第3話 仲間~戦闘準備~
~前回までのガットル~
昔は勇者になる事が夢だったけど、色々あってなれなかったよ。
勇者に会った。くそ~やっぱかっこいいな。
勇者になれないなら、勇者の仲間になりたい!
昔を思い出したり、女の子とお話したりもしました。
「ゴケさん!」
「ほ?」
ここはフフゴケ商会本部。という名の一軒家。
目の前にいるのは商会の一番偉い人。
名前はフフゴケ。
家主にて、俺を拾ってくれた恩人だ。
「ゴケさん。俺、勇者の旅に同行したい。」
「…なぜぇに?」
ゴケさんは目を丸くしている。当然だろう。
順序だてて説明する為、まず一呼吸する。
「だいたい把握したよ。」
肩をポンっと叩かれて、思わず飛びのいてしまった。
「クレスタ?」
肩ポンの犯人は知っている顔だった。
商品開発担当の女性主任。
歳は四つ上だったか。
あんまり話した事はないが、妙に馴れ馴れしい所がある。
先程のようなボディタッチの多い人だ。
「さ~こちらへ。」
クレスタは満面の笑みで、俺とゴケさんの手を引っ張って行く。
【極秘会議中!許可なく立ち入った者は死を覚悟せよ】
そんな張り紙のあるドアを躊躇なく開け入る。
机が一つとイスが四つ。人が何とか移動できそうな、狭い部屋。
俺の記憶だと、ちょっと前まで物置として使われていた場所だ。
イスに座る。
ここまで何の説明もなく、促されるままだ。
(本当に極秘会議中だったのか?)
机の上には何もない。
と、思ったら、クレスタが湯気の出ているコーヒーを置いた。
勝手知ったる他人の家か、実に手際がよい。
「改めまして、私はクレスタ。フフゴケ商会商品開発部の主任です。」
知ってる。
「そして今回、フフゴケ商会を代表して、勇者の魔王討伐の旅に同行します。」
それは、知らなかった。
「次に、こちらがディオルさん。勇者の仲間の一人です。」
部屋に最初からいた、謎の人物が紹介される。
席順はドア側にクレスタ、左回りにディオル、ゴケさん、俺だ。
「どうも。」
ディオルは右手を軽く上げて挨拶した。
切れ長の目をした黒髪短髪、細身の男性。
着ているローブは高級そうだ。
「私の叔父さんのフフゴケさん。書類にサインをしてくれます。」
「ほ。よろしく、お願いしまぁす。」
…ゴケさんがいいなら、いいけどさ。
「話題の中心、ガットル君。勇者の仲間になりたいそうです。」
(!?)
すっかりペースを乱されて、完全に気が抜けていた。
実はここ、大事な場面なのではと、気が引き締まる。
「いいよ。」
ディオルさんが即答した。
「やった。終わり!久々に帰れる~うれしぃ…叔父さんサインはここですぅ。」
クレスタの出した用紙にゴケさんがサインしている。躊躇わずに。
「お疲れ様クレスタ。条件は君と同じで頼むよ。」
ディオルが立ち上がりドアに向かう。
クレスタは顔を突っ伏したまま右手をひらひらさせている。
「フフゴケさんも、ありがとうございました。また、後日。」
「ほ。よろしくぅね。」
ドアの前でディオルは立ち止まり、俺を見た。
「ガットル君。」
「はい。なんでしょう?」
「期待している。」
純粋な子供のような笑顔を残し、ディオルは去って行った。
(…。)
俺は何も言えなかったし、何のリアクションも取れていない。
知らない情報が多すぎて、完全に置いてきぼりである。
翌日の明け方。
クレスタに呼び出された場所にいる。
フフゴケ家の近くにある倉庫前。
厳重な場所で、魔法錠と機械錠の二重だ。
商品保管庫の一つだと思う。
今は待ち合わせ時間を過ぎても来ないクレスタ待ちだ。
(うーん…。)
俺の認識をまとめると。
1、小さい頃俺は勇者になりたかった。夢だった。
2、色々あって、逃げ出した。
3、でも勇者になりたい気持ちは燻っていた。
4、勇者に実際に会って、その気持ちが再燃した。
5、勇者になれずとも、せめて近くにいたい。勇者の仲間になりたいと思った。
6、勇者の仲間になった。
となる訳だが、本当にあっているだろうか。
(俺は、勇者の仲間に、成れたのか?)
