第47話 パラレルワールド~ロストン~
本来は外伝とかでやるような話では?と悩んだりもしました。
が、第一章で広げた風呂敷を畳む為にも、重要だろうと考えて。
第二章の主人公は、このキャラです。
*ロストン視点*
「hhhhhh」
何があったんだっけ?
大切な事が、あった気がする。
やらなければならない事があった気がする。
分からない。思い出せない。
そもそもここは何処で、俺は誰だっけ?
足に激痛。
ああ転ぶな。そう思ったけど、転ばなかった。
転ぶ前に、俺の上半身が吹き飛んだから。
「どうなってやがる?」
先程と違い、俺の思考はクリアだ。
その冷静な俺が、自分の状況を言い表すとすれば。
幽霊。これだ。
俺は上空から自分の身体であったものを眺めている。
上半身は塵になった。下半身だけが残っている。
その下半身は二、三メートルもある。
見た目もなんかどす黒くブクブクしている。どうみても人のそれではない。
魔物。
そう俺は魔物だった。いや、元は人で、魔物になったんだ。
ならざるを得なかった。敵に対抗する為に。
「…。」
俺の名は、ロストン。20歳、悪党だ。
どれくらいの悪かと言うと。
仲間と一緒に密売で金を稼ぎ、それを隠す為に人を何人か殺した。
悪い事ではあるだろうが、こんな世の中だぜ?
魔王がいて、魔物がいて、人間同士の戦争だってあるんだ。
生きる為にってやつだよ。
でも魔王討伐の旅をしている勇者様御一行は、そんな小悪党も見逃せないようで。
俺達は追い詰められた。
他の仲間を逃がす為。そして勇者に、一矢報いる為の最後の手段。
生物を魔物化させるアイテムを使い、魔物になったという訳だ。
結果はこのざま。
勇者どころか、勇者の仲間の一人に瞬殺。あっけない最期だ。
「…。」
俺の仲間は次々と捕縛され、全滅した。一人も逃げられなかった。
こうして町から悪党は一掃され、勇者達は称えられる。
それをずっと、見続けた。
演劇でも見ている気分だ。
当然俺は、眼下に見える連中に何も出来ない。
声も攻撃も届かない。
ただ向こうの声は聞こえるから、プライベートを覗く、なんて悪な事は出来る。
「…。」
俺は勇者御一行について行く。文字通り背後霊。
なぜついていったのかって?
いつか消えるとは思うが、いつ消えるか分からない。
その間の暇つぶしさ。
でも、そうだな。多分俺は。
俺の世界をぶち壊した連中の、無様な最期を期待していた。
「勝ちやがったぜ、あいつら。」
ついに勇者達は魔王を倒した。
数か月の時が経ったが、俺は未だに消えていない。
結局、旅の最後まで鑑賞してしまった。
勇者達もなかなか複雑な事情をかかえているようで。
実は女だった勇者は、過去の贖罪と約束の為に、魔法で男の振りをしていた。
魔王の男は、勇者の実力を見極める為に仲間として共に旅をし、最後は自分の責任を果たすべく、魔王として立ちはだかった。
(あ、でもまだ生きてる?ん~今和解したな。)
当人どうしが納得したなら、別にいいんじゃないか。
二人とも受け継いできた想いはデカい。
思わず涙腺にきたほどだ。
「…。」
時間も経ったし、あいつらの事情も知った。
もうそれほど憎い訳でもない。
しかし、俺は成仏というものをしない。
てっきり憎しみのあまり悪霊にでも、なったのだと思っていたが…。
(まさか、ずっとこのままなのか?)
消えたい訳ではないが…。このままずっと、というのもな。
勇者達の旅は続くみたいだから、とりあえずついていく。
別行動をするようだ。
迷ったが、勇者側ではなく、俺を殺した奴のほうに行く。
海を渡り、北の大陸に向かうらしい。
こっち方面は来た事がないから、ちょっと楽しみではある。
「私の名前はクリガナン。あなたは?
