第32話 勇者~入院~
~前回までのレーラス~
ついに最後の町までやってきた。
中々、不穏な感じがするし、気をつけないといけない。
だけど、僕は発熱した。普通の風邪らしいけど、一応、入院する事に。
病室での話、その1。
病院のベッドの上で、朝を迎えた。
「シスターいつもありがとう。」
シスターは僕を心配して、よく夢に出てきてくれる。
今回はこっぴどく叱られた。
まぁこの体たらくでは無理もない。
僕はゆっくりと上体を起こし、
「あ~~。」
パタンと倒れた。
体のダルさは相変わらずだ。
「大人しく寝ていろ。」
ディオルのそういう所は嫌いだ。
びっくりするからね。
「いつから?」
部屋に入る時にはドアが開くから分かる。
だから、少なくとも僕が起きた時にはそこに座っていて、僕の独り言も聞いていたわけだ。
「一人には出来ないだろ。」
(つまり、夜からずっと、部屋の中にいた、と。)
街中ではあるからね。警戒態勢は継続中か。
こういう時はサニアがいてくれるイメージだから意外だ。
もちろんサニアに徹夜してほしくないし、ディオルなら心配ない。
そこまで考えたら、人選決めのやりとりが想像出来て、笑いそうになる。
僕の予想だとこうだ。
もしもの襲撃に備え、僕の部屋に誰か残そうという話になる。
そしたらサニアが名乗りでる。
それをクレスタが止めるのだ。
若い男女が二人きりはよろしくないと。
言われたらサニアは引き下がるしかない。
それでディオルに、いや、クレスタはガットルに頼むのではないか?
頼みやすいだろう。もちろんガットルは快諾する。
それを、サニアが止めていたとしたら…?
理由が説明出来なくて、しどろもどろで、顔が真っ赤なサニア。
(うん。知ってる。サニアは可愛い。こうだといいなぁ。)
「ディオルは何を読んでるの?」
気分がよくなり、みんなと喋りたくなった僕は、近くのディオルに話しかける。
「異説魔法学という本だな。なかなか面白い。」
(魔法…、そうだ魔法だよ。)
僕は傷とかの外傷は治せるけど、風邪とかウイルス系は治せない。
でもそれは僕の魔法の事であって。
「魔法先進国の治癒魔法は僕を治せるのでは?」
ディオルは本を読みながら答えてくれる。
「治せるな。」
「なぜ、僕は入院しているんだい?」
魔法での治療代が高いとか?え?入院するよりも?
「旅は急いでいるかと聞かれたから、しばらく滞在予定だと答えた。
そうしたら魔法で治すより、ゆっくり休んで、しっかりと抗体をつくる事を勧められた。」
ディオルが顔を上げて僕をみる。ちょっとニヤついている。
「いい機会だから、休暇だと思って休んでいけ。」
みんなからは、僕が頑張りすぎて体調を崩したように見えたのか。
「休暇なら、遊びに行きたいなぁ。」
「諦めろ。」
ディオルはまた視線を本に戻す。
おそらくディオルは、警護の他に監視も兼ねている。
「…僕とずっと一緒だと、ディオルにも風邪がうつるよ。」
「大丈夫だろう。」
「勇者を戦闘不能にした風邪だよ?強力だよ?」
「うつったら治してもらうさ。治癒魔法でな。」
「もう完全に目的変わってるじゃん。」
僕の治療でなく、僕を休ませるという事に。
そういうのは、魔王を倒せた後でいいのに。
「…ディオルはさ、魔王を倒したら、どうするの?」
「魔王を倒したら、考えるさ。」
ディオルは、謎が多い。
20歳だというのも怪しい。
僕に協力してくれる理由も、
『昔レーラスと約束をした。強くなって魔王を倒すと。』
王国に戻ってきた理由も、
『強くなったから戻ってきた。約束を果たすために。』
強さの秘密も、
『親代わりの人が、魔法のスペシャリストでな。しごかれた。』
聞けば、全部答えてくれるけど。そこに嘘はないと思うけど。
きっと全部を話していない。
知りたいような、知りたくないような。
僕は、楽しい話がしたい。
「ディオルって使える魔法は五種類?」
ディオルがこっちを見た。
「どうしてそう思う?」
珍しい表情だ。ポカンとしている。
「基礎魔法を除くと、単純に五種類しか見た事がない。」
「なるほど。」
数秒考えて、ディオルは続ける。
「それで言うと、実用的なのは六種類だな。
より優れていて汎用もきく魔法が使えるなら、初級魔法は使う必要が無いだろう。」