「実は、まだ成れてないんだよね~。」
この肩ポンはマジで慣れない。大きく後ろに飛びのいてしまう。
「ク、クレスタ…。」
「おまたせ~。」
全く悪びれた様子はなく、慣れた手つきで二重の錠を外す。
「どうぞ中へ。」
「…説明はあるんだよな?」
「もちろん。」
倉庫の中に入る。
武器だ。防具もある。
このでかい倉庫の中、全部か?
「明日ドラゴンを倒しにいくから、今日はその準備。」
「…詳しく頼む。」
クレスタは倉庫内を進む。
「テスト、かな。勇者の旅は危険がいっぱいだから、ついてこれるかの。」
紫色の服を渡された。
上下ある。触り心地は、いい。しかもすごく伸びる。
これは商会の商品の一つ、強化服だ。
普段着としても、戦闘服としても使える。
「魔王ってドラゴンより強いらしいよ。
だからドラゴンぐらいは倒せないとねって。」
小手を渡される。グローブも。
「…ドラゴンなんて、何処にいんだよ。」
「王国南西にある風鳴洞窟。聞いたことない?」
「…おとぎ話の?」
「そうそれ。」
試着室に通される。脛あてや、ブーツも渡される。
「一人でか?」
実際はどうだか知らないが、ドラゴンだろ?骸骨より弱いイメージはない。
さすがに、死ぬだろ。
「五人かな。」
胸当てが足元に置かれる。
「レーラスと、ディオルと、サニアちゃんと、私と、ガットル君。」
(ん?全員と面識あるか?)
「サニアさんって、連菊丘の先の家の人?」
「そう。そのエロい子。」
胸当てを足に落としそうになった。
「ガットル君はぁ~、サニアちゃんがどうしてあの格好だかわかるぅ~?」
知る訳がない!
反射的に言おうとしたが、俺の脳裏に少し昔の光景が浮かんできた。
客の一人にダルがらみされたやつだ。
その客は、言い表せない、あれな格好の女性で、しかも退治屋だった。
誘惑。色仕掛け。
魅了された男は、剣となり、盾となり、金品を貢ぎ…。
そんな自慢話を長々と聞かされた。
更に昨日のサニア自身の言葉『恋人…予定です。』も、あるならば。
(…俺の知識と、得た情報をまとめると…。)
正解は知らない。しかし、この女が求める答え、それは。
「意中の相手の、気を引く為。」
「んっふ~♪。」
カーテンで相手の姿は見えないが、悶えているのは伝わる。
嬉しそうでなによりです。
「サニアちゃん可愛いよねぇ。お姉さん応援してるんだ~。」
(何も言えん。)
「だからサニアちゃんの綺麗な肌を出来るだけ露出させ、且つ、実践的な装備になるように頑張ったよ!」
(ひょっとして、元凶の方?)
「ぶっちゃけ、高レベルの魔物相手だと、どんなに頑丈な防具でも、一撃で粉砕とかなわけよ。
敵の攻撃は避ける、逸らすが基本。サニアちゃんは動ける子だからね~。
避けやすいように軽量化。衝撃吸収が全体のコンセプトね。」
商品解説に話題が変わる。
「最大の売りは脚装備!
衝撃吸収能力は抜群で、全力疾走からの急停止に方向転換も可能。
ついでに高所からの着地もOK。
ニーハイも足首、膝関節を守り、更にポカポカ。
正直ここまでのを作れるのは、うちだけね。」
小手のつけ方はこれで合ってるだろうか?聞きたかったが、解説は続く。
「不意打ちって怖いよね。中でも凶悪なのが、魔法罠。
何もない空間から炎の槍が飛び出してきたら、流石に避けるのは厳しくない?