まさか、こんな状態の人がいるとは思わなかったわ。」
あれが海か。話には聞いていたが、見るのは初めてだぜ。
「おーい。そこの、半透明で漂っているあなたよ、あなた。」
「は?」
目の前に、女が現れて、え?俺に話しかけてる?
「お名前は?私はちゃんと名乗ったわよ。」
「ロ、ロストン…。」
人と会話をするなんて、いつぶりだ?
会話が出来るなんて思わなかった。
「ロストンは、自分の状況が分かっているの?」
俺は髭もあるし、どちらかと言うと老けて見られがちで、30代に見られた事もある。
しかし、おそらく13~15歳だと思われるこの女は、敬語を使う気はないようだ。
「幽霊だろ。俺は死んで、成仏できずに彷徨っている。」
女は爆笑した。失礼、いや無礼な奴だ。
見るからにこいつも、俺と同じ幽霊だろ。
半透明で漂っているのだから。
「ごめん、面白かったから、ついね。
…なるほど。そう信じる事で、存在の固定ができたのかも。
興味深いわ。研究したいけど、こんな状態では無理ね。残念。」
ごめんと言っているが、思っていないなこいつは。
「私達はね、今の状態を【魔力精神体】って、呼んでいるの。
ロストンは死ぬ直前、尋常じゃない量の魔力を大量に摂取したはずよ。
それこそ魔物になるくらいの量をね。」
「…。」
確かに魔物にはなったが、あれは魔力を大量に摂取したからなのか?
魔物化のアイテムが魔力を大量に放出する類の物なら、そうかもしれないが。
俺の認識だと魔力は魔法を使う為に必要なものだ。
身体を動かすのに、酸素が必要なように。
だから、取り込みすぎると魔物になるなんて知らなかった。
「魔力暴走の結果、あなたの記憶が溢れた魔力に刻まれた。
今のロストンは、意思のある魔力よ。稀だけど、確認した事のある事象ね。
本来は数分で消えちゃうけど、なぜか、あなたは残ってる。
よほど癖のある魔力を取り込んだのかもね。
まあそれでも、ロストンを形成する魔力は徐々に、確実に減っている。
大気に還元されていくの。やがて消えるわ。」
消える。そこだけは分かった。
「ねえ、ロストン。」
女は続ける。理解するのに必死で、口をはさめない俺に構わず。
「転生しない?一緒に。」
「…。」
「こんな形で、折角出会えたのよ?
このまま消えるのも、つまらないでしょう。私なら、それが出来るわ。」
こいつの言った事を、自分の知識と結びつける。
「そう言えば、どこかで聞いたな。
誰でも死んだら輪廻転生するんじゃなかったか?
確か、生前の行いで行先が変わるんだろ?」
一瞬、女がきょとんとした。でも直ぐに笑う。
「ああごめんね。私が言ったのは、異世界転生よ。
異世界とは、こことは別の世界。ルールや歴史が異なる世界。
そんなものが、たくさんあるの。
もちろん容易く行き来できるものではないわ。
私の言う異世界転生は、今の記憶を持ったまま、どこかの異世界に生まれ変わるというものね。
ちなみに、君の言った輪廻転生の考えも、異世界から流れてきたやつよ。」
…多分わかった。俺はこう見えて本を読むんだ。
「勇者トリドの英雄譚のトリドが住んでいるような世界が、実は存在していて、そこに生まれ変わる事が可能、そういう事か?」
あの本の中では魔王がいない。変わりに魔竜がいたはずだ。
「そういう事よ。ワクワクするでしょう?」
「遠慮するよ。」
「え?」
断られると思っていなかったのか、目をパチパチさせている。
「俺の人生は、最期はあんなんだったけど。
ちゃんと楽しかった。好きに生きた。
仲間と一緒に頑張って、喜んで、仕事の打ち上げで飲む酒は最高だった。
幸運だったと思ってる。次もこうだとは思えない。」
女は黙って聞いている。
「それに正直、赤ん坊からはダルい。少年時代はつまらなかったんだ。
楽しくなったのは、働き出して、好き勝手できるようになってからだな。
やり直した所で、改善するとも思えんし。
そもそも劣悪な環境で生まれるかもしれない。
モチベーションがない。」
「わかったよ。」
女は肩を落とした。
「無理やり連れてっても、楽しくないしね。さよなら。」
「!?」
女は幻のように消えた。あっという間だ。
(もう少し、話をしてもいいのに…。)
一方的に来て、一方的に去る。自己中で忙しい奴だった。
切り替えよう。
(海だー、そして船旅だー。)
消えるまでの間、幽霊ライフを楽しんでやる。
勇者別動隊の冒険は続く。
到着した大陸で、いや、船上で既にトラブルに巻き込まれた。
なんでも、目的だったゾトの魔王は、既に倒されたらしい。
別の勇者パーティーによって。
しかしその勇者パーティーは、魔王を倒した後、故郷の国に宣戦布告したらしい。
なんでも不満が爆発したみたいな?
