者様と知り合いだったとは、驚きです。」
「学校の先輩でね。手合わせした事もあるのよ。」
「なるほど、ボコボコにしたんですね。」
「なんで!?…まあ、私が勝ったけど。」
「どんな方なんですか?勇者様は。」
「誠実で真面目で、さっぱりした方よ。
王国の兵士をやっていてね。護衛をしてもらった事もあるけど、頼もしかったわ。」
「王国の兵士に、護衛してもらったんですか?」
「え?おかしいかな。頼むとやってもらえるよ?」
「流石、サニアさんですね。」
「??」
やがて、一人の男の姿が見えてくる。
見覚えのない、知らない奴だ。
スキンヘッド。訓練中の為か、上半身裸。
ちょうど冷たい風が吹いたが、気にした様子はなく正拳突きを繰り出す。
「ムンタ!」
サニアが手を振り、駆け出す。
迷ったが、俺はそのままのスピードで歩き続けた。
近づくにつれ、ムンタの詳細が分かってくる。
サニアという対比があるから分かるが、かなりの長身だ。
俺よりもデカいだろう。そして、細マッチョだ。
歳は、俺と同じくらいだろう。
「12代目勇者のムンタだ。よろしく。」
タオルで汗を拭きながら、右手を差し出してくる。
拒否する理由はないから、握手をする。
「ニージュ商会のロストンです。お会いできて光栄です、勇者様。」
ムンタは、うんうんと頷くと、真剣な顔になり言った。
「サニア君から聞いた。共に魔王を倒したいと。
歓迎したいが、魔王討伐の旅は、過酷。すまないが、君の実力を見せてくれ。」
まあ、間違いではない。既に勇者がいるのだから、仲間になった方がいい。
その上で、サニア達を勧誘するのだ。
「どのように、見せれば?」
「君は魔法が得意と聞いた。ならば。」
ムンタが指さした方。見慣れた魔力吸収板が設置してある。
「自慢の魔法を頼む。」
「分かりました。」
適切な距離で構え、眼帯を外す。
そして渾身の黒炎を放つ。
轟音と共に直撃し、魔力吸収板は灰になった。
(見た目は一緒だったが、安物だったか…。)
ムンタの方を見る。
目をまん丸にして、口を開け、ぷるぷるしたと思ったら、
「合、格!」
満面の笑みで、サムズアップした。
昨日、威力の低さに絶望した身としては、この反応は悲しむべきだろう。
この程度で喜ぶレベルという事だから。
「やったぞサニア君。ここにきて、頼もしい仲間が立て続けに加入だ。
いける。いけるぞ、魔王討伐の旅に!」
しかしサニアとハイタッチしながら、はしゃぐムンタの姿を見ていると、だんだん嬉しくなってくる。ここまで喜ばれたのは、初めてだから。
同時に、居たたまれない気持ちにもなる。所詮は、奪い取った力なのだ。
「私も勇者パーティーの一人なの。よろしくね、ロストン。」
「そうなのですか?」
サニアの告白は、素直に驚く。
手間が省けて、助かる。
「ちょっと前にね、説き伏せられちゃった。
こう見えて私は、学校を首席で卒業しているのよ。その責任を果たせって。
後、魔王城に用事がある。探していた物があるかもしれないの。
パパもママも、最後には私を信じてくれたわ。
必ず帰ってくるって。」
「…やりますね、ムンタさん。
サニアさんを、その気にさせるなんて。」
「ん?ああ、俺じゃないぞ。サニア君を説き伏せたのは。」
なぜだか分からないが、嫌な予感がした。
「賢くて、不思議な子よね。カリスマがあるというか、オーラがあるというか。
三つも年下とは思えないわ。」
「きっと驚くぞ、その子の魔法も凄いんだ。ロストン君に勝るとも劣らない実力者。
このメンバーなら、きっと魔王に勝てる。」
冷や汗が、止まらない。
心当たりが、ある。
「お、噂をすれば。」
後ろから、誰かが近づいてくるのが分かる。
二人は、笑顔で、その人物を迎える。
心臓の音が聞こえる。荒くなる呼吸を隠すように、俺は振り向く。
「ロストン。久しぶりね。」
「…リガーナ。」
あの夜と、同じ姿で、そいつはいた。
「おや、知り合いだったのかい?」
「うん。何度か会ってるわ。もしかして、ロストン、仲間になった?」
「そうなの。一緒に魔王を倒しましょう。」
掌の上だ。
俺は、いや、皆こいつの思惑通りに踊っている。
こいつを楽しませる為の玩具。
叫ばないのも、吐かないのも、逃げ出さないのも、せめてもの抵抗。
しかし、そんな俺の最後の意地も、こいつを喜ばせるだけかもしれない。