そんな不安を解消する為に胴体装備に使われているのは、魔法に敏感な動物の毛。
魔法の反応を感知すると毛が立ち始めてチリチリするわけよ。
すごくない?」
「すごいな。」
あぁしっくり来た。小手はこれで平気そうだな。次は…。
「サニアちゃんの攻撃方法なんだと思う?
格闘?それとも何かの武器?
まぁ短刀はもってるって聞いたけど、メインは魔法なのよ。
火。火属性の基礎のやつね。
基礎魔法とて、侮るなかれ。とんでもない爆発をするわ。
私みたいに火魔法に詳しくない人からしたら、中級魔法と違いが分からない。」
魔法は火、水、風、土の四属性。
火、水、風、石の基礎魔法が存在する。
この基礎魔法の応用の難しさで初級魔法、中級魔法、上級魔法に分けられる。
例えば火属性の場合、基礎魔法の火を、球状にすると初級魔法の火球。
剣状で初級、火剣。矢状で初級、火矢。
網状で中級、火網。渦状で中級、火渦。
みたいな感じ。
基本的に、中級魔法の方が初級魔法より高威力だ。
強力にする為に、複雑化して難しくなる訳だから。
しかし、俺の愛読書にも書いてある。魔法は、使いこなしてこそ。
1発の中級より、10発の初級。
基礎魔法で出力だけを上げるのが正解な時も、もちろんある。
「サニアちゃんの魔法、通常より消費魔力も凄いらしいわ。
まあ、魔力は高いらしいんだけど、その、制御が下手らしくてね。
所謂ノーコンね。
だから超近距離でぶっ放すってわけ。
そんなニーズにも答えるのがフフゴケ商会!
特性の小手&ロンググローブ~。」
また足元に何か置かれている。
これは、ベルトか?
ここのポケットに、ちょっとしたアイテムなら入れられそうだ。
「昔はパンチとかキックとかの体術、格闘がメインだったそうよ。
そのせいか、どうかわからないけど、戦闘中ジャンプするのよあの子。
ジャンプパンチとかジャンプキックとか。
避ける時も、距離をとる時もよ。バッタみたいに。
高くジャンプしたら、落下中無防備でしょ。いい的なわけよ。
高度な魔法が使えるとかでもないし、防御力は削っているし、なにより空中には蹴るものがないから自慢の装備の性能も生かせない。
ジャンプキックより、近距離魔法ぶっぱのほうが強いし、いい事ないのよ。
そこで、スカートを穿かせたってわけ。
高くジャンプしたら落下時にパンツ丸見えになってはしたないわよって。
効果は、んふ。絶大だったわ。
無事戦闘スタイルを矯正出来て、眼福、いや、安全は守られたのでした。」
(いきなり下ネタにしないでくれ。)
勢いよくカーテンが開けられる。
いや、全部着ましたし、付けましたけど。いきなりはやめてほしい。
「頭部の装備っていつも困るのよね。
危険を察知するために、目も、耳も、鼻も塞ぎたくない。
危険を知らせるために、口も隠したくない。」
もちろん場合によるけどね、と。額あてを着けてくれた。
「いずれ機械で補助出来ればと思うけど、今はまだね。っはい。完成。」
優しそうなたれ目が見つめている。
後ろで束ねた黄色い長髪から、所々はね毛が見え、商会の作業着はよれよれで、落としきれてないシミもある。
それでも、にかっと笑った姿は可愛いなと思ってしまう。
何だかんだで許したくなる、愛嬌のある人だった。
「サイズは…大丈夫そうだね。うん。似合ってる。」
「ありがとう。」
その言葉は自然と出た。
「お礼は早いよ。
まだまだ本番はこれからだからね!」
クレスタは笑顔のままだったが、何か得体の知れないものを感じ、
「ひぇ…。」
その言葉も自然と出た。
物語の主要メンバーは五人。
ガットル、レーラス、サニア、クレスタ、ディオルなので、全員登場しました。
フフゴケさんは商会名になっているので、名前だけ、よく出てきます。