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継承英雄譚、担々  作者: シロクロゲンヤク
第一章 勇者レーラスの魔王討伐記
5/81

第4話 仲間~試験~

~前回までのガットル~


勇者の仲間になりたい!

ドラゴンを倒せば仲間になれる!?

………一番いいのを頼む。


引き続き、21歳のお姉さんと装備選びを続けます。

 (ふっ!)


 倉庫の前で剣を振るう。


 今使っているのは商会で支給される実剣。

 そう、骸骨との闘いで粉々になったものと同じやつだ。

 

「ガットル君は、色黒ってわけでもないけど、結構濃い肌の色だしね。

 髪の毛も赤紫のしっかりした色だから、全体的に白っぽくまとめました。」

 

 クレスタはイスに腰掛け、装備の解説をしてくれるようだ。

 

「今着けてる装備は、退治屋の初心者にお勧めしてるやつだね。

 値段も重さも軽め、ちょっとした攻撃なら、ちゃんと防げる。

 関節等の衝撃を和らげる効果もあるから、

 多少無茶な動きをしても、大怪我にはならない。」

 

 確かに、いつもより剣が振りやすい、気がする。

 

「もちろん欠点はある。

 想定は小型の魔物との戦闘。

 つまり大型の魔物相手だと、防御面は無いに等しいわ。

 もし遭遇したら、武器小手脛あて胸当て額あて全部捨てて、その紫の強化服だけで逃げるのが、一番生存率が高いかなぁ。

 小型の魔物とだって、毎日戦ってたら長持ちはしない。

 こまめにメンテして、それでも人によっては二週間くらいで交換ね。そろそろ疲れた?」

 

「まだまだ余裕だ。」

 

「OK。少し重いのと変えるね。あと次はちょっと走ってみようか?あの辺まで。」

 

 装備を取り換え、動き周り、また換える。

 

 途中休憩をはさみつつ、あっという間に昼時になる。

 

 (この弁当うめぇ…。)

 

 フフゴケ商会は食品や薬品も取り扱っているようで、品質もなかなかのようだ。

 とても売れ残りの廃棄予定物とは思えない。

 

「しっかり食べて午後も頑張るのだぞ~。」

 

 先に食べ終わっているクレスタが段ボールを持ってくる。

 

 中身は先程貰った体力回復用ドリンクだろう。


 あまりの効果に恐怖を覚えた。

 てか、ラベルに連続使用禁止と書かれていた気がするが、いや、これ以上考えてはいけない。

 

「ガットル君やるねぇ。コソ練してたのは伊達じゃないね。」

 

 近くに座ったクレスタが話しかけてくる。

 

 (まったく、どこで何を知ったのか。)

「言ってくれるのは嬉しいが、まだまだだろ。

 俺が骸骨1体倒す間に、勇者は15体倒す。」

 

「え~、どんな計算よ。」

 

 クレスタはケラケラ笑っている。

 

 悪気は無いのだろうが、少しイラっとするな。

 悔しい事実なのだから、あまり口にさせないでほしい。

 

「昨日そうだった。」

 

「そんなイベントが!?」

 

 クレスタは目をまん丸にし、両手をあげて驚く。


 そんなコミカルなリアクションをした後、少し佇まいを直した。

 

「昨日という事は、ガットル君は配送用の制服に、支給品の剣。

 対してレーラスは、完全武装。でしょ?」

 

 雰囲気が仕事モードだ。俺は頷く。

 

「レーラスは小柄で華奢だけど、実は剛剣。

 一撃で防御ごと叩き斬るような戦い方が得意でね。

 踏み込みの力の補助と強化が求められたわけ。

 レーラスは魔法も得意でね。

 サニアちゃんは瞬間火力おばけだけど、レーラスはコントロールがうまい。

 だからレーラスには魔力伝導式装備、通称、魔装具を用意したの。

 しかも、商会で頑張って作った特注品よ。」

 

 クレスタが飲み物を口にする。

 それは体力回復用ドリンク(連続使用禁止)に見えたが、気にしない。

 

「まず足装備ね。風魔法の力で、瞬間的なスピードはすごいよ。

 少ない魔力消費で爆発的な効果を出し、それにより発生しうる自身へのダメージを殺す。

 商会で一番の高額商品になったわ。」

 

 クレスタは自嘲気味に笑う。

 

「もろもろの要因で大赤字をたたき出した忘れられない一品。」

 遠い目でボソッとそんなことも言う。

 

