第48話 パラレルワールド~新世界~
~前回までのロストン~
勇者パーティーに倒された俺は、背後霊として、幽霊ライフを楽しんだ。
でも、いざ消えるとなった時、怖くて喚き散らしてしまった。
そんな俺を助けてくれたのは魔王。パラレルワールド?どこでもいい、連れてってくれ。
まずは、現状の把握。
心地よい揺れで、目が開く。
長い夢を見ていた。そんな気がする。
(ここは…?)
馬車のキャビンだ。
人は俺だけで、荷物がたくさん置いてある。
(王国に、行く途中だったか…。)
ウーイング王国。
領土が広く、交易のしにくさで有名な場所だ。
険しい山々に囲まれ、港もなく、魔物が多く、道中に町や村がない。
(なんで向かってんだっけ?)
観光…だったような?誰かに言われて…。
馬のいななきが聞こえて、乱暴に馬車が止まった。
寝ぼけていた頭が、一気に覚醒する。
王国への道中こんな止まり方をしたら、それは、魔物の襲撃に他ならない。
おそるおそる外の様子を伺う。
魔物の退治屋の姿が見える。護衛は二人か。
雇いすぎると金がかかる。気持ちは分かる。
(でも、大丈夫か?もっといたほうが…。)
「!」
護衛の一人の頭が飛んだ。
(逃げないと、死ぬ!)
敵の姿も攻撃も見えていない。しかし力の差は歴然。
こうなれば残りの護衛を囮にして、逃げるしかない。
自分が生き残る為には当然の事だ。
しかし動けない。荷物が邪魔すぎて、身動きがとりづらいのだ。
(何をしている御者!早く馬を走らせろ!)
「!?」
馬車が転倒する。なんとか這い出て、その光景を見る。
御者も馬も死んでいる。その死体を食われている。
黒くて、デカくて、ブクブクしている化け物。
犬のような、獣型の魔物。
振り向けば、首のない死体が二つ。護衛も全滅。
(終わった。)
貪り喰らうそれと、目が合った。瞬間、魔物が消えた。
慌てた俺は、その場に転ぶ。散乱した荷物に足を取られて。
バキィと嫌な音がした。すぐ隣の、横転したキャビンに、魔物の爪が突き刺さる。
このスピードとあの爪で、二人の護衛は散ったのだ。
(なんでこんな事に…?)
魔物は、爪が引っかかったようだ。抜け出そうともがいている。
何とも、間抜けな姿だ。
(ふざけるなよ。)
怒りが、恐怖を上回った。
動けないそいつに向けて、両手を突き出す。
俺の最大威力の、水射をくらえ。
「死んでたまるかー!」
両手から、黒い炎が噴き出して、魔物に直撃する。
(は?)
水射は水属性だ。水を勢いよく当てる魔法だ。
目の前の、天に伸びる火柱は何だ?しかも炎の色は闇のような黒。
火柱の中から、よろよろと、何かが出てくる。
真っ黒に焦げた、さっきの魔物だ。
それは、倒れた瞬間に崩れ、灰になって消えた。
暫くして、火柱が消える。後には何も残らない。
「…。」
緩慢な動作で立ち上がる。
もう一度魔法を使ってみる。水が出るはずだ。
しかしと言うか、やはりと言うか、出てくるのは火だ。
俺は火魔法を使えない。使えるのは水魔法だけだ。
そもそも、火魔法を使うぞー、とか水魔法を使うぞー、みたいな感じではない。
人により魔法の属性が決まっていて、俺のように水属性の奴は、魔法を使うと、それが水なのだ。
だから二属性使える、いや使い分けられる奴は、俺達のような常人からすれば、頭がおかしい。
勇者パーティーが平然と使っていた、複数属性の混合魔法。
努力の賜物なのか、天より与えられた才能なのかは問題じゃない。
使える時点で、化け物さ。
つまり俺は今、水魔法が使えない。
例えば、いつの間にか羽が生えていたとしよう。
そして右腕を動かそうとしたら、右腕が動かない。代わりに左の羽が動いた。
そういう気持ち悪さがある。
「…。」
心当たりが、無い訳ではない。
俺はキャビンの残骸を漁る。
手鏡を見つけた。ちょうどよい。
「ディオルじゃねえか。」
手鏡に映る自分の姿は、勇者の仲間の魔王のものだ。
自分ではないだろうと思ったが、こいつだとは思わなかった。
パチパチと、拍手が聞こえる。
ゆっくり振り向く。
女がいる。14歳くらいの少女。
小柄で、金髪、ツインテール。
人形が着ているようなフリル多めな服で、基調は黒だ。
しっかりと見れたのは、これが初めて。半透明だったし、崩れていたから。
「ようこそロストン。新世界へ。」
こうして俺の、第二の人生が始まった。
「これが、俺?」
鏡に映る姿は、もはやディオルではない。
真っ赤な髪色だ。
短髪は逆立ち、眼帯を着け、バンダナを額に巻いている。
胸当て、小手、脛あて、マントまで着けて、まるで前衛で戦う退治屋だ。
俺は戦闘職ではないし、ディオルだって後方で魔法を撃っていたはずだ。
