第51話 勇者パーティー~相違点~
~前回までのロストン~
リガーナは、魔王だった。
リガーナの提案で、俺は勇者パーティーとして別の魔王を討伐しに行く事に。
今は、従ってやるさ。絶対に生き延びてやる。
一夜明け、お昼前。
俺は住宅地から離れた山の麓に来ている。
魔法を使う為に。
魔王を殺すにしろ勇者を殺すにしろ、力はあって困らない。
まずは自分の実力を、正しく把握しておこうという訳だ。
(魔王の身体だからな。期待している。)
転生後すぐに使った黒い炎。黒炎は、なかなかの威力だった。
買ってきた、七枚の魔力吸収板を設置する。
王国兵の訓練にも用いられている、丈夫で値段が高いやつだ。
(金が足りないぜまったく。また賭場で稼ぐか。
すぐに全部ぶっ壊してしまうかも、だしな。)
寧ろ、そうあってほしい。敵は強いのだ。
(行くぞ!)
俺は、魔力吸収板に向けて、渾身の魔法を放った。
三時間くらい経って。
適当な所に座り、弁当を食べながら思う。
(なんか、弱くね?)
ぼろぼろになった魔力吸収板を見る。
王国兵の訓練で、一か月もつ、らしい。
それを三時間でぼろぼろに出来たのだ。かなりの力だ。
(…。)
俺の視線は、まだ無傷の六枚を見る。
(一般兵レベルでは凄くても、意味がない。相手は勇者や魔王だぞ…。)
前世の記憶では、この程度のはずがない。
最後に見た、コズミックヘルブラスターを思い出す。
ここら一帯を焼け野原に出来るはずなのに。
(身体を、使いこなせていない…。)
威力もそうだが、使える魔法の種類も絶対に少ない。
ロストンは水魔法だけしか使えないが、ディオルは、火魔法と土魔法と、後、闇魔法が使えるはずなのだ。
闇魔法は魔法じゃなくて、天法とか言っていたか?
光天法に闇天法。火、水、風、土の四属性魔法とは別のもの。
「…。」
空になった容器を片付け、構える。
火属性の基礎魔法、火を使う。
手から勢いよく炎が出て、魔力吸収板にぶち当たる。
「!」
放出する魔力を上げる。炎の勢いが更に増し、炎の色も赤から黒へ。
火と闇の混合天法、黒炎が、吸収板を焦がす。
(…。)
以上が、俺の三時間の成果だ。
俺は頭を抱えた。
(分かんねえ。土魔法が使えない。他の火魔法も使えない。
どうすれば、使えるんだ!?)
いきなり、腕が四本生えて、六本の腕を動かせと言われても、今までの二本しか動かせない。筋肉がちゃんと繋がっているかも怪しい。
そんな感じだ。
(俺は魔法が不得意ではない。前世で水魔法の初級はほぼ使えた。中級だっていくつか使える。なのに、…意味が分からん。)
これも前世の知識になるが、火と闇の混合で獄炎というのがある。
見た目は黒炎とほぼ一緒だが、威力が違う。
四属性ではない光と闇には、初級とか中級とかはないんだが、おそらく黒炎は初級相当、獄炎は中級相当。
ディオルが使っていた混合天法だ。つまり、俺は獄炎が使えてもおかしくないのだが、黒炎しか使えない。
割合とか、だと思った。
例えば、闇が強いと黒炎で、火が強いと獄炎とか。
試したが、使えなかった。それだけじゃなかった。
偶然使えた混合天法。それが俺の黒炎だ。
溜息をつきながら、俺は眼帯を着ける。
コップを取り出し腰掛ける。
そして水属性の基礎魔法の水を使う。
コップに水が満ちてから、一気に飲む。渇いた喉が潤っていく。
眼帯の力だ。属性変換。火属性を水属性に変える魔装具。
昨日物色した物の一つで、お詫びとして正式に貰った。
こんなに凄まじい効果の物は、前世にあっただろうか?
少なくとも俺は知らなかった。
何にせよ、眼帯をつけている間は、火魔法が使えないが、水魔法が使える。
水魔法のほうが、慣れている分使いやすい。
ちなみに、水射を出す感じで、黒炎が出たから、他も試した。
回復魔法や水壁とか。
結果は何も出せなかった。
(帰るか…。)
疲れたし、これ以上の成果が見込めない。
魔力吸収板を荷車に載せていく。新品五枚、ほぼ新品一枚、ぼろぼろ一枚。
期待していた。
練習すれば、魔王の力が扱えて、一人でもリガーナを倒せて、この地獄を、恐怖を終わりに出来るのではないかと。
そこまで甘くはなかった。このままでは勝負にならない。
(なら、予定通り、やるだけだ。)
自分の実力は把握した。
荷車を運びながら、次の行動を決めていく。
翌日。
開館と同時に図書館の中へ。
情報とは、使いこなせれば、個人の戦闘力よりも遥かに頼もしい。
今日は一日、調べものだ。
歴史書を何冊か持って席に着く。
前世との違いを、記憶を頼りに洗い出す。
(一緒だな。だいたい。)
戦争、革命、その勝者。
歴史上のターニングポイントと呼ばれる出来事は、しっかり発生していて、同じ結末を辿っている。
大陸の形も、国も一緒。町の名前も知らないものは、ない。
40年前、魔王と王国の戦いが始まったのも一緒。
俺が生まれた年に爆発した、火山の名前も一緒。
(…!?見つけたぞ、違いを。)
ここ10数年ほど、勇者が魔王を討伐に行っていない。
11代目が最後だ。
12代目勇者が旅立っていない。
前世で、俺を殺したのは14代目勇者とその仲間。
40年間で14人の勇者が旅立っている。
2、3年で旅に出ている計算だろ。そりゃあ前後はするだろうが。
(12代目が旅立てなかった理由はなんだ?)