「小手も魔装具。これ面白くてね。強い衝撃を受けると爆発するの。

 もちろん自身にはダメージがいかないようにしてある。

 想定は獣型の魔物に噛みつかれた時とか、人型の魔物の武器攻撃とか。

 追撃を避けられるし、うまくいけば相手は体制を崩すから、その隙にズバッとね。

 構造上一回限りだけど、調整すれば、また使えるから。

 一戦闘につき一回使えるわ。

 だいたいこのコンセプトの物は失敗するんだけど、珍しく実践可能な所までいけた代物よ。」

 

 再び自嘲気味に笑うクレスタ。

 

「維持コストが笑えない、今でも戦々恐々としている一品。」

 遠い目でボソッとそんなことも言う。

 

「額当てと胸当ては普通ね。

 限界まで軽量化して、その上で限界まで強度をあげたやつ。」

 

 額当てしてたかな。前髪が長すぎて見えなかっただけか?

 

「剣とマントは王国からの贈呈品。

 マントは火とか、魔法を防ぐとかなんとか言ってたかな。」

 

 自商会の物以外、いや、自分が開発に関わった物以外は興味がない疑惑があるな。

 

「伝わった?」

 

「…レーラスが骸骨を圧倒したのは、装備の力も関係している?」

 

「そ~ゆ~事。」

 

 クレスタが、掌サイズの何かの機械を取り出す。

 

「これ、魔力測定器。右手だして。」

 

 従う。

 クレスタは、吸盤みたいのを俺の右手にくっつけて、機械をカチカチ操作する。

 

「ガットル君。」

 

 クレスタがまた、にかっと笑う。

 

「ここからは魔装具を試そうか。」

「よろしくお願いします。」

 

 残りの弁当を口の中に放り込んだ。

 

 

 

 日が沈み、星が見え始めた。

 

「前提として、今までの努力あってこそだからね。

 レーラスも、ガットル君も。」

 

 剣を掲げる。俺が片手で振り回すのに適した重さ。その中で最も堅い物。


 右手と両足の防具は関節保護と衝撃吸収に特化させている。


 胸当てはレーラスと同じ種類のやつだ。大きさと重さと硬さが上らしい。

 

 頭部は額当てをせず、ある機械を縫い付けた鉢巻き。

 何でも魔力運用効率を上昇させる試作品らしい。


 効果がどうかは、これから分かる。

 

 一番の特徴は左腕。俺の装備の中で唯一の魔装具だ。


 右手と比べて一回り大きい小手。

 そこにくっつくような形で、盾がついている。

 腰を落として横向きになれば、全身を隠せるくらいにはデカい。

 

 当然重い訳だが、そこは魔装具。

 原理は分からないが、魔力をしっかり通す事で軽く感じる。余裕で振り回せる。

 

 小手盾併せて、アサルトフローという名前らしい。

 攻撃にも防御にも使える機能がある。

 

 防具の下は紫色の強化服。最初に渡されたのと同じ物。

 汗だくになり何度か着替えたが、着心地はこれが一番好きだ。

 

 掲げた剣を十字に振り、鞘に戻す。

 今日幾度となく聞いた風切り音が、心地よく聞こえる。

 

「昨日の君より数段強い。もう立派な戦士だよ。」

 

 クレスタと握手した。本当によく、最後まで付き合ってくれた。

 

「ありがとう。」

 

 心からの言葉だった。今度は受け取ってくれるだろう。

 

 クレスタはまた、にかっと笑う。

「頼りにしてるよ。よろしく、債務者君。」

 

 今日は何も考えずにさっさと寝よう。

 

 

 

 疲れていたせいか、爆睡した。

 

 しかし寝過ごすなんて事はなく、むしろ予定時間より早く、集合場所に到着する。

 

 そこにはすでにサニアがいた。

 

「おはようございます。」

 

「…おはよう。」

 

 気まずい。一昨日の別れ際の事もあり、話題をふりにくい。

 

「君…。」

 

「…はい。」

 

 先に口を開いたのはサニアだ。身構えてしまう。

 

「雰囲気変わったね。」

 

 一言、そして柔らかく笑う。

 

「ああ。見ていてくれ。」

 

 俺は力強く頷いた。

 

 

 

 程なくして、五人揃う。クレスタも今日は遅刻しない。

 

 簡単な自己紹介を終えると、風鳴洞窟に向けて出発する。

 

 数時間、商会の馬車に揺られ、王国の関所みたいな場所に着く。

 

