第49話 パラレルワールド~満喫~
~前回までのロストン~
転生したら、ディオルだった。
いきなりのピンチをなんとか乗り切り、リガーナと合流。
しかし今度は、王国兵に捕まってしまう。リガーナは一人で逃げた。
それほど掛からず王国の門が見えてくる。
門の内側の小さな小屋。
防具を外され、縄で縛られ、イスに座らされる。
魔法も使えない、そういう縄なのだろう。
対面に一人の兵士が座っている。
その背後に二人、出入口前に一人。
(なかなか厳重な体制じゃないか。心配するな。
こんな状態じゃ、誰もいなくても逃げらんねえよ。)
対面の兵士が口を開ける。
「あたなは、なぜ、あの場所にいたのですか?」
敬語、そして穏やかな口調だ。
(こっちを安心させるつもりか?
安心させた所を、デカい声で脅すつもりか?
この場所でその笑顔。すでに十分こええから、安心しろよ。)
馬車の中にいる間に、言うべきことは考えてある。
シミュレーションはしてあるんだ。
「魔物に襲われたんだ!仲間はみんな殺された!
俺はあそこに隠れていたんだ!」
バンっと机が叩きつけられる。兵士の表情が豹変した。
「その魔物はどうした?周辺にいない事は確認済みだ。」
「知らない!デカい狼みたいな魔物で、俺は真っ先に逃げたんだ!」
「お前の身に着けていた防具は、ある商会が王国に送った物だ!
なぜお前が身に着けている?」
「しばらくしたから様子を見に戻った!そしたらみんな死んでいた!
魔物が近くにいるかもしれないから、武装した!
落ち着く為に飲み物を飲んだ!そこに、あんた達がきた!」
「ずいぶん冷静に動けたじゃないか!
まるで考えていたセリフを喋っているようだぞ?」
「あんな惨状を俺一人で作れるはずがない!」
「魔法に長けた者が複数人いれば可能だろう!」
「俺はニージュ商会のロストンだ!荷物を運んできたのは俺達だ!」
「ならお前が手引きすれば、強盗犯は労せず襲撃を完遂出来るな!」
「…。」
やっちまった。
取り乱した被害者で乗り切ろうとしたが、失敗だ。
連中の中で、俺は最初から【捕まったら被害者のふりをして逃げる】作戦を実行中の、強盗犯の一味。対応を、間違えた。
(長ければ数か月、拘束か。)
存在しない強盗犯が捕まる事はない。
相手は王国の兵士。殺されたりはしないだろう。
(…この世界の王国の治安が終わっていない事を願おう。)
最悪は、ロストンの顔を知る者が現れる事だが、それでも嘘が一つ増えるだけか。ごめんなさいと謝ろう。
俺は観念する。自由なら、両手を上げていたことだろう。
(せめて飯が不味くありませんように。)
目を瞑り、沈黙する。
その時、扉が開いた。
息を切らしながら、誰か入ってくる。
(リガーナ?)
助けがきたのかと思った。しかし、違う。
(…おい、マジかよ…。)
その顔に、見覚えがある。ミニスカートから伸びる生足にも。
記憶と違い長髪だが、薄水色の髪色は一緒。
(サニアじゃねーか。)
前世で俺を殺した、俺の復讐相手。
サニアは俺の前まで歩いてくる。
そして目線をあわせるようにかがむ。
「あなたの名前を、教えて。」
「ロストンだ。」
目をそらさずに言う。嘘じゃないからな。
「合言葉は?」
「太陽村は今日もほっこり平和です。」
サニアは俺の対面の兵士に耳打ちすると、ドア近くまで行き内緒話を始めた。
馬車はニージュ商会の物だった。
だから今世のロストンも、前世の俺と同様にそこの商会員だと分かっていた。
ニージュ商会は、出発時に合言葉を決めて、到着時に確認する。
伝書鳥でやり取りするんだ。無事辿り着いたかは、魔法で分かる。
そして俺は、長旅で合言葉を忘れてしまった時の為に、御者席のある場所にメモを残す。
もちろん非推奨な行為だが、世界が変わっても、俺の考えは一緒だった。
(まあこいつらは、俺をロストンと信じた上で、強盗犯の一味だと思っている訳だが。)
それから俺は、一、二分で開放された。
あっさりと。
(どうなってやがる?この世界のサニアは、王国に影響力を持っているのか?)