勇者についての本は、11代目までしかのっていない。
10年前、その前後の年に起こった事を調べていく。
(これだ…。)
12年前の王国で、ある病気が流行ったようだ。
今では治療薬も治癒魔法も存在するが、当時は相当数の死者を出したようだ。
そして、被害者の中に。
(レーラス…。)
12代目勇者の子供の名前だ。いや、本人の名前もある。
12代目勇者は、旅立つ前に病死したのだ。
(ここが、運命の分かれ道となった訳か…。)
変化したのは10数年分。
常識のずれは大きくなさそうだから、そこはいいのだが。
(この違いは、不味い。)
前世で、12代目勇者と13代目勇者は、魔王討伐の旅の道中で、色々と功績を残している。
特に12代目勇者は、あの『マジュイメ』という名の組織を、壊滅させている。
(フフゴケ商会がないのも、ここが原因だ。)
上を向き、目を瞑る。思い出そうと努める。
へ~そうなんだ、大変だな~と聞き流していた勇者パーティーの会話を。
「…なるほどな。」
一つの仮説をたてた。
俺のターゲットである勇者パーティー。
五人の内、四人と深い関わりがある人物がいる。
それがレーラス。流行り病で病死した子供だ。
前世でも短命で、確か13歳で死んだが、それまでに残したものがある。
ディオルは自分の親が魔王だと知らなかった。
だからレーラスと、魔王打倒の約束をして、それを果たす為に、真剣に魔法の修行に打ち込んだはずだ。
つまり、出会う前に死んだのであれば、当然約束もなく、ディオルは魔法の修行を、真面目にやっていないのではないか?
素質はあるし、魔力も高いが、それだけだろう。
俺が使いこなせていないだけではない。元が、かなり弱体化している。
(おそらく、自我が弱いと言うのも、これが関係している…。目標が、無かったんだ。)
サニアもそうだ。
レーラスと、魔王打倒の約束があった。だから強くなった。
ニージュ商会の繁栄だけではない。
レーラスと出会わなかったからこその、性格の変化。
多分、前世より弱いだろう。
14代目勇者の名前はアレストワ。トワと呼ばれていた女だ。
レーラスが死ぬ原因をつくって、その事に負い目を感じ、レーラスに成り代わった。
レーラスとして魔王討伐の旅に行くために強くなった。
つまり、今世では、普通の王国民として暮らしている可能性がある。
(そんな奴を、仲間にするのか?最後に殺す為に?)
頭が痛くなり、机に突っ伏した。
最後の一人は、魔物に遭遇し、レーラスがその魔物を倒したはずだ。
だから、レーラスがいなくて、そのまま魔物に殺されたかもしれない。
(…。)
判明した事実は、俺にとってマイナスだ。
第一目標の達成が、困難になったといっていい。
こちらの戦力ダウンは予想以上。
しかも。
(魔王が、いる。)
倒したという記録もないし、間違いないだろう。
ディオルは4代目の魔王だ。
3代目の魔王は13代目の勇者が倒した。相打ちで。
つまり、今世は、魔王が死んでおらず、ディオルはまだ魔王ではない。
(俺の目的は、生き残る事なんだ。)
第二目標を達成した所で、魔王に殺されては意味がない。
つまり、先に魔王を倒す必要があるという事。
(勝てるのか?俺達は…。)
戦力的に、俺とサニアの二人じゃないか。
魔王城に辿り着けるかも怪しい。
(そもそも一緒に来てくれるのか?)
誘う方法を考えていない訳ではないが、上手く行くかは、分からないぞ。
「ロ~ストン。」
「うわあ!?」
イスから転げ落ちる、なんて事はないが、大声を出してしまった。周りに人がいなくて、本当によかった。
「ご、ごめん。そんなに驚くなんて、思わなくて…。」
「いえ、こちらこそ。サニアさんを驚かせて申し訳ない。」
(こいつ…覚えていろよ…。)
今日のサニアは水色を基調とした長袖。やはり、肩出しの臍出し。
そしてミニスカートだ。
季節は秋の終わりだ。火魔法の使い手は、暑がりなのかもしれない。
「私は調べものですが、サニアさんはなぜ、こちらに?」
「ロストンに、会いに来たの。」
サニアは真面目な顔で言った。心当たりはない。
「ロストン、勇者について、調べてたんだ?」
周りの本を見ながら、聞いてきた。
これは隠すような事ではない。
肯定しようと口を開けた時、サニアは続けた。
「魔王を、倒したいの?」
言葉に詰まる。これは、どうなんだ?