 立ち入り禁止の門を越え、ここからは登山。傾斜の関係で徒歩だ。

 

 (まだ信じられない。半日でこれる場所に、ドラゴンがいるなんて。)

 

 魔物も出るとの事で、警戒しながら進む。当然口数は少ない。

 

 (…なるほどな。)

 

 昨日クレスタから説明を受け、且つ、自分でも多くの武具を見た。

 

 その上で、勇者やサニアの格好を見ると、用途が解る。

 ちょっと楽しい。

 

 (クレスタは…。)

 

 今日のクレスタは、もちろん作業服ではない。

 

 (確か、あれは、迷彩。)

 

 長袖長ズボン。目深にかぶった帽子。緑やら黄色やら茶色やらの色彩。

 

 肩掛けにびっしりついている物の正体は分からないが、草のように見える。

 今は目立っているが、洞窟内だと岩にこびりついた苔に見えるかもしれない。

 

 肩に下げたバックは服と同じ色。パンパンに見える。何が入っているか知りたいような、知りたくないような。

 

 両手に黒の長手袋。腕輪のような物も着けているようだが、効果は分からない。

 

 防具らしい防具は見えない。簡単なものを中に着けているかもしれないが、前線で戦う格好ではない。

 

 (遠距離で戦うタイプか。)

 

 勇者、サニアが近距離で、俺も近~中距離だしな。

 

 (ん?)

 

 違和感。クレスタに。

 

 なんか、服に切れ込み入ってないか。しかも複数個所。まて、今見えたのは…。

 

 (話題を変えよう。)

 

 ディオルを見る。

 

 一昨日と同じ全身を覆い隠すローブ姿。

 見ただけではローブの効果も、ローブの下がどうなっているかも分からなかった。

 

 (わかる事といえば…。)

 

 一昨日は気にしなかったが、かなりの長身だ。

 五人の中では一番だろう。

 

 背の高さは、ディオル、俺、クレスタ、勇者、サニアかな。

 

 いや、勇者よりサニアの方が大きいか?

 

 改めてみると、勇者は毛量がすごい。

 その所為で、ぱっと見は勇者がサニアより大きく見える。

 まさかこれは、華奢な体を少しでも大きく見せるために、髪の毛を伸ばしているのでは!?

 

 絵本でみた、百獣の王の鬣のように。威厳を保つ為に。

 

 (勇者って大変だな…。)

 

「でも、私のほうがガットル君より背が高いんじゃない?」

 

 (!?)

 

 いつの間にか近くにいたクレスタがそんな事をいう。

 

「いやいや、そんなわけ。」

 ないよな?

 

「そうかなぁ。」

 

 手をひらひらさせて離れていくクレスタ。

 

 確かに、クレスタは長身だと思う。足が長いのだ。

 しかし、俺とて同い年の男の中では背が高い。はずだ。

 

 さすがに、さすがにねぇ。

 

 ここには第三者が三人もいる。

 今、後ろで欠伸をしたディオルに聞いてみればいいのだ。

 俺とクレスタどっちの背が高いのかを。

 

 大丈夫。俺は負けない。自信もある。

 

 (…。)

 

 しかし、俺は確認することが出来なかった。こわかった。

 

 

 

 風鳴洞窟前に到着した。幸いな事にここまで魔物は出ていない。

 

 入口は狭い。ドラゴンはもちろん、人間も利用していないのだろう。

 出入り主は、小型の動物や魔物だと思う。

 

「風鳴洞窟に人間はまず入らない。つまり情報はほぼ無い。

 構造、広さ、生息する動植物、魔物の出現の有無も不明。

 おとぎ話だと横穴が多く、至る所から風の音が聞こえるとある。

 それだけだな。」

 

 ディオルが抑揚のない感じで、簡単な状況説明をする。

 

 そして勇者見る。発言を待っているのだろう。

 俺も勇者の方をみる。

 

「まずはドラゴンを見つけよう。」

 

 あの、手を差し伸べてくれた時と同じような、穏やかで優しい声色だった。

 

「見つけたら、倒そう。」

 

 勇者はそういうと洞窟に潜っていった。

 すかさずサニアがついていく。

 

 一拍遅れて、クレスタ、俺、ディオルと続く。

 

 クレスタがランタンの明かりを付ける。これも商会の商品だ。

 

「見つけたら、まずは散開。

 固まっているとブレスで一網打尽にされる可能性が高い。」

 

 ディオルの声が聞こえる。

 

 振り返ると、ぼそぼそと小声で喋っている。

 しかし、くっきり聞こえたし、何なら前の方のサニアも小さく頷いている。

 

 (何かの魔法か?)