(…落ち着け。まだ、旅にすら出ていない。)
今は、勝てる気がしなくとも。勝てる方法は、旅の中で見つかるかもしれない。
(…。)
こいつが仲間になった理由は明白だ。
監視。いや、観賞か。
苦しむ様を特等席で見る為の。
何にせよ、企てが難しくなる。難易度が上がる。
(しかし、それでも、諦めない。)
生き残る事を。
第二目標の存在が無ければ、ここで完全に折れていたかもしれない。
第一目標の達成が困難過ぎて。
「ごめんなさい。私はそろそろ戻るわ。挨拶回りに行かないと。」
「ああサニア君、すまないね。気を付けて。」
サニアがいなくなり、俺とムンタとリガーナの三人になった。
とはいえ、やる事もないから帰ろうとすると。
「まってくれロストン君。手伝ってほしい事がある。
急ぎの用がないなら、一緒にきてほしい。」
急ぎの用などない。俺はムンタについていく。
道すがら、服を着たムンタに事情を話してもらう事に。
「王国国内に凄腕の泥棒がいて、どうにか出来ないか頼まれたんだ。
女王様に。」
「…凄腕の泥棒ですか。」
「複数の貴族から金品が盗まれた。厳重な警備の中、単独でね。
顔も名前も分からないらしい。」
「なるほど、確かに凄いですね。」
「これは噂なんだけど。」
ムンタが声を潜めた。
「盗まれた貴族達は、あくどい商売の片棒を担いでいたらしい。
嘘、脅迫、詐欺の隠蔽とかね。
天罰が下ったって喜ばれたなんて話もある。
そんな連中がいる事は問題だ。でも、だからって盗んでよい訳がない。
貴族達の悪巧みの証拠もないんだ。
国としても、この被害届を無下に出来ない。
捕まえて、罰しないと。」
勇者とは、国から与えられる称号だ。
魔王討伐の為、国を出る為の許可証とも言える。
つまりムンタの職業は、王国兵。
これは確かに、従うほかないだろう。職務だ。
「優秀な魔法使いの助けがほしいほど、敵は魔法に精通している、と言う事ですか?」
「ロストン君、正解だよ。実際、リガーナのおかげで、尻尾が掴めた。」
「なるほど。」
(そうやって信用を得て、取り入る訳だ。)
リガーナがドヤ顔で喋り出す。
「ある孤児院に多額の寄付があったわ。
痕跡を消して、口止めもしていたけど、甘いわね。
自慢したくなる人はどうしてもいるの。降って湧いた幸運をね。」
リガーナは、ムンタに気づかれない絶妙なタイミングで、俺に笑いかけた。
「名前はアレストワ。孤児院の子供から、トワちゃんって呼ばれてる、義賊気取りの泥棒よ。」
前世の、勇者だ。
(ああ、みんな、掌の上から逃げられない。)
勇者パーティーの一員となった俺の初仕事は、泥棒退治。
張り切るムンタと、絶望している俺と、笑顔のリガーナは、歩き続けた。
到着した場所は、中心街に近い魔装具屋。
売買はもちろん、修理や、情報もくれるようだ。
「いらっしゃい。」
一人で中に入り、きょろきょろと辺りを見渡しながら、奥へ。
初めてきた店だから、おかしくないだろう。
店員は一人。出入口付近の、会計と書かれたカウンターで座っている少女。
薄い赤髪で、ショートヘアー。その顔は、確かに見覚えがある。
アレストワ、略してトワ。本人で間違いない。
(…。)
リガーナの手書きの似顔絵を渡され、その人物が中にいるかの確認。
あまり上手な絵ではない。が、問題はない。この行為は、ムンタへの言い訳だから。
俺は、やつの顔を忘れていない。
つまり確認は完了で、俺の目的は達成だ。
仕事帰りまで待ち、人気のない道で、こいつを囲む。そうゆう手筈。
言い出したのはムンタだ。被害を出さない為らしい。
勇者的にも王国兵的にも、それでいいのかと疑問だが、俺は構わない。
確認は出来たが、直ぐに店を出ない。
怪しまれないように、ただの一般客のように。
いっそのこと何か買えとも言われた。
魔装具には興味があるから、好都合だ。
店内を歩き、商品を見ていく。
前世で王国は、魔法技術が周辺国と比べて遅れていた。
だからこそ、フフゴケ商会の提示した、科学というものに飛びつき、最後には魔法廃止を唱えた。
さて、フフゴケ商会と出会っていない、今世で王国はどうなったかというと、独自の魔法技術を確立させている。
最たるは、魔装具。知らないものだらけだ。
試しに目についた腕輪を手に取り、効果の書かれた紙をみる。
マジックストックという名前らしい。
(魔法を、ストック出来る?)
