第36話 勇者~勇者の剣~
~前回までのレーラス~
退院した!
歓迎会まで時間があるし、三年前の事故現場をみてこよう。
目的地まで遠いから、またガットルに、昔の話をしようかな。
『俺はハダラバだ。勇者の息子ってのは君か?』
シスターが亡くなって、僕が拠点を市街地に移してから一年。
サニアと出会う三年くらい前。
街から離れた山の麓。
いつもの秘密の訓練場で素振りをしていたら、その男は現れた。
『そうです。僕がレーラスです。ハダラバダさんは何か用ですか?』
『いや、ハダラバ、だ。ハダラバダじゃない。』
『何を言っているんですか?ハダラバダさん?』
『名前が、ハダラバ、で、後ろの、だ、は名前じゃない!』
オーバーな手振り付きで、唾を飛ばしながら解説している。
『…それで、ハダラバさんは何のようですか?』
『俺は君の父さんに命を救われてね。
跡を継いで13代目の勇者になったから、子供の君にも挨拶しておこうと思って。』
『は?』
勇者を、継いだ?こいつは何を言っている。
『勇者は、僕だ。』
訓練に使っているのはレーラスの実剣だ。
その切っ先を自称勇者に向ける。
『落ち着け!そうだ、お前は勇者だ!でも、俺も勇者だ!』
躊躇いなく剣を払った。
自称勇者の髪の毛が数本舞った。
僕は舌打ちをして、
『死ね。』
追撃した。
『話をさせてくれー!!』
追いかけっこは小一時間続いた。
勇者を自称するだけあり、男は僕の攻撃を避けきった。
『君は、はぁはぁ、まだ、若いから、はぁ、僕を一旦挟んで、はぁ、その後、君が勇者だ、はぁ。』
一旦、ね。それで納得しよう。
『なら、早く、魔王を、倒しに、行け。』
本当は僕も、この男みたいに膝をついて呼吸を整えたい。
でも、僕の小さなプライドはそれを許さない。
壁に寄りかかって、まだ余裕です感を出し、誤魔化している状態だ。
『その、前に!やることが、ある!』
男は僕を見た。真剣な眼差しで。
『勇者の剣を君に教える!
しかし今日は、もう暗いし、疲れたから、また明日!』
男は去っていった。
翌日。
『むけん?』
『正式名称は《無型連閃剣》略して、無剣。勇者の必殺技だ。』
『魔法とは違うの?』
『違うな。魔力で、使う。ではなく、技術で、やる。だ。』
『高度な魔法は、高い技術が必要だよ?』
『…学ぶというか、ひたすら練習して、体にしみこませる感じだ。』
『魔法じゃん!』
『解った!魔力が必要なのが魔法!魔力を使わないのが必殺剣!』
『必殺剣?必殺技と違うの?』
『剣を使った必殺技だから、必殺剣!』
第一印象が最悪だったから、僕の態度も最悪だった。
そう、いつもはこうじゃない。
シスターとの修行はもっと素直だった。
『無型と言っているが、型が無い訳ではない。型はある、それも無数にな。ゆえに、無型。』
『わかんないよ?だからキメ顔してないで続けてよ。』
『…敵が剣を振り下ろしてきましたー。あなたはどうしますかー?』
『その剣を弾き落として、カウンターで斬り殺す。』
『…それを仮に【パターン1】としよう。他には?』
『他?…えーと、』
『…敵の剣が魔法で帯電していて、触れると感電するとしたら?』
『!横に避けてから懐に飛び込み、斬り殺す!』
『じゃ、それ【パターン2】ね。
こんなふうに対処法は敵の攻撃の種類だけ存在する。
そして敵の攻撃の種類は、大きい、小さい、人型、獣型、剣、槍、素手、振り下ろす、振り払う、突く、そして魔法等々、めちゃくちゃ多い。
まず、それを全部想定する。』
『…。』
『そうすると、この時とあの時は、似た動きだーとか、その時とこっちの時はあの時にも使えるなーとか。ここで相手の動きを誘導出来たら楽だなーとか。
そうやってちょっとずつ変えていき、無駄を削ぎ落とし洗練された動きをつくる。
それを型と呼んでいる。』
『…。』
