第50話 パラレルワールド~魔王なのだから~
~前回までのロストン~
サニアと遊びながら、復讐の炎を大きくしていく。
でも最後、社長に会って、話を聞いてもらって。
冷静になるにつれて、興奮も収まっていき…。
食事が終わり、話も終わり。
俺はサニア親子と別れた。
星明かりの下、宿舎へ帰る。
(お。)
途中、賭場を見つけた。前世ではよく通ったものだ。
迷わず入る。
(サイコロか。)
遠巻きに観戦する。
ゆるい感じだ。
イカサマ防止には、魔法発動を感知する腕輪を、プレイヤーが着けるだけ。
観戦者はフリー。そして観戦者の賭けはなし。
額も大した事はない。
プロ用ではなく、息抜きの遊びだ。
俺は悠々と勝負の席に座り、財布ごと賭けた。
ギャラリーは沸いた。
(勝算?ある訳がない。完全な運勝負。)
そういう気分なんだよ。
俺は勝った。大喜びさ。
「すげーなおい、おごってくれよ!」
「いつかおごってやるよ、いつかな!」
気安い連中を、適当にあしらって帰路へ。
懐かしい感覚。
そして、俺の意思も決まった。
(俺は、復讐をやめる。)
分かっていたさ。最初から。
あのサニアは別人だ。俺を殺した奴じゃない。
復讐するなんてお門違い。
前世の罪なんて、ここにはない。
あの親子を悲しませたくはない。
(誠心誠意、リガーナに謝罪する。)
リガーナは俺の為に、この世界に転生したのだ。
俺が、復讐したいって言ったから。
リガーナがいなければ、俺はあの時、消えていた。
(だから、残りの人生は、リガーナの為に使おう。)
社長は、『今後の事は、ゆっくり考えるといい』と言ってくれた。
甘える形で悪いが、リガーナのやりたい事次第で、商会員を続けるか、止めるかを決めさせてもらう。
(金も増えた。お礼と謝罪のプレゼントを用意しよう。)
サニアに相談しても、いいかもな。
あいつに似合いそうなアクセサリーを探すんだ。
(問題は、どうやってリガーナに会うか、だな。)
会いにくるとは言っていたが、どうだろう?
しかし、探す方法も思いつかない。待つしかないのか?
「機嫌がいいね、ロストン。いい事あった?」
「!?」
リガーナだ。目の前にいる。渡りに船だ。
「よかった、探してたんだ。話したい事がある。」
嬉しさのあまり、思わず彼女の肩を掴んでしまう。
こうすると、大人と子供だ。
リガーナは小柄で、ディオルは長身だから。
「まずは、ごめん!」
言い方を間違えれば、不快にさせてしまうだろう。
1、復讐をやめた事。
2、リガーナの為に生きる事。
簡潔に、素直に。
そして謝罪と、これからの思いを伝えた。
「改まって、何事かと思ったわ。ロストンは面白いわね。」
リガーナは、クスクス笑う。可愛い。
「何も心配いらないわ。」
許してくれるのか?本当にいい奴だな。
「ロストンは予定通り復讐してね。」
?
言葉の意味が分からなかった。いや、俺が上手く伝えられなかったのか。
「私の為に生きるんでしょう?なら、復讐しよう。」
「いや、俺の事じゃなくて、リガーナの…。」
「私は、ロストンが復讐する所が見たいの。」
やばい、と。俺の中で警鐘が鳴り響く。
サニアと、彼女の両親の顔が浮かぶ。
「いや、それは、その…。」
言葉が見つからず、言いよどんでしまう。
「ロストン。」
「…は?」
俺は上空にいた。
(浮いてる!?)
いや、足は地面についている感じがする。
しかし、見る限り足元に地面はないのだ。
ずっと下の方に、王国の街が見える。
なんらかの魔法。しかし、誰が、何のために!?
「何て顔をしているの?」
目の前にはリガーナ。先程と同じようにクスクス笑う。
今はそれが、たまらなく、怖い。
「復讐、しないの?」
真紅の瞳が見つめてくる。
完全に理解する。俺は今、脅されている。
「…。」
恐怖のあまり舌が回らない。
リガーナは、そんな俺を、心底つまらなそうに見て、トンっと、軽く押してきた。
「!?」
一瞬の、浮遊感。
叫び声をあげる暇もなく、落下する。
(死…。)
ガクンと、衝撃がきて、理解するより早く、俺の身体は落下を止めた。
リガーナに、腕を掴まれたのだ。
腕が千切れていないのも、生きているのもこいつの魔法のおかげだろう。
腕を軽々と引っ張られ、目線を合わせられる。
随分と落下したが、それでもまだ十分高い。
俺の腕を掴む力は強く、痛い。でも、離されたら死ぬ。
全身冷や汗でびしょびしょだ。涙も鼻水も出ている。
「ねえロストン。あの時のあなたは、素敵だったわ。
眩むような怨嗟。全てを蹂躙してやるというギラつき。
他者を顧みず、自分勝手で、身の程をわきまえない欲望。
得体の知れない黒い物を煮込み続けたような何か。
確信した。きっと私に、新しい世界を見せてくれるって。
ときめいたの、あなたに。」
頬を赤らめるリガーナは、こんな場所で、こんな状況で、こんなセリフを言っていなければ、可憐だったに違いない。
「私は見たいわ。
復讐を成し遂げたあなたが、どんな顔をするのか。
前世での英雄達が、どんな断末魔をあげるのか。
ねえ、ロストン。
復讐、しないの?」
最終警告だ。
俺が生きているのは、こいつが、俺に興味を持っているからで。
興味がなくなれば、俺は殺される。
飽きた玩具を捨てるように、手を離されて、地面に叩きつけられるのだ。
この恐怖に勝てる心など、存在するわけないだろう。
「や、やるよ、復讐。あいつら、みんなころすよ。」
涙まみれの引きつった笑い。無様でいい。死にたくない。
「本当!嬉しいわ。」
大輪の花が咲くような、リガーナの笑顔。
「提案があるの!
