第31話 勇者~最後の町~
勇者、レーラスの物語。
*レーラス視点*
「動かないでよ。動くと、切るよ!」
「もう十分じゃないか!?ありがとうだよ!」
長閑な風景に、頬が緩む。
「ガットル。大分さっぱりしたね。本当、サニアは何でも出来る。」
エッヘンと。サニアは胸を張る。
手にはハサミ。それでガットルの髪を切っていた。
「まだ、真冬。俺、寒い…。」
「そんなあなたにはこちらの商品、こちらのマフラーは何と…。」
「おはよう。コーヒーあるかい?」
バクー王国の王都、キッドニの南方に僕たちはいる。
昔は村だったらしいけど、今はもう人はいない。
建物はちらほら残っていて、その内の一つを借りている。無断で。
行商人や旅人も使っているようで、そこそこキレイだ。
この後僕達は、キッドニに行く予定なのだけど、案内役のフフゴケ商会の人が、まだ来ない。
一日か二日、遅れそうだという話は事前にあったので、くつろいでいる状態だ。
窓から感じる、いい天気の雰囲気に、僕はのこのこ外に出る。
少し歩いた丘の上、肺がいっぱいになるまで空気を吸い込み、吐きだした。
日差しも風も暖かい。
ガットルは真冬だと言ったけど、冬はもう終わるのだ。
(…。)
見渡せば、周りは全部知らない景色。
ずいぶん遠くまで来たものだ。
今までの思い出がふと蘇る。
五人で初めてやった事は、王国でのドラゴン退治だ。
祝勝会をやり、旅に出て、国を出たら襲われたっけ。
最初の町のアンデック。
僕にとって、初めての王国以外の町だった。
ほんとは、皆で観光したかったけど、クレスタは忙しそうで、サニアは元気がなかった。ディオルはいつの間にかいなくなってたし。
でも、ガットルと食べた担々麺が美味しかったから満足だよ。
次の町のシクイド。
ここには申し訳ない事をした。
僕はお昼ご飯を食べに寄っただけみたいになっちゃった。
ニージュ商会の調査やら、サニアの事が心配だったとか、理由はあるけれど。
機会があれば、ちゃんと観光してみたい。
三番目の町、カルフラタ。
サニアが大変だったけど、僕も何気にピンチだった。
魔法が解けちゃったし。
ただ、また白輝回復が使えて嬉しかった。
あれ以降、僕は使えていないけど。
四番目の町、スーフリン。
初めて五人でゆっくり観光できた町。
料理も温泉も最高だった。
手形とサインを渡した、新規開店の料理屋さん。
美味しかったし、繁盛しているといいなぁ。
五番目の町、トバースロン。
スーマミーサさんと出会った。下着姿みたいな退治屋の人。
ガットルと顔見知りという事で、一緒に魔物を倒しにも行ったっけ。
打ち上げ中、急に始まった飲み比べ大会で、優勝したのは僕だ。
ずっと笑っていた気がする。
六番目の町、テオテナム。
クレスタの、お金がない発言が炸裂したのはここだ。
キノコ探しは楽しかったけど、問題はその後。
敵を取り逃すという大失態。
きっと敵を侮っていた。もう僕は、油断しない。
七番目の町、パーレ。
サニアはお母さんと再会し、僕はカナミア達、西の勇者達と出会った。
勇者の意味も、目的も違う。彼女達には彼女達の戦いがある。
僕は、それを応援したい。
同じ勇者として、友として。
八番目の町、アトレーナ。
13代目勇者の故郷。ちゃんとお墓があった。
それを前にしても、実感はない。
殺しても死ななそうな奴だったし、偽物説もあるみたいだし。
まあ、それでも。ここで僕が誓う事はただ一つだ。
(…他にもたくさん、色々あったなぁ。)
どれも楽しい思い出だ。
だから、もう、十分。
いつの間にか、皆、いた。天気がいいからね。
僕は、提案する。
「ねぇみんな。この後だけど、予定を変えて、レーグ半島に行かないかい?」
レーグ半島は魔物の島。人は住んでいない。
だから、そこで目指す場所はただ一つ。
