第4話 仲間~試験~
~前回までのガットル~
勇者の仲間になりたい!
ドラゴンを倒せば仲間になれる!?
………一番いいのを頼む。
引き続き、21歳のお姉さんと装備選びを続けます。
(ふっ!)
倉庫の前で剣を振るう。
今使っているのは商会で支給される実剣。
そう、骸骨との闘いで粉々になったものと同じやつだ。
「ガットル君は、色黒ってわけでもないけど、結構濃い肌の色だしね。
髪の毛も赤紫のしっかりした色だから、全体的に白っぽくまとめました。」
クレスタはイスに腰掛け、装備の解説をしてくれるようだ。
「今着けてる装備は、退治屋の初心者にお勧めしてるやつだね。
値段も重さも軽め、ちょっとした攻撃なら、ちゃんと防げる。
関節等の衝撃を和らげる効果もあるから、
多少無茶な動きをしても、大怪我にはならない。」
確かに、いつもより剣が振りやすい、気がする。
「もちろん欠点はある。
想定は小型の魔物との戦闘。
つまり大型の魔物相手だと、防御面は無いに等しいわ。
もし遭遇したら、武器小手脛あて胸当て額あて全部捨てて、その紫の強化服だけで逃げるのが、一番生存率が高いかなぁ。
小型の魔物とだって、毎日戦ってたら長持ちはしない。
こまめにメンテして、それでも人によっては二週間くらいで交換ね。そろそろ疲れた?」
「まだまだ余裕だ。」
「OK。少し重いのと変えるね。あと次はちょっと走ってみようか?あの辺まで。」
装備を取り換え、動き周り、また換える。
途中休憩をはさみつつ、あっという間に昼時になる。
(この弁当うめぇ…。)
フフゴケ商会は食品や薬品も取り扱っているようで、品質もなかなかのようだ。
とても売れ残りの廃棄予定物とは思えない。
「しっかり食べて午後も頑張るのだぞ~。」
先に食べ終わっているクレスタが段ボールを持ってくる。
中身は先程貰った体力回復用ドリンクだろう。
あまりの効果に恐怖を覚えた。
てか、ラベルに連続使用禁止と書かれていた気がするが、いや、これ以上考えてはいけない。
「ガットル君やるねぇ。コソ練してたのは伊達じゃないね。」
近くに座ったクレスタが話しかけてくる。
(まったく、どこで何を知ったのか。)
「言ってくれるのは嬉しいが、まだまだだろ。
俺が骸骨1体倒す間に、勇者は15体倒す。」
「え~、どんな計算よ。」
クレスタはケラケラ笑っている。
悪気は無いのだろうが、少しイラっとするな。
悔しい事実なのだから、あまり口にさせないでほしい。
「昨日そうだった。」
「そんなイベントが!?」
クレスタは目をまん丸にし、両手をあげて驚く。
そんなコミカルなリアクションをした後、少し佇まいを直した。
「昨日という事は、ガットル君は配送用の制服に、支給品の剣。
対してレーラスは、完全武装。でしょ?」
雰囲気が仕事モードだ。俺は頷く。
「レーラスは小柄で華奢だけど、実は剛剣。
一撃で防御ごと叩き斬るような戦い方が得意でね。
踏み込みの力の補助と強化が求められたわけ。
レーラスは魔法も得意でね。
サニアちゃんは瞬間火力おばけだけど、レーラスはコントロールがうまい。
だからレーラスには魔力伝導式装備、通称、魔装具を用意したの。
しかも、商会で頑張って作った特注品よ。」
クレスタが飲み物を口にする。
それは体力回復用ドリンク(連続使用禁止)に見えたが、気にしない。
「まず足装備ね。風魔法の力で、瞬間的なスピードはすごいよ。
少ない魔力消費で爆発的な効果を出し、それにより発生しうる自身へのダメージを殺す。
商会で一番の高額商品になったわ。」
クレスタは自嘲気味に笑う。
「もろもろの要因で大赤字をたたき出した忘れられない一品。」
遠い目でボソッとそんなことも言う。
「小手も魔装具。これ面白くてね。強い衝撃を受けると爆発するの。
もちろん自身にはダメージがいかないようにしてある。
想定は獣型の魔物に噛みつかれた時とか、人型の魔物の武器攻撃とか。
追撃を避けられるし、うまくいけば相手は体制を崩すから、その隙にズバッとね。
構造上一回限りだけど、調整すれば、また使えるから。
一戦闘につき一回使えるわ。
だいたいこのコンセプトの物は失敗するんだけど、珍しく実践可能な所までいけた代物よ。」
再び自嘲気味に笑うクレスタ。
「維持コストが笑えない、今でも戦々恐々としている一品。」
遠い目でボソッとそんなことも言う。
「額当てと胸当ては普通ね。
限界まで軽量化して、その上で限界まで強度をあげたやつ。」
額当てしてたかな。前髪が長すぎて見えなかっただけか?