混乱する俺の手を、サニアは握った。
「怖い思いをさせてごめん。でも、ロストンが無事で本当によかった。
荷物は気にしないでいいからね。
立派な宿舎があるの。とにかく今は、ゆっくり休んで。」
サニアは微笑んで、俺の手を引き、歩き出す。
「…。」
俺の頭は、フル回転している。現状を理解する為に。
まずは、サニアについてだ。
前世で、この女は立場のある人物ではない。
勇者パーティーの一人であるが、それだけだ。
その前はパン屋の店員のはずだしな。
父親はニージュ商会の社長。しかし縁は切れているから、無関係。
俺の友達にこの女に惚れている奴がいて、そいつがぺらぺらと喋ってきたのを覚えている。
ストーカーっぽいから止めろと言って止めさせた訳だが。
(もし続けさせていたら、サニアが勇者パーティーという情報も掴めて、別のアプローチ方法がとれたなら、俺達の結末は変わっただろうか。)
今更だ。第一、王国に行った以降の情報を掴むのは難儀だろう。
「…サニアさん、お父様は、お元気で?」
これはジャブ。俺の仮説を補強する為の。
「え、パパ?
もちろん元気よ。パパもロストンの事、心配してたから、後で顔を出すと思うわ。」
(前世では七年前にニージュ商会は王国から撤退している。)
俺の仮説はこうだ。
今、王国内でニージュ商会は、大きく成長している。
立派な宿舎を持ち、社長も、後で顔を出せる距離、つまり王国内にいる。
だからロストンは、王国に荷物を運んでいたのだ。
サニアも商会の一員だ。合言葉を知っていたし。
しかも、偉い立場だ。王国兵を黙らせるくらいには。
(…。)
同じ商会員の仲間だから、サニアは俺の無事を喜んだ。
怖がらせないよう微笑んだし、明らかに高価な商品をダメにしたが、気にしなくてよいと言った。
死にかけたロストンへの心遣い。
(でもな?こんなのでちゃらに出来るほど、前世の恨みは弱くないのさ。)
だから、その対応を友好的に受け取らない。
(お前は、大事な商会員の仲間の顔を知らないようだな。
会った事がないのか、興味がなくて忘れたのか知らないが、まったく白々しい。
お前が心配しているやつは、ちょっと前に魔物に殺されたぜ。)
怒りが沸いてくる。
こいつのこの、綺麗な偽善者の顔をぐちゃぐちゃにしてやりたくなる。
復讐が、その時が楽しみになった。
俺が、密かに醜悪な笑みで盛り上がっていると、宿舎に到着した。
確かにデカい。前世の、俺がいた町の宿舎も立派だったが、それ以上だ。
「またね、ロストン。何かあれば、気軽に声をかけてね。」
社交辞令だろう、しかし口にしたのは事実。遠慮などするものか。
さっそく気軽に声をかけさせてもらおう。
「サニアさん、この街を、王国を案内してもらえませんか?」
きょとんとするサニア。
まだ日中、仕事もあるだろう。
ちょっと困らせてやりたくなった、軽い嫌がらせだ。
しかしこの女は、
「私に任せて!素敵なお店に案内するわ。」
満面の笑顔で、そう答えた。
(仕事が溜まっていなかったか…。)
目論見は外れたが、それならそれで好都合だ。
情報は大事で、リガーナにも調べるように言われている。
存分に利用させてもらおう。
サニアに先導され、いくつもの店を回っていく。
俺はその商品を注意深く観察する。
(やはりな。)
フフゴケ商会の商品がない。一つも。
前世では、王国一番の商会と言えば、フフゴケ商会。
フフゴケ商会の台頭によりニージュ商会は王国から撤退したのだ。
つまり、フフゴケ商会が台頭していないのであれば、当然、撤退する事はなく。
(現状のようになるという訳だ。なるほどな。)
リガーナの言っていた、俺の復讐相手の情報。
