第43話 魔王~作戦会議、前半戦~
~前回までのサニア~
ガットルのおかげでレーラスは止まり、扉も開いた。
なら次は、考えないといけない。
魔王に勝つ為の方法を。私達の目的を果たす為に。
本戦よりも文字数の多い、作戦会議が始まる。
焚き火を囲んで四人で座る。
レーラスをブランケットで包み、暖かい飲み物を渡す。
ちなみにあれ以降レーラスは幻惑魔法を使っていない。
魔力温存の為か、使う必要がないからか。
レーラスはガットルを、ちらちら見ている。
まぁ、あの後だし仕方がない。
しかし、これから話し合いだから、一つはっきりさせておこう。
「レーラス、話し合いが終わったら、絶対に仮眠は取ってね。
ガットル、あなたもね。」
レーラスの名前が出た時、どっち?となっていては面倒だから。
意図は全員に伝わっただろう。
レーラスは小さく、ほほ笑んだ。
「何か、プランがある人、いるか?」
ガットルが口火を切ると、
「プランというか、なんだけど。」
すぐにレーラスが反応した。
「まず、絶対に距離を取られてはいけない。
ディオルがこちらにいない今、僕達の遠距離攻撃の手段は、クレスタだけだ。
でもそれだと、火力で完全に負けてしまうし、なにより…。」
レーラスは、溜めに溜めてから言う。
「ディオルには、コズミックヘルブラスターがある。」
「こ、コズミック、ヘル、ブラスター!?」
「ディオルの切り札さ。
発動までに十秒かかるけど、強力かつ複雑かつ難解かつ綺麗かつド派手な魔法の真髄。
放たれたら、僕らは死ぬ。」
「そ、そんなものが…。」
「ああ、僕達は、なんてものを作ってしまったんだ…。」
「諦めるな。切り札を知れたという事は、こちら側が有利だ。」
ガットルのノリが良い、いや、二人とも真面目なのかもしれない。
コズミックなんちゃらの有無は別としても、遠距離戦がダメなのは賛成だ。
「誰かが近接で張り付いて、離れる隙を与えない…。
でも獄炎ってダメージ覚悟で近距離爆破させれば、近くの敵も巻き込みつつ、爆風で距離を取る事が可能よね。それは?」
私の質問には、ガットルが答える。
「巻き込まれない位置に誰かが待機して、その人が追撃するとか…。
俺とクレスタで周囲を確認した限りだと、戦場となる場所は狭くはない。
でも超遠距離戦が出来るほど広くないし、周りは崖や高い岩山だから、こちらからも距離を取っていなければ追いつけると思う。
少なくとも、コズミックヘルブラスターなんて大魔法は、発動される前に距離を詰められる。」
「横で距離を稼げないとしても、上は?ディオルは獄炎で飛べるって言っていた。
空中戦になれば、こちらの対抗はガットルだよ。クレスタの援護射撃つきだけど、勝算ある?」
レーラスの意見はもっともだ。
それで、もしガットルが負けると、上空から魔法が降り注ぐって?
それは嫌すぎる。私とレーラスは何も出来ずに負ける。
「どうだろうな。飛び掛かってきた魔物を斬った事はあるけど、しっかりとした空中戦なんてやった事ないし…。」
流石に興ざめだから、やらないのでは?
とも思うけど、勝率の高い戦術をとらないのは、手を抜いている事になる?
と、なると、やってくる?
「飛んでくれるなら、そのほうがいいわ。魔力分散砲が使えるから。」
全員、クレスタに何か渡される。花火の筒みたいなやつ。
「照準なんて気にしなくていいわ。ただ上に向けて魔力を込める。
そしたら、綺麗な花火が上がって、反魔力をばら撒いてくれる。」
反魔力はあれだ、めちゃくちゃ質の悪い魔力で、魔法が使えなくなるやつ。
「テオテナムの時のあれよね?前は、地面に設置してのボタン式だったと思うけど、これは携帯用?いつの間に改良を?」
「改良したのは、そこだけじゃないの。対象範囲はバッチリよ。
ここら一帯の上空は、間違いなくカバーできる。
くれぐれも、向きだけは気を付けてね~。」
「なるほど。ディオルの事だから、すぐ立て直すかもしれない。
でも、影響が全くない訳じゃない。空から無防備に落下するタイミングがある。
そこは、チャンスになる、か。」
ガットルがうんうん頷いて、
「でも、その状況だと俺もアサルトフローで飛べないんだよな…。」
残念そうな顔になる。
「距離にもよるけど、僕はジャンプして斬りかかるよ?」
「距離にもよりけど、私はナイフを投げつけてやるわ。」
レーラスとハイタッチ。
クレスタが笑いながら続ける。
「私も魔力を使わない遠距離攻撃方法がないわけじゃないわ。
でも、おそらくディオルは飛ばない。
これの存在を、彼は知っているから。」
なら、と。レーラスが意見を言う。
「いっそ、地上で使うのはどう?