 

 クレスタが得意げに指を振っているのが見える。

 そして首元を指さしている。見ろ、という感じか。

 

 (何か、縫い付けられているな。)

 

「フフゴケ商会の新商品の通信機。

 離れた相手と小声でも会話が可能な優れもの。

 ただ、見えなくなるくらい離れたら無理です。」

 

 本当に知らない商品が多い。

 

 (入りたての頃は、全商品を言えたんだけどなあ…。)

 

 逆に言えば、あの頃の俺でも全商品を言えるくらいしかなかった。

 いつからだろう。フフゴケ商会が、ここまで大きくなったのは。

 

「見つけたよ。」

 

 (早!?)

 

 勇者の声が聞こえて緊張が走る。

 そもそも勇者は何処だ。姿が見えない。

 

「早いし、速いな!」

 

「大丈夫。声が聞こえる範囲にはいるよ。」

 

 クレスタの言った通り、割とすぐ発見出来た。

 極端に広くなった場所。その巨大な空洞の物陰に勇者はいた。

 

「寝ているみたいだね。」

 

 各々それぞれ物陰に隠れて様子をみる。

 

 (あれが…ドラゴン…。)

 

 デカい。それこそ商会の倉庫よりも。

 

 光沢を放つ緑の鱗は一枚一枚が頑強な盾に見える。

 

 折りたたまれてなお存在感があるあの翼は、広げただけで、洞窟その物が崩れるのではないか、という予感さえする。

 

 今は閉じられているあの瞳は、俺より大きそうなあの瞳に睨まれたら、それだけで、人は死ぬのでは?

 

 (怖い…。)

 

 しかし、それでも。

 

 剣の柄を持つ手に力を込める。

 震えている。武者震いさ。

 

 (ここで逃げ出したくはない。)

 

「さて、思わぬチャンスとなった訳だが。」

 

 俺が覚悟を固めた所でディオルの声が聞こえた。

 

「何か、策はあるか?

 プランAとして、遠距離魔法で先制する、を出しておこう。」

 

「プランB!今のうちに回りに罠をばら撒く。」

 クレスタだ。

 

「プランC。今のうちに、こっそり近づいて目を潰す。」

 サニアは物騒だ。でも俺も同意見かな。

 

「プランⅮ。名乗りたいから、起こしていいかな?」

 勇者は何を言ってんだ?

 

「思いのほか沢山でたな。どうする?多数決でも取るか?」

 

 ディオルが言い終わるかどうか、というタイミングで、ドラゴンの瞼が動いた気がした。

 

「どうやら段取りが悪かったらしい。」

「散って!!」

 

 ディオルの間の抜けた声か、サニアの空洞中に響く声か、それとも大地を揺るがすドラゴンの咆哮か。

 

 それを合図に、俺達は物陰から出て駆け出した。

 

 ドラゴンの口から炎が噴き出す。ブレスだ。

 敵はそれを薙ぎ払い、俺達のいた場所は炎に包まれる。

 

 (!?)

 

 みんなの姿を見失う。

 

 いや、勇者を見つけた。何かを叫んでいるようだが聞きとれない。

 ドラゴンに対して突っ込んで行く。

 

 サニアが飛び出して、勇者の横に追従する。

 

 その横を高速で追い抜いていく物体が、二つ。

 魔法攻撃。おそらく、ディオルとクレスタの。

 

 (みんな流石だな。)

 

 俺は、高くジャンプしていた。

 

 それでブレスを避けた。

 俺の魔装具アサルトフローは、短時間だが、空中移動が出来る。

 

 (ふっ!)

 

 魔力を込める。

 

 アサルトフローの盾の先端部が、正確にはその中に仕込まれている物が、爆発し、それを推進力に急降下する。

 

 眼下では勇者の剣とドラゴンの爪が激突し、火花を散らした。

 

 勇者の一撃は、この巨大なドラゴンに、全く引けを取らなかった。

 

 (あの人達についていくんだ!)

 

「おおぉぉ!!」

 

 狙いは奴の瞳だ。

 気合の雄たけびとともに、全力で剣を振り下ろした!


長々と装備について書きましたが、重要なのはアサルトフローだけです。

真剣に選んでいるんだよ~って雰囲気だけ感じてもらえたら嬉しいです。

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