第45話 魔王~終戦~
~前回までのサニア~
魔王に勝つための方法を皆で考えた。
魔王に戦いを挑んだ。
魔王に、勝った。
「痛い、痛すぎる…痛いよ、サニアちゃん、助けて…。」
「大丈夫、傷は塞がっているから。後はちゃんと休んで。」
クレスタはお腹に穴が空いた状態で、よく走ってくれたと思う。
でも治療後、延々と絡み続けるのは止めてほしい。
私だって疲れている。
ガットルだって、レーラスだって。
でも疲れを感じられている、つまり四人全員生きているというのは、この上なく嬉しい。文句の無い大勝利だ。
まあこの後一山ありそうだけど。
クレスタが私に甘えてくるのは、他二人がまだシリアスモードのままだから。
レーラスはずっとディオルの左手を握っていて、ガットルはその後ろで見守っている状態だ。
ディオルは生きている。
レーラスの回復魔法が間に合って、商会の道具で止血も出来た。
あとディオルが胸当てをしていた事も大きい。
王国から旅立つ時、クレスタが半ば強引に渡したものだ。
『せめて急所の一つぐらい守りなさい!
大丈夫。私も着けてる、軽くて丈夫なやつだから!』
今日もちゃんと着けていた。
だから致命傷は避けられた訳だけど、ディオルの右腕は切断されたままだ。
くっつけるだけの魔力が残っていないから。
ここまで消耗しなければ、白輝回復で回復出来て、今頃みんなで打ち上げが出来ていたかもしれない。
もうお昼は回ったのだ。少しお腹が減ってきている。
本当にディオルも最後まで粘ったものだ。
…私も最後よく走れたものだ。
レーラスが追撃を開始した時、もちろん幻聴だと分かっているけど、私には古い友人の、少年のレーラスの声が聞こえた。
『絶対魔王を倒そうね。』
そうしたらもう、走るしか、ないじゃない。
そんな事を考えていたら、ディオルの目が開いた。
「…。」
クレスタも気づいて、私から離れた。
「勝ったというのに、嬉しそうではないな。なぜ泣いている?」
蹴っ飛ばしてやりたくなったが、もちろん自重する。
ガットルが盛大に溜息をついた。
「泣くだろ。殺しあって、もう二度と会えなくなる所だったんだ。
怖くて、泣くだろ。」
レーラスは喋れそうにないが、ディオルを握る手に力が入ったのは、分かる。
それから、短くない沈黙。
私達は、ディオルの言葉を待った。
そしてようやくディオルは、口を開ける。
「俺はこれでも、歴代最強のレーグの魔王だと自負している。
その俺が、油断も、慢心も、侮りも、不調も、手加減も、何もない。
全力で挑んだ。」
ディオルは深く息を吐く。
そして、重い荷物を下ろしたような、安心した顔をして。
「完敗だ。勇者に、従おう。」
こうして私達勇者パーティー五人は、一人も欠ける事なく。
魔王との戦いは、終わった。
「とりあえずご飯にしよう、お腹すいたし。話はその後でいいよね。」
「じゃあ本題ね~。一番大事な話をするわよ。
ずばり、私達は目的を達成出来たのか?よ。」
ご飯を食べた後、会議室跡を片付けて私達は座る。
「旅の目的、魔王の討伐だけど…。」
ディオルを見る。魔王は生きている。
「王国が魔王を倒したかった理由は、魔王の膨大な魔力の影響を受けて、強力な魔物が生まれるから。そしてそれは事実だ。
魔王は魔法の研究と研鑽に余念がなかった。
この城の地下には、周辺魔力の上昇と、その魔力を最適な質へ変換させる、そういう装置がある。天落峡谷の研究成果だ。
それを破棄し、俺がここを去れば、魔王は死んだのと変わらない。
後継者もいないから、新たな魔王も生まれない。王国の目的は達成される。」
「ディオルいいの?」
勇者がそれを聞くのは酷い事だろう。
でもレーラスは仲間として聞いたのだ。
「構わない。魔王は負けた。しかし、目的は達成される。
王国と、フフゴケ商会の手によりな。」
脅威に立ち向かえる強い国を作る事、ね。
「うんうん。王国の目的が達成されれば、レーラスの目的も達成ね。
そしてフフゴケ商会の目的もバッチリ。
魔王を討伐した勇者御用達の商会として世界に羽ばたいていくわ。
サニアちゃんと、ガットル君は?」
ガットルと顔を見合わせる。なら、私から言おうか。
「大丈夫。間違いなく達成されたわ。」
「ああ、最高の結果だ。」
と、いう事は。
「めでたく、全員目的を達成出来ました~。私達って優秀~。」
ぱちぱちと、まばらに拍手して、レーラスが一人ずつハイタッチして回った。
そして私は、
「ディオルはここを去るって言ったけど、目的地はあるの?」
聞いた。この後の事を。
「ある。テイール共和国から海を越えて、ライダ大陸に向かう。
ゾトという国に、知り合いの魔王がいるからな。
負けた報告をして、可能なら世話になる。」
「僕、船は初めてだよ。だからワクワクするね。」
レーラスはそんな事を言う気がした。今聞いておいてよかった。
ディオルとクレスタはきょとんとして、ガットルは様子見か。
なら、私が進めよう。
「レーラス、あなたは王国へ帰るから、ディオルとは行かないわよ。」
「…え?」
「あなたは魔王を討った英雄として、王国に凱旋して、祝福を受けるの。いや、受けてほしい。王国との交渉だってある。」
「…ディオルを一人で行かせるの?」
「流石に一人には出来ないでしょう、魔王だし。私が一緒に行くよ。弟子だし。」
「…可能なら、俺もディオルと行きたい。」
「ガットル君も!?