クレスタが遠くに隠れていて、魔力分散砲を撃ちこむんだ。
僕らごとね。
全員魔法が使えなくなる。でも、僕には無剣がある。」
無剣。勇者の必殺剣。
確かに魔法の使えないディオルに防げるとは思えない。
「ちょっと賭けすぎるな。反魔力は体内の魔力制御にも影響がでそうだし。
そうすると、いつもの感じで無剣は出せないと思う。
確実に決められなければ、俺達は負ける。
空中で魔法が使えなくなるのと、地上で魔法が使えなくなるのでは、対処の幅が全然違う。
きっとあいつなら、上手くやるだろうし、俺達の中で、最初に魔法が使えるようになるのはディオルのはずだから。」
ガットルの言い分には、納得してしまう。レーラスも、それ以上何も言わなかった。
「まあ、飛ばれないだけ、よしとしましょう。」
クレスタが話を進める。
「後、持久戦は駄目ね~。
ここ本拠地だし、ディオルの魔力はヤバいぐらいありそう。
私達全員の体力と魔力を足しても届かないと思っていたほうがいいわね。」
「なら、初手からの超速攻。
何かされる前に接近戦で畳み掛ける、私とガットルとレーラスで。」
ディオルは遠距離が得意な魔法使い。なら当然接近戦を挑むのがよくて、私の案はきっと誰もが思いつく。もちろんディオルも。
「多分なんだけどさ。」
ガットルが言う。
「俺達のパーティーは近接が強いから、ディオルは遠距離に回った気がする。
近距離も出来るんじゃないか?獄炎盾もあるし。」
「確かに。近接用の隠し玉くらいあるかもね~。」
「隠し玉?コズミックヘルブラスターの他にかい?」
レーラスは余程それ、気に入ったのね。
「三人で攻めて、押し切れれば勝ち、捌かれたら、持久戦になって負ける。
これも、賭けね。」
少なからず賭けになるのは仕方ない。
でも、一か八かの勝負はしたくない。
「それに僕達は、人間サイズの敵に三人で攻めた事はない。
連携経験がないから、攻撃が味方に当たるかもしれない。
そんな乱戦だと、クレスタの援護射撃も同じ理由で行えない。
サニアの言っていた、自爆っぽい獄炎の事もあるから、同時に攻めるのは最大でも二人までだね。つまり捌かれる可能性はより高い。
今回の場合、数の利は持久力なんだよ。でもそれだと負ける。」
正直ディオルはなぜ、あそこまで余裕ぶっているのか、と思っていたが、そうか、この魔王側の勝ち筋が既に見えていたのか。
「僕達はどうにかして、ディオルに一撃を入れないといけない。」
それが、こちらの勝ち筋か。
「僕としては、やはりパーティーの強みである近接戦で決めたい。」
「いいじゃない。うちの商品に熱源探査機に引っかからない布があるから、レーラスはそれを被って、後ろから奇襲したら?」
「それは危険過ぎない?その布は使えそうだけど、被って接近だと魔法は誤魔化せても、視認すれば、一発よ。私とガットルで注意を引いたとしても、バレたらきっと串刺し。
そんな最期じゃ歴史に名を刻んでも、笑われるかも。」
【勇者レーラス、魔王に奇襲を試みるも失敗し、串刺死。】
(嫌よ、そんなの。)
「嫌だ、そんなの。」
でしょう?
「でも奇襲ぐらいしか、一撃入れられないんじゃない?
えーと、後使えそうなのは…。」
奇襲…でもディオル相手に不意をつけるの?
「一つ思いついたが、ダメか、それまでの道筋がない。」
ガットルがそう言うと、一拍あいて。
「何だい?ガットル、僕聞きたいな。」
「ガットル君、今それはないんじゃな~い?」
「何でも言ってみて?みんなで精査しよう。」
私達三人が同時に喋った。
聞き取れなかったと思うけど、何が言いたいかは伝わったみたいで。
「あ、ああ。えっと、幻惑魔法だよ。レーラスの。」
「いいね。僕もディオルにリベンジしたい。」
「…。」
「えっとねクレスタ、幻惑魔法は…。」
クレスタに幻惑魔法の説明をして、天法の使用者、ガットルとディオルに耐性がある所まで話した。
「でも俺は以前、幻惑魔法をくらった。なんでだ?」
「それは、…僕の修行の成果だよ。」
「レーラスに心当たりは無いみたいだけど?」
ガットルは目を閉じ、少し考えてから口を開く。
「動揺だな。心が乱れていると、幻惑魔法にかかりやすいんだ。
耐性があったとしても。」
「ガットル君、サニアちゃんがいながら、レーラスにときめいたの?」
「仲間にしてもらえて、浮かれてたんだよ!」
「なるほど、ディオルを動揺させる為の道筋か。確かに難問ね。」
二年の付き合いだし、師弟関係でもあるが、あの男が動揺している所など、見たことはない。
「ちょっと戦闘のシミュレーションをしてみようか。」
レーラスが適当な石を五つ用意した。
クレスタが魔法で手ごろな台座をつくり、その上に転がす。
「僕は幻惑魔法を使う想定にして、クレスタに例の布を借りて隠れてようかな。」
石を一つ端に寄せた。
「クレスタは狙撃手だから、ぎりぎりまで離れるよね。」
また一つ端に寄せる。
「で、サニアとガットルが、ディオルに突っ込む。
ディオルはどうすると思う?」
「炎槍と獄炎槍で迎撃してくるよな。
…これは、不味いか。」
「炎槍は速いけど、軌道が真っすぐな分まだ何とかなりそう。
だけど、獄炎槍って、敵に回すと怖いわね。
警戒中や、回避に専念していたら、私は防具の効果で躱せると思うけど、気にしていたら、攻撃頻度はかなり下がると思う。」
死角から突き出てくる槍。止まっている時ならともかく、駆けている時、タイミングよく出てきたそれは躱せないだろう。
事前に分かっていない限り。
「はいは~い。あれって混合だから、土属性も入っているでしょう?