「剣とマントは王国からの贈呈品。
マントは火とか、魔法を防ぐとかなんとか言ってたかな。」
自商会の物以外、いや、自分が開発に関わった物以外は興味がない疑惑があるな。
「伝わった?」
「…レーラスが骸骨を圧倒したのは、装備の力も関係している?」
「そ~ゆ~事。」
クレスタが、掌サイズの何かの機械を取り出す。
「これ、魔力測定器。右手だして。」
従う。
クレスタは、吸盤みたいのを俺の右手にくっつけて、機械をカチカチ操作する。
「ガットル君。」
クレスタがまた、にかっと笑う。
「ここからは魔装具を試そうか。」
「よろしくお願いします。」
残りの弁当を口の中に放り込んだ。
日が沈み、星が見え始めた。
「前提として、今までの努力あってこそだからね。
レーラスも、ガットル君も。」
剣を掲げる。俺が片手で振り回すのに適した重さ。その中で最も堅い物。
右手と両足の防具は関節保護と衝撃吸収に特化させている。
胸当てはレーラスと同じ種類のやつだ。大きさと重さと硬さが上らしい。
頭部は額当てをせず、ある機械を縫い付けた鉢巻き。
何でも魔力運用効率を上昇させる試作品らしい。
効果がどうかは、これから分かる。
一番の特徴は左腕。俺の装備の中で唯一の魔装具だ。
右手と比べて一回り大きい小手。
そこにくっつくような形で、盾がついている。
腰を落として横向きになれば、全身を隠せるくらいにはデカい。
当然重い訳だが、そこは魔装具。
原理は分からないが、魔力をしっかり通す事で軽く感じる。余裕で振り回せる。
小手盾併せて、アサルトフローという名前らしい。
攻撃にも防御にも使える機能がある。
防具の下は紫色の強化服。最初に渡されたのと同じ物。
汗だくになり何度か着替えたが、着心地はこれが一番好きだ。
掲げた剣を十字に振り、鞘に戻す。
今日幾度となく聞いた風切り音が、心地よく聞こえる。
「昨日の君より数段強い。もう立派な戦士だよ。」
クレスタと握手した。本当によく、最後まで付き合ってくれた。
「ありがとう。」
心からの言葉だった。今度は受け取ってくれるだろう。
クレスタはまた、にかっと笑う。
「頼りにしてるよ。よろしく、債務者君。」
今日は何も考えずにさっさと寝よう。
疲れていたせいか、爆睡した。
しかし寝過ごすなんて事はなく、むしろ予定時間より早く、集合場所に到着する。
そこにはすでにサニアがいた。
「おはようございます。」
「…おはよう。」
気まずい。一昨日の別れ際の事もあり、話題をふりにくい。
「君…。」
「…はい。」
先に口を開いたのはサニアだ。身構えてしまう。
「雰囲気変わったね。」
一言、そして柔らかく笑う。
「ああ。見ていてくれ。」
俺は力強く頷いた。
程なくして、五人揃う。クレスタも今日は遅刻しない。
簡単な自己紹介を終えると、風鳴洞窟に向けて出発する。
数時間、商会の馬車に揺られ、王国の関所みたいな場所に着く。
立ち入り禁止の門を越え、ここからは登山。傾斜の関係で徒歩だ。
(まだ信じられない。半日でこれる場所に、ドラゴンがいるなんて。)
魔物も出るとの事で、警戒しながら進む。当然口数は少ない。
(…なるほどな。)
昨日クレスタから説明を受け、且つ、自分でも多くの武具を見た。
その上で、勇者やサニアの格好を見ると、用途が解る。
ちょっと楽しい。
(クレスタは…。)
今日のクレスタは、もちろん作業服ではない。