やっぱり。魔法の話をしている時のディオルは生き生きしている。
彼は魔法が、好きなのだ。
「炎槍、好きだよね。よく使っている所を見る。」
「消費魔力が少なく、速度も硬度もある。発射まで時間がかからず、連射も可能。
となれば、自然と多く使う事になるだろう。」
火と土の中級混合魔法だ。
だから、使える人がそもそも少ないし、消費魔力やら発射時間とかは、ディオルだからの感想だろう。
「次に多く見るのは、獄炎、かな?連続使用で、空中移動も可能なんだよね。
衝撃も、威力も一級品だし、強敵用でしょう?」
「その通り。実質、俺の最大火力は獄炎になるな。
ただ稀に魔力耐性が異常に高い、魔法が効きにくい敵はいる。
そういう奴には、獄炎槍を使う。
本来は足元という死角から攻撃する奇襲用だ。
しかし、しっかりと魔力を練りこめばドラゴンぐらい大きく出来るし、その時の硬さは、高所からのドラゴンの落下にも耐えうる。つまり、俺の最大物理攻撃だ。」
めちゃくちゃ硬い石を用意するのは魔法の力だけど、攻撃は用意した硬い石でするから、物理攻撃って事かな。
後、ここで言う物理攻撃は、殴ったり蹴ったりする、所謂魔力を使わない攻撃って事だよね。
まあ、諸説ありますってやつかな。
「王国のドラゴン懐かしいね。」
日常会話を一行で終わらせるディオルが、たくさん喋ってくれて嬉しい。
「ドラゴンと言えば、上空に飛んだ時、下からたくさん撃っていたやつは?」
「騙線だな。戦闘向きではないが、合図とかに使える魔法だ。
火属性の魔法で、通常威力は基礎魔法よりも低い。
だが射程が長く、数秒火の線を残しながら飛ぶ特徴がある。
数が多ければ迫力があるだろう。実際、ドラゴンの牽制も出来ていたな。」
「うん。十分怖かったよ。」
後、僕が知っているのは一つだけだ。
「熱源でだいたいの人の位置が分かる熱検索。これは実用的でしょう。」
「そうだな。お前の音制御とも相性がいい。
音を聞く事も届ける事も遮る事も出来て、位置や動きもある程度分かる魔法だったな。」
相性がいいだなんて、照れるじゃないか。
「ディオルの言う実用的な魔法の最後の一つは何かな?僕、見た事ないよね。」
「獄炎盾だ。接近された場合の盾だからな。確かに今回の旅では使っていない。」
「獄炎は派生が多いね。」
いつものクールなディオルはカッコイイけど、こういう食い気味のディオルは、少年のようでかわいい。
いい感じだし、前から思っていた事を話してみよう。
「ねぇディオル。相談というか、提案というか、話があるんだけど、前振りからいいかな?」
「ああ、かまわない。」
ディオルは視線を本へ戻さず、僕を見ている。
「僕達は弱くない。各々強みがちゃんとある。」
ディオルは頷き、僕は続ける。
「僕は近接の剣技に自信がある。人型だろうと獣型だろうと、絶対の間合いがある。」
「無剣、だったな。」
「うん。覚えていてくれたとは、嬉しいよ。」
というか、一回言っただけで、よく覚えているなぁ。流石ディオル。
「サニアはスピードとそれを維持出来る体力。からの爆発的火力。」
「本人が、『やけくそファイアー』と言っていたのは衝撃だったな。」
「零爆発っていうカッコイイ名前になったじゃないか。」
サニアに名前はあるのかと聞いてからの、全員参加緊急会議は面白かった。
「ガットルは近距離、中距離で戦えて、アサルトフロ―なんて隠し玉もある。
条件が揃えば、僕達の中で最速だ。」
「最初は突っ走るタイプだと思ったが、戦闘中はよく周りをみている。
お前やサニアよりも冷静だな。」
そう、あの、骸骨にやられそうだったガットルが、こんなにも立派になって…。
「クレスタは非戦闘時の活躍が目立つけど、戦闘だと狙撃が抜群にうまいよね。」
「魔法は鍛えるものだと考えている俺達には、あの戦法は思いつかないな。」
「使っている魔法は、土属性の基礎魔法の、石だよね?」
「そうだ。石弾を生成して発射しているだけだ。
ただ彼女は、生成した弾に商会の薬品を括りつけたり、直接かけたりしている。
実際火力が上がっているのだから、大したものだ。」
「見た事はないけど、麻痺させられたり、毒を浴びせられたりも出来るんだっけ。
魔力分散弾なんて魔力を散らす物もあるし。恐るべしフフゴケ商会。」
「船を沈めた事もあるそうじゃないか。名前は確か火桜、だったか。」