魔力を貯蓄しておいて、消費した魔力を回復する指輪は知っている。
(魔力ではなく、魔法。どうゆう事だ?)
紙を読み進める。
ストックした魔法は使えるようだ。
しかしストックした魔法は、一時間くらいで魔力に戻り消えてしまう。
それならわざわざストックせず、そのまま使えばいいはずだが?
(なるほど、混合魔法を使う為の魔装具か。)
補助機能もついている。つまり、基礎魔法の混合、
火石、水石、
火風、水風なら誰でも使えるようだ。
もっとも炎槍のような複雑なものは、技術が必要になるし、一つの腕輪につきストック可能な魔法は一種類で、精々二発分だ。
しかも、一つが高い。そこそこの魔力吸収板が買える。
店を一周した俺は、このマジックストックを一つだけ買って店を出た。
報告に戻ると、リガーナがいなかった。飽きて何処かへ行ったらしい。
実際店が閉まるまで、まだまだ時間があるだろう。
見張り続けるというムンタに「バレないよう気を付けて」と言い残し、俺もその場を離れた。
(この時間でもやっている賭場は、あるだろうか。)
分かった事がある。
初日に行った賭場が一番いい。
高レートの賭場は、しっかりしていた。イカサマなど、不可能だ。
勝てたのは、本当にただの運。
ただの運で二連勝、今は運気がきている?バカな事をいうな。
次行けば、破滅する。予感がある。
勝負は、勝算があるときか、負けてもいい時以外はしてはいけない。
ムンタの元へ戻る。リガーナはいない。
「そろそろ閉店時間だな。」
トワはアルバイトらしいから、そこまで遅くまで残らないはず。
「出てきた。」
私服だろう。パーカーに長ズボン。どこにでもいそうな、目立たない服装。
トワの帰宅時間は予想通り。リガーナがいない事も予想通りだ。
俺もムンタも尾行に慣れていないし、役立ちそうな魔法も使えない。
下手に隠れたりしたら余計に怪しいだろうから、距離をおいて、普通についていく。
…酔っ払いの振りをしながら。
トワは別に振り返ったりせず、歩き続ける。
(バレていない?それとも…。)
やがて人気のない場所までやってくる。
ムンタと目配せする。次の角で、決行だ。
「おっさん達、僕に何か用?」
俺もムンタも20歳だ。だからおっさんと言われても動じる事はない。
しかし問題は、前を歩いていた人物が、後ろから声をかけてきたという事。
ムンタは固まっている。ここで沈黙は、まずい。
「用なんてないよ?お嬢さん、かわいいからって、自意識過剰なんじゃない?」
出直しだ。今はこの場を誤魔化す。
トワは帽子をかぶりながら、言った。
「下手すぎる嘘だね。あんたは昼間、客として僕をジロジロ見ていたし、そこの勇者は、ずっと外で待ってたじゃないか。」
(やるしかないぞ。腹をくくれムンタ!)
水射を、立て続けに二発。
しかし、トワの姿はなく。
「ぐはっ!」
ムンタが倒れた。
(攻撃!?どうやって?)
立ち止まっては的になる。俺は走り出し、
「なにぃ!」
転倒した。何かに足をとられて。
「ぐ…。」
足で背中を踏まれた。手足を動かせない。何かで、縛られたような。
(風縄か…。)
見れば、ムンタも同じ状況だ。ピクリとも動かない。
「…お前、誰だ…?」
俺達を瞬く間に倒したトワの声がする。しかし、様子が変だ。
(怯え…?)
こんなに圧勝しておいて…?
背中にのっていたものの感触が無くなる。
(!?逃げ、)
ズドンと、重い音がして。俺の拘束は解かれた。
起き上がり、辺りを見回す。
答えを見つけた。
薄々気づいていたが、気づきたくなかった。
「助けにきたよ。ロストン!」
星明りの下、満面の笑みのリガーナが、血まみれのトワの、首根っこを掴んでいた。物理的に。
足元が窪んでいる。察するに、上に飛んで逃げようとしたトワを、上から押さえつけ、地面に叩きつけたのではないか。
「お、おい!」
トワは痙攣している。大丈夫なのか?
「あ、ごめん。」
リガーナの回復魔法だ。トワの傷が癒えていく。
「ここで殺したら、ダメだからね。」
小さく舌をだすリガーナ。
こいつのノリに慣れはじめた自分がいる。
「ムンタは~、ノビてるね。ちょうどいいかも。」
リガーナが自分よりも大きなトワを背負い、俺の近くまでくる。
「こいつを仲間にする準備はバッチリだよ。さあ、こっちへ。」
言われるがままついていく。それ以外できる事はない。
第一章の最終話に出てきたムンタさん。
描写は書かなかったけど、普通に毛はあるイメージです。
何があったんだムンタ(笑)