天落峡谷。魔王がいるとされる場所。
僕達はもう近くまで来ているのだ。
「魔王を倒して、終わらせよう。」
みんなは、賛成してくれた。
商会の人が来たら伝えよう。
そして僕は、高熱を出した。
「はいはい、予定通りキッドニに行くよ。準備して。」
「ずびばぜん。」
医者に掛かるためキッドニへ。
商会の人に行先変更を伝える前だったのが、不幸中の幸いだ。
心配性のサニアは、僕を布団に包んで真っ先に馬車のキャビンに乗せた。
ふらふらするけど歩けるし、準備も手伝えると思う。
しかし迷惑をかけた自覚がある。荷物として大人しくしていよう。
やがて準備が終わり、みんなも順々に乗り込んで、馬車はゆっくり進みだす。
今僕は、サニアに膝枕している。
それを見たクレスタがキャーキャー言いながらガットルと戯れている。
サニアは、魔法が解けないか気にしてくれているのだろう。
僕は普段寝ている時も魔法は解かない。解けないように訓練してある。
解ける時は魔力切れと、体調不良による制御困難状態になった時だ。
幸い魔力は十分あるし、制御事態は問題ない。少なくとも今の所は。
「サニア、ありがとう。」
サニアにだけ聞こえるように小声でお礼を言う。
サニアは僕の頭をポンポンと二回たたいた。
「出発前に話してて分かった事があって。」
クレスタが急に真面目なトーンで話始める。
「ごめんレーラス。キッドニは行かないとダメな所だった。」
「「と、言うと?」」
ガットルとサニアがハモる。
「この旅で寄る町は、基本的に商会と王国で決めている。
それで、調整に成功した所に行っている訳ね。
ただ、一か所だけ、寄って欲しいと相手側から打診があった町がある。
それが、キッドニ。」
「俺達は歓迎されている?いや、誘われているのか?」
「クレスタ昨日は、『私もキッドニ行きたくなかったから丁度いいわ~』て、言っていた。一体どんな町なの?」
ガットルとサニアがクレスタに顔を近づけ、小声になる。
まるで聞かれたらまずい内緒話をしているみたいだ。
僕は顔を動かせないから、あまり小声にならないでほしい。
それか通信機の電源を入れてほしい。
「バクー王国がそもそも魔法大国だからね。
魔王領の隣国で、キッドニはそこの王都だからね、魔力製品も最先端の物ばかり。」
「…それは、行きたくないね。」
王国は魔法廃止を大声で言っている国だ。
僕にも分かる。これは絶対嫌われているね。
「いい所もある。」
ディオルいたんだね。ごめん。僕からは見えないんだ。
「飯がうまい。農業が強いからな。」
「「農業?」」
ガットルとサニアがまたハモる。無自覚仲良しアピールにほっこりする。
「四属性の魔法の制御レベルは一流だ。
最高の土壌、理想的な気候を維持し続けている。」
ディオルが素直に褒めている。これは珍しいぞ。
「ひょっとして、ディオルってこの国出身?」
ガットルの質問は僕も気になる。ディオルは謎が多いからね。
「ん?ああ違うな。でも、長く居た事はある。王国より断然好きだ。」
うん。キャビンの中が微妙な空気になったぞ。
勇者パーティーは王国と仲良しだからね。
でも僕はディオルの正直な所好きだよ。
クレスタが咳払いする。
「何にせよ、行くの。
これで行かなかった時、こっちからは歩み寄ったのに~とか、変な因縁つけられたくないし。
国際問題って名前だけで、はきそう。」
そして馬車は進み続け…。
キッドニに到着した。
高い城壁に囲まれた国だった。
魔王に近いという事は、魔物の強さも、襲撃の数も苛烈なはずだ。
しかし耐えてきたのだ、この国は。
魔法という軍事力で。
近づくにつれ、城壁の高さに圧倒される。
風格が、ある。
城門から少し離れた所に馬車は止まった。
ここから徒歩だ。