なんやかんやあって、我らが勇者別動隊は、その反逆勇者達と戦う事に。
反逆勇者の立てこもる、魔王城に押しかけて、大乱闘の始まりだ。
(そこだ、いけー、やれー。)
流石は俺達を倒した連中だ。強い強い。
後方で腕を組みながら観戦する。食べ物がないのが実に惜しい。
(おお、あれが、コズミックヘルブラスターか。)
前の大陸の冒険の終盤、強い強いと言われながら、結局使われなかった派手な魔法。
自分の存在が、意思のある魔力と言われてからは、戦闘中、特に激しく魔法が飛び交う時は、離れるようにしている。
今回も影響を受けないように、めちゃくちゃ離れているが、これは凄い。
空の星々が落ちてきたかと思ったぞ。
それから程なくして、戦いは終わった。
反逆勇者達は魔王討伐の旅で仲間を一人失ったらしい。
更に倒した魔王が、14歳の女の子だった事で、国の正義が信じられなくなったようだ。
(14歳の女の子…。)
数日前、いやもう数か月前か?
それくらいに会った奴の顔が浮かぶ。
眼下では宴会が始まった。
反逆勇者達とも和解した。両陣営とも犠牲者はいない。
そして早くも次の旅の計画を話している。
笑顔が溢れていた。
(あ。)
謎の確信がある。
俺は、今消える。あと、ものの数分で。
(このタイミングか…。)
演劇の切りも、良いといえば良い。
なかなか楽しめた。演者にお礼の一つでも言おうじゃないか。
俺は、俺を殺した奴に近づいた。
当然、相手に俺は見えない。
サニア。そんな名前の女だ。17歳、いやもう18歳になったのか。
俺の会社の社長の娘。社長の離婚した嫁が引き取った子供。
見た目はかなり好みなんだよ。
目は丸めで大きく、髪の毛は薄い水色。長さは肩に届くくらい。
肉付きもよく、ミニスカートで生足は最高だ。
「…。」
いい戦いだったぜ。これからも頑張れよ。
俺はそう言おうとしたんだ。
そう言って、肩を軽く叩いてクールに去り、人知れず消えようとしたんだ。
でも、出来なかった。
サニアは、幸せそうな笑顔なのだ。
「何が、そんなに、楽しいんだよ?」
分かっている。仲間との会話が楽しいんだ。
「俺が消えるのが、そんなに楽しいのか!?」
何を言っているんだ俺は。そんな訳ないだろ?
文字通り眼中にないのだから。
「俺は!消えるんだぞ!」
実際に輪廻なんてものがあるかは知らないが、少なくとも魂ではなく、記憶と感情だけの俺に当てはまる事はないだろう。
完全な消滅。無。
「!?」
怖い。想像できない。
本当にその瞬間がやってきて、ようやく実感が湧いてきて。
「嫌だ!消えたくない!」
なんというカッコ悪さ。
駄々をこねる子供。
しかし、あふれ出した感情は止まらない。
「助けてくれ!お前らは知らないかもしれないが、ずっと見てたんだ。
ずっと一緒だった。もうこれは仲間だろう!