わ、私は商会の代表だから、王国に戻らないとなんだけど~。」
「…。」
私がぶち壊した訳だが、ちょっと前のいい雰囲気から一転した。
どちらにしても、レーグ半島を抜けてバクー王国までは一緒なのだ。
それまでに決めようという事にして、強制的にお開き。
ディオルに装置の破棄をしてもらい、帰り支度を手早く済ませ、私達は帰路につく。レーラスは無表情のままだった。
その夜、野営中の事。
魔王といえど、全ての魔物を制御できるわけでもない。
野生動物だって、命知らずもいるかもしれない。
だから、今まで通り見張りは必要。
見張りをしていたらガットルが来た。そろそろ交代の時間か。
ガットルは軽い挨拶だけして隣に座る。
「…。」
少し考えて、私は戻らず口を開いた。
「天上の国、攻めてくると思う?」
独り言のように言うと、ガットルは答えてくれる。
「ディオル達、頭の良さそうな人でも分からないんだ。
俺は存在をイメージするのだって難しい。」
私もそうかも。説明されても、実感が湧かない。
地震に似ているかも。いつ起きるかは分からなくて、備えは必要。
でも今回の件は、備えの方法が、正解が、不明確。
真面目に考え続けると、心が休まらず、頭が痛くなるやつだ。
「もし攻めてきたら、俺は戦うだけだよ。
骸骨でも、ドラゴンでも、魔王でも、天上の国とでも。
勝てそうだから戦ったんじゃない。
必要だったから、戦ったんだ。」
ガットルの言っている事も正しい。
結局は自分が納得できる答えを見つけるしかない。
天上の国と出会ってしまった昔の人も、きっとそうだったんだ。
「そうだね。私も、もっと強くなるよ。」
大切な人を守れるように。
「ねえガットル。」
「どうした?」
「あなたがレーラスって、嘘よね。」
「そうだよ。」
「レーラスに、止まってほしかったんだ?」
「そうだよ。」
「アレストワって名前、知っていたのはなぜ?」
「本物のレーラスから聞いた。洞窟に隠れていた時、よく会いに来たんだ。」
そのまま、ガットルの身の上話を聞いた。
人気者から、いじめの対象になり、逃げだして、レーラスに会った。
魔物との戦いで負傷して、白輝回復で回復して。
倒れたままの二人を助けてもらう為、誰かを探しに行ったらしい。
そして道に迷い、誰にも会えず、なんとか元の場所に戻ったら、誰もいなかったそうだ。
ガットルは、山菜採りに来ていたフフゴケさんに出会うまで、森をさまよい続けたが、結局二人は見つからなかったそうだ。
「レーラスを騙った事、気分を悪くさせたかな?」
「私は気にしてないよ。一瞬たりとも信じなかったし。
あの時のレーラスを止められた訳だから、ナイスプレイよ。
きっと、どっちのレーラスも怒らない。」
空はよく晴れて、星は今日も綺麗だ。
「ディオルと一緒に行きたいんだ?」
「今回の冒険楽しかったから、もっと色んな景色を見たくてさ。
レーラスもそんな感じだから、ちょっと言い出しづらかった。」
レーラスは、みんなが離ればなれになるのが嫌な訳だけど、言わなくてもよいか。
「別の魔王に会いに行く訳でしょう?また危険な旅になると思うな。」
「望む所だな。サニアもディオルも俺が守る。」
「おお、言うようになった。魔王に勝った経験は大きいようね。」
「そうだとも。大切な仲間を守ること、それが、俺のやりたい事なんだ。」
まったく、きらきらしちゃってさ。
二人でしばらく星空を眺めて、それから私は立ち上がる。眠くなったからもう寝よう。
「ガットル。」
「どうした?」
「これからもよろしく。」
「こちらこそ、よろしく。」
星空はどこまでも、続いていた。
主人公がガットルで、裏主人公がレーラス(アレストワ)。
ヒロインがサニアで、ラスボスがディオル。
クレスタは、〇ラえもん。