(確か、あれは、迷彩。)
長袖長ズボン。目深にかぶった帽子。緑やら黄色やら茶色やらの色彩。
肩掛けにびっしりついている物の正体は分からないが、草のように見える。
今は目立っているが、洞窟内だと岩にこびりついた苔に見えるかもしれない。
肩に下げたバックは服と同じ色。パンパンに見える。何が入っているか知りたいような、知りたくないような。
両手に黒の長手袋。腕輪のような物も着けているようだが、効果は分からない。
防具らしい防具は見えない。簡単なものを中に着けているかもしれないが、前線で戦う格好ではない。
(遠距離で戦うタイプか。)
勇者、サニアが近距離で、俺も近~中距離だしな。
(ん?)
違和感。クレスタに。
なんか、服に切れ込み入ってないか。しかも複数個所。まて、今見えたのは…。
(話題を変えよう。)
ディオルを見る。
一昨日と同じ全身を覆い隠すローブ姿。
見ただけではローブの効果も、ローブの下がどうなっているかも分からなかった。
(わかる事といえば…。)
一昨日は気にしなかったが、かなりの長身だ。
五人の中では一番だろう。
背の高さは、ディオル、俺、クレスタ、勇者、サニアかな。
いや、勇者よりサニアの方が大きいか?
改めてみると、勇者は毛量がすごい。
その所為で、ぱっと見は勇者がサニアより大きく見える。
まさかこれは、華奢な体を少しでも大きく見せるために、髪の毛を伸ばしているのでは!?
絵本でみた、百獣の王の鬣のように。威厳を保つ為に。
(勇者って大変だな…。)
「でも、私のほうがガットル君より背が高いんじゃない?」
(!?)
いつの間にか近くにいたクレスタがそんな事をいう。
「いやいや、そんなわけ。」
ないよな?
「そうかなぁ。」
手をひらひらさせて離れていくクレスタ。
確かに、クレスタは長身だと思う。足が長いのだ。
しかし、俺とて同い年の男の中では背が高い。はずだ。
さすがに、さすがにねぇ。
ここには第三者が三人もいる。
今、後ろで欠伸をしたディオルに聞いてみればいいのだ。
俺とクレスタどっちの背が高いのかを。
大丈夫。俺は負けない。自信もある。
(…。)
しかし、俺は確認することが出来なかった。こわかった。
風鳴洞窟前に到着した。幸いな事にここまで魔物は出ていない。
入口は狭い。ドラゴンはもちろん、人間も利用していないのだろう。
出入り主は、小型の動物や魔物だと思う。
「風鳴洞窟に人間はまず入らない。つまり情報はほぼ無い。
構造、広さ、生息する動植物、魔物の出現の有無も不明。
おとぎ話だと横穴が多く、至る所から風の音が聞こえるとある。
それだけだな。」
ディオルが抑揚のない感じで、簡単な状況説明をする。
そして勇者見る。発言を待っているのだろう。
俺も勇者の方をみる。
「まずはドラゴンを見つけよう。」
あの、手を差し伸べてくれた時と同じような、穏やかで優しい声色だった。
「見つけたら、倒そう。」
勇者はそういうと洞窟に潜っていった。
すかさずサニアがついていく。
一拍遅れて、クレスタ、俺、ディオルと続く。
クレスタがランタンの明かりを付ける。これも商会の商品だ。
「見つけたら、まずは散開。
固まっているとブレスで一網打尽にされる可能性が高い。」
ディオルの声が聞こえる。
振り返ると、ぼそぼそと小声で喋っている。
しかし、くっきり聞こえたし、何なら前の方のサニアも小さく頷いている。
(何かの魔法か?)