仲間なんだから、助けろよ!!」
メチャクチャ言っている。
感情がメチャクチャなんだよ。
「消えたくない!死にたくない!」
ああ消える、もう消える。
「誰か!助けてーー!!!」
「助けよう。君を。」
止まった。魔力が、とどまっている。まだ、存在できている。
誰かに肩を掴まれている。
「久しぶりだね。ロストン。」
あの時の女だ。名前は、クリ…なんだったか。
でもそいつも消えかけている。足とか半分、霧みたいになっている。
「転生先の、いい世界がないか探していてね。
丁度いいのを見つけたから、転生するぞってなったんだけど。
そういえば、ロストンどうなったかなって、探してみた。」
「…一緒に、連れて行ってくれ…。」
恥も外聞もない。プライドも砕け散った。
あるのは、ただ、消えたくないという願いだけ。
「う~ん。」
女は悩むような仕草をした。
「ま、前に断ったのは誤る。浅はかだった。だから、頼むよ、助けて。」
感覚で分かる。この女が左手を離した瞬間、俺は消える。
「ロストン、モチベーションある?」
「も、モチベーション…?」
「あなたが言ったのよ?私は最もだと思ったの。
確かに、やる気のない人間を連れて行ってもつまらないってね。」
急に言われても…。
でもここで、こいつに気に入られなければ、終わりだ。
何かないかと、視線が泳ぐ。
そして、サニアの笑顔が目に入る。
「こいつに復讐する!」
叫んだ。サニアを指さしながら。
「こんな事になったのは、こいつが俺を殺したからだ!
だから、今度は俺が、こいつを殺す!」
数十分前の俺が聞いたら、呆れるだろうセリフだ。
しかし、一度叫んだ俺は、止まらなかった。
「こいつが俺を殺したのは、俺が魔物になったからだ。
しかし!そもそも勇者達が、俺達を追い詰めなければ、俺は魔物になんて、ならなかったんだ!
つまり!全ては勇者達が悪い!!」
俺は、心の奥底では、そんな事を考えていたのか?
気づかないふりを、していたのか?
「勇者達五人を殺してやる!」
ひとしきり叫んだ俺は、荒い呼吸を繰り返す。
正確には呼吸はしていないから、やった気になっているだけだが。
その間、サニアを睨み続けた。
「いいね、とてもいい顔だよ、ロストン。」
女の事を忘れていた。
こいつに気に入られようと、言い出した事なのに。
「私は時を戻せる訳じゃない。
ロストンを殺した人を殺す事は出来ない。
でも、本人ではないけど本人。そんな限りなく近い存在の元へは行ける。
パラレルワールドに、転生しましょう。」
頷く。
消えずにすむなら、どこだっていい。
「ちょっと待っててね。新しい世界を探すから。」
「…大丈夫なのか?」
そんな時間はあるのか?お前の魔力も消えかけじゃないか。
「大丈夫よ。こう見えて私は魔王なの。
出来るだけ、ここと似た世界を探してみせる。
ロストンが、ちゃんと復讐できるように。」
固唾をのんで見守る。
おそらく俺の魔力を安定させるのにも自分の魔力を使っている。
目に見えて、女の形が崩れていく。
俺には何が起きているのか分からない。
ただ、周りの魔力が形を変えていき、小さな丸をいくつも作る。
転生。とてつもない事が起こるのだと、予感がある。
ふと、視線に気づく。
ディオルという名の男だ。
魔王だった奴で、勇者の仲間。俺のターゲットの一人。
目が合っている。俺に、いや、俺達に気づいている?
精々頑張れ。とでも言っているかのように、奴は笑った。
くそ、バカにしやがって…。
「く~、限界!
ベストは、石を蹴っ飛ばすか蹴っ飛ばさないかの違いだったけど、妥協する!…そこそこ。」
顔が半分霧になった女は、右手を差し出した。
「行くよロストン!新しい世界へ!」
俺はその手を掴んだ。力強く。
俺の視界は、眩い光に包まれた。
冒頭は、『第13話 後悔~雨~』の別視点の描写。
第二章はロストンの、あがく様子を後方で腕を組みながら眺めてもらえると幸いです。