「いい?レーラス。城門入ったらひたすら真っすぐで王宮。入れてくれるはずだから、そのまま更に直進。扉を開けたら、謁見の間で王様に挨拶。」
段取りの確認だ。真っすぐ行くだけだから助かる。
「僕、王国の女王様以外の王様初めてだよ。」
「俺は王族に会うのが初めてだ…。」
僕はワクワクだけど、ガットルはビクビクだ。
「レーラス本当に大丈夫?」
サニアはハラハラかぁ。
「大丈夫だよサニア。ちゃんと真っすぐ歩けるよ。」
熱は下がっていない。体はだるい。
でも顔が赤かったりしないよ。今も魔法を使っているからね。
僕はポーカーフェイスが得意なんだ。
数歩歩いてサニアを見る。サニアはまだ不安そうだ。
元気アピールの為、片足立ちしてみる。
でもその挑戦は無謀だったようで。
(おっとっと…。)
倒れる前にサニアが支えてくれた。
「サニアありがとう。」
「もう…。」
安心させようとして怒らせてしまった。
僕はふらふら、サニアはぷんぷん。
「行くよ~。そこの二人~!」
クレスタまで怒らせたくないから、僕達は急いで後を追った。
ゆっくり城門が開く。
(おお…。)
人の道だ。
王宮へと続く石造りの道は広い。その両脇に人がずらりと並んでいた。
道の真ん中を僕は歩く。
僕の右後ろ六歩離れてサニア、その左三歩離れてガットル、ガットルの右後ろにクレスタだ。
一応並び順はこだわっている。
勇者ということで僕が先頭で真ん中だ。
そしてみんなには少し離れてもらう。
あんまり近づかれるとその、僕が小さく見えてしまう。
勇者の威厳は守らなければならない。
本当はもっと離れてもらいたかったけど、サニアとガットルに怒られた。
二人的に、この距離なら何が起きても対応できるらしい。
そう、僕らは、警戒している。
キッドニの町は、何かを仕掛けてくるのではと。
ディオルがこの隊列にいないのも、城壁の上で目を光らせてくれているからだ。
(…。)
こんな感じで町に入ったのは初めてで、しかも原因の一つは僕だ。
僕が今身に着けている装備は、見た目こそ一緒だが、実は張りぼて。
いつものだと重すぎて動けないからね。
つまり、防御力も回避力もゼロのカモってわけだ。
勇者の首がほしい人にとって、絶好のチャンス。
みんなピリピリしすぎだけど、僕には何もいう資格がないのだ。
(…でも。)
ピリピリなのは僕達だけじゃない。
集まってくれた道の脇の人達もだ。みな表情が硬く、緊張感がある。
ざわつきも見られない。固唾をのんで見守っている。
(…折角集まってくれたのだから、もっと楽しく進みたかった。)
手を振ったり、ハイタッチしたり、握手したり。
(今の僕には体力的に辛いけど…。)
異様な雰囲気のまま、僕達は進んだ。
結論から言うと、その後もつつがなく終わった。
事前に王様は、まだ小さい男の子だと聞いていたから、驚かずにすんだし、相手が基本喋ってくれたから、僕は時折、元気に「はい!」というだけだ。
王様も用事があるらしく、会食とかもなく、本当に顔合わせだけでお開きとなり、帰りも襲撃とかは無かった。
そして今、僕はお医者さんに症状を診てもらっている。
「普通の風邪じゃ。」
「はい。」
ちょっとだけ、恥ずかしい。勇者なのに、みんなに迷惑かけたのに。
まぁ重病でも困るけど。
「しかし。」
「はい?」
おじいちゃん先生は立派な髭を撫でながら続ける。
「地元の者にとっては普通でも、外国人さんには、きついかもしれん。」
「そういう、ものですか。」
僕は入院する事になった。
冒頭、レーラスがいた廃村からみて、北がキッドニ、南がレーグ半島。
魔王城から離れる気がして、それが嫌で、キッドニには行かなくてよくね?
と、レーラスは提案したような感じです。
足止めもくらっていたので、こんな事している場合じゃねえ!と、焦る気持ちもあったと思います。




