第35話 勇者~退院~
~前回までのレーラス~
ガットルに自分の過去を話した。
ほんとは確認したい事があったけど、いい気分になれたから。
そのまま寝た。
遂に、退院。
朝。
熱は大分下がった。
けど変わりに咳と鼻水が凄い。
ゲホゲホ、ズビズビ…。
「…。」
隣には誰もいなかった。
でも窓の外、やや離れた位置に、イスに座っているディオルが見える。
おそらく激怒したサニアの意見で方針が変更になったのだろう。
警護監視は外で。同室禁止。当然、通信機は没収されている。
(…寂しい。見える距離にいるのに…。)
しかし、確かに今は楽しくお話は無理だ。ゲホゴホ…。
机の上に本が数冊置いてある。
気遣いに感謝しつつ、タイトルをざっと見た。
【勇者トリドの英雄譚】これだ。
冒険は楽しい。
カナミア達の件もあったし、他の勇者の動向には興味がある。
読み始めてすぐに、僕はこの本が好きになった。
サニアにそっくりな子がいる。
可愛くて優秀な子で、名前もアニア、で似ている。
世界を渡り歩く旅人で、トリドに一目惚れしてついていく。
ちょろすぎて心配になるが、そこもまたいい。
舞台背景は深刻だ。魔竜によって世界が滅ぶかもしれない。
勇者トリドの双肩には世界の命運がかかっている。
僕達は仮に全滅しても、世界が滅んだりはしない。
ま、倒すけどね魔王。
そんな状況だけど、物語は割とコミカルに進む。
トリドとアニアと、トリドの友達のポーンの三人旅だ。
トリドとアニアのやりとりは、ほっこりする。
ガットルとサニアを見ているようだ。
トリドは熱い男だ。
魔竜を倒す目的も、単に勇者の末裔というだけでなく、人々の笑顔を取り戻す為だ。
性格は、優しい所もあるが、基本的に自己中で傲慢。自分が正しいと信じている。トラブルの解決方法は全部力業だ。
でも、絶望的な世界で彼は立派な光だった。
僕には真似できそうにない。
彼を見ていると13代目の勇者を思い出した。
性格は違うけど、なんというか、変なやつだが、それでもこいつなら、何かやってくれるのではないか、そんなふうに思える魅力がある。
「!?」
懐かしい顔が浮かんでいたが、そんなものはすぐに霧散する。
それどころではない!
アニアが、裏切ったのだ!
アニアは魔竜を崇める一族の末裔!?
その為に近づいてきた!?
ポーンお前もか!
両親を殺された復讐!?
なんで二人とも今まで仲良く旅をしていたの!?
後半、畳みかけるようなカミングアウト祭りで僕はパニックだ。
だって、あんなに、楽しそうだったのに。
僕は食い入るように文字を追い、ページをめくり続けた。
そして、
(あぁ…アニアが…死んじゃった…。)
「あ~~~…。」
僕はベッドに突っ伏した。
推しが死んでショックが大きい。
アニアの気持ちはさ、分からなくもないけどさ。
世界の為なら死んだほうがよくて、死に場所を探して旅をして、好きな人に看取ってもらいたいって、好きな人に忘れず覚えていてもらいたいって…。
世界を守る為、好きな人の願いを叶える為、トリドはアニアの心臓を貫いた。
「…。」
いや、やっぱり分からない。
僕はアニアの立場も、トリドの立場も嫌だ。だから分からない。
(…結末は見届けねばならぬ。)
もぞもぞと僕は起き上がり、再び本を手にとった。
ポーンと和解、からの犠牲、からの覚醒で、トリドは魔竜を倒した。
街のみんなに笑顔が溢れ、トリドは凱旋を果たす。
「俺は、この為に、戦ったのだ!」
拳を突き上げたトリドの姿で物語は終わった。
まるで、自分に言い聞かせているような叫びだ。
僕は一度閉じた本の真ん中辺りを開く。
トリドの笑顔とアニアの笑顔とポーンの笑顔があった。
この辺りは本当に楽しそうなのに。アニアとポーンはもういない。
(…。)
アニアが死んだ辺りから、僕は別の事がちらついて、本に集中できていない。
だから、この物語後のトリドに思いをはせる事はしない。
僕は、僕達の旅はどうなるのかが、気になっている。
魔王は倒す。でも、それは犠牲なしで可能だろうか。
サニアが、僕を庇って死んだりしないだろうか。
そしてだ。
そんなふうに本気で思っている事に、僕はショックを受けたのだ。
アニアが死んだ時、サニアの手を引いて町から出たくなってしまったのだ。
もちろん旅に出る前から、みんなの事は好きだ。全員無事がいい。
でもそれは二番だったのだ。
一番は魔王討伐。僕とシスターと、たくさんの人の夢。
その為なら犠牲は仕方がない事だったのに。
僕の考えは、変わってきている。
トリドも、そうだったのかもしれない。
でも、トリドはやり遂げた。
(僕は…。)
思い出したように咳がでた。
結局この日、仲間は誰も病室内に来なかった。みんな外だ。
僕は食事を持ってきてくれたナースさんとだけ会話をした。
夢で合ったシスターは、何も喋ってくれない。
翌日の午前中も変わらず本を読んで過ごした。
【ほっこり太陽村】
二足歩行で人語を話す動物達が、村で起こるトラブルを解決していく話だ。
最後の一行の『太陽村は今日もほっこり平和です。』を読んだ時、僕は拍手した。
おいしいカレーを食べに行き、おいしいカレーを食べられた幸福感がある。
そう、今の僕はこれが読みたかった。
タイトル詐欺や、逆張りでなく、本当によかった。
余韻に浸っていると、お昼ご飯と、仲間がみんなでやってきた。
今日の夜は歓迎会だ。きっとここからは真面目な話。
「レーラス体調は?」
サニアはパンだ。よく食べてるイメージがある。
「薬のおかげかな。ばっちり治ったよ。」
僕はカレー。うどんとカレーとのり弁の三択だった。
「やせ我慢の可能性もあるから、出る時に治癒魔法はしてもらう。」
ディオルはのり弁。お米が好きなんだね。
「クレスタは、結局何かつかめたのか?」
ガットルはうどん。ふーふーしていて可愛いよ。
「う~ん。微妙だけど、取りあえず話すわ。」
クレスタは何も持っていない。今日はドリンクで済ませる気だ。
食べる時は食べるけど、食べない時は食べないから、たまに心配になるよ。
「おそらく、私達に敵意はない。でも何か隠しているのは確実。
町にいる商会の人間はグル。町側についてる。」
「敵意がなくて、商会の人も噛んでいるなら、問題はないんじゃない?