クレスタが得意げに指を振っているのが見える。
そして首元を指さしている。見ろ、という感じか。
(何か、縫い付けられているな。)
「フフゴケ商会の新商品の通信機。
離れた相手と小声でも会話が可能な優れもの。
ただ、見えなくなるくらい離れたら無理です。」
本当に知らない商品が多い。
(入りたての頃は、全商品を言えたんだけどなあ…。)
逆に言えば、あの頃の俺でも全商品を言えるくらいしかなかった。
いつからだろう。フフゴケ商会が、ここまで大きくなったのは。
「見つけたよ。」
(早!?)
勇者の声が聞こえて緊張が走る。
そもそも勇者は何処だ。姿が見えない。
「早いし、速いな!」
「大丈夫。声が聞こえる範囲にはいるよ。」
クレスタの言った通り、割とすぐ発見出来た。
極端に広くなった場所。その巨大な空洞の物陰に勇者はいた。
「寝ているみたいだね。」
各々それぞれ物陰に隠れて様子をみる。
(あれが…ドラゴン…。)
デカい。それこそ商会の倉庫よりも。
光沢を放つ緑の鱗は一枚一枚が頑強な盾に見える。
折りたたまれてなお存在感があるあの翼は、広げただけで、洞窟その物が崩れるのではないか、という予感さえする。
今は閉じられているあの瞳は、俺より大きそうなあの瞳に睨まれたら、それだけで、人は死ぬのでは?
(怖い…。)
しかし、それでも。
剣の柄を持つ手に力を込める。
震えている。武者震いさ。
(ここで逃げ出したくはない。)
「さて、思わぬチャンスとなった訳だが。」
俺が覚悟を固めた所でディオルの声が聞こえた。
「何か、策はあるか?
プランAとして、遠距離魔法で先制する、を出しておこう。」
「プランB!今のうちに回りに罠をばら撒く。」
クレスタだ。
「プランC。今のうちに、こっそり近づいて目を潰す。」
サニアは物騒だ。でも俺も同意見かな。
「プランⅮ。名乗りたいから、起こしていいかな?」
勇者は何を言ってんだ?
「思いのほか沢山でたな。どうする?多数決でも取るか?」
ディオルが言い終わるかどうか、というタイミングで、ドラゴンの瞼が動いた気がした。
「どうやら段取りが悪かったらしい。」
「散って!!」
ディオルの間の抜けた声か、サニアの空洞中に響く声か、それとも大地を揺るがすドラゴンの咆哮か。
それを合図に、俺達は物陰から出て駆け出した。
ドラゴンの口から炎が噴き出す。ブレスだ。
敵はそれを薙ぎ払い、俺達のいた場所は炎に包まれる。
(!?)
みんなの姿を見失う。
いや、勇者を見つけた。何かを叫んでいるようだが聞きとれない。
ドラゴンに対して突っ込んで行く。
サニアが飛び出して、勇者の横に追従する。
その横を高速で追い抜いていく物体が、二つ。
魔法攻撃。おそらく、ディオルとクレスタの。
(みんな流石だな。)
俺は、高くジャンプしていた。
それでブレスを避けた。
俺の魔装具アサルトフローは、短時間だが、空中移動が出来る。
(ふっ!)
魔力を込める。
アサルトフローの盾の先端部が、正確にはその中に仕込まれている物が、爆発し、それを推進力に急降下する。
眼下では勇者の剣とドラゴンの爪が激突し、火花を散らした。
勇者の一撃は、この巨大なドラゴンに、全く引けを取らなかった。
(あの人達についていくんだ!)
「おおぉぉ!!」
狙いは奴の瞳だ。
気合の雄たけびとともに、全力で剣を振り下ろした!
長々と装備について書きましたが、重要なのはアサルトフローだけです。
真剣に選んでいるんだよ~って雰囲気だけ感じてもらえたら嬉しいです。