ロストンは魔王討伐の旅に出るのよ。当然、ターゲットも連れてね。
一緒に旅をして、絆を育むの!
そして旅の最後、いよいよ魔王を倒すぞって時が、チャンスよ!
あと少しで目標に手が届く、そんな時に、信頼していた仲間に裏切られる訳よ!
どうしてって聞いてくる、瀕死の奴らの頭を思い切り蹴りつけてやりましょう。
そして、ネタばらしよ!
騙されちゃって、バカじゃないの~って笑うの。
その後で、恨みつらみを聞きながら、首を落として回りましょう。
その絶望の顔をもって、めでたく復讐完遂よ!」
女はまるで、パーティーの催し物を決めるように、楽しそうに。
「魔王を倒した後でもよさそうだけど、ターゲットが魔王に殺されちゃったら、つまらないじゃない?
そもそも前世で魔王だった奴、今あなたじゃない?
この世界に魔王がいるか、分かんないのよね。
課題だわ。調べといてねロストン。」
(ああ、そうだ。忘れていた。)
ちゃんと自分で言っていた。それをしっかり聞いたじゃないか。
(こいつは魔王。だからきっと、人々が苦しむ様が大好きなんだ。)
地面が徐々に近づいてくる。
「じゃあね、また後で会いましょう。」
最後は捨てられるように開放された。
(…。)
リガーナの姿が見えなくなってから、のろのろと起き上がる。
もう腕の感覚なんてない。見た感じ、まだついているようだが。
(…!)
吐いた。その場で。
夕食に食べた、うまい肉、魚、果物、酒、全部。
ご馳走してくれた社長の顔を思い出す。
(…ちょうどいい。もう、俺には、受け取る資格がない。)
あんたの愛娘を、俺は殺さないといけなくなった。
(そうしないと、殺されるんだ。)
壁伝いに歩き出す。
汚してしまって悪いと思うが、片付ける余裕はない。
眩暈がして、何度かかがむ。
時間をかけて、ようやく、宿舎の自分が借りた部屋に到着した。
誰にも会わずにこれて、幸いだった。きっと酷い状態だから。
ベッドに倒れこみたいが、我慢して風呂場へ。
王国一の商会の宿舎は、個室にちゃんとついている。
服を乱暴に脱いで、シャワーを出す。
そして座り込んだ。
(死にたくねえ。死にたくねえんだ。)
リガーナの顔が浮かぶ。逃げられる訳がない。
どこまでも追いかけてきて、楽しそうに嬲り殺すに決まっている。
また吐き気がしたが、大丈夫だ。出すものがない。
(従うしか…ない。)
魔王討伐の旅だったか。
魔王について調べて、勇者について調べて、そして勇者の仲間になって…。
(勇、者…?)
リガーナは、俺の敵う相手ではない。
しかし、勇者ならば?
前世で魔王に勝った奴ならば、リガーナにも勝てるのでは?
(…。)
俺は、シャワーを止めた。
「フ、フフフ、ははは。」
リガーナはこの後、どうするつもりなのだろう?
こっそり監視するかもしれないし、魔王城で待ち構えているかもしれない。
「安心しろよ…指示にはちゃんと従うさ…。」
俺は、勇者達と共に、魔王城を目指す。
(しかし、そこで倒すべきは…。)
「旅をして…絆を育む…だったか。」
勇者達の実力は、しっかり見極めないといけない。
リガーナに挑むのは、勝算がある時だ。
(勝算なし、と判断すれば…。)
「死んでたまるか…殺されてたまるか…。」
(第一目標は、魔王クリガナン。)
勇者達と共に、リガーナを殺す。
そして、それが叶わぬ時は、
(第二目標は、勇者達だ。)
リガーナの望み通りに動き、俺の命は見逃してもらう。
無様でも、不義理でも。
この世界で生き残る為に。
ロストンは、カッコイイ主人公ではありません。
生き残るのに必死、という理由はありますが、マイナス面も多いキャラです。
そんな彼はこのまま転落するのか、それとも変化があるのかが、第二章の本筋です。
イメージは、ジェットコースター。ひょっとしたらお化け屋敷。