それこそ歓迎会のサプライズとか。」
サニアは食べ終わったようだ。口元を拭いて、パンの包みを折っている。
「表情が固いのよ。隠している内容は、多分よくない系。」
「あれじゃないか、何か失敗して、それを隠しているとか。」
ガットルは器を机に置いている。
中にうどんは残っているから、熱くて食べられず冷ましているのだろう。
「そういえば事故があったそうだな、三年前に。
その時の怪我が悪化して前国王は亡くなったらしいじゃないか。」
ディオルも食べ終わった。意外と早食いなんだよね。
「どんな事故だったの?」
僕のカレーはまだ残っている。意外と本格派で、ちょっと辛い。
クレスタとディオルが目配せして、ディオルが口を開いた。
「古の魔導超兵器、と呼ばれる物がある。
地中深くに埋まっていて、俺達の魔法より強力かつ高度な魔法技術で造られた兵器だ。
この国でも、それは見つかった。
魔法大国となれたのは、この古の魔導超兵器の研究をしているから、とも言われている。
三年前、その兵器が研究中に暴走した。
研究所は離れていたが、それでも町にまで被害が及んだ。」
クレスタが引き継いだ。
「事故原因は依然不明で、王様も結果的に亡くなっている訳でしょ。
事故が人為的なものだとしたら、陰謀とかいくらでも疑える。
黒幕が国の偉い人だとしたら、レーラスも言っていたクーデター説が十分ありえる。
で、昨日一日頑張ってみたけど、たぶん、たぶんだけど、違う。」
商会の協力が得られず、しかも一日だから、クレスタも確かな事までは分からなかったのだろう。
寧ろその状態で調べられたのは凄いと思う。
皆の顔を見る。報告は終わりかな?なら、リーダーである僕が言うのはこれだ。
「まとめると、なんか隠している事があるけど、敵意はなさそうだから、このまま歓迎会に参加しよう!って事でいいかな。」
僕は久しぶりに防具を着けた。この重量感は落ち着く。
クレスタはぎりぎりまで調べるらしい。サニアとディオルも、彼女について行った。
僕とガットルは置いていかれた。お昼ご飯が残っていたから。
その後僕達は、先生に治癒魔法をかけてもらい、退院手続きをした。
歓迎会の会場へは現地集合だ。
ガットルに、それまでここで休む事を提案されたが、僕は外に出たくて出たくてしょうがないのだ。
町はたぶん安全だけど、念のためフル武装だ。
歓迎会は武装状態で参加らしいからちょうどよい。
「ガットル。お勧めの場所はあるかな?」
「お勧め?えー…。」
サニアとだったら可愛い小物屋さんだけど、ガットルとだったら何処が楽しいかな?
悩んでくれているガットルには悪いけど、僕の方が閃くのが早かった。
「ガットル。三年前の事故現場に行こう。」
まじかー…と言いながらもガットルはついてきてくれた。
町から離れているそうだから、よさそうな移動手段を探したけど、結局は徒歩にした。
今からなら、往復で丁度いい時間のはずだから。
「さすがに、現場には誰も行っていないと思うから、新しい発見があるかもね。」
門番の人に手をふり、城壁から外へ。
しばらくは何もないから、方角には注意しないと。
「そう言えばさ。」
ガットルが口を開く。何もないからね、お話していこう。
「三年前の事故なんだけど、勇者が関わっているらしい。」
「そうなの?」
ここでまさかの新事実。
「三年前ということは、僕達の一つ前だね。13代目。」
「もしかして、その勇者は…。」
「…。」
「ここで、死んだのかな?」
ディオルが言ってたっけ。13代目勇者の死には、諸説あるって。
ガットルが、あの場でこれを言わなかったのは、例えば、やはり勇者の死は彼にとってもショックで、事実を確定させたくなかった。
クレスタなら知ってるかもしれないし。
逆に事故を知らなかった僕は、勇者の件も知らないはずだから、思いの吐き出し先として僕が適任だった。
愚痴を言ってもよい相手、になれたのは嬉しいね。
もしくは、あの夜ガットルに昔話をしたから、僕が目の前で勇者を失ってショックだったのを知っていたから、勇者の死の言及を避けた。
でも事故現場でそれらの証拠が出る可能性を考えて、いきなりだとショック過ぎると思って、今、話題をふった。
そんな所かな。
「ここでは死んでないよ。」
「え?」
ガットルの真意は分からないけど、ガットルの質問には答えられる。
「前の勇者は、少なくとも魔王の居城までいっている。手紙を貰っているからね。」
「知り合い、だった?あ、そういえば、パーレで…。」
あれは覚えてなくてもしょうがないよ。
周りは、まだまだ同じ景色。
「また、昔話だけど、聞いてくれるかな?」
次回、また過去編。
決戦が近いから、今のうちに。みたいな。