『斬りかかってきた敵にはこの型。尻尾が飛んで来たらこっちの型。
いっぱい型があるから、まずそれを全部覚えて、頭で考える事なく動けるようになるまで練習する。
敵の挙動一つで反射的に動く。敵が何をしようが、全てに対応する。
それが、無剣。』
『…。』
『寝てないよね?ちゃんと聞いてるよね!?』
ハダラバは毎日やってきた。僕が邪険に扱っても。
その感じが、いつかのレーラスとのやり取りを思い出した。
『まだまだ、型が崩れているぞ。それじゃあ隙になる。』
『臨機応変に動けるのはいいが、そのまま無理に攻めるな。一度引いて立て直せ。』
『頭で考えているな。それだとただの連続で斬っているだけだ。』
『技を信じろ。完成したら、まず、躱せない。信じるには、練習しろ。』
ハダラバがどうしてここまで必死なのか分からなかった。
だから、直接聞いてみた。
『希望を繋ぐ為だ。
誰にも伝えずに俺が死んだら、無剣は、無くなった剣技になってしまう。』
『希望を絶やしてはいけません。』シスターの言葉と重なった。
『魔王を倒す為?』
即答されると思ったけど、ハダラバはちょっと考えてから、答えた。
『そうなんだけど、たぶんそれだけじゃないな。』
彼は適当な所に腰掛けた。休憩かと思い、僕も座る。
『無剣は、最初の勇者が編み出したと言われている。
原型はあったかもしれないが、だいぶアレンジされていて、まさしく勇者だけが使う剣技だった。
でもだからか、粗も多かったらしい。二代目の勇者もアレンジした。
三代目も四代目も少しずつ、少しずつアレンジした。
型を増やし、派生を増やし、自分が使いやすいように、受け継ぐものが使いやすいように。
いつしか、自分が勇者だった証を残すようになった。
この部分は俺が作ったんだぞ、ってな。』
『今じゃ魔法を使う型もあるしね。』
ハダラバが渋い顔になる。
最初に魔力は使わないと言ったのを思い出したのかもしれない。
今更だろう。こんな動き、体内の魔力制御が相当うまくないと実現できない。
わかるよ。あの時は、僕の疑問に答えようと必死だったんだ。
怒ってなんかいない。口には出さないけど。
『今はさ、なんか情報漏洩とか気にして、勇者から勇者へ口伝で伝えているけど、魔王を倒したらさ、みんなに教えたいよな!俺達の、自慢の必殺剣。学校とかで!』
『絶対嫌がられる。面倒で難解すぎ。』
『魔王を倒した剣だぞ~大人気だろ!』
『これ以上、足され続けたら、習得して旅立つ頃には、おじいちゃんとかありえる。
やっぱり、僕が倒さないと。』
『いや、俺が倒すから!』
ハダラバが旅立ったのはそれからすぐだ。
全部の型を教えるだけ教えて、僕の完成は見届けずに。
『俺が魔王を倒すから~ゆっくり習得してくれ~。』
勇者って雑な奴が多いんだろうね。証を残したいなら、ちゃんと残せ。
絶対証消えている勇者いるって。情報漏洩云々は言い訳だよ。
絶対紙に残すのが面倒なだけだって。
僕は必死に書いたメモを見ながら、怨嗟の声とともに練習を続けた。
そして僕がサニアに出会う少し前。
手紙が届いた。
『だいぶ回り道になったが、何とか魔王の城が見える所まできた。
準備も体調もバッチリだ。これから、魔王を倒してくる。
この手紙が届くころには、俺は凱旋中になるな。
でも、もし、もしな?魔王がまだ、生きていたら。
次の勇者はお前だ。お前が、魔王を倒せ。』
魔物の被害は減らず、魔力も特に変化はない。
魔王は、生きている。
(…。)
もし、ハダラバが魔王を倒してしまったら、勇者レーラスは生まれない。
僕とシスターの努力は水の泡だ。
でも。
僕はハダラバに、魔王を倒してほしかった。
そう思っていた事に、この時、気づいた。
だから、あいつが魔王討伐に向かう時、止めなかった。
あいつの事は、嫌いじゃなかった。
(…覚悟を決めろって?もう、僕しかいないって?)