「見せてもらった事、あるよ。火花が舞うように散るのは綺麗でカッコよかった。」
他にも、地探知があったっけ。地面の変化や土魔法の発動が分かるやつ。
地形把握なんかも出来るよう、アレンジされているんだよね。
正直、戦闘能力は高いと思う。並みの商人とは思えない。
でも彼女的には、自分が戦うとアイテムを消耗するから、僕達に全部任せたいらしい。
だからクレスタが参戦する時は、切り札登場みたいでテンションが上がる。
(…さて、ここからが本番。)
「以上の事を踏まえて、僕は思う。」
「…。」
「僕の戦い方って、地味だよね。」
「……続けてくれ。」
「僕もみんなみたいに、炎を上げたり、爆発を起こしたい。」
「地面がへこむほど強く踏み込んでからの突進。
豪快な風切り音とともに敵を両断。
血しぶき、いや魔力の残滓をまき散らして崩れ去る魔物。
十分派手で迫力がある。」
「炎を上げたり、爆発を起こしたい。」
ディオルがそれはそれは深い、ため息をついた。
「最初に言っていた自信の剣技はどうした。勇者の剣に誇りを持て。地味じゃない。」
「それとはまた、別の話だよ。」
「戦闘スタイルの違いだ。諦めろ。」
ディオルが本に目を戻してしまう。きっと呆れられてしまっただろう。
でもさ、欲しいんだよ。『勇者レーラス』に、分かりやすい強さが。
記録に残りやすい、短くて派手でカッコイイ強さが。
代名詞となる必殺技が。
例えば、光輝く剣とか。
「…。」
この話を続けても、きっと楽しくならないね。
やっぱり、楽しい話がしたい。
「それじゃあディオルが新必殺魔法を編み出してよ!僕の地味さをカバー出来るくらい派手なやつ。」
「なぜそうなる。俺には獄炎があるだろう。炎を上げ、爆発する。」
「獄炎は、ガットルとサニアが手を繋げば使えるじゃないか!
僕が求めているのは、上級魔法だよ!」
四属性魔法の階級。初級、中級、上級。
一般的に、広く伝わる魔法は、中級までだ。
では、上級魔法とは?
それは、最高の魔法使いだと自負する者達が、研鑽の果てに編み出す唯一無二の魔法。
よって、その複雑さは中級魔法を凌駕し、威力は絶大なものと成る。
たまに残念な上級魔法はある。
複雑だけど、威力は混合魔法の初級に負けちゃうやつとか。
でもオリジナル魔法だなんて、それだけでカッコイイじゃないか。
ちなみに、四属性魔法ではない天法関係のもの。
黒炎とか、獄炎とかには階級がない。でもあえて階級をつけるとしたら。
獄炎、獄炎槍は中級相当。見た事ないけど、名前的に獄炎盾も同じだろう。
熱検索と、騙線は中級だ。
つまり、こんなに強いディオルでも、上級魔法は使えない。
きっと彼的には必要ないのだろう。極めた中級魔法の方がよほど実用的なのだろう。
でも、そういう事じゃあない。これは、ロマンの話だ。
「もっと複雑で、高い精度が必要で、魔法の真髄みたいな、ディオルにしか出来ない魔法。綺麗で、派手で、そんな上級も上級、最上級魔法を、僕は見たい!」
「…魔法の…真髄…。」
それから僕達は、あーでもない、こーでもないと話あった。
無理だ。意味が無い。悪手だ。劣化だな。もうある。派手とは?代用は可能だ。それならば…、いっその事、つまり、ならば…、いや、可能か…?
そしてついに僕達は、辿り着けた。
再現可能で、強力で、複雑で、難しくて、綺麗で、派手。
発動まで時間はかかるが、そこは仲間達でカバーする。
ディオルの新必殺魔法、その名は。
《コズミックヘルブラスター》
僕は、いや僕達は立ち上がり、固い握手した。
ディオルも満足気だ。これは凄い事だぞ。
僕は興奮を抑えきれず、両手を上に突き出しガッツポーズをする。
ちょうどその時ドアが開いた。
「…。」
サニアだ。
シチューを持ってきてくれたサニアだ。
彼女に僕はどう映っただろうか?
高熱をだしたのに、はしゃぎまわる子供だと思われたら恥ずかしい。
視界の端でディオルが、こそこそと退出していくのが見える。
「んーっと。」
今ちょっと伸びをしただけですが何か?
みたいな雰囲気をだして、僕はベッドに横になるのだった。
ディオルが実用的といった魔法は六種類。
炎槍、獄炎、獄炎槍、獄炎盾、騙線、熱検索。
他にも魔法は使えるけど、基本、これらで戦っています。