私、発動しそうな時分かるわ。そういう魔法がある。
発動するぞって時に通信機で教えられると思うから、発射される前に横とかに飛んでね。
ただ、魔法にも通信機にも範囲の問題があるから、近づかないとね。」
クレスタが、端にあった自分の石を寄せてきた。
「これだけ近づいたら、クレスタも十分狙われるだろ。
寧ろ真っ先に潰しに来てもおかしくない。」
「そこは、ガットル君頼む!」
クレスタがあっけらかんと言い、レーラスがガットルの石を、私とディオルの石から少し離した。
「これが基本の形になるかな。
サニアに、ひたすら走ってもらって、クレスタは槍の発見と狙撃、ガットルは二人のヘルプ、主にクレスタの防御。」
「誰か一人やられたら全滅しそうな上に、ディオルの隠し玉次第ではこの形に持っていく事さえ難しい。
そして、上手くいってもジリ貧の膠着状態。マジか…。」
「この状態でレーラスが幻惑魔法を使っても、ディオルには効かないでしょうね。」
「なら膠着状態を崩す何かを考えないとね~。
正直この形までいけないなら、何やっても勝てないと思うから、先を考えましょう。」
台に置かれた石をみる。
この状態から動揺を引き出し、幻惑魔法にかける。
「…。」
流石に沈黙が続く。
動揺、心の隙?感情を揺さぶる、とか?
「動揺とは違うけど…。」
せっかく思いついたから、言ってみる。ガットルにもそう言ったし。
「膠着状態を崩す事は出来るかも。」
三人の視線を受け、話を続ける。
「怒らせる。
魔法を教わっている時、失敗には寛大だったけど、注意力散漫や、見込みが甘い時は、よく怒られた。
顔には出さないけど、意外と沸点は低いと思う。」
「サニアそれだ!」
ガットルが立ち上がった。
「ディオルがこの戦いに懸ける思いは、相当な物だと思う。
大事な儀式なんだ、きっと。
だからその戦いを、汚すような、舐めたように笑えばいい。目が合った時に。」
「そ、そうかな?
僕は、ディオルがそれだけで怒ると思えないけど?」
言い出した私が言うのもあれだけど、レーラスと同意見かも。
ガットルがそんなに大興奮できる案ではないと思う。
「なるほどね~。いや、いける気がするわ。」
クレスタが続けた。
「ディオルって、なんだかんだで私達の事好きなのよ。
実力も認めてくれていると思うし、期待もしてくれている。
サニアちゃんが怒られたのも、きっとサニアちゃんだから、ね。
こいつなら、これぐらい出来るってね。
興味のない連中なら、笑われたくらいで腹はたたない。
でも、私達なら?
ディオルが一目置く私達が、不甲斐ない姿や、舐めた態度をとったら?
しかも、自分達の未来のかかった大一番でね。
カッとなると思うわ~、ディオル自身に自覚がなくてもね。」
「あ…。」
カルフラタでディオルがトバ達を悪く言った時の事を思い出した。
大事な仲間に大事な友達を悪く言われるのは嫌だった。
私達が勇者対魔王の戦いで、ふざけるという行為は、それに似ているのかもしれない。
「クレスタも、ディオルは俺達の事好きだと思うか?」
着席したガットルが、真剣に聞いた。
「当たり前ね。私はともかく、サニアちゃんとガットル君の事は大好きでしょ。
あ、レーラスの事もね。」
「クレスタの事も好きよ、あの男は。」
「あは。フォローありがと、サニアちゃん。」
「どういう事だい?ガットル。」
「動揺させ方が、分かった。」
長くなったから、後半に続く。
『告白』→『決戦』の流れで、勢いで進みたかったのと、決戦に少なからず緊張感を出したかった為、時系列の入れ替えが発生しています。