なぜこんな格好になったかと言うと。
「カッコいいわロストン。完璧よ。」
この女の趣味だ。
俺達がいるのは、空き家の中。
あの凄惨な現場。三人と一頭の死体と壊れた馬車。
そこから、少し離れた場所にいる。
俺の姿は、あそこを物色した結果。
つまり物取りだが、放置していても勿体ないだろう。
「…。」
その時の事を思い出して、吐き気がした。
物取りに罪悪感を覚えた訳ではない。昔やった事がある。
死体はぐちゃぐちゃだったが、それ自体は珍しくない。
ただその死体の、御者が、知っている顔だった。
ロストン、そう呼ばれていた男だ。
自分の死体を見るのは二度目だ。
しかし、必死の形相で食い散らかされたその姿は、魔物の下半身の時とは違い、リアルだ。
無様で情けなく、悲しい。
(深く考えるのは、止めよう。)
あれは俺であって、俺でないのだから。
「リガーナ。聞いていた話と違うようだが、教えてくれるか?」
リガーナは魔王の偽名だ。
魔王の名前を知る奴は稀らしいが、ゼロではないらしい。
俺は真っ先に説明してほしかったが、リガーナが、
『新しい人生の始まりなのよ?見た目も新しくしなきゃ!』
と、騒いだのだ。
完成した今こそ、タイミングなはずだ。
リガーナは手で、落ち着けのジェスチャーをする。
そして適当なイスに座ると、飲み物の瓶を開けた。
こちらにも、同じものを放り投げてくる。
これも、あそこにあった物だ。
思うところはあるが、喉が渇いたのも事実。
俺も蓋を開ける。そして続けた。
「記憶を持ったまま新しく生まれる、いう話じゃなかったか?
別人の身体だし、思い出したのも魔物に襲われる直前だ。」
「その説明をした時は、そのつもりだったけど、変えたのよ。
ロストンが素敵な話をしてくれたじゃない?
記憶の上書き。憑依とか、乗っ取りとか、そんなイメージかな。
赤ちゃんからはダルいって言ってたし、それに。」
リガーナが、にやりと笑う。
「敵は勇者達だからね。復讐する為には強くなくちゃ。」
確かに、ロストンでは勝てる気がしない。
瞬殺された場面がよぎる。
「でも確かに、ターゲットの一人だったのは誤算だよ。
私が倒したみたいになってごめんね。」
リガーナは恥ずかしそうに、失敗の言い訳のように続ける。
「私も好き勝手できる訳じゃない。
条件があるの。
今回の乗っ取りは、相手の自我が強いと絶対に成功しない。
自我が弱く、強大な魔力を持つ者。該当したのが、そいつってわけよ。
選んでる時間もなかったしね。」
(…自我が、弱い…?)
俺の見てきたディオルという男は、自我が強い。
あまり表には出さないが、それこそ唯我独尊な人物だろう。
「まあ、弱いと言っても無い訳じゃない。
ロストンに自覚はないだろうけど、ディオルの中で、三年くらい主導権争いをしていたのよ?」
彼女はクスクス笑っている。
笑いごとではないのでは?負けてしまったらどうするんだ。
「前いた世界、前世と呼ぶけど、それと似ている世界を選んだ。
その証拠に、ディオルもロストンも存在しているでしょう?
でも違う所はある。
今はね、前世だとロストンが死ぬ二か月前。
つまり前世と比べて、ロストンが二か月早く死んだ。
ほら、ロストンの寿命が短くなってる。
そもそもロストン、前世なら王国に行く理由ないでしょう?」
「そもそもなんで、そんなに俺に詳しい?」
「私は、11歳からこの世界に来てるからね。調べたんだよ。」
「…。」
文句はないさ。
今、存在できているのは、リガーナのおかげだから。
二つしか世界を知らないが、どっちのロストンも20歳で死んだから、なんか、俺は20歳で死ぬ運命でもあるのでは?と勘繰っただけだ。
「他にはどんな違いがあるんだ?他の四人のターゲットはいるのか?」
リガーナが立ち上がった。
「実はね。二人は見つけたけど、二人はいないかも。
見当たらないんだよね。
最初から存在していないかもしれないし、もう死んだのかも。」
気づく。地面が揺れている?
「ロストンも調べてみてよ、この世界の事。時間はあるからね。ゆっくりでいいよ。
まずは、ここを切り抜けて。また会いに行くから。じゃあね♪」
リガーナが目の前から消えた。飲みかけの瓶ごと。
「!?」
地面の揺れは大きくなってくる。
何かが、近づいてくる、これは、足音だ。
「そこまでだ!」
数人の男が部屋に押し入る。
何かを発する前に、俺はあっけなく取り押さえられた。
「強盗犯は貴様か!?仲間は何処だ!?」
格好から推察する。こいつらは王国の兵士だ。
呆気にとられて何も言えない俺は、そのまま馬車に放り込まれて連行される。
リガーナに助けてくれる気は、ないようだった。
舞台説明が続きます。