二人、見当たらないと言う話だった。
勇者パーティー五人の内、二人は、フフゴケ商会の人間だ。
フフゴケ商会が存在しないのであれば、王国にいなくても納得する。
確定ではないが、ほぼ間違いのない推測。
(ターゲットは、勇者とこいつか。)
楽しそうに俺を連れまわす、サニアを見る。
(…。)
ここまで一緒にいて、気づいた事がある。
何というか、イメージと違う。
前世のこいつは、今日あったばかりの奴に、ここまで気を許す事はない。
負けず嫌い。先陣を切り敵に挑む。そういう男らしいカッコよさがあった。
しかし、今のこいつは【世間知らずで好奇心の強い箱入り娘】だ。
こちらの様子を、ちらちらと伺ってくる。
しかし珍しい物を見つけると、俺の事を放置してはしゃぐのだ。
よく顔を動かすから、その度に髪が広がり、いい匂いがする。
(…。)
これは、前世でも思った事だが、ぶっちゃけ、いい身体だ。むちっとしていて好み。
しかし、こんなに胸部はデカかっただろうか。大きくなっているかもしれない。
服装も大分エロい。
相変わらずの生足ミニスカートだ。ロングブーツもグローブも高そうなやつ。
上は、やや袖の短い長袖で、臍は見えそうだし、肩も出ている。
白を基調にフリルもついた、可愛らしい服。
しかし、ゆったりというよりは、ぴっちりだ。ボディラインが分かってしまう。
エロい世話係みたいのがいて、言われるがまま着たのではないか?
それにしても幸せそうに、のほほんとしやがって。
柔らかそうな腹を蹴り飛ばし、うずくまる奴の髪を引っ張り、顔を泥水に突っ込んでやれば、どんな反応をするのか。
大事に育てられた綺麗な花を踏みにじるような、そんな背徳感で興奮する。
自分がろくでもない小物だと自覚しているし、相手は人殺しの偽善者なんだから、これぐらいは、いいだろう?
そんなこんなで日が暮れて。
高そうな店で、夕食だ。ご馳走してくれるらしい。
「君が、ロストン君かな?」
楽しみに料理を待っていたら、声をかけられた。
(社長、だと!?)
顔は知っている。たまに朝礼で挨拶をしに来てたから。
話をした事はない。この社長も、俺の顔は知らないみたいだ。
慌てて返事をし、立ち上がろうとする俺。
それを制し、社長は対面に座った。
(社長夫人まで一緒じゃねーか。
離婚されなかったんですね、幸せそうでいいですね!)
サニアは両親と楽しく会話をしている。こいつがここに呼んだのだ。
(社長と一緒で楽しい訳がないだろう!何考えてやがる、この女!
楽しみだったのに…もう味なんて分かんねーよ。)
緊張している俺に、社長は話しかけてくる。
今回の旅路を労われ、謝罪される。
それは俺には関係のない事で、当たり障りのない返事をする。
普段の仕事の様子を聞かれた。
考えるまでもない。ボロが出るだけだ。ここも適当に誤魔化す場面だ。
(…。)
前世で、俺が死んで仲間が捕まった後、俺達の悪行含め、この男に伝わった事だろう。
『何て事をしてくれたんだ。こんな連中雇うんじゃなかった。』
『全員死んでくれ。この無能どもが。』
何て事を思っただろう。その通りだよ。
(でも、それだけじゃ、ないんだよ。)
俺は、前世での俺達の仕事ぶりを伝えた。
もちろん密売云々は言わない。こっちでやってるか知らないし。
怪しまれるとか、バレるとか、そんな事はもういい。
俺達の頑張りを、知ってほしかった。
いつの間にか料理が運ばれてきて、酒も出てきて、社長は今、隣にいる。
俺の話を聞いてくれている。肩を叩いてくれる。
俺の仲間を、凄いと言ってくれた。
社交辞令だろ、知ってるよ。それでも俺は泣いた。
口に入れた肉は、美味かった。
転生初日は、まだ続きます。