シスターの墓前で、甘えは捨てたはずだった。
でも僕は、きっとあいつに甘えていた。
(確かに、受け取ったよ。)
握りしめる。
手紙の言葉と一緒に受け取ったのは、40年間、13人の勇者達の想いだ。
僕はいつものように秘密の訓練場へ向かった。
「つまり、勇者は事故に巻き込まれた訳ではないね。
むしろ、事故を起こした側かもしれないよ?
でもそしたら町の人の対応が変か。敵意は無い、らしいし。」
一つの仮説が思い浮かんだ。いや、願望かな。
「勇者様は、その、無剣を誰かに教えてきたのか?」
ガットルは真面目に聞いてくれる所がいいね。
「僕の次の勇者は、王国兵のムンタさん。
訓練に参加した時、最後まで立っていたからね。
教えてきた。というか、図解付きの本を作って渡してきた。かな。
正直あれを作っていたから出発が遅れたと言ってもいい。
でも、おかげでガットルに会えたから、真面目にやってよかったと思っているよ。」
ガットルの表情は暗い。今度は何に気を遣っているんだか。
「まぁ勇者ムンタの誕生はないね。僕が魔王を倒すから。」
「勇者は、魔王を倒すといらなくなるのか?」
「ガットル、王国の方針は忘れたの?
王国はそういうの、無くしていきたいんだよ。
西の勇者達みたいには、ならない。」
やばい、ガットルが泣きそうだ。
王国と僕達は、魔王討伐後に再度話し合いをする予定で、折衷案も考えているけど、そういう事ではないのかもしれない。
ガットルをいじめたい訳がない。でも上手くフォロー出来そうもない。
ここは、うやむやに、しよう。
「ガットルちょっとやばいかも、思ったより遠い。
間に合わないと不味いから、アサルトフローで飛んで行こう!」
「え、マジで?」
有無を言わさずガットルにしがみつく。
「わかった。…行くぞ!」
さぁこの微妙な空気を、景気よく吹き飛ばしてくれ。
事故現場跡地に僕らは到着した。
立ち入り禁止とかにはなっていない。ほったらかしな印象だ。
大きな穴が空いていて、滑り落ちないように慎重に降りる。
デカい空洞が特徴の、ありふれた洞窟の一つだ。
魔導兵器の研究施設と聞いていたけど、それっぽいものはない。
撤収した、と思う。三年前だしね。
でもだからこそ、今隠れた数人の人影が気になる。
完全に素人の動きだ。
何をやっているのか、想像なら出来る。
ガットルも気づいたみたい。彼は熱検索が使えるし。
「勇者様…。」
近づいてきた彼は深刻そうな顔をする。
「大丈夫だよ。」
隠れている人達は、聞き耳をたてているみたいだし。
「僕の推理を、聞いてもらえるかな?」
ミステリーではないし、想像過多だから、推理小説ファンからは、真面目に怒られそうだけど。
探偵がみんなの前で、事件の真相を披露する。
そういうシチュエーションはカッコイイと思っている。
好きだし憧れる。一度やってみたかった。だから、許してね。
無剣を前任者が直接教えていたのは、後任者に『残す』という意味で、自分の口で伝えたかったから。その行為自体も、継承の儀式となっていた感じです。
ただ、それは暗黙の了解で、その発想のないレーラスは、紙で伝えました。
彼女が残したいのは功績。魔王討伐の悲願は、自分が果たして終わらせる気なのだから。
ガットルはそれに思い当たりましたが、今更言っても仕方ないと思って、言いませんでした。