「ええ、倒さねばなりません。」
本心を話す事にする。反応次第では、このまま仲間に誘えるかもしれない。
「そっか…。」
サニアが、隣に腰掛けた。
「ロストン、昨日、魔力吸収板、買ったでしょう?七枚も。
見慣れない眼帯の男が、怪しい動きをしてるって、話題になってた。」
「…。」
「理由を、聞いてもいいかな?」
「買った事ですか?それとも、倒したい理由ですか?」
「両方かな。だって、関係ある事でしょう?」
俯き、目を閉じる。手で顔を覆った。
話すかどうか悩むふりであり、彼女を騙す為のストーリーを、まとめる為だ。
「石を手に入れたんです。」
「石?」
「魔石と呼ばれる物です。魔王の魔力を結晶化した物だとか。」
「…。」
「私は、それを飲み込んでしまったのです。」
「え…?」
「それの影響で、私の魔力は増大しました。
しかしそれが原因で、魔王に命を狙われる事となってしまったのです。」
「待って。その魔石は、どうやって手に入れて、なぜ飲み込んでしまったの?」
「王国にくる途中、行き倒れていた旅人を助けたのです。
魔石は、そのお礼に貰いました。
説明された事を、私は信じていませんでした。
お金を持っていない、男の嘘だと思ったのです。
感謝の気持ちだと思い、受け取ったのです。
そして数日後、魔物に襲われました。
サニアさんもご存じの、あれです。
叫びながら逃げる私は、事故のような形で、魔石を誤飲しました。
当時は混乱して、本当に分かりませんでしたが、今なら、分かります。
あの時の魔物は、私が倒したのです。」
サニアの様子を伺う。
驚いている。しかし、飲み込もうとしてくれている。
(いいぞ。予想通りの反応だ。)
前世よりも、お人好し。しかも、商会の仲間というアドバンテージもある。
こいつは俺の嘘を、信じる。
「でも、だからって、魔王に狙われるなんて…。」
「あの夜。サニアさん達と夕飯を食べた後です。
魔王の手下、魔族を名乗る女に襲撃されました。
なんとか撃退しましたが、その女が言ったのです。
これで終わりではない、と。魔王が生きている限り、私は狙われ続けるのです。」
「…。」
全部が全部嘘という訳でもない。本当は、撃退したかった。
「魔族は、王国に、侵入したの?」
「新たに侵入したのか、元からいたのかは、分かりません。
ひょっとすると魔族は、身近に潜んでいる存在なのかも知れません。」
どこかで読んだ事がある。出所不明の根拠のない話だ。
しかし、そう思っている奴は、少なからずいるという訳で。
この女を納得させられれば、それでいい。
「私は、準備が整い次第、魔王を倒しに行きます。」
「…。」
「魔力吸収板で、力量を確認しました。正直、魔王を倒せる気はしません。
しかし、行かねばなりません。
座して死を待ちたくありませんし、何より、王国にはいられません。
戦火に巻き込みたくないのです。」
個人的には、会心の出来。
これで、同情したサニアが、一緒に行くと言い出せば完璧だ。
まぁ流石に、そこまで上手くはいかないだろう。
でも、後に誘う布石としては、いいんじゃないか?
昨日調べたが、サニアは王国の学校を首席で卒業している。
前世ほどではないが、武術、魔法の実力者だ。
つまり、能力、人柄的に、魔王討伐に行く事が十分あり得る。
しかし、ネックなのはこいつの立場。社長の娘で、おそらく役職持ち。
両親の反対や、仕事の責任は、旅立たない理由となるだろう。
(…。)
無理に押さない、日を改める。
少しずつ、傾けさせるのだ。
魔王と王国の関係や、魔王を倒すメリット、学校首席の責任とかで。
本人の意思が決まっていれば、あの親はきっと、それを尊重する。
出来れば穏便がいいからな。誘拐や脅迫は、最終手段。
どう足掻いても、サニアには来てもらわないとならない。
俺が生き残る為に。
「ロストンに会わせたい人がいる。」
サニアが口を開いた。予想していなかった言葉だ。
「どのような方ですか?」
「勇者。」
存在しているのか?
「…12代目、ですか?」
「そう。」
俺の知っている12代目勇者ではない事は間違いない。
俺の知らない勇者。
いや、13代目勇者の可能性もある。
それに、もしかしたら運命的なものがあって。
(トワが、勇者になっている可能性もあるのか…?)
「私も、是非お会いしたいです。」
流れるように嘘をつく、ロストン。
そうやって、生きてきた男。




